腹が減った。
シャーレの仕事ってのはいつだって忙しい。
朝起きて、寝惚けながら歯でも磨いて、軽く顔を洗って、髭を整える。
そしたらいつものスーツに着替えて帽子を被る。
そしたらシャーレの中でも台所をつけてもらった部屋に入って、冷蔵庫を物色する。
朝飯は……まぁ適当なのでいいか。
シャーレには今俺以外にも住んでる奴がいる。
まぁ、便利屋の奴らだな。
同じ釜の飯を食う。同じ鍋をつつく。
どちらも、親睦を深めるって意味の言葉だが、長く残った言葉ってのはどれも信憑性がある。
同じ仕事をする仲間だからな、だから仕事場が違う時がある昼と、帰りの時刻がバラバラな夜を除いて極力朝飯は一緒に食っている。
まぁここ最近は仕事を選べるようになったらしく、夜飯も一緒に食うことも増えてきたがな。
「おはよぉ、先生」
朝飯の支度をしていると、ドアが開かれる。
今日の一番乗りは、ムツキだった。
若干寝癖をつけているが、それでもいつも通りの格好だ。
「おはよう、ムツキ寝癖ついてんぞ」
「んー、ありがと先生……今日の朝ご飯なーにー?」
まだ寝惚けてるようで、上の空の返事をしながら鼻をクンクン嗅いで俺に質問をしてくる。
「トーストとグリーンサラダとベーコン、あと目玉焼きな。お前さん焼き方に好みあったか?」
目玉焼きには大きくわけて6つの焼き方がある。
片面だけ焼いた『サニーサイドアップ』
片面焼きで水を入れて蒸す『ベーストエッグ』
両面焼きで黄身に殆ど熱を通さない『サニーサイドダウン』
両面焼きの半熟『オーバーミディアム』
両面焼きの固焼き『オーバーハード』
両面焼きでオーバーハード程じゃないがしっかり焼く『ターンオーバー』
まぁ他にも油に落として揚げ焼きにするのもあるんだが、朝から台所汚すほどの余裕はねぇし、あくまでもチャチャッとすませてぇからな。
「えー、色々できるの?んー……あんまよく知らないから先生と同じで」
「あいよ、他の3人は?」
「まだ寝てる、起こしてこようか?」
頼む、と軽く返事をしてフライパンに向き合う。
ちなみに俺が好きなのは、サニーサイドアップの半熟。
米が残ってたらなぁ、それを乗っけて醤油垂らして食うのが好きなんだが……あいにく昨日の晩飯に出した麻婆豆腐のせいで便利屋共が米を平らげちまったからな。
ちなみにだが、俺ァ、パンには塩コショウ、米には醤油派だ。
「んー……せんせー、おはよう。いい朝ね」
「おはよう、先生」
「先生、おはよう……ございます……」
アル、カヨコ、ハルカが眠そうに席に着く。
特にハルカに関してはまだ船を漕いでいる。
ここ来たばかりの頃は、高級アレルギーと言うべきか、自分が場違いだとでも思ってんのか、よく腹を痛そうにしていたり、寝込む時があったりしたが……ここ最近は、随分とリラックスしているようだった。
ま、ここが自分の家と思ってくれてんのは、俺としては嬉しい限りだな。
「お前ら、朝飯の目玉焼き好みあるか?」
「先生のと同じの……いや、一番ハードボイルドなのでお願いするわ」
「私は、特に好みは無いから、先生のと同じので」
「あ、えっと、じゃあ……私はアル様のと同じので……」
このままだとアルだけ浮いた状態になる。
そう検知したハルカが、咄嗟にアルと同じ物を頼む。
まぁ、作る側の俺としてもわざわざ分けなきゃいけねぇから助かるんだが……
トースターは既にセットしており、俺達分のトーストを焼いている。
サラダに使う分のレタスときゅうり、ミニトマトは、水に晒してある。
大きめのフライパンと、小さく分厚いフライパンをそれぞれコンロに乗せて火をつける。
カチカチと音を鳴らした後に熱によって熱された鉄フライパンから白い湯気が立ち上る。
バターを二つ、切り分けてそれぞれのフライパンに落として広げる。
大きい方のフライパンには厚切りにしたベーコンを5枚並べて焼き始め……小さいフライパンの方で、まず先にアルとハルカの分の目玉焼きを焼き始める。
「何度見ても思うけど、先生手際いいよね……」
ムツキが背後から声をかける。
どうやら俺ら分のフォークとナイフを取りに来たみたいだった。
「あぁ?そうか?誰だって、これくらいは出来んだろ」
「卵片手割りしながら言われてもねぇ〜?」
出来た方がかっこいいからな。
しっかし、アルのやつ変わった注文しやがって……ハードボイルドか。
ゆで卵なら超硬茹でにしてやるんだが……この場合は両面焼きで若干焦げるくらいか?
卵を落として、端っこが水分が抜けてカリカリになったあたりでフライ返しでひっくり返す。
この時に勢いよくやると黄身が潰れて台無しになっちまうからな。
優しく丁寧にだ。
卵の面倒を見ながら、ベーコンの方も気にかけてやる。
最近は薄切りのやつも増えて、カリカリになった奴が多いが、俺はベーコンは厚切り一択だ。
塩味、肉の油、歯応え、どれをとってもこれを超えるもんはねぇな。
まぁ、カリカリも美味いんだけどな?
トーストに合わせるのならこれだろ。
さてと、軽くひっくり返して、油を拭き取ってやりながら、アルとハルカの分の卵を取り分けて皿に移して、そこにミルで塩と胡椒を粗挽いてかける。
再度、バターを落として油を広げてから、今度は俺とムツキ、カヨコの分の卵を焼き始める。
卵に若干白身と艶が出たあたりで、またミルで塩と胡椒を粗挽いてかけてやる。
黄身が半熟になったあたりで、火を止めて皿に移して、そこに焼いたベーコンを添える。
そしてタイミングよくトースターのタイマーがなる。
皿の空いたスペースにトーストを乗せて……こっちは完成。
水に晒していたレタスときゅうり、ミニトマトをザルにあげて水気を軽く取る。
レタスは切るってよりかは、手で千切ってやった方が美味いから手でそこはやる。
きゅうりは薄切りに、ある程度の歯応えがあっても美味いが、朝から噛みごたえがありすぎてもな。
ミニトマトはヘタを取って食べよく半分に。
こいつらを適当にボウルに入れて、サラダも完成。
「お前ら、出来たから運べ」
便利屋達に手伝ってもらって、食卓に飯を運んでもらって……全員が席に着く。
「「「「「いただきます」」」」」
取り皿にサラダを分けてから、俺はドレッシングをかけて、食い始める。
軽くドレッシングと野菜をフォークで混ぜて、そのままレタスを刺して口へ運ぶ。
朝ってのもあるかもしれねぇが、瑞々しいシャキシャキの野菜ってのは、脳を目覚めさせてくれるもんだ。
そのまま厚切りベーコンをフォークで掴んで、咥えてむしり取り、咀嚼する。
噛めば噛むほどに肉の脂が口に雪崩込んでくる……それと同時に強い塩味と旨みが脳に突き刺さる。
サクサクに焼けたトーストの上に半熟の目玉焼きを乗せて、食べる。
やっぱ、日本人ならついついやっちまうよな。
半熟で止めたおかげで、プリプリの白身がまた、サクサクのトーストとよく合う。
トロトロの黄身もいい仕事してる。
トーストってのはどうしても口の中の水分を持ってっちまうが……黄身の水分がそれを補ってくれる。
まぁそれでも持ってかれるものはあるが……そこで、ベーコンの油やサラダの水分が生きる訳だ。
ピリッと効いた胡椒で、ベーコンの肉がまた食いたくなる。
ベーコン、トースト、ベーコン、トーストと交互に楽しんで……そして、最後にサラダで油分を洗い流す。
味噌汁、卵焼き、焼き魚に、白米……あれも理想の朝食だが……こういうモダンなものもいいってもんだ。
つい黙々と食っちまったが、他の4人も目を輝かせて眠気を飛ばしながら飯を食っている。
あぁも美味そうに食ってくれると、俺としても作りがいがあるってもんだ。
表情があまり動かないカヨコも、飯を食ってる時は笑顔が多く見える気がする。
「「「「「ご馳走様でした」」」」」
手を合わせて、声を揃えてそう言ったあと、俺はコーヒーを入れながら、皿を片付け始める。
他の4人も洗い物や食器拭き、食卓の片付けなど手伝ってくれる。
悪党として名を広めてるようだが、やっぱりこいつらは良い奴だと思う。
「今日は、この後4人で夜まで仕事だから私達のお昼ご飯はいらないわ」
「おう、分かった。しっかりやれよ?」
「フッ、当然じゃない。依頼は必ず遂行する。私たちのポリシーよ」
「ねぇねぇ、先生〜、今日の夜ご飯は?」
アルと会話をしているとムツキが俺の背中によじ登って肩から声をかける。
朝飯食ったばっかだろうに、まぁその方がやる気が出るってもんか?
「あぁ〜……そうだな、ハンバーグでもするか」
「ハンバーグ……!」
「オムライスもいいな」
「……オムライス!」
「……まとめて一緒に作っちまうか」
話をしてると、ムツキとアルの目がキラキラと輝き始める。
そんなに楽しみなのか?
「顔に出てるぞ、アルヨダレ拭け」
「はっ、つい……ふふっ、でもこれでますますやる気が出たわ!」
「なら良かったよ」
コーヒーを飲みながら、軽く一息つき、飲み干し、水につけてから4人を下まで見送る。
「じゃ、気をつけろよ」
「えぇ!いってきます!」
軽く見送ったところで、俺も仕事に取り掛かる。
そんなシャーレでの何気ないよくある一幕。
どんなくだらない日だって毎日腹は減る。
生きていくってのはそういうことだろ?
いやあの違うんすよ皆さん……本編は、今三分の一位は書けてるんすよ。
ただ、お腹すいて、好きな小説の最新話更新されて読んでたらつい、書きたくなっちゃって……1時間で書き殴ってたら、完成しちゃったんでつい……
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持