仕事からの帰り道。
今日はいつもと違って、車じゃなくて徒歩での移動だ。
ミレニアムの奥の方とかゲヘナの辺りまで行くには車を使わねぇと泊まり込みになっちまうが、D.U地区内なら俺の足で充分だ。
今日は、シャーレの依頼ってよりかは便利屋たちの仕事の手伝いみたいなもんだった。
まぁ、警備の仕事ってやつだな。
デスクワークも大事だが、こうやって身体を動かさねぇと、色々鈍っちまうからな。
ミレニアムでの特訓もあるけど、ネルにボコボコにされるだけのあれが、運動かって言われると微妙なラインだからな。
あれはただの生存競争だ。
そんなこと考えながら、街を歩いていると聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
「だから、何もやってないって」
「嘘つくな!そんな怪しい見た目で……!こんな場所彷徨いて、何か用事でもあるのか?」
路地裏に繋がる道の方から聞こえるその言い争いの方へ目を向けると、サツのおっさんに絡まれてる白と黒のモノトーンの髪色が特徴的な仲間がそこに居た。
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はぁ、最悪……
面倒なのに絡まれた。
「ほら見たことか!何か企んでるんじゃないのか!?」
私は昔からこの怖い顔のせいで損してきた。
まぁ、私もそれに関しては、もうとうの昔に諦めてるから別にいいんだけど……
こうやって警察に絡まれるのは、面倒臭いと思う。
「とりあえず学生証を出しなさい!身元確認をするから」
今は、シャーレの後ろ盾があるから風紀委員会に何か小言を言われるようなことはないから、別にいいんだけど……先生に迷惑かけちゃうのは嫌だな……
どうして私はこうなんだろう。
そんなことを思いながら学生証を取り出そうとした時、間を割って入るように……安心する声が聞こえてきた。
「俺の生徒が何かやらかしたか?」
「ん?どなたですか?」
そっと私と警察の人の間を割って入ったその傷跡だらけの手は、積み重ねてきた壮絶な過去を思わせる。
いつものように硝煙と煙草の香りがするそのスーツ姿。
黒い帽子で目元を隠したその人は、そっと胸の内ポケットからシャーレの紋章を取り出す。
「俺は次元大介、シャーレで先生ってのをやってる」
「シャーレの先生でしたか、何故貴方が──「俺の生徒が何かしたかって聞いてんだ。こっちの質問を先に答えてくれ」……ここ最近治安が悪化している路地裏の入口に怪しい人物が居たので」
先生がなんでこんなところに?
今日は仕事だって……
「怪しい?まさかカヨコのことを指して言ってるんじゃねぇよな?」
「い、いえまさかそんな」
先生に凄まれて、警察の人がタジタジになっている。
さっき私のことを怪しいだの偉そうに見下ろしてきたのに……
「先生、警察の人怯えてる」
「ん?あぁ、悪ぃな。お前さんもただ仕事熱心なだけだからな」
「ご、ご理解いただけて助かります」
私が間に入ろうとしても、手で制止されて、先生の睨みは一向に止まらない。
流石に少し可哀想になってきた。
「そ、それで彼女は一体」
「シャーレと共同提携してる便利屋……まぁ、俺のパートナーだよ」
『パートナー』
先生は、私達のことをよくそうやって紹介してくれる。
ちょっと前は、喜んでいたし……今でも嬉しく思う。
でも、最近はその言葉を聞く度に胸の奥の何処かが、ズキリと痛む。
「なるほど、ということは……シャーレの業務でしたか……」
「分かったんならさっさと行きな」
「は、はい!」
そういって、先生は警察の人を追い返してしまった。
あんなにしつこかったのに、そそくさと行ってしまった。
「先生、どうして助けてくれたの?」
私の口は勝手に口ずさんだ。
我ながら随分と冷たい言い方だ。
こんな言い方したくもないのに。
「仲間だろ?」
そんな私にも先生は優しく答えてくれる。
短い言葉でも、先生と私にとってはそれだけで充分真意は伝わってる……なんて、そんな傲慢な考えを私は受け入れてしまう。
「……まぁ、それでも、あぁやって不審者に見間違えられるのはよくあることだし。
……やっぱり面倒だね、怖い顔立ちって」
「怖い?お前の顔がか?」
私の言葉を聞いた先生が、疑問そうな声を上げて、顔を下に向けたと思うと肩を大きく震わせる。
「……ふっふっふふ、はっはっはっはっはっ!!」
帽子を押さえながら顔を上に向けて、大きく口を開いて笑い声をあげる。
「先生、私これでも結構気にしてるんだよ?」
「悪い悪い!お前さんがあまりにな……お前さんの人相が怖いとは思ったことがなかったな」
コンプレックス……ってほどでもなかったけど、それでも先生がそう笑い飛ばしてくれたことに私は不快感を感じなかった。
でも、今まで怖いって何度もそう言われてきた私の目つきを先生は、否定してくれた。
胸に暖かい感情が溢れていく感覚がする。
それと同時に後ろめたい疑問の念が、喉元まで上がってくる。
「……先生は、本当に私が怖いと思ったことないの?」
つい口に出してしまった。
思わず口を手で押さえる。
こんな衝動的な発言、私らしくない。
その言葉を聞いた先生は、両手をポケットに入れたまま、首を傾げて一通り考え始める。
その沈黙の時間が後悔となって、心臓をグサグサと突き刺さってくる。
「全く。気の強ぇ女は多く見てきたが、そいつらに比べりゃちっともだな。優しい顔立ちをしてるよ、お前さんは」
「あ、うん……ありがとう、先生」
そうあっけらかんと答えてくれた先生に、驚いちゃって、そんな返ししか言えなかった。
頬が熱い。
「人相が怖いってんなら、お前さん。俺のこと見てから言えってもんだ」
「ふふっ、確かに。でも、先生、私たち……いや、私も先生のことを怖いと思ったことはないよ」
だって、その帽子で隠れた私たちを見る目はいつだって優しい目つきをしているからね。
……なんて、そんなことを先生に向かっては言えない。
だって恥ずかしいからね。
「そういや、お前さんこんな場所で、何やってたんだ?」
「……その、野良猫に餌をやってたの。警察が来て、すぐ逃げちゃったけど」
「そういや、前にお前さんの自室に入った時に猫の餌があったが、そういうことだったか」
「見られてたんだ……」
基本的に私は、他の便利屋のみんなとか気を許した人以外は、自室に入れさせたくない。
先生は、前に一度だけ、自室に招いたことがある。その時にあの子の餌を見られていたようだった。
「まぁな、しかし野良猫か……シャーレ、確かペット受け入れ可能だったと思うが、そいつ飼わねぇのか?」
シャーレって、ペット受け入れできるんだ。
……つい悩んでしまう。
「……あの子は、一人でも平気な子だから」
「独りってのは寂しいだろ?」
先生の返しに、私は心臓がドキリと跳ね上がる。
まるで見透かされているような。
私が思っていたことを言い当てられて、言葉が詰まる。
「そう……だね。でも、縛られることも、傷つけられることもないから」
「なら、お前さんが、餌をやりに来るのはどうしてだ?」
「それは……放っておけなかったから。ただ、それだけ」
その言葉を聞いた先生は、小さく笑い、私の頭を乱暴に撫でる。
髪のセットが崩れちゃうようなガサツな撫で方なのに、嫌な気分にはならない。
きっとそれは、先生だからなんだろうね。
「そうか、それなら……お前さんの好きにすりゃいいさ」
「飼おうとは言わないの?」
「あぁ、まぁな。そいつにはそいつの居場所があるだろうし、俺の所には、もう充分綺麗な猫がいるからな」
帽子の下に潜む眼が、優しく私を見つめている。
顔がどんどん熱くなっていく。
もう、本当にそういうところだと思う。
「おい、どうした。フードなんて被って」
「知らない」
家に向かってそのまま、早歩きで歩いていく。
同じ屋根の下にいる以上先生も、私の隣まで追いついてくる。
「急に機嫌悪くなんなって、腹でも減ったか?」
「……バカ」
ほんとこの人は……
人の気も知らないで……
鈍感なのか鋭いのかどっちかにして欲しい。
赤くなっている耳と頬を悟られないようにフードで顔を隠して、先生に軽く蹴りを入れる。
「痛っ」
自分のことは何も語らない癖に人の心を惑わせる。
そんな悪い大人への私からの小さな反逆だ。
カヨコの心情表現難しい……
メタルって、『反逆性』とか『反骨精神』とかの意味があるらしいですね。
それはさておき、現在アンケートのしている次の便利屋と見るシリーズ。
めちゃくちゃ白熱しておりますね……まさか隠された天空都市が票を上回るとは、ほぼ誤差の範囲ですけども。
どちらも良いお話ですからね……私の初めてのルパンも隠された天空都市でしたし。
次に更新するつもりのイズナの絆ストのあと投票を締め切ろうかなと思っております!
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持