新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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#EX14 刃の心。乙女の心。

「そうか、友達が増えたか」

 

「はい!まさか同じ忍者を目指す同志が居たとは……!」

 

 今日のシャーレの当番であるイズナに、最近の様子を聞いていた。

 俺たちとイズナの出会うきっかけになったあの『百夜ノ春ノ桜花祭事件』の後、イズナは偶然拾った暗号文を解読し、『忍術研究部』なる部活動に所属するようになったらしい。

 

「俺の忍びが世話になるんだ。いずれ挨拶しに行かねぇとな」

 

「はい!是非とも主殿も先輩方に会って頂きたいです!」

 

 今は絶賛休憩中。

 仕事で缶詰になるのもよくあることだが、適度に休んだ方が効率が良かったりするもんだ。

 

「で、だ……イズナ」

 

「はい!なんでしょうか主殿!」

 

「何時になったらどいてくれるんだ?」

 

 俺は、俺の膝の上に頭を乗せているイズナに対して声をかける。

 休憩に入るや否や、ソファに連れていかれて、膝枕を強制的に行わされた。

 前々から距離間の近い奴ではあったが、ここまで強引な奴じゃなかったんだがな?

 

「えーっと……ご迷惑、だったでしょうか?」

 

 潤んだ瞳を向けられる。

 

 そう言われると何も言い返せねぇ。

 最近はヒナに膝枕するときもあったし、意外と甘えん坊が多いらしいな、ここは。

 今は便利屋の奴らもいねぇし、特に困るようなこともないと言えば確かにない。

 あいつらがいると、私も私もって俺の体に覆いかぶさってきやがるし、カヨコとかハルカの目つきが明らかに悪くなるからな……

 

「迷惑、って訳でもねぇが……イズナらしくねぇな」

 

「ぎくっ……あははは、そうですかね?」

 

 目が泳いでいる。

 

 らしくねぇし、何か隠しやがるな?

 自分からぎくっ、とか言ってるしよ。

 こういう隠し事が苦手なところが、イズナのいいところではあるな。

 

 俺は、イズナの頭を撫でたあと、その泳ぐ瞳を見ながら話しかける。

 

「お前さんが言いたくねぇのなら、詰めはしねぇけどな。ただ、俺とお前が主従だってんなら、聞かせてくれよ」

 

「……うぅぅ、そ、そのですね……イズナは前に見てしまったのです」

 

 混乱したように必死に悩んだ後に、イズナは小さな声で話始める。

 

「……先生が、ゲヘナの風紀委員長さんに対して膝枕をしている光景を……」

 

 俺の膝に預けていた頭を上げて、ソファに座る俺の前で、正座をしながらそう語るイズナの目には涙が浮かんでいる。

 

「イズナは、忍者失格です……先生に膝枕されているその方を見たら、胸がざわついて、心の臓がチクチクと痛んで……それで、イズナは、その様子を写真に収めて……」

 

 前にアコが持っていたあの盗撮写真は、イズナが撮ったものだったか。

 まぁ、俺とヒナの索敵を潜り抜けれるようなやつは……こいつしかいねぇな。

 

「主殿……いかなる罰も謹んで受けます……」

 

 そういって、イズナはそのまま掌を地面につけて、頭を下げようと……土下座をしようとする。

 こいつのやったことは確かに悪いことではあるが……それは、俺に対してやるべきことじゃねぇ。

 

 俺は、手を差し出して、下がっていくイズナの頭を受け止める。

 

「……主殿……?」

 

「イズナ、お前さんがやったことは確かに悪いことだ。俺には俺の、ヒナにはヒナのプライベートってもんがある、それは分かってるな?」

 

「……はい」

 

 イズナは、真面目な優しい奴だ。

 そいつが、こういう真似をしちまう位には、心が揺さぶられたってことだろう。

 俺は、鈍感な朴念仁とは違うんでな。

 イズナが俺に対して並々ならねぇ好意を抱いてるのは分かってる。

 ただ、それで人に迷惑をかけるんなら『先生』として、注意してやんねぇといけない。

 

「……それが分かってるなら、良いんだ。お前さんは俺の忍びだからな。今度、俺もついていってやるから、一緒にヒナに謝りに行こうな」

 

「……! はい、ありがとうございます!主殿!」

 

 

 

 ──────────────────── 

 

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 ──────

 

 

 

 イズナは、主殿のことが大好きです。

 でも、それは主君として、忍びとして好きだと。

 そう思っていました。

 あの光景を見るまでは。

 

 

 

 

「主殿!主殿~!イズナ、参りました!」

 

 その日は修行を終えて、何となしにシャーレに遊びに来て居ました。

 

 いつも寡黙に仕事をする主殿の勤勉さとその真面目な所は、イズナにとって憧れの対象で、イズナもあんな大人になりたいと強く思っています。

 

「むむっ、この時間ならてっきり屋上にいると思っていたのですが……」

 

 主殿は、仕事が一段落すると、煙草を吸うために屋上へ、大体は昼すぎのこの時間帯に現れるのですが、その日はイズナの予想が外れ、誰もそこにはいませんでした。

 

 ですのでイズナは、潜入任務として、こっそりと気を使いながら、シャーレの内部に忍び込むことにしたのです。

 

 今思えば……こんなことしなきゃよかったと。

 後悔しています。

 

「…………ってるからな。何をして欲しいんだ?」

 

 天井裏にそっと潜んでいると、声が聞こえてきました。

 いつもの優しい主殿の声。

 どうやら、誰か別の人が主殿と話しているみたいです。

 

 イズナは、そっと耳を傾けました。

 

「……な、なら、その……膝枕、してほしい……」

 

 聞いたことのない声。

 便利屋の皆さんとは違う知らない女性の声が聞こえる。

 

 イズナの心臓の鼓動が速まり、そして、そっと覗くと……

 白くて綺麗な長い髪の少女が、主殿に膝枕をしてもらっている光景が目に入る。

 

 肩についている腕章とその特徴的な長い髪は、前に便利屋の皆さんが話していた少女の特徴と一致していた。

 

 ゲヘナ学園の風紀委員長さん。

 

 とてもお偉く、そして強いお方。

 

 責任感も強くていつも忙しいと、そう聞いていました。

 

 そんな方が、主殿の体に身を預けて心地良さそうに瞳を閉じている。

 そして、主殿もその方の髪を優しく……愛おしそうに撫でて……

 

 主殿も……やはり、あぁいう方が……

 

 そう心の中で声を零した瞬間、イズナの胸がギュッと締め付けられ、激痛が走りました。

 そして、気づいてしまったのです。

 

 イズナは……イズナは……主殿を、一人の男性としてお慕いしていると。

 

 あの日から、今日までずっと……イズナの夢を否定せずに応援してくれている主殿。

 あの人がいるからイズナは頑張れている。

 あの人にお仕えすることが、心地よくて、とてもとても幸せで……

 

 だから……もっと近くに居たい。

 

 そう気づいてしまったのです。

 

 忍者は、忍び耐える者。

 なら、胸の奥から溢れるこの激情に飲まれているイズナは、忍者失格なのではないでしょうか。

 

 そう思っているのに、イズナは自分の手を止めることが出来ませんでした。

 イズナは、その光景をこっそりと写真に収めてしまいました。

 

 こんな痛くて苦しい感情になるのは、初めてでした。

 でも、これは言い訳なのです。

 

 主殿を御守りする。

 主殿に忠誠を誓った。

 忍者としてのイズナではなく。

 一人のイズナとして、動いたのです。

 

 そして……イズナはその場を離れました。

 

 

 夕焼けが照らす公園で、ベンチに座り、イズナは一人でこの胸で暴れている感情を止めようとしていました。

 

「……ひっぐ、ぐす……」

 

 忍者たるもの泣くなんてみっともないこと出来るはずがない。

 だから、今頬を濡らしているこれは、涙ではないのです。

 

「あら?イズナじゃない。こんなところで何してるのかしら?」

 

 その声の主の方を見ると、そこには仕事帰りのアル殿が居ました。

 

「って、どうしたのよ。貴方が泣いてるだなんて」

 

 アル殿に、情けない姿を見られてしまった。

 誰も来ないだろうと思って、油断していたイズナの怠慢です。

 目をこすりながら、目から零れ落ちるものを止めようとしていると、そっと温かい感触が体を包みました。

 

「イズナ、何があったのか分からないけども……大丈夫だったかしら」

 

「アル殿ぉ……」

 

 アル殿が、イズナのことを優しく抱きしめてくれていました。

 アル殿は、イズナにそれ以上何も言わず、ただ泣き止むまで側にいてくれました。

 

「ふふっ、もう泣き止んだかしら?」

 

「な、泣いてはないです。イズナは忍者ですので」

 

「別に忍者でも泣きたければ泣いていいと思うわよ?」

 

「それでもです!」

 

 少し落ち着いたイズナは、アル殿に話を聞くと、仕事終わりの帰り道で、たまたまイズナの声が聞こえて、足を運んだとのことでした。

 

「一緒にもう一人いたのだけど、つい置いていってしまったわね」

 

「便利屋の皆さんですか?」

 

「いえ、何でもシャーレの当番の子を迎えに──「あ、ここに居たんですね。アルさん!」話をしてたらちょうど。悪かったわねアコ」

 

 そうして、現れたのは、ゲヘナの……風紀委員会の人でした。

 アル殿とアコ、殿がお話している間、イズナの胸はまた痛く切なくなっていきました。

 アコ殿は何も悪くない……いや、イズナ以外誰も悪くないのに。

 

「イズナ、何があったのかしら」

 

「へ、い、いや……何も」

 

「貴女の嘘くらい見破れるわよ。仲間で、友達だもの」

 

「…………その、実は」

 

 アル殿の優しい瞳に見つめられて、イズナは、シャーレで見たものを、撮ったものを見せてしまいました。

 アル殿は、少し溜息をつき、隣にいたアコ殿が大声を上げて、その写真を凝視している。

 

「イズナ、さんでしたよね」

 

「は、はい!」

 

「その写真頂けないかしら」

 

「え……でも、それは……主殿を裏切るわけにはいきません」

 

「脅迫などには使いませんので、どうか頂けませんか……?」

 

 アコ殿の目に嘘を言ってるようなそんな雰囲気は感じませんが……

 でも良いのでしょうか……

 アル殿の方を見ると、やれやれと首を振って、そのあと私を見て小さく頷く。

 

「……分かりました、渡します」

 

「ありがとうございます、イズナさん」

 

 声はあまり変わらないが、嬉しそうな様相のアコさんは、受け取ったあとそのままシャーレの方に向かっていった。

 

「本当、あの人も悪い人ね」

 

「主殿のことですか?」

 

「えぇ……」

 

 そう話すアル殿の顔は、いつもよりもクールなそんな風に見える。

 きっとアル殿も、主殿のことを……

 

「それだけ……主殿は、素敵な方……ですから」

 

「ふふっ、惚れた弱み、って奴かしらね。さっ、帰るわよ、イズナ」

 

「あ、今日はこのまま……」

 

「あら、今の貴方を一人にするほど、私は薄情じゃないわ。行きましょ?」

 

 アル殿の手を取って、そのままシャーレへと歩き始める。

 一つの決意を胸に秘めて。

 

 

 そして、今……主殿のお叱りを受けて、主殿の御好意で、また膝枕をしてもらっています。

 

 主殿、主殿……!

 

 イズナは、まだまだ修行中の若輩者です。

 でも、ずっといつまでも側に居られるように、頑張りますから。

 だから、どうか、どうか見ていてください、イズナの事を。

 

 大好きです、主殿!

 






イズナの絆ダイアローグとかの歌詞見ると、この子実は滅茶苦茶湿気凄いのでは?
と思った作者です。
その結果がこちらなのですな。作者的過去最高の湿気具合。

ヒナとのことは、Twitterの方で投稿した『魔王だって休みたい!』をご拝読いただけたらと思います。

さて今後の流れですが、イズナ&便利屋と見るシリーズ → 貴女にとってシャーレ編
その後に、エデン条約編第一章『Vol.3-1 撃手はエデンの夢を見る』
を更新しようと思っております。

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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