あの事件からもう数週間が経とうとしているとある晩。
俺はミレニアムで、神秘の取り扱いの訓練を行っていた。
「はー……慣れない感覚を使うのは疲れるな」
「前よりかは、上手く出来てるとは思うけどな?」
弾を込めながら愚痴っていると、特訓相手を務めてくれているネルが俺を慰めようと声をかけてくる。
その上手く出来てるってのも分かんねぇから混乱してるんだけどな。
「実際だが、どういう理屈か、先生の放つ弾丸は前に比べて弾速が上がっている」
「弾速が?弾は替えちゃいねぇぞ」
ウタハが言ったその言葉に俺は首をかしげる。
弾速を決めるのは込めた弾丸の火薬量だ。
俺の使う『.357マグナム弾』の初速は490m/s。
それを超えることは基本的にねぇんだが……
「さっき計測した時の平均速度は、初速980m/s。実に二倍。間違いなく先生の持つ二つの神秘の内のどちらかが作用したものだろう」
「両方って可能性はねぇのか?」
「ないね。先生がかつて見せた強力な破壊力のもつ射撃ほどの神秘は確認できなかった、あれは間違いなく先生の持つ神秘が二つとも同時に作用したものだと予測できる」
随分ときっぱりと言ってくれる。
とは言え、その予測を聞く限りは合ってそうだと思わせるが……
「それなら原因は何だ?急にってのは納得いかねぇが」
「地道に特訓重ねてんだし、成果が出ても可笑しくねぇと思うけどな」
「そうそう!私だって急に目覚めたんだし!」
そう、今回からもう一人特訓に付き合ってくれる奴が増えた。
前の戦いで、神秘を目覚めさせたモモイだ。
アイツの神秘の名前は、忘れたが随分と便利な力だ。
まさか、俺の早撃ちを切り落とすことで対処してくるとはな。
益々あの侍の影を見ちまったよ。
「お前と違って俺は元々神秘の感覚を知らねぇんだよ」
「あぁ……なら、あれはどうだ?」
頭を掻きながら考えているとネルが声を上げる。
「先生、前にリオの弾丸腹に喰らったろ?」
「そん時に神秘が体の中に入ったから……か」
そんなんで扱えるようになったらどんだけ楽なことか。
ただ、今回のことで分かったのは、感情がトリガーになってるのは、俺の二つの神秘の内のどっちかってことだな。
「そういや、それで思い出したが……リオはどうなんだ?前に謝罪会見してたが」
そう、あの事件のあと、リオは自分の横領の件で謝罪会見を開いていた。
俺としちゃ、ダイブ装置でのお手柄とユウカからの説教で充分だと思うんだが……
まぁ、彼女自身がそれを許さないってことなんだろうな。
立派になったもんだ。
「あぁ、それなら後任が、見つからねぇってこともあってしばらくの謹慎ってことで落ち着いたらしいぜ。今はリオでしかできない仕事だけやってそれ以外はユウカとノアがやってるってよ」
「リオの代わりか……ヒマリ……はそういうキャラじゃねぇな。いずれは、後輩たちに譲らねぇといけねぇとは言え、育てる期間だっている……まぁいい落としどころだな」
時刻は既に、19時を過ぎようとしている。
こいつらにも学生生活がある。あんま俺のような奴に拘束させるのも可哀想なもんだ。
「今日はここまでにするか、ありがとうな付き合ってくれて」
「お疲れ様~!ね、ネル先輩帰りにゲーセン寄ろ!」
「あぁ?明日も学校あんだろうが……はぁ、一戦だけだぞ」
そういって、ネルとモモイが出ていく。
驚いたな。あそこに繋がりがあるとは。
あの戦いを経て、色んな部活同士が繋がった。
モモイとネルか……意外と相性いいのか?
二人が出ていく姿を見ていると、ウタハが何か俺に手渡してくる。
「そうだ、先生。これ使ってくれ」
「これは?俺の誕生日プレゼントにしちゃ……随分と早ぇが」
俺の手に収まるほどのサイズの万華鏡のような筒状の機械を渡される。
何か覗いて見るものか?
「はは、それはまた別のを渡すとも。それは『簡易式神秘測定くん四号』さ。片目で覗くと、その先に映った対象物の『神秘』をざっくりと見れるものさ」
「ほう……」
早速それを使ってウタハの方を見ると、ピロピロと音が鳴ったのちに、ウタハの周りに、ウタハのヘイローのような色の煌びやかな何かが纏わりつく。
「い、いきなり人の神秘を見るとは……先生も中々大胆なことをするね」
「失礼なことだったのか?だったらすまねぇな」
常に出してるってわけではないんだろうが……それでも普段は見えないもの。
それを見られるってのはマナーがねぇってことだろうな。
「い、いや大丈夫だとも。それで、自分の神秘をもしくは今後相対する者の神秘を見ていってほしい。先生のような戦闘のプロに言うのもなんなんだが、戦闘力の測定に一役買えるだろう」
「なるほどな……ありがとうな、ウタハ」
そもそもネルや、ヒナのようなキヴォトスでも随一の戦闘力の奴は名前が売られてる分、対策はとれるが……裏社会に潜む隠れた実力者には有効だろうな。
その測定器を懐に仕舞って、俺はミレニアムを後にする。
車窓から感じる夜の風。
夜空を照らす月明かり。
蛍光灯に照らされる黒い髪の少女。
……ん?今見た事ある奴がいたな?
ミラーで確認したその姿は、両手にプラスチックの手提げ袋を持って歩くリオの姿だ。
謹慎中っていうからてっきり家から出られねぇもんだと思ってたんだがな。
車をUターンさせてリオの隣まで車を走らせて窓を開く。
「よっ、そこの別嬪なお嬢さん、重いだろ。乗せていってやろうか?」
「要らないお節……先生、何してるのかしら」
「ミレニアムの帰りに偶々な。乗ってくか?」
「はぁ……それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうわね」
ドアを開いて、助手席にリオを乗せる。
その時にチラリと見えたが、袋の中は冷凍食品やら割引シールの貼られた弁当ばかりだ。
……まさかこいつ……
「今時、ナンパをするような馬鹿がいるとは思わなかったけども……まさか先生だとは。普段からこんなことを?」
「抜かせ、お前さんみたいな知ってる奴にしかやんねぇし、俺ぁ女に飢えちゃいねぇよ」
「よかった、先生のような立場の人が本気でやってたのなら一大事よ」
「お前さんみたく記者会見でも開かねぇとな」
「……前から思ってたけど……先生、性格悪いところあるわね」
車を発進させ、リオの家まで走る最中、雑談に花を咲かせる。
前よりも随分と、話すようになったもんだ。
口も上手くなって……将来が楽しみだな。
「ハハハッ、男ってのはそういうもんだ」
「そうなのかしら……」
「ところで、お前さん普段の食事はどうしてるんだ?」
さっき俺が見たものに対して、ちょっと聞かねぇとな。
先生として……な?
「割引弁当と冷凍食品にしているわ。合理的でしょう?」
まさか、食生活まで合理性を求めるとはな……
いや、別に弁当も冷凍食品も単体で見りゃ、悪いなんて言えねぇがな?
「近くのスーパーでは、最大半額になるの。味も申し分ない……特に、竜田揚げ弁当と唐揚げ丼は絶品ね。あの完成度、今日も激しい争奪戦の末勝ち取ってきたわ。」
「…………はぁ」
まぁ、こいつがそういう油っこいものが好きってのが分かったのはよかったが……それじゃ駄目だろ……
「何故溜息を……?」
「別に冷食とかお弁当が悪いとは言いたくねぇんだけどよ?そればっかりじゃお前さんみたいな若い奴には栄養が偏っちまう」
「まるでユウカみたいなことを言うわね……ビタミンや食物繊維の摂取が必要なのは理解してるわ。でも前者はサプリで、その他は……問題になるほどじゃないわ」
そう笑顔で説明するリオだが、俺の心中はそんなに穏やかじゃない。
この際ユウカみたいだって言われるのはまだいいが……
ガキの食生活が壊滅してんのは、気分が悪い。
「よし、リオ……寄り道するぞ。まだ飯は食ってないな?」
「え、えぇ……これからだけども……」
リオの家へと向かう道から外れて、車をシャーレへと飛ばす。
冷食と弁当は、一旦、シャーレの冷蔵庫と冷凍庫に保管すればいいだろう。
「……初めてシャーレに来たわね……こんなスペースがあるだなんて」
シャーレのキッチン兼食卓のあるスペースに案内し、リオの買ったものをしまい込んで、ジャケットを脱いでエプロンを付ける。
「……まさか先生料理するの?」
「ここの奴らの飯を作ってんのは俺だからな。安心して席について待ってな」
意外そうな目で見られたが、案外そういう柄には見られてねぇってことか。
さてと、何を作るかな……
人参ピーマン玉ねぎに鶏肉……
ざっと冷蔵庫を漁った感じはこんなもんか。
米は冷凍したご飯があるし……ケチャップもあるからあれを作るか。
野菜たちはそれぞれ細かく微塵切りにしてボウルに入れておき、鶏肉は一口大にザックリと斬る。
油を敷いたフライパンに鶏肉を皮目を下にして、ゆっくり火を通し始める。
しばらく調理を続けていると、ドアが開く音がする。
誰か帰ってきたな?
「たっだいま~!」
「ただいま」
「ただいま!」
「た、ただいま戻りました……」
便利屋の奴らだな。
「おかえり、お前ら客人が来てるから」
「…………」
「あ、初めまして!」
リオには少し悪かったと思うが、まぁ便利屋の奴らなら大丈夫だろう。
こうして料理している背後で、徐々に楽しそうに会話を続けているのが聞こえてくる。
鶏肉に火が通ったら、野菜たちを炒め始める。
「ミレニアムの会長さんなの!?リオちゃんって……あれ?セミナーの会長って言えば──「それは色々と大変だったでしょう」」
「……えぇ、でも先生のお陰で阻止出来たわ」
「ふふ、何て言ったってこの便利屋68のパートナーですもの!当然ね!」
仲良くなってそうでよかった。
野菜に火が通ったら、ケチャップを入れて酸味を飛ばしていく。
そのままでも美味いんだが、火を入れた方がもっと美味い。
ナポリタンを作るときも同じようにするといいぞ。
「先生、チキンライス出すの?」
「いや、オムライスにするつもりだな」
隣にいつの間にか来たムツキに聞かれる。
俺が料理してるとこいつが良く来る。
意外とご飯食べるのが好きなのか?
「リオちゃーん!オムライスだってよかったね!!」
「そう……」
「そうよ!先生のオムライス絶品なんだから!」
リオの塩対応にも変わらないペースで話しかけれるあいつらは強いな。
あくまでも話しかけてる奴らの態度ではなく機嫌でしっかり見れてる証拠だ。
パッと見たときに、リオが不快そうな目をしてなかったからな。
さてと、料理に戻るか。
酸味と水分が飛んで纏まってきたケチャップにウスターソースを入れて少し延ばしたところにレンチンした米たちを入れて軽く鍋を振って煽りながら炒める。
出来ねぇ奴はサックリとヘラで混ぜるだけでいい。
俺はカッコいいから零さないように鍋を振るけどな。
ご飯全体に味が付いたところで、別のフライパンを出して、油を敷いて火をつける。
「リオ、お前さんどんくらいお腹すいてる」
「そ、そうね……そんなに多くなくて」
そう言いかけたところで、グゥゥゥウ……と大きなお腹が鳴る音が聞こえる。
「リオちゃん大盛りでだってさ!」
「私たちも同じくらいでお願いするわ!」
「あいよ、分かりやすい返事だったな」
卵を二個、ボウルの中で溶いて、それをフライパンに流し込む。
卵に軽く火が通ったら、そこに横に線になるようにご飯を乗せていて……
後は、フライパンの淵を使って形を整えて、皿に転がす。
四つも同じようにな。
仕上げに、大きく波打つようにケチャップで線を書いて……
「そら、出来たぞ」
「わーい!」
「……綺麗」
既にスプーンをもって待機しているあいつらの前にオムライスを乗せた皿を並べていく。
待ちきれねぇって顔つきしてんな。
「冷めねぇうちに食っちまいな」
「「「「「いただきます」」」」」
静かにスプーンを口元に運ぶリオをそっと見る。
失礼なのかもしれねぇが、今回の飯はこいつの為に作ったんだからな。
少し咀嚼して、飲み込み。
目を少し見開いたあと、パクパクと小さいガキのようにどんどん口に運んでいく。
口に合ったようで何よりだ。
「ん~~!!やっぱり先生のご飯美味しい!」
「そいつはよかった。作った甲斐があるってもんだな」
「えぇ……本当に美味しいし……胸が温かくなる味がする……どうしてかしら」
目を輝かせながら美味そうに食ってくれるムツキに対して返事をしていると、リオが口を開く。
既に皿は空だ。
食うのが速ぇなおい。
「ふふっ、リオ。それはね、先生が愛情をもって作ってくれてるからよ。そうでしょう?先生?」
俺が答えようと口を開くとそれよりも早くアルが答えてしまう。
愛情……愛情か?
ある意味の父性ってのなら分からなくはねぇが……
そんな自信満々の顔で見られてもな……ノリとして違うっていいづれぇじゃねぇかよ。
「あー……まぁ愛情云々は置いとかせてもらうが、食ってる奴の顔を想像しながら作りはするな」
「なるほど……それも感情ってことなのかしら」
「まぁ、そうだな。こうやって、テメェの手で作るってのもいいもんだぜ?」
「……考えとくわ」
「そうそう、リオちゃんもうちに来てもいいんだからね?」
まさかのムツキから、リオへのスカウトが掛かる。
俺の居ない会話の中で何があったんだ?
しかし、それに何か思うことがあったのか、アルが机をダンと叩きながら立ち上がり、声を上げる。
「ダメよ。私達のようなアウトローの根城に、リオのような真面目で良い子は相応しくないわ」
「アル、一応言っとくがそいつ。学園の金を横領したかなりのアウトローだぜ?」
「な、なな、なんですってーー!!!!」
まさか、知らずに話してたのか?
お前さん、ニュースとか新聞読んでるよな……?
白目を剥くアルをニヤニヤしながら見ているムツキとやれやれと言わんばかりに首を振るカヨコ。
分かってて、わざと伝えてなかったんだなこいつら……
「そ、それは、本当なのかしらリオ」
「……えぇ、本当のことよ」
それを聞いたアルが、ゆっくりと椅子に座り、真剣な顔でリオに質問を投げかける。
「なんでそんなことをしたの」
「……キヴォトスを守るため、そのために私は、エリドゥを作ったわ。それが正しい行いだと信じて、そうすれば分かってくれると信じて」
「……そう、なら、貴女はアウトローではないわね」
きっぱりとアルはそう告げた。
「貴女は、犯罪者なんかじゃなくて、ただ正しいことを成そうとした善人。私たちのような自分勝手に生きる人間とは真逆の存在……」
「…………」
「でも、それでも友達よ」
アルが、手を差し伸べる。
「…………え?」
「あら、同じ食卓を囲んだのよ?少し話せば貴方がどんな人なのか分かるわよ。それに、貴女にはミレニアムの会長の仕事が残ってるじゃない。尚のこと、うちに来ちゃ駄目よ」
こういうこいつのカリスマ性には驚かされるもんだ。
ま、あの三人を従えられるんだから納得ではあるがな。
「ふふっ、ありがとう、アル。そうね、セミナーの会長を引き継いだらその時に、貴女達のところに行くことにするわ」
そう言って笑うリオの顔で、この食事会は幕を閉じた。
そして、今度こそリオを家に届けるために、車に乗せて送り届けている。
「騒がしい人たちだったわね」
「お前さんの周りだと、あんまあぁいうタイプはいなかったか」
「えぇ、そうね……でも、嫌ではなかったわ」
「そいつは何よりだ」
街灯が何度も通り過ぎ、交互に照らしていくリオの横顔は何処か、楽しそうだった。
「……昔の私で居続けたらこうは行かなかったでしょうね。……はぁ、かつての私は、人を信用できないのならコントロールすればいいと、そう考えていた」
「俺のような男をコントロールするのは苦労するだろう?」
「えぇ、全くよ。でも、そのおかげで人は、代替不可能な存在だと気付かされたわ」
人は機械と違う。
俺の相棒であるこいつも、パーツが壊れりゃ交換できる。
ただ、人間ってのはそうもいかねぇ、100%同じ人間なんざこの世にはいねぇんだ。
マモー?あいつは論外で例外だろ。
「手痛い失敗はしたが、まぁ授業料の代わりにはなったろ?」
「ふふっ、そうね。先生が……『代替不能』な存在だと知れたわ」
「……悪いが俺は──「分かってるわ。でも口にするのは勝手でしょう?」……そうだな」
月が沈み日が昇るように。
止まない雨がないように。
こいつらが、どう思おうとも、それはごく自然で勝手なものなんだろうな。
駄目なものは駄目だと教えるべきではあるが。
「先生……私も少しは変わったかしら」
「……そうだな。『Two men look out through the same bars one sees the mud, and one the stars.(二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めたとさ。一人は泥を見た。一人は星を見た。)』……この詩に言わせるんなら、お前さんは今しっかりと星を見ていると思うぜ」
「……ありがとう」
目的地に着き、俺はリオを下す。
最後の問答を終えて、礼を言ったリオは振り返ることなく、向かっていく。
明日からの自分の仕事と責任に向かって。
リオの絆スト兼ミレニアムアフター
アルちゃんは……こう書いてたらキャラが勝手に動き始めちゃいましてね……
今後の予定は、イズナ絆ストとカヨコの絆スト挟んで、貴女とって~ミレニアム編~そして、シャーレ編をやろうかなと。
ハヤテちゃんからのアンケート答えていただきありがとうございました!
さてと……エデン編のこともそろそろ考えとかないと……章タイトルが白紙すぎます……
イズナと便利屋で見る○○シリーズも、またアンケートで聞こうかなと考えております(誰か、カリオストロをPCで見れる方法があったら教えてください)
あと、余談ですが、アコの絆ストアフターをXで投稿してみました、良ければワンワン
作者でした。
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持