「よく来たな、貴様がクロノスの生徒か。話はヒナから聞いているぞ」
アビドスでの取材を終えた私は、その足でゲヘナ学園までやってきていた。
そして、校門には既に風紀委員会の委員さんが待機しており、そのまま万魔殿まで案内される。
「全く、ホシノ……だったか、ヒナに連絡しといてゲヘナのトップであるこのマコト様に一言も寄越さんとは……」
万魔殿に辿り着くと、そのまま議長室まで通され、ゲヘナ学園の生徒会長である、羽沼マコトさんの前に出される。
なんで私は今愚痴を聞かされてるんだろうか。
マコトさん自身はかなり身長が高くモデル体型な為か、あぁやって足を組んで肘を着いているだけでもとても絵になる。
……今度、写真集でも出したら売れるのでは……
かなりいい収入に……
「おい、貴様、あぁ……名前は確か」
っあ、えっと、クロノススクール一年の──
「今守 ハヤテだったな」
……は、はい!
な、なんで私の名前知ってるんだろこの人……?
ゲヘナの情報部の優秀さは、部外者である私の耳にも届いているが、私みたいな一生徒の情報も届いているんだろうか。
「先生の特集を作るとの事だったな。その取材の件、正式に許可を下ろそう。ゲヘナとしては先生には借りがあるからなぁ」
なるほど、これは風紀委員会への取材じゃなくてゲヘナ学園への取材ってことにしてくれたんだ。
マコトさんいい人だ、これなら風紀委員会の人以外にも取材できる!
「キキキッ、先生のような人物が、知られないというのは、むず痒いのでな。協力は惜しむまい」
ありがとうございます!
あの早速なのですが、万魔殿の皆さんに取材してもよろしいでしょうか?
「キキッ、もちろん構わないぞ。この偉大なマコト様の取材から始められる事を光栄に思うといい!」
そうして赤くてもふもふした髪の毛が特徴的なイロハさんが椅子を持ってきてくれて、そのまま議長室での取材が始まる。
「さて、確か貴女にとって、先生はどんな人物か……だったな?」
はい!マコトさんのような強大な人物にとって先生はどう映っているのか、是非ともお聞かせください
マコトさんの性格は、少し話しただけでも把握出来た。
多分こう言う煽てとか好みなんじゃ……
「キシシッ、よく分かってるじゃないか!」
よしよし、先輩から教えられた通り……煽ては、最低限に、短く鋭く。
上手く出来たんじゃないかな?
「そうかぁ……先生のことをか……」
背もたれにもたれ掛かりながら、マコトさんは、しばらく悩み、顎を摩っている。
随分な長考だ。
アビドスの皆さんは、比較的早く話し始めたが、やはり、ゲヘナのようなマンモス校のトップであれば、その発言ひとつで、大きく事態は変わる。
それ故の長考なのかもしれない。
「……一言で言えば、化け物だな」
トップがそんな言い方していいのだろうか?
決して口に出す訳には行かないが、メモを取る腕が止まる。
「キキキッ、人物としてで言えば、正しく紳士ではあるな。今は互いに忙しい時期ゆえ打診は出来てないが、このマコト様の右腕として抱き抱えたいほどに明晰な男だ」
そんなことをすれば、間違いなくキヴォトスは、火の海にでもなりそうなものだが……
マコトさんのような方から見ても、先生は、やはり喉から手が出る程に欲しい人材なのですね。
「キシシッ、その言い方では、まるでこのマコト様が、先生に対して執着しているみたいではないか」
し、失礼しました!
そのようなつもりは全くなく……
「まぁまぁ、あながち間違いでもないな。何せアイツは……うちの風紀委員長よりも強いからな」
え……
ふ、風紀委員長……あの空崎ヒナよりも、ですか?
「キキキッ!あぁ、後でアイツにも聞いてみるといい。このマコト様の依頼で、アイツはあのヒナをコテンパンに負かしたからなぁ!」
と、とんでもないスクープですよそれは!
あの不敗の風紀委員長が、負けたとあれば……れ、歴史が動きます……!
とんでもない情報だ。
これは、間違いなくトップニュースを飾れる!
「キシシッ、ヘイローも持たない男に負けたような風紀委員長なんぞ、やはり要らないのではないか?」
そのままブツブツと色々考え事をしているマコトさん。
風紀委員長が負けたのが、事実とあればそれはとんでもないスクープだが、風紀委員長が退陣しては、色々問題が起こるのでは……?
「まぁ、その事は後考えればいいか。さて、先生の有能さ、そして何故、私が化け物と呼んだのか分かっただろう?」
は、はい!
貴重なお時間を頂きありがとうございました!
「構わないとも、ゲヘナと何かしたい時は、このマコト様を頼るといい」
そう言って私は、議長室から出て、風紀委員会の本部の方へと向かう。
風紀委員の人達が、忙しく駆け回り、書類整理をしている。
過去に、ヒナさんに独占インタビューをした記事の写真を見た際には、この部屋は幹部以外の委員は、滅多に出入りしてなかったが、体制が変わったのだろうか?
「あ、クロノススクールの人ですか?」
はっ、はい!
アビドスのホシノさんから紹介されたクロノススクールのハヤテと申します。
「ヒナ委員長ー!クロノススクールのハヤテさんが来訪しました!」
目元を隠す程の黒髪ボブの委員の人が、声を上げると、人の波を縫って、腰まで伸ばした白い長髪の少女が、歩いてくる。
「よく来たわね、ホシノから聞いた予定よりも遅かったけど……大丈夫だったかしら?ゲヘナは治安が悪いから……」
い、いえ、万魔殿のマコトさんに取材を受けて頂いておりまして……
すみません、先約がある中でこのような不躾な真似をしてしまい……
「……はぁ、まぁ、わかったわ。マコトがやった事なら仕方ないわ、私達もマコトに話を通し忘れてたし、お互い様よ」
ありがとうございます……
それでは、風紀委員会の皆さんに取材をしたいのですが、大丈夫でしょうか……?
「……えぇ、会議室に案内するわね。メルナ!」
「はいっす!」
最初に、ヒナさんを呼んでくれた委員の人がやってきて、敬礼をする。
メルナって名前だったんだ。
「私は、まだ仕事があるから、案内してあげて」
「承知しました!では、こちらにハヤテさん」
そうして、シンプルな赤を基調としたラグジュアリーな家具の多い会議室へと案内される。
中で待っていたのは二年生の幹部メンバーである銀鏡イオリさんだった。
「イオリ先輩!クロノススクールの記者さんを連れて来ました!」
「うん、ありがとう、メルナ。下がっていいよ」
敬礼したメルナさんが、会議室から出ていく。
それでは、よろしくお願いします、イオリさん。
「うん、よろしくね。それで、次元先生のことをどう思ってるかだっけ……うーん、凄く人のことを見てるって人かな」
人のことを見てる……というのは、内面のことですか?
「うん、それもあるんだけどね、さっき案内してくれたメルナとか他の風紀委員ってよく似てるでしょ?」
そうですね、確か報復の防止……のためでしたっけ?
「そう、私みたいな幹部組よりかはどうしても戦闘力の劣る彼女たちが、凶悪な犯罪者達に報復されないように、あえてあぁしてるんだけどさ。
先生、全員の名前と顔覚えてるんだよね」
え……風紀委員ってかなりの数いますよね……?
「そう、聞いてみたんだけどさ。使ってる銃の整備具合とか隠れた目で把握してるって言うけど、武器持ってない時でも当ててくるし……ちょっとした仕草も覚えてそうなんだよね。あと、当番の時に香水変えただけで、『ん?イオリ、新しい香水でも買ったか?』って気づくしさ」
な、なるほど……
「そう、私が何が言いたいか分かる?」
えっと、人をちゃんとそれぞれ見ていて……細やかな変化にも気づいて……それを口に出して……はっ!
「そう、先生ってモテるんだよ。前に先生が、風紀委員会全体としばらくの間付きっきりで演習をしてくれたことがあったんだけどさ……その夜の時にみんな先生の話しかしないしさ」
それは、驚異的ですね……あの、不躾ながら、イオリさんは……?
「……まぁ、何。先生がいなかったら私はずっと自分の弱点に振り回され続けることになってただろうし……感謝はしてるよ」
…………
「何!その顔は!!」
す、すみません!
すっごい女の子の表情してたのは、言わないようにしておこう。
しかしなるほど。アビドスの皆さんもそういうところでやられたのでしょう……
「まぁ、いいけどさ。じゃあ、次の子呼んでくるね」
そういって、イオリさんが出ていった。
代わりにやってきたのは、一年生ながら幹部である火宮チナツさんだ。
「よろしくお願いいたします」
よろしくお願いします。
同い年とは思えないほど、雰囲気がしっかりしてる方だ。
「そうですね……あの人との思い出の中で印象深いのは、やはり初めて会ったあの日でしょうか……私は、次元先生が、キヴォトスに来た最初の日に出会った生徒の一人でして……」
それってもしかしてあの『厄災の狐』の事件ですか?
「えぇ、あの日、先生は私とミレニアム、そしてトリニティの生徒と共に対処に向かったのですが、その指揮能力の高さと射撃能力の高さには脱帽する思いでした」
射撃能力……ですか。
「演習の休憩時間の時に先生が、見せてくれたことがあるのですが、生徒が上空に投げた六枚のディスクを、全て空中にある状態で撃ち抜いてみせるなど、早撃ちとその精度が、とにかく異次元なのです」
先生の戦闘能力の高さは、かねがね知っておりましたが、まさかそれほどとは……
「えぇ……あ、そこ動かないで」
え……は、はい!
急に真面目な顔のチナツさんに動くなと言われ、止めると、拳銃を抜く。
え?こ、殺される?
そして、発砲された弾は、私の頭の横を掠めて、何かに命中する。
「すみません、驚かせてしまって……スズメバチが近付いていて……恐らく刺そうとしてたためやむを得ず」
い、いえ……心臓が止まるかと思いましたが……
しかし、良く分かりましたね……
「これも、先生との”個人”演習のお陰です。あの人ほどの精度はありませんがね」
なるほど……あの情報に益々信憑性が出てきましたね……
「あの情報ですか?」
は、はい。先生がヒナさんをコテンパンに負かしたと……
「あぁ……それは、ヒナ委員長に聞いて頂ければ」
え゛っ、その、私の首飛ばされません……?
「ふふっ、きっと大丈夫ですよ」
そう微笑んで、チナツさんは出ていってしまった。
本人に向かって、先生に負けたんですか?みたいなそんな質問をした日には……
か、考えたくもない……でも、それを超えてこそのジャーナリズムというものなのでしょうか……
そんなことを考えていると、扉が開き、3年生の行政官を務めていらっしゃる天雨アコさんが入ってくる。
「ゲヘナまでお疲れ様です。事情は伺っております」
きょ、恐縮です。
「ごしゅ……んっん、先生の事ですか……そうですね……」
ごしゅ……?
今アコさんが何か口走りかけたような気がしたが、気の所為だっただろうか?
「……まぁ、人の扱いが上手い方ですよ。教え方然り、ぶっきらぼうな口ぶりを良くする方ですけども、その生徒個人個人に合った教え方をしてくれるんです」
なるほど、件の演習もでしょうか?
「はい、それぞれの弱点、足りないところを見つけて、それにあった教え方をしてくれる。人の内面を見てなければ出来ない仕事です」
皆さん口を揃えて、先生の慧眼を口にしますね。
「えぇ、先生のいい所ですよ、それが……まぁ、そうですね、少し慧眼がすぎるところが困りものではありますが……」
あの、何やらモジモジとしてますが……その、御手洗などに特に制限は……
「……あ、貴女意外とぶっ込んできますね!?違いますから!モジモジもしてません!……コホン。
まぁそれはともかく、風紀委員会として大恩のある方であることは間違いありません。
我々の在り方を、大きく良い方向に変えて……ヒナ委員長に笑顔を取り戻してくれた方ですから」
過去の記事を読んだことがありますが、確かヒナさんは、表情の硬い方だったと記憶しています。
確かに、先ほどお会いした際の雰囲気は、聞いてきたイメージとは大きく違うものでしたね。
「……ヒナ委員長の名誉の為に補足しておきますが、現場での活動の際は、冷静沈着にしてクールで明晰な委員長ですので……ただ、先生と出会ってからは、オフの日や書類業務の際は表情が柔らかくなることが増えてきました」
なるほど、先生は笑顔を取り戻してくれるような人……と。
「…………まぁその通りです」
何かを思い出すかのような間だったが……本当に大丈夫なのだろうか。
時折顔を赤くしたり青くしたり……
「……ふぅ、まぁ、私からはこの程度でいいでしょう……失礼します」
そう言って足早に出ていってしまった……
お大事にの一言くらい言うべきだっただろうか。
「……何とか片付いたわね。最後で、合ってるかしら?」
そして最後に来たのは、風紀委員会のトップである空崎ヒナさんだった。
とても小柄な身長なのに、その歩く姿には品を感じる。
ドレス姿とか似合うんだろうなぁ……
マコトさんと一緒に、モデルの方も依頼してみましょうかね……
「……それで、先生のことに関してだったわね、大抵の事はみんな言ってそうだからどうしたものかしらね」
被ってても気にしませんよ、ヒナさんの純粋な気持ちを言葉に乗せていただければ!
「ふふっ、ありがとう。そうね……なら気遣いの達人……かしら。生徒の疲れに敏感で、細かな変化に気づいてくれて……私の事を戦力じゃなくて生徒として女性として扱ってくれる優しくて暖かい人……何度ありがとうと言っても足りない人……」
あ、これ私とんでもないもの引き当てちゃったんじゃ……梅雨はまだのはず……
「……煙草を吸ってる姿がすっごく様になる人で、かっこいいのに隣に来ると、面倒くさそうにしながらも消しちゃうくらいに気遣いが出来て……」
す、凄い……私が頷く暇すらないほどの密度……
「……そう、それにすごく強いんだよ……」
あ、それは、噂に聞いた話なのですが、ヒナさんが次元先生にコテンパンに負かされたって。
「……それ誰から聞いたのかしら?」
え、っとその……マコトさん、から。
体が押しつぶされそうな程の圧力がかかる。
ごめんなさい、マコトさん。
「そう、マコトが……まぁ、確かにマコトからの依頼だったし……はぁ、色々面倒ね。えぇ、それは事実よ」
え、ホントなんですか!?
「……本当に楽しかった。私の全力……それを出して、負かされるなんて……甘美な敗北ってあれを指すのでしょうね」
頬を赤らめながら、髪を手繰り寄せて口元を隠すヒナさん。
負けたという重大な事実にも関わらず、その顔はとても嬉しそうだった。
「口に銃を突っ込まれて……実弾では無い模擬の戦闘だけど、先生は本気で来てくれた……」
あ、まぁ、先生の立場を考えれば当然ですよね。
しかし、本気のヒナさんを……
「……私は、自分の神秘で重圧を出すことが出来るのだけども、先生の出す殺意は…………」
ヒ、ヒナさん?
「……ふふっ、まぁ貴女もいずれ先生と会えば分かるわ。あの人は、生徒の……いや子供の助けを求める声を決して聞き逃さない方だから」
ヒナさんは、そう誇らしげに語る。
憧れ、恋慕、色んな色が混ざった表情だ。
ヒナさん……そんな顔できたんだ。
「……コホン、そういえば、貴女達クロノススクールが、こんな記事を出そうと思ったのは、ネットのあの動画が原因かしら?」
はい、ご明察の通りで……あ、そうだ。
アビドスのホシノさんから、ヒナさんであれば、あの動画に出ている赤髪の少女について何か分かると。
「……あぁ……あの子は、ゲヘナの生徒よ。まぁ角がついてるから分かってるでしょうけども」
やはり、ゲヘナの……ということは、今もこの校舎の何処かに?
「いえ、彼女達は、休学中よ」
休学中……なるほど、時の人物になってしまったが故に……
「違うわ、彼女が立ち上げた部活動……いえ、会社の影響が大きいわ」
あ、そういえばさっき彼女達と。
「……えぇ、今はシャーレに所属している金を貰えば何でもするアウトロー……『便利屋68』。
そこの社長『陸八魔アル』が、例の少女の正体よ」
便利屋68……確か、零細企業の。
前にシャーレに出ていた業務提携一覧に載っていたような……?
「えぇ、シャーレ……いえ、次元先生の懐刀と言ったところかしら、ほんと羨ま……んんっ、今はシャーレに事務所を構えているわ」
なるほど……となると、次はシャーレに向かいましょうか……
「あぁ、そういえば最近、ミレニアムで先生がまた活躍したそうよ。先にそっちに行くのもありかもしれないわね?」
なんと、ミレニアム……そういえばセミナーの会長が、不祥事の会見をしていましたね……
もしかして、それも先生のお手柄なのでしょうか……
どちらもホットな話題……悩みますね。
うむむと唸っていると、ヒナさんが助け舟を出してくれる。
「ふふっ、どちらも逃げはしないのだから、ゆっくり悩んで、仲間に相談してみたらどうかしら?」
そ、そうですね。
私の手には余る案件でもありますし……そうさせていただきます!
本日は、貴重なお時間を頂きありがとうございました!
「えぇ、記事楽しみにしてるわね」
はい、と元気に挨拶した私はそのまま、風紀委員の皆さんに護衛して頂きながら、ゲヘナ学園を後にする。
何となく今回の取材で、先生の魔性の要因を垣間見た気がする。
しかし、ミレニアムとシャーレ……どちらもでかい案件だ……これはヒナさんのアドバイス通り一度帰ってみんなと話し合うことにしよう。
ゲヘナ組は、パッと見湿度低そうに見えて(1人除いて)、実はマコト以外が、内心かなり湿度高い。
チナツ見てくださいよわざわざ強調して個人演習って言ってますからね
かー!卑しか女ばい!
メルナさんとハヤテさんは、完全な新規モブです。
レギュラー?まぁ、今後次第。
私事ではございますが、Xのアカウントを開設しました
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アコの絆ストのアフターとかssであげようかなとか設定だそうかなと思っています、作者でした
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持