「先生〜!遊びに来たよ〜!」
アルちゃんとの仕事が終わり、帰るついでに先生にイタズラしに来た私は、いつも先生がいる執務室に足を運んでいた。
「あれ?先生?」
いつもなら、来たかムツキとか、何の用だムツキとか言って、返事をしてくれるはずの先生の声が聞こえない。
なにか違和感を感じた私は、ゆっくりと忍び足で、部屋の中に入る。
相変わらずこの部屋は、先生の匂いが濃い……
煙草と、硝煙と少しのお酒の臭い。
私達に気を使ってか、前よりも吸う頻度を減らしてるみたいなんだけど、それでも濃く染み付いている。
別に嫌じゃないんだけどなぁ……
まぁ、これはきっと先生だからなのかもしれない。
昔、依頼人と話してる時に、向こうの人がアルちゃんの顔にタバコの煙を吹きかけてきた時は、盛大に爆破したっけなぁ〜
だからか、煙草は嫌いだったはずなんだけどね。
いやぁ、私もアルちゃんみたいに脳やられちゃってるのかなぁ〜?
先生がいつも座っている仕事机の上には大量の資料が山のように積み重なっている。
パソコンとかそういうのあるんだし、そっちで管理すりゃいいのに、未だに変なところアナログなんだよねぇ……私たち用にデジタルのやつは用意してくれてるみたいなんだけどさぁ。
資料の山をぐるっと回って、顔を覗かせるとそこに先生の姿はなく、空っぽの椅子だけがある。
ここじゃないのなら……そのまま歩いて、奥の方の休憩スペースの方に向かう。
よく先生がお酒を飲んだり、私達が居ない時は煙草を吸ったりしてるスペースで、前にユウカに聞いたんだけど、何でもここに来た当初の頃は、その一角だけゴミ屋敷のようになっていたそうだ。
最近はユウカがよく来たり、アルちゃんや私とかも先生が仕事をしてる横で片付けとか手伝ったりしてるおかげで、清潔な状態をキープしている。
先生、外では危ない仕事ばっかしてたって言ってたし、実は、こうやって定住するなんてことして来なかったのかな。
休憩スペースに置いてある黒い皮のソファーの背もたれの上に見覚えのある黒帽子が見える。
お昼寝中だったのかな?
先生、夜行性で、結構夜遅くまで起きてて、朝早くに私たちの朝ごはん作ってその後仕事してっていうサイクルをしているせいか、こうやって時折お昼寝をしてる所を見かける。
毎日、私達生徒のために頑張ってるんだから、ちょっとお昼寝するくらいは誰も怒らないのに。
ほんと、真面目で世話焼きさんだよね〜くふふ。
先生の体がピクリと動く。
寝相かな?くふふ、何かラクガキでもしよっかなぁ?
「……ぁっぐ……っ、……はぁ、はぁ……」
先生の声が聞こえる。
でも様子がおかしい。
寝息……だと思うんだけれど、まるで魘されているみたいな……
「せ、先生……?」
声をかけても起きる気配は無い。
帽子を目深に被って寝ているその横顔には大粒の脂汗が滲んでいる。
先生が、悪夢を見ている。
夢自体は、脳の記憶の整理中の出来事……だっけ、それなら、今見てるのは先生の昔の記憶なのかな
私達が想像できないほどの壮絶な人生を歩み続けてきた、この先生なら、それだけ多くのトラウマを抱えてきたんだと思う……
この前、みんなで見たあの映像は、あくまでもその一部分でしかない。
目の前で護衛しようとしてた人を撃ち殺される。
普通なら、たったそれだけでも、相当しんどいはずなのに……
普段の先生はそれをおくびにも出さない。
このまま、寝させてたら先生の体調が悪くなりそうだし……起こした方がいいよね。
私は起こすためにそっと、先生の顔の方へ手を伸ばす。
頬を撫でるような風が吹く。
突然カチャリと、金属の音が耳に入り、気が付くと目の前に銃口が。
「え……」
腰が抜けて、尻もちを着いたと同時に、引き金が引かれ、墜ちる撃鉄と弾ける火花。
そして、全身を震わせながら、鳴り響く銃声。
キヴォトスじゃ、当たり前の銃声なのに、なんで……なんでこんなに、怖いの。
「…………あ?ムツキ?どうした」
ドッドッドッと、激しく脈打つ心臓。
普段の先生なのは、間違いない。
でも、さっきあの帽子の下から見えたあの眼光は……
「せ、先生〜!こんなところで寝てたらダメでしょ〜?」
「……悪い、寝惚けてたみてぇだ」
自分の手に握られてる拳銃で、察しちゃったんだろうね。
せっかく私が取り繕ったのに、察しがいいよねほんとさ。
「……先生、さっきまで魘されてたみたいだけど……」
「気にすんな、俺のようなろくでなしの過去なんか、気にすることなんかねぇだろ。それよりも……」
そう言って先生は、銃をしまって、私の手を優しく取って立たせてくれた。
あの一瞬の殺意が嘘のような……そんな優しい対応。
だからこそ、過去を話してくれない先生が嫌になる。
私は、魘されてたとしか言ってないのに……やっぱり昔のことが、原因なんだ。
私たちはそんなに弱くないのに。
「大丈夫か、ムツキ。悪かったな怖がらせて」
先生のゴツゴツした温かい手が私の頭を撫でる。
「……んーん、大丈夫だよ、先生!」
「そうか、少し顔を洗ってくる」
出ていく先生の後ろ姿と、紫煙の臭いが、この胸の痛みと共に記憶に刻まれる。
恐怖を感じたはずなのに、どうしてこんなにドキドキしてるんだろう。
「はぁぁ……私こういうキャラじゃないんだけどなぁ〜」
思わず独り言を呟きながら、座り込む。
誰かに見られてる訳でもないのに、赤く熱くなっていく顔を隠すように、顔を下に向けて。
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冷たい水が、熱を奪って、熱くなった思考を冷やしていく。
「はぁぁ……」
予感はしてたが、ついにやらかしちまったな……
生徒のガキたちのせいで、感覚が麻痺してたが、キヴォトスは銃社会、それこそ比較的あちらこちらで小規模な射撃戦が行われてるような世界だ。
シャーレのあるD.U地区は幾分かマシではあるんだがな……
ただ、それでも空気に混じる硝煙の香りは、消えないもんだ。
つい、昔傭兵をしてた頃を思い出しちまった。
戦地じゃ、寝るってのは熟睡するおねんねって意味じゃ使われねぇ、次の戦いに備えて体を休ませる手段としての意味合いが強ぇ。
要するにって?
つまりは、だ……今の俺は熟睡してるってよりかは、その匂いに触発されて、昔の俺の記憶が強くなってるってことだ。
寝てる間も、次の戦闘に移るために休めているだけ。
何か触れようとしてきたその感覚だけで、体が反射的に射撃を行う。
戦地で生き残るにはこの程度のスキルは、必要不可欠だ。
しかし……悪夢か。
何にうなされてたのかは覚えちゃいねぇが……大切な何かを目の前で殺されたときの感覚に似ている。
やけにリアルな感覚だったが……
予知夢……ってのは冗談にならねぇなそりゃよ。
とは言えだ……まさかムツキに銃を向けちまうだなんてなぁ……随分と怖がらせちまった。
後で詫びのために、色々しなくちゃな……
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胸打つ心臓を押さえていると、先生が洗面台から帰って来る。
顔を洗ってさっぱりしたのか、顔色は幾分か良くなっている。
心の中でモヤモヤする私がいる。
「先生ってば、やっぱ悪い人だよね」
「ずっと言ってるだろそれは、いてっ」
先生の脛を蹴る。
私が言いたいのはそういうことじゃない。
大人だから、アルちゃんが憧れているから、色々面子があるのは、分かってる。
でも、もっと頼っていいのに。
先生は私たちのことをパートナーって呼ぶことがある。
そんな呼び方をしてくれるなら、対等だと言ってくれるなら。
先生の背中に背負ったその重荷。
私たちに少し分けてさせてほしい。
そんなことを思うのは、傲慢なのかな。
その猫背で歩く背中を見ながら、そっと唇を噛み締める。
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ
ムツガキを書こうとしていたら加湿器になっていた……
何を言っているか分からねぇと思うが……俺も何をされたのか分からなかった……
これが……俺のスタンド能力……ってコト!?
シチュエーションだけ思いついて、衝動のまま書きなぐった作品です。
次回は、アコちゃんの絆ストの後、貴女にとってのゲヘナ編を書く予定です。
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持