新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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前話でも軽く触れましたが、やりたいことが五つあるため、"基本"はストーリー準拠で参ります。それでは……エデン条約編お楽しみください


Vol.Ⅲ-1 撃手はエデンの夢を見る
1-1 預言


 声が響く。

 

 少しの後悔と諦めが混じったそんな……悲しそうな声だ。

 

 ──つまるところ。エデン条約というのは『憎み合うのはもうやめよう』という約束。──

 

 声が響く。

 

 ただ、俺はその声を真剣に聞き届ける。

 

 ──トリニティとゲヘナの間で、長きに渡って存在してきた、確執にも近い敵対関係。──

 

 ──そこに終止符を打たんとするもの。──

 

 声が響く。

 

 この先に待ち受ける運命を掴む為に、俺はそれを聞き届ける。

 

 ──互いが互いを信じられない故に、久遠に集積していくしかなかった憎悪を解消するため、それに代わって新たに信頼を築き始めようとするプロセス。──

 

 声が響く。

 

 ──より簡単に言おうか、つまりはゲヘナとトリニティの平和条約だ。──

 

 声が語りかけてくる。

 

 ──ただ、連邦生徒会長の失踪をきっかけに、この条約は何の意味も持たなくなってしまった。──

 

 ──『エデン』……太古の経典に登場する楽園の名だよ。どんな意図でこの名を冠したかは分からないが……まぁ連邦生徒会長のいつもの悪趣味だろうね。──

 

 ──キヴォトスの『七つの古則』はご存知かい?──

 

 ──その五つ目は、正に『楽園』に関する質問だった。──

 

 

『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することは出来るのか』

 

 

 声が笑いかける。

 

 ──他の古則もまたそうであるように、少々理解に困る言葉の羅列ではあるが……これを『楽園の存在証明に対するパラドックス』であると見ることができる。──

 

 ──もし楽園というものが存在するのであれば、そこに辿り着いた者は、至上の満足と喜びを抱くが故に、永遠に楽園の外に出ることはない。──

 

 ──もし楽園の外に出たのであれば、つまりそこは真の悦楽を得られるような『本当の楽園』では無かったということだ。──

 

 ──であるならば、楽園に到達した者が、楽園の外で観測されることはない。存在を捕捉できるはずがない。──

 

 ──存在しない者の真実を証明することは出来るのか?──

 

 声が皮肉そうに笑う。

 

 ──つまりだ。この五つ目の古則は、初めから証明することが出来ない『不可能な問い』なのだよ。──

 

 ──しかしここで同時に、思うことがある。証明できない真実は無価値だろうか?この冷笑にも近い文章を通じて、何か真に問いたいことがあるのではないだろうか?──

 

 声の主が、俺の瞳を見つめながら本題だと言わんばかりに話し出す。

 

 ──どうかな?そう聞いてみるとこの『エデン条約』そのものが、甘い甘い虚像のようなものに思えてこないかい?──

 

 狐耳を揺らした少女が、俺を見つめる。

 

「次元先生。この先に待ち受けるものは、貴方にとっては、慣れ親しんだ光景かもしれない」

 

「不快で、不愉快で、忌まわしく、眉を顰めるような……相手を疑い、前提を疑い、思い込みを疑い、真実すら疑う」

 

「悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような……それでいて、ただただ後味が苦い……そんなお話だ」

 

「しかし、それでも同時に、紛れもない真実の話でもある」

 

「次元先生、どうか背を向けず、目を背けず……最後のその時まで、貴方は駆け抜けてほしい」

 

 狐耳の少女が、俺へ近寄り、目線を合わせる。

 

「それが、きっと貴方がここに来た理由になる」

 

 

 

 

 

 

 俺は、瞼を開く。

 

「……寝てたのか」

 

 あたりを見回してもいつも通り机の上に並ぶ書類の山ばかりが目にうつ……書類の山は見なかったことにしておこう。

 

 それにしても俺にしては珍しく夢を見ていたらしい。

 

 具体的な話は朧だが……大事にしまっとくべきものだとそう思わせるものだった。

 

 あのやけに特徴的な狐耳と白い服……

 

「アロナ」

 

『呼ばれて飛び出てアロナちゃんです!!どうされましたか?次元先生』

 

「悪いが至急、調べてほしいグループがいる」

 

 俺の手には、『トリニティ総合学園』その最高権力である『ティーパーティー』からの招待状が握られていた。

 

 やれやれ、茶会っていう洒落たもんに出る趣味はねぇんだがな。

 レディからの誘いは断れねぇか。

 

 俺は、その招待状を懐に入れて、トリニティへと足を運ぶ。

 

 

 

 トリニティ総合学園。

 キヴォトス三大学園の一角であり、そして最も長い歴史を誇る学園でもある。

 なんでも昔は、様々な学園がひしめいて、紛争が多かったらしい。

 それを回避するべく、各校の代表が会談する場を『ティーパーティー』と呼び、そこで三つの主要な学園『パテル』『フィリウス』『サンクトゥス』を中心として今のトリニティ総合学園が誕生し、その際の三つの学園がそのまま派閥となって、三頭政治を行ってるのだとか。

 

 ……『パテル』『フィリウス』『サンクトゥス』。キリストに準えた三位一体の教えと同じ名前をしてるあたり、トリニティに住んでるのは天使の奴らなのか?

 

 ゲヘナ学園が悪魔の巣窟だとするのなら、仲が悪いのも納得と言ったところだが。

 

 

 

「こんにちは、次元先生。こうしてお会いするのは初めまして、ですね」

 

 長い薄い茶髪と白い羽を生やした少女……桐藤ナギサがカーテンシーで挨拶をする。

 招待状を見せると警備をしていた生徒からここへ通された。

 トリニティ総合学園の敷地が一望できるテラス席だ。

 

「ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサと申します。そしてこちらは、同じくティーパーティーのメンバー、聖園ミカさんです」

 

 そうしてミカと呼ばれた桃色の長い髪と星のようなヘイローが特徴的な少女がペコリと挨拶をする。

 

「シャーレの次元大介だ。確かもう一人、ティーパーティーのメンバー……いや、ホストの百合園セイアって奴がいたよな。そいつはどうした」

 

 さっきナギサは、自分のことをホストだって言ったが、それはつまり、前のホストだったセイアに何かがあったってことになる。

 

 それに対して、二人の表情が少し曇る。

 

「セイアちゃんは今、トリニティにいないの。入院中で……」

 

 ミカがそう声を零す。

 

「そのセイアさんが本来のホストなのですが……そういった事情で現在は私が務めております」

 

 病弱な体質なのか怪我なのかは分からないが、訳アリなのは間違いない。

 少し引っかかるのは、ナギサに比べて、ミカの声に何故か後悔の色が混じっていることだ。

 

 ……とは言え、今話す事でもねぇな。

 

「そうか、なら俺からもよろしく伝えといてくれ」

 

「はい……それで、本題に入るのですが──「えーっ!もう本題に入っちゃうの?もうちょっとこう、アイスブレイクとか要らないの?ちょっとした小粋な雑談とかさ?折角キヴォトスで話題の先生がいるんだしさ?色々質問とかしようよぉ!」……ミカさん?そういった事は、貴方がホストになった際に行って下さい。今は一応私がホストですので、私の方法に従ってくださいな」

 

 挨拶も手短に本題に入ろうとしたナギサに対して、つまんないとでも言いたげに、ミカが頬を膨らませながらブーイングを飛ばす。

 

 どこもだが、トップの人間ってのは苦労するのは共通らしい。

 

 そのブーイングに対してナギサがニッコリとした笑顔で、ミカを窘める。

 笑顔だと言ったが目が笑っていない。

 

「……まぁ、しかしいきなり仕事の話というのも、よろしくないかもですね。ミカさんの言う通り話の方向を変えましょうか」

 

「俺としちゃあ、仕事の話でも構わねぇが……さっきミカが話してたキヴォトスで話題って何のことだ?」

 

「ほら、ナギちゃん見た!?これが大人の話術だよ!自然な話題の切り出し方!」

 

 ニコニコ笑顔で、ナギサの方を向きながら話しかけるミカに対して、それを無視しながら話し始める。

 

「最近の話ですが、クロノススクールが、次元先生について調べ回っているようで、何でも特集を組むとのことでした」

 

 なんだ?俺ぁ初耳なんだが?

 

「アビドス、ゲヘナ、ミレニアムでの取材が終わったそうで、私もいくつかの取材記録を見せてもらったところです」

 

「先生は、生徒から大変慕われているようで──「あれ?ナギちゃん無視?もしかして無視かなー?おーい、無視は酷いと思うんだけど?」……」

 

「お世辞は止めな、俺ぁそんな立派な人間じゃねぇよ」

 

「いえいえ、ご謙遜なさらずとも、腕前共にトリニティでも話題になっておりますよ」

 

「えっ、酷っ……くすん、私ちょっと傷ついた……」

 

 ミカがわざとらしくウソ泣きを始める。

 そんなミカを悉く無視しながら会話は進む。

 しかし、意外と俺の名ってのは広まってるようで、何時だかの俺とアルの共闘がその発端らしい。

 しかし、俺に許可をとらず取材してるのはどうなんだ?

 

「ナギちゃんが本当に無視したぁ……嫌がらせだぁ……酷くない?先生ぇ……私達一応十年来の幼馴染だよ?こんなこと今まで……結構あったかもだけど……」

 

 ミカが俺にもたれ掛かりながら愚痴っている。

 なるほどな、ナギサのこの執拗なまでの塩対応はこいつらが幼馴染だからか。

 まぁ、それなら雑な対応も分かるものではある。

 

「先生には是非とも、近いうちに正実に訓練を……あぁもう五月蠅いですね!?」

 

「ひぇっ」

 

 ミカとナギサの声が同時に聞こえて、そろそろキツくなってきた時、ナギサが机を手で大きく叩き、椅子から立ち上がる。

 

「今、私がお話してるんですよ!?それなのに、さっきからずっと!!先生にもたれかかって横でぶつぶつぶつぶつと……!!」

 

 あ、これは不味いな。

 

「どうしても黙れないのでしたら、その小さなお口に……ロールケーキぶち込みますよっ!!!!????」

 

「……。」

 

「くっくっくっ……!」

 

 つい笑いが漏れ出ちまったが、怒りが爆発したナギサは、さっきまでのお嬢様のような言葉遣いが嘘かのような乱暴な言葉でミカを制する。

 

「……私ったら、何という言葉遣いを……」

 

「気にすんな、お前さんのようなレディも一人の人間だって分かってよかったぜ」

 

「お恥ずかしい限りです……失礼しました、先生にミカさんも」

 

「いやー、怖い怖い……」

 

 そうして、一息ついたところでようやく本題に入る。

 

「先生の耳にも恐らく届いているかもしれませんが、現在『エデン条約』と呼ばれるものが、ゲヘナとトリニティの間で結ばれる予定なのです」

 

「二つの学園の和解のための条約だったか」

 

「はい……先生のお抱えの部隊にはゲヘナの生徒がいらっしゃるのと、ゲヘナの風紀委員長とは仲が良いとお聞きしております」

 

 便利屋達は、今は休学中ではあるが確かにゲヘナの生徒ではあったし、ヒナたち風紀委員会ともあれから時折訓練をつけてやる程度には関係も深い。

 それをどこで知ったのかは気になるところではあるが……

 

 俺は、ナギサの発言に対して首を縦に振る。

 

 その時、ミカが俺に対して冷たい目線を向けてきたのを俺は感じ取る。

 隠したいのかもしれねぇし、ただただ、ゲヘナが嫌いなのかもしれねぇが……今は深く突っ込む気はねぇ。

 

「そこで、先生には……とある部活の顧問になっていただきたいのです」

 

「今の話と何が関係あるんだ?」

 

「その部活……『補習授業部』の部員の誰かが、このエデン条約を妨害しようとしている裏切り者です」

 

 そうハッキリとナギサは言い切る。

 

「根拠が知りてぇところではあるな……この資料の四人がそうなんだな?」

 

 ナギサに手渡された資料には四人の名前と素性が書かれている。

『阿慈谷ヒフミ』『白洲アズサ』『浦和ハナコ』『下江コハル』。

 

 まさか、こんなところでヒフミの名前を見ることになるとはな……

 

「はい、全員に共通して確固たる証拠はないのですが……まずヒフミさんなのですが、度々無断での外出や出入り禁止と校則で定められているブラックマーケットに出没したとの情報が入っており、またブラックマーケット内にある銀行を襲ったメンバーの中にヒフミさんらしき人を見かけたとの情報が入っています」

 

 ……いや、覆面水着団のファウストは、ヒフミではないからな……

 しかし、あれに関しては俺が巻き込んじまったからな……申し訳ねぇことになったな。

 

「次にアズサさんは、転校生なのですが、近頃学内での暴力事件を起こしており、またそれまでの経歴が隠されているためです」

 

 明らかに怪しいが、怪しすぎて白く見えるところもある。

 

「次にハナコさん。本来であれば、このティーパーティーのメンバーになってもおかしくないほどの才能のある方なのですが……近頃水着姿で疾走しているなどの奇行に及んでおり、来歴故に様々な部署の情報を持っているのは間違いなく……しかし奇行故に真意が見えない為です」

 

 天才ってのは、どいつもこいつも気が狂っちまうのがお約束なのか?

 

「そして最後に、コハルさんなのですが……この子は、裏切り者の容疑……ではなく、『正義実現委員会』に対しての人質になります」

 

「人質だぁ?」

 

「はい、ゲヘナで言うところの風紀委員会と同じ役割を持つ、トリニティの実働部隊。それが『正義実現委員会』です。そこの副委員長……『羽川ハスミ』さんが、日頃の言動からして反ゲヘナ的でして、もし仮に正実そのものが反ゲヘナ側だった場合のことを考えての処置です」

 

 ハスミと言えば、シャーレ奪還の時にいたあのデケェ嬢ちゃんのことだよな……

 そんな素振りは見えなかったが……もしそうだったとすれば少し悲しくはあるな。

 

「そんなに正実ってのはやばい奴らなのか?」

 

 まぁ、正義実現って名前だけでも俺からすりゃ眉を顰めるようなもんだが。

 

「ハスミさんも戦力として驚異的ですが……正実の委員長『剣先ツルギ』さんが敵対するとなれば、この条約の締結は不可能でしょう」

 

 剣先ツルギ……前に黒服との会話で出てきたヒナにネルと共に並べられていた奴か。

 あいつらの化け物加減を考えりゃ……なるほどな。牽制する必要はあるか。

 やり口は気に食わねぇがな。

 

「そいつらを監視、あわよくば全員纏めて除籍させたいってのがお前さんの望みだな?」

 

「……はい」

 

 ナギサの目には確固たる決意の色が見える。

 なら……手を貸すしかねぇか。

 

「分かった、お前さんのやりたいことは分かった。ただし、俺からも条件をつけさせてもらおう」

 

「聞きましょう……その条件というと」

 

「やり方は俺に一任させろ。お前さんらのことをまだ100%信用できたわけじゃねぇ。お前さんと同じようにな」

 

 俺の言葉を聞いたナギサは優雅にティーカップに口をつけて、一息ついてから話始める。

 

「了承しました。やり方は先生にお任せ致します。その代わり……」

 

「あぁ、情報は全部お前さんに伝えるよ」

 

「……ありがとうございます。それではよろしくお願いいたします」

 

 こういう仕事だから、断れねぇことではあるんだが……

 長い仕事になりそうだ。

 

 ──────

 

 ────────────

 

 ────────────────────

 

 

 

 先生がドアから出ていく。

 

「ナギちゃん……」

 

 ミカが、私を心配そうに見つめている。

 ドキドキと胸打つ心臓の音がやけにうるさい。

 

「ふぅ……第一段階はクリア、ですかね」

 

「ナギちゃん、随分とぶっちゃけたけど平気なの?」

 

「先生は嘘を嫌うという情報がありました……それに見たでしょうあの目を」

 

「うん、確かに下手したら撃たれてたかもね?」

 

 セイアさんは未だに意識不明の重体。

 それを悟られないように振舞ったつもりでしたが……気付かれてそうですね……

 

 エデン条約は、トリニティとゲヘナの未来ひいては、キヴォトスの未来に関わる大事なもの。

 可能な限り、私の持てる力の限りを尽くしてでも、無事に締結に結びつけないといけません。

 

「ナギちゃん、カップ震えてるよ」

 

「すみません、ミカさん。少しだけ一人になってきます……」

 

「ナギちゃん……」

 

 ミカさんの声を背に、私は部屋を出る。

 時間はそう多くはありません。

 

 やれることをやれる限り熟し続けないと……

 

 何が何としても……スパイを見つけ出して見せます。

 

 

 そう決意して私は進み続ける。

 その先に深い闇が待ち受けているとも知らずに。

 




補習授業部のイかれた仲間を紹介するぜ!
狂信者!むっつりスケベ!オープンスケベ!ガスマスク!

次回 どうなってるんだこの都市は



お待たせ致しました。
本編開始でございます。

何とかうんうん捻り出しながら見切り発車で進んでいるので、また更新が遅くなるかもです。週一投稿出来たらいいなぁ……()

さて、次の投稿までに第二回貴方が選ぶ好きな一文選手権!
の集計と結果発表も行いたいと思いますので、良ければ活動報告の方見て頂けると幸いです。

最後に、ここすき、評価、感想お願いいたします!

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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