「お前ら、教科書の20ページを開け──「もう嫌!」まだ始まって10分しか経ってねぇぞ……」
まさかマジで教師みてぇな真似事をすることになるとはな……
時間は少し巻き戻って、昨日茶会から帰った翌日の朝にまで戻る。
補習授業部。
実際の存在意義は、エデン条約を妨害しようとしているスパイを監視・暴露させるのが目的なんだが……それはそれとして役割はちゃんとある。
それは、こいつらのテストの点数が著しく悪いってことにある。
「てなわけでだ、今日からしばらくの間、お前さんらの補習授業の担当になったシャーレの次元大介だ」
トリニティ自治区内にある合宿所でこいつらは寝泊まりしながら追加の授業をすることになる。
書類と写真で誰が誰ってのは把握してるが、それはそれとしてだ。
「お前さんらの名前と顔を把握したいからな、点呼していく。点呼!」
「えっ、はっはい!阿慈谷ヒフミです!」
一番真面目そうで、なんでお前のテストの点数が悪いのか意味が分からないヒフミが席を立って声を上げる。
「はっ!白洲アズサ!」
素性過去それら一切不明……のはずなんだが、まるで軍隊のような綺麗な点呼と敬礼を見せる白洲アズサ。
今の体の動きはほぼ反射的なものだった。
「な、なに急に!?え、っと下江コハル!」
黒い翼と腕に着けられた正義実現委員会の紋章を握りながらコハルが、恥ずかしがりながらも声を上げる。
「ふふふっ、浦和ハナコです」
お淑やかそうな声色と仕草で水着姿の少女、浦和ハナコが声を上げる。
「よし……少し待て」
……学校だよなここは。
少し後ろを向いて眉間をつまみながら状況を整理する。
確かに話しには聞いていたが、実際に目にするとここまで困惑するもんなんだな。
「あー……ハナコだったな?」
「はい、如何なさいましたか?」
何故俺がこんな態度なのかさも分からないとでも言わんばかりに首を傾げて、自然体で話しかけてくる。
「……とりあえず、明日からは授業中は制服で頼む」
「あら。なるほど、私の乙女の体つきが目に毒ということですね。先生が望みであればお部屋でこっそりと──「エッチなのは駄目!死刑!」あらあら」
奇行って聞いてたが、こいつは違うな。
コハルのツッコミで消えてしまったが、あの瞳には覚えがある。
人を試してくるときの目つきだ。
「そこまでにしろ、理由はともあれお前さんらがここに集められたのは点数が悪いからの一言だ。……とはいえ、俺はお前さんらの学力を知らねぇ」
そういって俺は全員に紙を配る。
俺なりに作ったテストの解答用紙だ。
トリニティから出ている特別学力試験とは別のやつだ。
「色々自己紹介やらなんやらしたいところではあるが、挨拶代わりに受けてもらう」
「い、いきなりテスト……!?」
コハルが明らかに動揺している。
俺ぁまともな学生生活ってやつを過ごした記憶がねぇが、直前の暗記程度でどうにかできたところでそれが本当の知力になるかといえばそれはノーだろ。
まぁ、瞬間暗記も凄いもんだがな。
「時間は……まぁ、この内容なら60分もあれば充分だろ。問題行き渡ったな?始め」
手を叩いて、合図を送ると全員が黙々と始める。
一人を除いて、その一人ってのが浦和ハナコだ。
表面上は真面目に取り繕ってるが、ペンがロクに進んでない。
いや、正確に言えば、悩んでるふりをして別のことを考えているってところか。
噂の真偽を確かめるためにハナコの一年生の頃のテストの点数を調べたが、三学年分の試験を受けて全教科満点。
それも二期連続。
アイツは紛れもない才女ってやつだろう。
ただその後一年の後期から二年の今にかけて、点数が著しく堕ちた。
今までの結果が平凡ならただのまぐれだったか、それともただグレたかってところで終わりだったが、浦和ハナコの場合はそうもいかない。
初めましての俺がいるからこそ、最初くらい見た目は真面目にやろうって魂胆だろうが……何を考えてやがる?
こいつの知能なら、俺が見抜いていることすら把握してそうだが……
「そこまで、解答用紙を回収する。小休憩のち点数発表していく」
採点に関しては、アロナに頼んでいる。
この補習授業の制度自体が約一週間しかなく、三回ある学力試験を突破できなかったら、こいつらは全員退学処分になる。
だから極力授業の方に時間を割り振ってやりたい。
アロナによる採点が終わったのを見計らってか、俺の近くに歩み寄る人影が。
「あら、先生もう採点を終えたのですか?」
「優秀な右腕がいてな」
浦和ハナコだ。
タイミングもほぼピッタリ、俺がペンを置くのとほぼ同時に話しかけてくるあたり、監視してたか?
「優秀な右手……まぁまぁ……! それはさぞかしテクニシャンなのでしょうね!」
「み・ぎ・う・で・だ!」
舌戦が強いなこいつ……
「教官」
「せめて先生と呼べ」
「理解した、先生。この集まりは一体何のための集まりなんだ?」
いつの間にか隣に来たアズサは俺に対して敬礼をしたのちに話しかけてくる。
こいつ前の学校では何を教えられてきたんだ?
「お前さんらは、退学ギリギリの成績不良児でな。さっきのを除いて三回あるテストに全員同時に合格しねぇとそのまま首を切られちまう」
「理解した。三回のミッションの内に一度でもいいから全員で成功を収める。そのために、ここで訓練を重ねるということだな」
「理解が早くて助かるな」
語彙も、どちらかといえば兵士に近いものだ。
明らかに怪しいが……スパイだとすれば失格ものではないか?
休憩が終わり、点数を発表していく。
一位は、ヒフミの81点。あとでなんでこんな所に来ちまったのか益々聞かないと行けなくなった。
二位は、アズサの25点。簡単な小テスト以下の問題にしたんだが……転校故の苦難といったところか。
三位は、コハルの10点。基礎周りが酷い。飛び級のために二年生のテストを受けたと聞いたが、一年生レベルでも危ういぞ。
四位は、ハナコの3点。論外だ。実力を隠そうとするのは勝手にやってろってもんだが、流石に低すぎる。程度を考えろ程度を……こんな分かりやすいピエロは中々いねぇぞ。
「え、エリートの私が……」
「今のお前さんらの実力はこんなもんだ。残り三回のテストの中で全員最低でも60以上は取ってもらう。俺もそのために力を貸してやるから、頑張ろうな」
「あと2.4倍……紙一重だな」
「アズサは、紙一重の意味を調べてこい」
そうしてようやく授業が始まる。
時計の針を現代にまで戻そう。
「こんなことやってらんない!分かんない!つまんない!!めんどくさい!!!」
コハルがそう吠える。
最初こそ自分のテストの点数故に集中力を保っていたが、午後に入るとそれも切れ始めたのか、駄々をこね始める。
最近知ったことだが、授業は普段映像での授業を受けているらしく、こうやって黒板を使っての授業ってのは中々珍しいことらしい。
「それもこれも全部先生のせいっ!!」
「背伸びした自分のせいだな」
「そうですよ、コハルちゃん、先生の言う通りです……あくまでも先生は私たちを助けるためにきてくださってるんですし」
「うぅぅっ……」
ダブルカウンターパンチを食らったコハルは、そのまま唸ったまま俺のことを睨んでくる。
全く困ったものだ。
「わ、私は正義実現委員会の一員だから!それで、授業に出られないことが多くて……そう!そのせいなの!」
プライドが高いってのも考え物だ。
特に実力が伴わないものは特にな。
どう説得したものかと考えあぐねていると、意外な人物が口を開く。
「それは他の正義実現委員会のメンバーも同じだ。でもここに来ているのはコハルだけ」
「……。」
アズサによって再び鋭い一撃を食らったコハルは今度こそ沈黙する。
短く鋭い見事な一撃だったな。
「なるほど。つまりアズサちゃんが言おうとしているのは、ただただコハルちゃんがおバカさんだからですよ、ということで合ってますか?」
「まぁ、それもあながち間違ってはいない。仕方のないものは仕方ない、人生は往々にして虚しいものだ」
沈黙したコハルに対して追い打ちをかけるようにハナコがアズサへの質問という体で話しかける。
泣きを入れたらもう一発……ってか?淑女ってのは怖ぇなぁ全く。
しかし、アズサの最後の発言は、妙に引っかかる。
が、その思考の沼にハマることを許さないとばかりに、コハルが爆発する。
「あぁもう、うるさいなぁっ!?そんなこと言ったらあんた達もみんな一緒じゃん!私がバカならここにいる全員バカでしょバーカ!!!!」
「あはは……えっと、それは、その……」
ヒフミが、何とか言葉を探して止めようとするが、さらにコハルが畳みかける。
「な、何も間違ってないでしょ?バカだからここにいるんでしょ!?あんたも!あんたも!!あんたも!!!あんたもっ!!!!」
「ほぉ、俺に対して嚙みついてくるか、元気があるじゃねぇか」
「と、当然でしょ!」
生意気……とはまた違うガキっぽさを感じるなこいつからは。
とはいえだ、確かに勉強を教える側の俺が、実力を見せねぇってのもお門違いってもんだな。
「分かった、なら今日はこの後All Englishでやってやる、お前らは今日はspeakingはしないでいいが、今後はそっちもやってもらうからな」
「ふぇ、で、出来もしないことを……」
「All right, you all open your textbooks to page 20.
Today we will review the area of equations and curves.
It's going to be a compulsory subject for the Koharu of the Justice Task Force because it involves ballistics, right?
(よし、お前ら全員教科書の20ページを開け。
今日は式と曲線の分野を復習していく。
弾道学にも関わるから正義実現委員会のコハルには必修科目になるな?)」
「え、あっ、まっ、待って」
大人げねぇかもしれないが、こいつらの学力を考えたらそれなりにスパルタにしてやった方が良いかもしれねぇな。
ナギサには言わなかったが、俺はこいつらを退学にさせる気は更々ない。
理由は大きく分けて二つ。
一つ、俺はこいつらが犯人だとは思っちゃいない。
正確に言えば、こいつら以外にもいると踏んでいる。百合園セイア。この学園都市の中でも特に強大な三大学園のトップが病院送りにするようなことがこいつらにできるとは思えねぇ。
二つ目に、依頼人のナギサの周りがどうにも胡散臭い。
ナギサがどうであれ、トリニティっていう学園そのものの仕組みがどうにも引っかかるものがある。
二つ目はぶっちゃけ言えば俺の勘でしかないが……どちらにせよ学園から出て行ってしまう悲しい出来事を許容できるはずもない。
何処に行ったって俺の行動原理は変わらねぇ。
「Those who didn't hear it should ask those who did hear it later.
Those who could hear should tell those who couldn't.
Teaching is also a good way to learn.
(聞き取れなかった奴は聞き取れたやつに後で聞きな。
聞き取れたやつは聞き取れなかった奴に教えてやれ。
勉強を教えるってのもいい勉強になる。)」
「わ、私が悪かったです先生相手に生意気言ってすみませんでした!!」
「Now, we're going to spend the rest of the time hammering in the formulas.
We don't have much time before the next first exam.
(さっ、残りの時間で公式を叩き込むぞ。次の一次試験まで時間がねぇからな)」
コハルの悲鳴が教室の窓から外へと響いていく。
そのまま休憩を挟みながら、太陽が落ちていき、日が暮れていく。
「……よし、今日はここまでとしようか。お疲れさん」
「つ……疲れた……」
「ハナコ、ここの文法が分からないのだが──「ここは、この叙事詩と同じ使われ方をしていて……」……なるほど、理解した」
成績自体は悪かったが、アズサの学習意欲はかなり高い。
ノートもよく取れている辺り、言語学は大丈夫そうだ。
テストの点数も言語学と数学……特に弾道学に関わるものはかなり高い正答率を誇っている。
まぁ、堅気ではねぇのは間違いない。
そして、ハナコもテストの点数はともかくとして、人への教え方が抜群に上手い。
隠したいのか隠したくないのか、益々分からないな……
実際にその様子を見ているこの部活の部長であるヒフミも困惑している。
俺はそんな困惑しているヒフミの方へ歩いていく。
授業を終えて漸くしっかりとこいつと話せる。
最後に会話したのは、カイザーの基地に突っ込むときのあの通話以来だったか。
「ヒフミお疲れ様、あの時以来だな」
「あ、先生。お疲れ様です……アビドスの、あっいえあれは私ではなくファウストの行動ですので!」
「くっくっくっ、真面目さは変わんねぇな。そんなお前さんがどうしてこんなところにいるんだ?」
この授業中もずっと気になっていたことだった。
点数も悪くねぇ、どの科目も可もなく不可もなく解けている。
ナギサの差し金で無理やり……っての方がまだ受け入れられる。
「えっと、それは……ペロロ様のゲリラ公演に参加するために、テストをサボってしまって……あいてっ」
コツンと俺はヒフミの頭に拳骨を落とす。
呆れた、こいつの狂信ぶりは知っちゃいたがそこまでとはな。
「あうぅ……ごめんなさい……」
「まぁ、お前さんが実は不良だったってパターンじゃなくてよかったよ」
え?あのペロペロ様のためにブラックマーケットに行って銀行強盗に加担した?
いや、あれはファウストっていうやつでヒフミとは無関係だからな。
「コハル、随分と悩んでいたが大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ!ハスミ先輩の為にも、こんなところ早く抜け出さなくちゃいけないんだから!」
コハルは……まぁ、正真正銘の馬鹿だ。
ただ、それでも先輩を慕う気持ちは本物だ。
授業中も、頭を悩ませながら必死についてきていた。
ギャーギャー騒ぐが、てめぇの置かれている状況を見て見ぬふりするほどの愚か者でもないってことだ。
まぁ、学力自体は中々に酷いものだからな……
頑張ってもらいたいところだがな……
そんなこんなで1日目が終わる。
時間だってそう多くはない。
ナギサに対しての今日の様子を送ってから俺は自室に戻る。
この合宿所には俺の部屋が用意されていた。
一々シャーレに戻るのも面倒だったから助かるが……どうにもきな臭い。
しばらく部屋の中の様子を見ると明らかに怪しい箇所が四箇所。
死角がないようにしているつもりだろうが……
俺にその手は効かねぇんだよな。
アロナに頼んで、ハッキングをしてもらい、怪しい箇所を調べる。
そこにあったのは案の定、防犯カメラだった。
大方ナギサの差し金か……それともまさかな……
まるで監獄か何かのようだが……まぁ腹の中を探りてぇのなら勝手にしろ。
監視カメラを元の位置に戻して、そう心の中でボヤきながら、帽子を目深に被り、眠りにつく。
桐藤ナギサ。
ホストとしての責任は分かるが……行動だけじゃ人は理解してくれねぇぞ。
舞い上がる水飛沫
散る花の如く、例え虚しくとも無駄ではない
次回 ゴミはゴミに
えー、この後第二回大会の方の結果発表です。まさか先にこっちが書きあがるとは……
ブルアカ世界の言語学ってどうなってるのかなとずっと思ってはいるんですが英語とか外国語の概念はあるっぽいので、まぁこんな感じになりました……解釈違い起こしたらごめんなさい……
元々Twitterの方で展開していた短編を短編集として不定期的にこちらにも投稿することになりました!まぁ、基本は向こうで投稿しておりますので、先に読みたい方は良ければアカウントの方を覗いていただければ……
それでは、最後に感想・ここすき・評価もしよろしければお願いいたします!
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持