新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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Vol.Ⅲ-2 その時、古くからの相棒が言った
2-1 オワリガハジマルヒ


 口の端から生臭く暖かいものが零れ落ちる。

 

 腹部を押さえた手を見りゃ、そこには赤い血がべったりとついている。

 

 よく見たら血以外のもんもついてるな……貫通しちまってるみたいだ……

 ただ……この射線じゃ、致命傷にはならねぇ……

 失血死はあり得るだろうけどな……

 

 声が頭の中に響く。

 

「ギャアギャア騒ぐんじゃねぇ……」

 

 後ろで慟哭をあげるヒナに声をかける。

 

 この世界で腹を撃たれるのはこれで二回目か。

 あの時は拳銃で、次がライフルとはな。

 

 撃たれるなんざ、これまで何度もあったが……この世界のは特別効くな。

 これも神秘ってやつの影響か?

 

 撃たれた個所からじわじわと浸食してくる感覚がする。

 

「……撃たれて……何故動ける」

 

 目の前のサオリが声を零す。

 目を向け、一歩踏み出す。

 サオリが、一歩後ずさりし、向けている銃口を揺らす。

 その青い眼が揺れる。

 

 明らかに怯えている。

 

「これで……死なないのか……!」

 

 こちとら立っているだけでも、限界なんだがな。

 

 

「先生!!」

 

 声が聞こえたかと思えば、体が強い力で引っ張られる。

 視線を向けた先には、必死な形相で俺を運ぶヒナの顔が見える。

 どうやら、ヒナによって抱えられているらしい。

 

「っ!まだ動けるのか、空崎ヒナ!!」

 

 サオリが、銃口を向けるのが見える。

 俺のときとは明らかに対応が違う。

 

 何に怯えてやがる。

 

「セナっ!こっち!!」

 

 ヒナが飛ぶ先には、黒い六輪の車両が見える。

 そしてその後方ドアを開いて、こちらに手を伸ばす白い少女の姿。

 

「逃がすか!!」

 

 ヒナの飛行速度を加味しても……サオリの射撃の方が……速いな。

 

 撃たれたときに落とした銃は……ヒナが拾ってくれてたか。

 

ごぶはぁっ(ヒナっ)!」

 

「先生、喋らないで!」

 

 口から溢れる血の影響でロクに喋れねぇ。

 銃を返してもらおうとしたんだがな……

 このまま、やるしかない。

 

 サオリが引き金を引く。

 

 銃口から光が溢れ、弾丸が一発二発と発射されていく。

 

 世界がゆっくりに感じる。

 

 走馬灯を見るには、早すぎる。

 

 ヒナの手から銃を取り、担がれた体勢のまま、霞む目を凝らす。

 こちらに飛来する複数の弾丸。

 

 弾丸を狙って、マグナム弾を発射する。

 

 放たれた弾は、迫り来る一射目に当たり、跳弾。

 狙い通り、二射目に命中。

 そして、跳弾。

 三射目に命中。跳弾。

 

 マグナム弾とは言え、勢いに限りはあるが……

 これだけ防げりゃ、ヒナ達にとっちゃ、充分だろ。

 

「こちらに!手を!!!」

 

 アリウススクワッド……だったか。

 スーツ代は、ツケておいてやる。

 

 ゆっくりと映る世界の中で、閉じられる扉とその先に見えたサオリの表情が俺の脳裏に焼きつく。

 

 怯えたその目を。

 

 ────────────────────   

 

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 ──────

 

「……はぁ、はぁ……セナ、セナ!せ、先生が!」

 

 私の口からは、自然と言葉が漏れていた。

 

 さっきまで先生の体を担いでいた腕に残る冷たい感触。

 

 肉体から次元大介という男の魂が飛んでいく感覚。

 

 私が着いていながら、風紀委員長(空崎ヒナ)が傍に居たにも関わらず。

 

 何がゲヘナ最強。

 

 何が風紀委員長。

 

 護りたい人に護られて、おめおめと逃げることしか出来ない。

 

「げほ、ごほ……!」

 

「ヒナ、貴方に与える分の神秘は無いかもしれません。このまま病院まで駆けますので、それまで耐えてください」

 

「私の事なんかどうでもいい!先生を助けて!」

 

 セナの服を掴んで、私はそう叫ぶ。

 

 先生は、最後の射撃で気を失ったのか、ストレッチャーの上で動かない。

 

 頭が痛い。

 最後倒れる時に喰らった狙撃は、私の顳かみに的確に命中していた。

 

 頭を抑えた手にベッタリと血が付く。

 

 頭蓋をやられてしまったかもしれない。

 

 でも、私よりもきっと先生の方が深刻なはずだ。

 サオリが放った弾丸に込められてた神秘の量……

 

 あんなものを体に撃ち込まれたのだから。

 

 毒のような色のそれは、間違いなく彼女の殺意。

 

 私が動ければ、あの時前に踏み出せれば。

 

 あれを喰らうべきは、私だった。

 

 傷を治さなきゃいけないのに、呼吸が落ち着かない。

 

 目を閉じようとすれば、その瞬間に先生が撃たれる瞬間が目に浮かぶ。

 

 ミシッ。

 

 私の中の何処かにヒビが入る。

 

 パキッ。

 

 私の心にヒビが入る。

 

 パリン。

 

 私は、もう、ダメだ。

 

 砕け散ったものを拾おうと、何も無い宙を手が泳ぐ。

 

 何も掴めない私の手は、やがて垂れ下がった。

 

 

 ──────

 

 ────────────

 

 ────────────────────

 

 想像以上に濃い神秘を撃ち込まれましたね……

 

 吐血の影響で気道もロクに確保出来ていません。

 気道は、人工呼吸器を使用しながら、監視モニターをチェック。

 貫通してしまった穴は、ここではどうしようもありません……

 

 救急車の中では、出来る仕事にも限界があります……

 

 せめて病院などの設備の整った場所であれば……

 

 そう思っていたときに車が大きく揺れる。

 

「何をしているんですか!」

 

「す、すみません。そのトリニティの生徒たちが道を塞いでいて……!」

 

 トリニティの生徒が……?

 

 ガンッゴンッと強く車両に何かが衝突する音が聞こえる。

 それも車両を囲うようにだ。

 

 一体何を考えているのですか。

 

「代わりなさい、私が相手をします」

 

「はっはい!!」

 

 運転席に座っていた後輩と席を代わり、拡声器のスイッチを入れる。

 

『負傷者を輸送中です、道を開けてください。緊急事態です』

 

「ど、どうして、ゲヘナの負傷者なんかの為に……!!」

 

「冗談じゃない、今の状況分かっているの!?」

 

「もう良いです、運転席から引っ張り出してでも思い知らせてやりましょう!!」

 

 …………あぁ、これは、非常に不味いですね。

 

 あの爆発をきっかけに、一般生徒間の嫌悪が爆発してしまっているのでしょう。

 

 ただでさえ、一刻を争うときだというのに……!

 

 ──────

 

 ────────────

 

 ────────────────────

 

「ふぅ……ここでお前が出てくるのか」

 

「まさか姿を現すとはね……そのまま逃げ出しても良かったのに」

 

「えへへ、お久しぶりですね……」

 

 間に合わなかった。

 

 肩で息をする私に気が付いた元仲間が声をかけてくる。

 

 遠くに見える黒い車両は、救急車か?

 

 今は、そんなことはどうでもいい。

 上がる息と共に、沸々と熱い感情が込み上げてくる。

 

「……どうだ、アズサ」

 

 どうして……どうして……!

 

「私の言った通りだっただろう。トリニティにも、シャーレにも、お前の居場所は無い」

 

 サオリの言葉が体に染み渡るに連れて、銃を握る手に力が入る。

 地面に巻き散った血と硝煙の香り、そして視界に映る黒いスーツの切れ端。

 

 それらが私の中で混ざり込んで、激情へと変わっていく。

 

「私たちみたいな『人殺し』を受け入れてくれる場所なんて、この世界には無いんだよ」

 

 ここで撃たれた彼の姿を幻視する。

 

「どうして、先生を……!!」

 

「そんな場所があるように見えても、全ては儚く消える……さっきの『先生』とやらのようにな……全ては無駄だ。それなのにどうして足搔くんだ、白洲アズサ」

 

 これ以上の問答の方が無駄で、無意味だ。

 

 私は私の中の激情を抑えきれない。

 

「サオリぃぃいいいっ!!!!」

 

 銃を手に駆け出す私をため息交じりに拳銃と共に迎え撃つサオリ。

 

「まだ甘い夢に酔っているのか……仕方ない、手伝ってやろう。何度でも、その夢から目を覚まさせてやる」

 

 うるさいうるさいうるさいうるさい!!!

 

 激情のままに走りながら、私は銃を構えて射撃を始める。

 何の感情も感じないその瞳で私を見つめるサオリは、溜息を吐きながら真っ直ぐ弾を掠らせながらも私へ歩み寄ってくる。

 

「ぁぁああああっ!!!!」

 

 なんで当たらない!?

 

 狙いはつけているのに、射撃訓練は欠かしたことが……あっ。

 

 冷たい眼光を向けるサオリが、私に拳銃を向ける。

 

 軽い音を鳴らして、拳銃の引き金が引かれる。

 

 放たれた弾丸はあっさりと私の眉間に当たって、私の体を後ろに吹き飛ばした。

 倒れた体に、さらに三発、弾丸がめり込む。

 

「あ、あぁ……い、痛そうですねぇ……」

 

「……相変わらず未熟だ」

 

 ヒヨリのおどけた声と対照的なサオリの冷たい声が倒れた私の体に突き刺さる。

 

「お前の特技はゲリラ戦、その中で相手の隙を突くことだ。それは自覚しているだろうに、私と正面から戦って勝てるとでも思ったのか?その無駄な感情に支配されたお前が」

 

 淡々と私のミスを口に出しながら、サオリが私の体をうつ伏せに蹴り倒し、締め上げ、拘束していく。

 ぎちぎちと関節と肉体が嫌な音を立てて、銃弾の苦しみとは別の苦しみを与えてくる。

 

「ぐぅ、っ……ぁっ」

 

 苦悶の声を漏らす私に対して、アツコが手話で私に何か話しかけてくる。

 

『仲間になるなら、解放するけど、どうする?』

 

「アツコ……それは、できない」

 

「姫……今は無駄だ。こいつの意地を折るのはそう簡単じゃない……前々からそうだっただろう?」

 

 身体を拘束する力を強めるサオリ。

 骨が嫌な方向に曲がっていく。

 

 痛いなんてものじゃない。

 声すら出せない。

 

 出させてもらえない。

 

「……その意地を、思いを、すぐ傍で煽る存在がいたんだろうな」

 

 サオリの言葉を聞いた時、先生の顔が思い浮かんだ。

 

 勇気を出して……みんなに拒絶されることを承知で、私はあの夜みんなの前で自分がアリウスに所属していることを話した。

 みんなに黙って私は裏切っていたのに、それにも関わらず先生は私の居場所を守ってくれた。

 私がここに居ていいと伝えてくれた。

 

「この世界の真実を隠し、事実をゆがめて、嘘を教える……そんな悪い大人が。まぁ、その先生も既に片付けた。だから後はもうゆっくり教え直せば良い」

 

 先生は、意地悪で悪いことをしてきたって自分でいうような大人だけど……それでも私は、彼のことを密かに尊敬していた。

 

 そんな彼を……先生を……!

 

 サオリが、膝で体を押さえつけながら、耳元で囁いてくる。

 

「……トリニティでは楽しそうだったな。あの生活は楽しかったか?好きな人たちと一緒にいること、お前を理解してくれる人たちと一緒にいることは」

 

 押さえつけてくる力が増していく。

 肺の中の空気が押し出される。

 

「……虚しいな」

 

 違う……

 

「思い出せ。お前を理解して受け入れてくれるのは、私たちだけだ。ここがお前の居場所だ」

 

 やめてくれ……

 

「お前はその真実から目を背け、甘い嘘に目が眩んだ。そしてその弱さが、お前をこうして敗北させている」

 

 サオリの言葉一つ一つが、私の心を抉って、へし折ろうとしてくる。

 

「私たちを止めたいか……?」

 

 そんなの当たり前だ。

 

「ならば、私のヘイローを砕いてみせろ、白洲アズサ」

 

 ヘイローを破壊しろ……?

 

 サオリを……

 

「もう気付いているだろうが、あの守護者たちは私たちが複製したものだ。エデン条約を書き換えてな。だから、条約の主体である私たちが存在する限り、この戒律は永続していくだろう」

 

 それこそと、サオリは言葉を続け、私の拘束を緩める。

 

「ヘイローを壊しでもしない限りはな……教えてやる。今のお前に足りないのは殺意だ……しかし、お前にそんなことが出来るのか?あのセイアの任務からも逃げたお前が」

 

 セイアの殺害の任務から逃げたのがバレていたのは……そんなことは分かっていた。

 分かっていたはずなんだ。

 

「私たちを騙そうとしてまで、綺麗な場所に残ろうとする……ふっ、そんなお前には無理だよ」

 

 ニヒルに笑うサオリの冷笑が頭に染みついていく。

 完全に拘束が解かれたというのに、私の体にはもう力が入らない。

 

「……セイアもこの後、すぐに見つけ出す。お前の不手際の後始末はこっちでしてやろう」

 

 そうして、歩き出すサオリを私は、見つめる事しかできなかった。

 

 今の……私に……足りないもの……

 




混沌は混沌を呼び、そして破滅を呼んでいく。
決別を止める手を振り払い、貴方は何処へ進んでいくのか。

次回 ごめんなさい







こんな暗い展開の中で私事ですが、本日誕生日なので軽めの投稿とさせていただきます……前回は一万文字越してましたしね。

さてさて、そんなことはさておき、ついに登場したサオリ姉さん。
リーダーなだけあってか、神秘の発現者だったりします。
その名を『サリエル』、その力は意図的に敵の死線を見分ける力です。
某直死と似た能力ですが、こっちは弾丸で撃ち抜く、つまりは貫通させないといけなかったりとちょい不便。
サオリ姉さん、声バリイケメンなので好きなんですよね。

最近は展開で悩みどころが多くなる一方ですが……まぁゆっくりと進めていくつもりです。
短編のリクエストも募集してますので、良ければ是非とも!
C&Cは、バニーチェイサー編前までには書きたいですな。

最後に、評価、ここすき、感想お待ちしております。

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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