前回のお話で……次元先生の着任期間を大体一週間だと言ったのですが……あのシナリオを誤解していたことによるミスであることが発覚しました。
現在は既に修正済みですが……『約一週間』からあえて、『しばらくの間』という形に変更させていただきます……誠に申し訳ございません。
それでは、本編お楽しみ下さい
「おはようございます、先生♡」
最初の授業を終えた翌日の早朝。
俺は、聞き馴染みのない女の声で起こされる。
「先生♡もう朝ですよ♡」
やけに色っぽい声だな……
もう少し眠ろうと声の聞こえる方向と逆向きに寝返りを打つと体を揺さぶられる。
嫌々ながら目を覚ますと、部屋に備え付けられているソファの上に、オーバーサイズのシャツとその下にビキニを着たハナコが座っている。
朝からツッコミどころが多いんだよ……
「……あー、ハナコ。色々聞きてぇことはあるが、まずお前さんどうやって入った」
「合鍵で開けました♡」
寮内を漁れば見つかるものか……見落としてたな。
いや、見つけたとして使うなよ……
「…………んで、何でそんな恰好してやがる」
「昨日、先生が私に対して熱烈な視線を向けていましたので……モーニングコールをしに……あっ、夜這いの方が趣味でしたか?♡」
「俺はお前さんみたいな子供とやる趣味はねぇんだ。起こしてくれたのは助かるが、それ以上は要らねぇな」
ふざけた言い回しをしているが、しっかりと俺が観察していたことを理解してるぞと釘を刺しに来やがったな。
抜け目のない女だ。
「で、本当は何しに来た」
「あら、先ほど申し上げた通りですよ?」
「抜かせ、何の意味のない行動をするようなタチじゃねぇだろう」
「あら、随分と分かったような言いぶりをするのですね?」
俺の言葉にハナコの表情が少し険しくなる。
警戒心を抱かせちまったみたいだな。そういうつもりではなかったんだが。
「伊達に長く生きてねぇ、それだけだ」
「……そうですか、先生。ところで、先日先生が仰っていた、不合格であれば全員退学というのは」
「あぁ、本当の話だ。テメェらのケツを叩くために言ったガセってわけじゃねぇぞ」
狂人みてぇなフリをしてるが、こいつ自身は思慮深い性格だ。
一を聞いて十を導き出す、少なくとも俺は、こいつのことをそう判断している。
だから、変に話すと、裏の任務まで辿り着いちまうかもしれねぇ。
「……ふむ、先生?何か私たちに対して隠し事をなさっていませんか?」
急に核心めいた事を聞いてくる。
気付いているぞとでも言いてぇのか?
「俺は大人だぜ?隠し事の一つや二つあるもんだ」
「…………。なるほど♡確かに先生とは言え、男ですもんね♡」
「おい、待て何を考えてやがる?ハナコ?おい待てっ」
うふふふと声を出しながら、そのままハナコは部屋から出て行ってしまう。
……絶対にロクなこと考えてねぇな。
いつものようにスーツに着替えて、俺は授業の準備をする。
軽い朝食の後教室に向かうと、既に補習授業部全員が着席していた。
教卓ついて生徒らを見回すと一人だけ机に突っ伏して耳元を赤くしている。
「お前らおはよう……あ?コハルどうした顔赤いぞ?」
「……うぅ……もうお嫁にいけない……」
お嫁にいけない?何があったんだ?
アズサもだが、やけにツヤツヤしてるが……
「全部見られた……もうダメ……」
「コハルも私の裸を見たんだから、何も問題はないはず」
あぁ、シャワールームで洗われたのか。
コハルとアズサは、羽根つきだからな、その辺色々とデリケートなんだろう。
「茶番はそれくらいにしておいて──「茶番って何よっ!」一次試験は大体一週間後、お前さんらの今の状況じゃあ大分不安が残る」
「うぅ……それは、そうですね……」
「むっ、そうなのか?」
疑問符を浮かべているアズサ含め、こいつらがこれから始めるのは、残り一週間の知識を貯め込み続ける長距離走。
正直、このまま走り切れるほどの真面目さがあるとは思っちゃいない。
各々理由はどうあれ、こんな場所にいるんだしな。
「とは言えだ、勉強尽くめってのも嫌だろう?」
「それは……まぁ、はい」
「そこでだ。昨日ここで寝てみたが……お前さんらも気付いたとは思うが……」
何か気づいたの?とでも言いたげに周りをキョロキョロと見るコハルとは、対照的に分かったと言わんばかりに手を上げるアズサ。
「分かったか、アズサ。答えてみろ」
「勿論だ先生、ここの防衛設備が手薄だから、地雷などを仕掛けるんだな!」
「よし、しばらく黙ってろ。埃とかが酷いんだよ、しばらくの間はこの施設には世話になる。なんで今日はここの掃除をしねぇかって話だ」
項垂れて、席に着くアズサと、その言葉を聞いてにこやかに微笑むハナコとヒフミ。
各々納得してくれたみたいだな。
「それはいいアイデアですね♡ 埃臭いところで過ごしていたら健康に良くなさそうですしね」
「なるほど、確かにそうですね。私達がこれからやるのはきちんと用意された期間の中での試験勉強……順番やペース、作戦も考えないとです」
「納得してくれたようで何よりだ。それじゃあ、汚れてもいい服に着替えて……十分もあればいいだろ、そしたら施設の入り口に集まれ」
「お掃除……よ、汚れてもいい服……」
「コハルちゃん?普通のお掃除♡……ですよ?」
「わ、分かってるわよ!!」
プンスカ怒りながらコハルがいの一番に出ていく。
気難しいやつだ……思春期って奴だろうな。
約十分後、汚れてもいい服に着替えてきた部員達が施設の入口に集合する。
「お待たせしました!先生はそのスーツでいいんですか?見るからに高そうなものですが……」
「部屋の掃除をする時はジャケットは脱いでエプロンつけるしこれで構わねぇだろ?」
体操服に着替えてやってきたヒフミが、特に着替えてない俺に対して質問を飛ばす。
答えを聞いたヒフミの視線は俺の頭に向く。
帽子は俺のアイデンティティなんでな、これは譲れねぇ。
「……そういや、ハナコはどうした?」
「ハナコちゃん……途中まで一緒だったのですが、着替える時にはいなくなってて……」
「私がどうかしましたか?♡」
俺の背後から甘ったるい声が聞こえる。
完全に気付かなかった、この俺が背後を取られたという事実。
イズナといい、こいつと言い……俺の気配探知を尽くすり抜けてきやがる。
振り向くとそこにはスク水姿のハナコが立っていた。
「アウトーーーーーー!!!」
大声でコハルが、ハナコを指差しながら叫ぶ。
耳が痛ぇ……
何故叫ばれたのでしょうとでも言いたげのハナコにさらにコハルが畳みかける。
「何で掃除するのに水着なの!?バカなの!?バカなんでしょ!?バーカ!!!!」
「ですが動きやすいですし、『何か』で汚されても大丈夫ですし、洗い流すのも簡単ですよ?」
見事なバカの三段活用を見せるコハルに、冷静に応答するハナコ。
ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるコハルは、ぜぇぜぇと息をついてトドメの如く叫ぶ。
「とにかくダメ!アウトったらアウト!あんたはもう水着の着用禁止!!!」
「あら……それはそれで、まぁ……」
それはそれでどうする気なんだと問い質したくなったが、どうせロクな返事が来るわけがねぇからそのまま黙っておくことにした。
俺はこういう破廉恥なのは苦手なんだよ。
ハナコは違うが、あえていうなら特に不二子みたいなタイプの女は特に嫌いだ。
「ハナコ、悪いがコハルが使い物にならねぇ。先に始めとくから着替えてこい」
「はぁい、分かりました」
敷地はそこそこ広い。
体操服に着替えてきたハナコと共に彼女らは建物周辺の草むしりをしている。
そして俺は今、彼女たちの寝泊りしている部屋に入っている。
決してハナコや、コハルが気にかけているような目的じゃねぇことだけ補足しておく。
「アロナ」
『お任せください!電波の出所はこの部屋の中の四隅、全廊下に二か所ずつ、他の部屋にも一か所ずつあります!全部ループ再生しちゃいますね!』
俺の部屋に有った隠しカメラはWiFiで映像を送るタイプのものだった。
それならアロナに頼めば、電波越しにハッキングしちまうなんざ簡単な話さ。
俺がやりたい掃除ってのはこっちでな。
手早く部屋に設置してある監視カメラを片付けて、ごみ袋に入れる。
こういう不用心なことはするもんじゃねぇんだが……俺からすりゃ立派な契約違反だからな。これくらいはさせてもらわねぇと。
「アロナ、ナギサにメッセージを送ってくれねぇか?」
『分かりました!なんて送り付けますか?』
「やり方は俺に一任しろって言ったよな、頷いたお前さんの頭の重さを考えろってな」
予め言えばいいって話でもねぇが……俺の出した条件に対して了承した上でのこの行動は少し目に余る。
何処か本館から離れた場所での合宿を申し出たのは俺からの申告だ。
そしてこの施設を提示したのは、ナギサの判断。
要するに、この隠しカメラは、向こうの判断でつけたものってことになる。
これが俺の部屋だけなら、まだいいんだがな。
アロナの発言じゃ、俺と補習授業部の寝室以外にも隠しカメラがこの建物中にかなりの数仕掛けてあるみたいだな。
しかし、こういうやり口は俺の趣味じゃねぇ。
ま、こういうやり口をしちまうくらいには追い込まれてるのだろうし、条約の締結に力を注いでる訳ではあるんだがな。
エデン条約……だったか。
もし仮にトリニティとゲヘナが一緒になれば、確かに治安維持としても学園都市としてもかなりの発展に繋がるだろうな。
そんなものを何で拒むのか。
案外、その裏切り者ってのは何も考えてねぇのかもしれない。
そもそも犬猿の仲。
例えば俺と不二子が二人で仲良く仕事なんざ、天地がひっくり返ってもあり得ねぇ。
そう言う話なんだろうな。
ならセイアを意識不明の重体にまで追い込んで、そのあとも動き続けているであろう裏切り者ってのは……かなりのゲヘナ嫌いってわけだ。
メリットをかなぐり捨ててまで、邪魔したい訳だからな。
セイアが、エデン条約賛成派という前提ではあるが……引き継いだナギサの後も捕まってないってのなら……狙うのはナギサの失脚か?
どうしてそんなことをする?
ホスト、トリニティの頂点としての権力をナギサやセイアのような賛成派に持たれたら困るってことか?
なら……ナギサの次にホストになるであろう人物は……聖園ミカ。
確かにあの少女は、俺がゲヘナと仲が良いって話をした時に氷のような目線を向けてきた。
……とは言え、あのお人柄の良さそうな子が十年来の親友であり、幼馴染を貶めるようなことをするか?
……これ以上は憶測が過ぎるな。
思考を切り替えて、一通り稼働している隠しカメラを袋に集めたところで、部員共の様子を見に行く。
「お前さんら、掃除の調子はどうだ?」
「次元先生!大分綺麗になりましたよ!お疲れ様でした!」
「先生どこ行ってたの?掃除……って割には服全然汚れてないじゃん」
ヒフミが元気に返事する中で、コハルが怪訝な顔つきで俺に詰め寄る。
相変わらずの生意気さだなこいつ。
「気になるか?俺が一人で何してたのか」
「一人でって……ハッ!み、みんなが頑張ってる時に……え、エッチなのは駄目!!」
俺が詰め寄ると顔を真っ赤にして慌てふためく。
軽い仕返しのつもりだったが、随分と想像力豊かなようだ。
「コハル?先生が何かエッチなこと言ったのか?」
お前は乗らなくていいからな、アズサ。
少し雑談をし、終わりの雰囲気が出たところで、ハナコが口を開く。
「皆さん、まだ一か所だけ残ってますよ?」
「あれ、そうでしたっけ?」
「はい、屋外プールが♡」
この施設には併設されている屋外プールがある。
ただ、この施設はほぼ使われていない場所な以上、プールは水が張っておらず、手入れもされていない。
プールのある場所まで歩くと、そこには汚れた空のプールがあり、出来た当初は使われていたであろうこの場所も寂れ切ってしまっている。
「ハナコ、念のため言っとくが、今回の試験に体育の科目はねぇからな。使わねぇ以上は無理に掃除することもねぇぞ」
「……はい、そうかもしれません……ただ、キラキラと輝く水で満たされたプール、楽しい合宿、はしゃぎ回る生徒達……とても青春らしく楽しいものではないでしょうか?」
俺も手を尽くしてやるが、下手すればこいつらにとっては最後の高校生活になるわけだ。
なら少しでも楽しい思い出ってやつを重ねさせてやるのも大事なのか……?
「……このままにしておくのも忍びねぇしな、水着……はハナコ以外は持ってんのか?」
「問題ない、水辺戦闘用に水着を用意している。待ってて」
「ささっ、他のみんなもこの際水着じゃなくてもいいので『濡れてもいい恰好』に着替えてお掃除しましょっ♡」
そういってトコトコと足早にアズサが自室の方へと走って行く。
そのあとを追うように他の二人も少しギラついた目をしたハナコに背中を押されて行ってしまった。
そしてしばらく経った後、四人がやって来る。
「なぁ、これはツッコミ待ちってことか?」
「さ、さぁ……?」
「……コハル思いっきり言っていいぞ」
ヒフミ、コハル、アズサは学校指定の水着でやって来るが……問題は、というかこの流れは午前に一度やった記憶がある。
ヒフミに耳打ちした後、俺はさっきからウズウズしているコハルに声をかける。
「なんで平然と制服でいるのよ!!!あんた掃除のときは水着でどうして今度は制服なの!?本当にバカなの!?『濡れてもいい服』ってあんたが言ったじゃん!?」
「これが『濡れても良い恰好』ですよ?」
「同じ言語話してるんだよね!?制服が濡れてもいいの!?」
「コハルちゃん、これは各々の美学の問題かもしれませんが……」
そうして、ハナコは真剣な表情でコハルの手を取って話しかける。
「制服と水着……どちらの方が濡れた時に『良い感じ』になると思いますか?」
「は、はぁっ!?『良い感じ』って何よ!?何の話!?」
ハナコにそう迫られて、慌てふためくコハル。
頼むから俺に対して助け舟を求めようとするんじゃねぇ。
「ふふっ、まぁ半分は冗談ですよ。ほら、実は中に着てるんです。お小遣いで買ったビキニの水着♡」
もう半分は本気だったのかよ……そこまで聞きたい質問だったのか?
あと、ビキニを着ているからなんだという話ではあるのだが……コハルも困惑している。
「先ほどコハルちゃんに『水着の着用禁止』と言われてしまいましたし、確かに学校ではスクール水着の方が鉄板ですが……今日はこれで許して頂けませんか?……私も流石に全裸となると……」
律儀に今朝コハルに言われたことを守っているのは驚いたが……
どうして全裸のワードの時に少し嬉しそうな声色を出したんだ……?
結局コハルも、そこまで言われてしまえば仕方ないとばかりに頷いて、このままプールの掃除が始まる。
いつ襲われてもいいようにと銃を背負いながらデッキブラシでプールを掃除するアズサ。
未だにプライドが固まっているのかまだ楽しめそうな様子でもないコハル。
そして、ホースから噴き出る水と、それによって生まれた虹を見て、純粋に楽しみ笑っているハナコ。
その水を掛けられながらも笑うヒフミ。
四人ともそれぞれの反応を見せながら、プールに水を満たし、掃除をしていく。
こういう若人の瞬きってのは良いもんだ。
しみじみそう思う。
「……お前さんら、俺は少し離れる。何かあれば連絡を入れろ」
「はーい、分かりました!」
ヒフミの元気な返事を聞いて、俺はそのまま森の中へと進んでいく。
ある程度進み、風が木の葉を揺らし、ざわめく音のみが聞こえるようになった頃……俺は歩みを止める。
「ここならいいだろ、出てこい」
「……あはっ☆」
木の葉の揺れる音に、足音が混ざる。
振り向くと……そこにいたのは。
「そこまで警戒されちゃうのは心外だな~。私こう見えても繊細で、傷つきやすいんだよ?」
キラキラとした星と月の意匠の装飾具を散りばめた白い翼に、桃色の長くふんわりとした髪、そしてその頭上で輝く星のようなヘイロー。
パテル分派の長、聖園ミカがそこに立っていた。
「お前さんが来るとは想定外だったがな」
「ホントかなぁ?」
あいつらの様子を見てた時に感じた強烈な悪意の気配。
本来なら奇襲するつもりだったが、俺の動きに合わせてついてきやがったからな……
待ち受けてみればこのザマだ。
「あっ、そうそう私がここに居ることについては、ナギちゃんは知らないよ?見ての通り、付き添いも無しの私の単独行動!」
「へぇ、姫さんが護衛無しで平気なのか?」
「姫だなんて……先生も口が上手いね。でも大丈夫だよ、私強いし」
そう口に出すミカに対して俺は一つ質問を投げかけることにした。
「セイアを殺れるくらいにはってか?」
その言葉を聞いたミカの表情が歪み、そしてすぐにやらかしたと言わんばかりに表情を整える。
「先生……流石にその冗談は笑えないよ」
ミカが、一瞬見せた後悔の表情を俺は見逃すことはなかった。
後悔と決意
嘘と本音
次回 アリウス
"基本"ストーリー準拠なのですが……えー、我慢できず、オリチャー発動します。
この場合のストーリー準拠は……あの子たちの結末は変わらないという風に認識していただければと思います。
どうあがいても彼女は魔女になりうるのです。
もしよろしければ、評価、感想、ここすき等々お待ちしております
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
-
例:殺し屋の矜持
-
例:1-10
-
例:1-10 殺し屋の矜持