新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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2-2 ごめんなさい

「……あら、ごめんなさい。ハヤテさん今なんて言ったかしら。耳が遠くなったみたい」

 

 目の前のアルさんが、髪を掻き上げながら、私の肩を掴んで顔の近くに寄せる。

 アルさんの顔には影が掛かり、赤い瞳だけが浮かび、私のことを見つめている。

 

「……え、えっと、その……先ほど、クロノススクールの先輩から、シャーレの先生が死亡したと……ひぃっ!」

 

 アルさんの懐から取り出されたリボルバーの銃口が私のこめかみに押し当てられる。

 

 私の名前は、今守 ハヤテ……月刊キヴォトスの命運をかけた取材の為に、アビドス、ゲヘナ、ミレニアムを周り、そして最後にシャーレで先生と共に働いている彼女たちに取材をしに来た。

 

 そう……そのはずだった。

 

 事のキッカケは、彼女たちと取材前の談笑をしている時に遡る。

 

 

 

「ど、どうでしょうか?取材にご協力戴けませんか?」

 

「……そ、そんなこと言われてもねぇ……先生には先生のプライバシーがあるのよ?」

 

「くふふ、アルちゃん……みんな先生の事大好きだから焦ってるの~?」

 

「ち、ちち、違うわよっ!!」

 

 便利屋68の皆さんと、百鬼夜行連合学院に所属しているイズナさんに今までの取材の記録をお見せして、交渉をしているところだった。

 

 しかしながら、アルさんとムツキさんは幼馴染だと聞くが、流石のコミュニケーション。

 この反応……やはり、アルさんも先生のことが気になっているのだろうか。

 というよりも、この五人の反応を見るに…………

 まぁ、ほぼ毎日一緒にいるのだから、仕方ないのだろう……

 

「これ、全部貴方が?」

 

「は、はい。先輩たちも街の人に取材をしていますが……学園の皆さんへは私が……」

 

「どの学園も結構な距離感あるのに。社長、これくらい頑張ってるんだし……」

 

「うーん……でも、でも」

 

「主殿の凄さを皆さんに知ってほしいです!」

 

「アル様……わ、私も、恥ずかしいですが……頑張りますので」

 

 ソファに座って、うんうん唸っているアルさんを囲むように四人が話しかけて、言葉をかけている。

 アルさん以外は乗り気なようで、一つ胸を撫で下ろしたが……アルさんには、色々質問が募っているので、他の皆さんに比べて、倍以上に大変なのだから仕方ないと思う。

 

「どうでしょうか……?」

 

「ねぇねぇ、アルちゃん面白そうだし受けちゃおうよ、報酬もさ?ほらほら」

 

「…………うーー、分かったわよ!ハヤテさんだったわね、受けるわこの依頼!」

 

「本当ですか!ありがとうございます!!」

 

 頬をムツキさんにグリグリされながら踏ん切りがついたアルさんが席を立って、私を指さしながら宣言してくれる。

 ビシッと決めるその姿は何とも絵になる。

 先生に許可を取って、お二人のツーショットを表紙に……うん、間違いなく売れる……!

 

 頭を下げながらそんなことを考えていた私の懐に振動が走る。

 電話だ。

 

「ごめんなさい、急な連絡みたいです、少し席を……」

 

「えぇ、気にせず出なさい」

 

 皆さんから離れた位置まで移動して電話に出ると先輩の焦った声が聞こえる。

 

『ハヤテ!アンタ今どこにいるの!?』

 

「あ、先輩!今は、シャーレに取材に来ていますよ」

 

『シャーレ!?あんたニュース見てないの!?』

 

「え?どうして──『エデン条約の調印式が爆破されて、シャーレの先生が殺されたのよ!! 今資料送ったから目を通しなさい!』……先生が殺された?」

 

 先輩の言葉を聞いて、ふと口から漏れてしまったその一言を私は生涯後悔し続けることになる。

 

 部屋の冷房の温度が増したかのように、背筋にゾクリと冷たい風が走る。

 

『あんた、シャーレの取材はあとにしてこっちに来な──』

 

 私の手から携帯が奪い取られ、電話を切られる。

 そして驚く間もなく肩にそっと手を置かれる。

 

 白い手袋に長い指……その手は、アルさんのものだ。

 

「失礼するわね。今聞き捨てならないセリフが聞こえたのだけども」

 

「え、っとその……」

 

 振り向けない。

 後ろから感じる圧は、とてもさっきまでたじたじと唸っていた少女から発せられるものとは思えない。

 言葉が詰まる。

 下手な発言をしたら、ヘイローを壊されてしまいそうな……そんな殺気を背後の彼女から感じる。

 

 そして、そのまま私は、先ほど座っていた席に戻されて……

 今の時間軸へと辿り着く。

 

 何故こんなことに……私はただ取材をしに来ただけなのに……

 

 

「アルちゃん、ハヤテちゃんが怖がってるよ?」

 

「ムツキ、黙ってなさい……ハヤテさん、寝言を言うにはまだ早いようね。それとも寝かしつけられたいということかしら?」

 

「あ、ぇ、いや、その……」

 

 ムツキさんの助け船を一刀両断して、強制的に目を見つめさせられる。

 怖い、赤い瞳が私のことを見つめて微動だにしていない。

 アルさんの指が、リボルバーの引き金に掛かる。

 

 この眼、本気だ……本気で撃つつもりなんだ……

 

 むり、殺される。

 

「社長、落ち着いて。情報が聞き出せないでしょ、それじゃあ」

 

「…………そうね、熱くなってたわ。ごめんなさい、ハヤテさん、ムツキ」

 

「あ、ぅ……かひぅ」

 

 カヨコさんの穏やかな声が聞こえたと思うと、アルさんの表情が戻る。

 い、生きてる。

 私生きてる……

 

 呼吸をすることすら忘れていた私の体が、再び生きるために必死に酸素を取り込もうとする。

 私から離れて、リボルバーをしまい込んだアルさんは、再び向き合うようにソファに座って、私を待っている。

 

「そ、その……先ほど、エデン条約の調印式が、爆破されて……そこで、襲われた、次元先生が、搬送先で、お亡くなりになったと……」

 

「……あり得ないわ」

 

 私が話し終えると、アルさんがボソリと呟く。

 

「えっと、それは」

 

「ごめんなさい、酷いことをして、その上でこんなことを言ってしまって悪いのだけれども、今日は帰って頂戴」

 

 私が何か聞くよりも前に、アルさんがそう告げて、目を向ける。

 恐らく、皆さんだけで話したいのだろう。

 私のような部外者が居ては話せるものも話せないと……

 

「わ、かり……ました……」

 

「情報提供感謝するわ、いずれしっかりとお礼はするから」

 

 アルさんのその言葉を最後に、私はシャーレを去った。

 

 

 ────────────────────   

 

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 ──────

 

「アル様……らしくないです」

 

「分かってるわよ……ふぅ……」

 

 はぁ、やってしまったわ……

 初対面で良い子そうだったのに……

 ハルカに冷静に諭されるなんて……

 

 ハヤテさんが帰って、私はソファに腰を深く下ろして、頭を抱えている。

 私の頭の中は、ハヤテさんの言葉を延々と反芻している。

 

 先生が、死んだ?

 あの先生が……?

 

 あり得ないわ。そんなこと……

 

 でも、こうやって先生が死んでしまったと聞いて、ショックを受けているのは私だけではないはず……

 

「貴女達、よく冷静でいられたわね……」

 

「いや、聞こえた瞬間はそうだったんだけどね……」

 

「アル殿の怒っている姿を見たら自然と冷静になっていたと言いますか……」

 

 頬を掻きながら話すカヨコとイズナを見て、顔が熱くなる。

 社長なのになんてみっともないところを……

 恥ずかしい、こんなの先生に見られたら……

 

「アルちゃんは、ハヤテちゃんの言ってること信じるの?」

 

「そんなわけないじゃない、あの次元先生がそんな簡単に死ぬわけがないわ……でも、死にかけたのなら信じれる」

 

「ふふっ、なら私たちはどうしよっか」

 

 全く、この子たちは私の合図を待っているのかしらね。

 世話が焼ける……いや、焼かせてくれてるのね。

 それが一番私が冷静になれるってわかってるから……

 

「……私たちの大切な人に手を出したのだから……やることなんて一つに決まってるわ」

 

 席を立って、みんなの顔を見る。

 こんな私に着いてきてくれてありがとう……

 

「えぇ、思いっきりやってやりましょう!アル殿!」

 

「はい、み、みんな、纏めて爆破しちゃいます……!」

 

「くふふ、そう来なくちゃ、ぶち殺すしかないよね!」

 

「作戦は立てるからさ、盛大にやろっか」

 

 みんなの意志はもう固まってるみたいね。

 先生、貴方なら生きていると信じてるわ。

 普段夜遅くまで頑張ってるのだから、少しくらい長く寝ていなさい。

 

「銃を持ちなさい!出撃するわよ!!」

 

 その間は、キヴォトス一のアウトローが引き受けてあげるから。

 

 

 ──────

 

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 私のモモトークに入った一通のメール。

 座標と時間、それにモモフレンドの名前が書かれた暗号文。

 

 こんなことをする人物は私の知る限り一人しかいない。

 

「アズサちゃん、私です。何処にいるんですか……?」

 

 車の通行のない寂れた橋の上に私は立っている。

 あの爆破された調印式へと向かってから行方不明になって、連絡が取れなくなっていたアズサちゃんからのメール。

 罠の可能性もありましたが……こんなことをしてくる人はアズサちゃん以外いるはずがないです。

 

 アズサちゃんを呼びながら少し歩くと、電灯の下に人影が見える。

 

「アズサちゃん……?」

 

「……ヒフミ」

 

 影のある場所から、光の下にまできてようやく見えるようになった彼女の姿は、痛々しく傷だらけの姿だった。

 

「アズサちゃん!今まで何処に……っ、その傷……今すぐ手当を!」

 

 私は駆け出して、アズサちゃんの手を取ろうとすると、半歩後ろに下げられ、私の手は空を切る。

 

「今、学園は大騒ぎなのだろう……」

 

「う、うん……ハナコちゃんがシスターフッドの代理長をしながら、暴走してるパテル派を……いや、今はそれよりも……」

 

「……これを、誰かが止めなくちゃいけない」

 

 傷だらけのアズサちゃんの顔は、何かを決意したような……深刻な表情をしていた。

 凄く嫌な予感がする。まるでどこか、遠くに行ってしまうような……

 

「アズサちゃん……」

 

 私は再度手当をするために、アズサちゃんの方へ歩み寄ろうとする。

 しかしそれは即座に止められてしまう。

 

「来ないで!!!」

 

 紛れもない目の前のアズサちゃんの拒絶の声によってだ。

 

「……っ!!」

 

「……ありがとう、ヒフミ。でもここまでだ。ここから先は来ちゃいけない」

 

 何を言ってるの?

 そんな、まるで一生の別れみたいな……

 アズサちゃんが、光の下から離れて、影の中へと足を踏み入れる。

 

「ここから先は、私の居場所。ヒフミみたいな善良な人は、これ以上来ちゃいけないんだ」

 

「あ、アズサちゃん……?何の、何のお話ですか?」

 

 また私は何も知らないまま。

 何も教えてくれない。

 私達友達……なんですよね?

 

「私じゃ、何がダメなんですか……?」

 

「……平凡で優しいヒフミには、似合わない。それだけの話だよ」

 

「アズサちゃん……!私は──「人殺し」……っ!」

 

 アズサちゃんは、私を冷たい目で見つめる。

 感情のないその瞳で、ゆっくりと言葉を綴る。

 

「……人殺しになった私は、もう友達ではいられないだろう?」

 

「な、何を言って……だって、だってアズサちゃんはそんな……」

 

 アズサちゃんのその一言で私は後ろへと力なくよろめく……

 私と同じで可愛いものが好きで、ペロロ博士の人形を一生大事にすると言ってくれた。

 そんな私と同じ女の子のアズサちゃんが……

 

「私のせいだ。私のせいで、みんなが傷ついて……先生が、撃たれた。先生だけじゃない……正義実現委員会、ティーパーティー、シスターフッド、万魔殿、風紀委員会……セイアが、昏睡状態になったのも、ミカとナギサがあそこまで心を砕いたのも、学園が破壊されたのも……全部、全部……私のせいなんだ」

 

 アズサちゃんが、後ろを振り向いて、語りかける。

 私に顔を見せないまま。

 

「ヒフミ、それにハナコとコハル。このままじゃみんなまで危険になる」

 

 肩を震わせながら、声だけはバレないようにと下手な演技をして……

 

「それは……それはアズサちゃんのせいではありません……それに、先生は大丈夫ですよ……ほら、ミカ様の時だって、あんなに命の危険に晒されることになっても大丈夫だって豪語してたじゃないですか……だから、ですから……!」

 

「ヒフミ……そんなハッピーエンドは……この世界にはないんだ」

 

 私は、普通のハッピーエンドが好きなんです。

 だから、今目の前でアズサちゃんが、肩を落としながらそう話していた時に……

 私は何の言葉もかけてあげることが出来なかった。

 

「今から私は……サオリのヘイローを『壊しに』行く。それ以外に、この事態を止める方法はない」

 

「待ってください、方法……そう、方法なら、きっと他にも……!」

 

「私はこれから、人を殺す。それが当たり前の場所で、それが当たり前だと教わり、それが当たり前に動けるように訓練された存在……それが本当の私。白洲アズサという名の凶器だ」

 

 再び振り向いたアズサちゃんは、私の言葉を遮りながら話す。

 

「こんな殺人道具の私が、ヒフミと同じ世界で同じ空気を吸っていいはずがない」

 

「あ、アズサちゃん……」

 

 私は、そんな彼女に、言葉をかけてあげることが出来なかった。

 私は、友達の力になってあげられない。

 

「……ヒフミ。私を友達だと思ってくれてありがとう。

『アズサちゃん』と呼んでくれてありがとう。

 可愛いぬいぐるみをくれて、ありがとう。

 ……心残りがないわけじゃない。海を見て見たかった……でも私には過ぎた願いだったみたいだ。

 

 それでも、可愛いものが、綺麗なものが、知らないものがあるって教えてくれてありがとう。

 

 補習授業部での毎日……あんなに素敵な日々を過ごして、沢山のことが学べて、楽しい思い出をくれてありがとう。

 

 学ぶことは本当に楽しいことだった……これまでの時間は、死んでも忘れない。

 

 少しでも補習授業部の生徒でいられて良かった……

 

 ありがとう、ヒフミ、さよなら」

 

 笑顔を……悲しい笑顔を最後に浮かべて、ヒフミは橋の向こうへと歩いていく。

 二度と会うことはないと言いたげの彼女。

 

「アズサちゃん……!待って……!まだ他に方法が!!」

 

 私は、歩き立ち去る彼女の後ろを追って、その肩を掴む。

 こんな一方的な別れを、私は認めない。

 

「きゃっ……」

 

 でも、それは虚しい結果になった。

 強く手を叩かれる。

 振り向いた彼女の目尻は赤く染まり、後悔と悲しみを浮かべて、そして決意で固まった顔つきをしていた。

 

 強い拒絶の意思。

 

「アズサちゃん……まって……」

 

 小さな私の声が木霊する。

 

 何も言わず、視線だけで、私は……その場に立ち尽くすしかなかった。

 

 深く暗い闇の中に消えていく彼女を……私は……見ていることしかできなかった。

 

 

 

 ────────────────────   

 

 ────────────   

 

 ──────

 

 

 大きな爆発音が場内に鳴り響く。

 

 ここはアリウススクワッドの拠点。

 

 当然いくつかあるが、直近で使っていた場所だ。

 

 今の音は、彼女が空けていた三時間以内に設置した私のブービートラップが作動した音だ。

 恐らくかかったのは、一番危機感のなくて動揺しやすいヒヨリだろう。

 

「動くなっ!!!」

 

 サオリの怒号が聞こえる。

 流石……もう気づいている様子だ。

 

 でも、もう遅い。

 一度何処かのトラップに引っ掛かると連鎖的に近くのトラップが作動するように出来ている。

 

 だから、ここからは時間との勝負。

 私が殺すか、彼女たちが対処して私を殺すかの戦いだ。

 

 更に爆発音が聞こえる。

 

 まずは一人。

 

 これで邪魔な狙撃手は居なくなった。

 

 物陰から顔を覗かせると、三人が固まって話し込んでいる。

 

 ここまでは予測通り。

 

 手榴弾を投げ込み、挑発する。

 こんなのでやられるほど、彼女たちは甘くない。

 

「白洲アズサっ!!!」

 

 サオリの怒号。

 少しだけ、サオリに体を見せて、そして逃げる。

 釣れてくれると助かるのだが……

 

 後ろから足音が聞こえる。

 

 上手く乗ってくれたみたいだ。

 

 銃声が鳴り響く。

 

 ここのマップは既に頭の中に入っている。

 走りながら、目的地まで銃弾を避けていく。

 

「判断は悪くないな、アズサ!お前では正面から私に勝てない!」

 

 あぁ、その通りだ。

 悔しいけども、サオリの戦闘能力は高い。

 きっとあの聖園ミカともいい勝負をする。

 

 だから、卑怯な手を使って隙を作っていく。

 

 目的地まであと少し、角を曲がって……

 

 アツコに鉢合わせる。

 撃ってくるかと思ったが、何もせず手話で話しかけてくる。

 

『サオリには勝てないよ、諦めたら?』

 

「……断る」

 

 奥から足音が、サオリ達だろう。

 手榴弾を投げて、それを射撃で誘爆。

 爆発に巻き込まれたアツコの隙をついて逃げ出す。

 

 その後、さらに巨大な爆発音。

 

 階段に仕掛けたトラップが起動したみたいだ。

 

 これで上階が崩壊する。

 今ので一人潰せたはず。

 

「追いかけっこはここまでだ」

 

 目的地までこれた。

 そこは広いフロアで、私は銃をサオリに構える。

 

「正面からか……面白い、やってみろ」

 

 軽く上下に跳ねたサオリの着地のタイミングで、引き金を引く。

 青い閃光を伴いながら、銃弾を避けたサオリは、一瞬で私の懐まで潜り込んでくる。

 

 銃を横から叩かれ、後ろに下がって頭を狙った弾丸を首を傾けるだけで避けて、私の顔面に肘打ち。

 

 痛む体に鞭を打って、構えた銃を上から叩き落とされて、武装解除され、滑っていく私の銃を踏みつけるサオリが、私に向けてアサルトライフルを構える。

 

「チェックメイトだ、アズサ」

 

「くっ……」

 

「……お前にしては良くやった。それでも無駄だ。お前の考え方、思考、それらは最初から全てお見通しだ。最初から、無駄な抵抗だったんだよ」

 

 まだ……あの兵器の起爆時間まで時間がある。

 こんなに早く、戦闘を終えさせられるとは思ってなかった。

 だから、時間を稼がないと……

 

「いつから……アリウスは、巡航ミサイルなんてものを……それに、あのユスティナ聖徒会に……ヘイローを破壊する爆弾だって……」

 

「アズサ、どうしてお前が勝てないのか分かるか?」

 

 私の下手な質問に乗ってくれたサオリが、口を開く。

 

「弱いからだ。何が人を『人殺し』にすると思う?それは『殺意』の有無。そういうことなんだよ、アズサ。意志さえあれば、道具は関係ない。重要なのは、ただそこに込められた『意志』だけ」

 

「なら……サオリ。その『意志』は、その恨みは誰に習った……私は──「虚しい」」

 

 銃弾が、私の胸部を打つ。

 

 酸素を無理やり吐き出させる。

 

「弱いな、白洲アズサ。その弱さはお前を縛り付けているんだ」

 

 倒れた私の懐へとサオリが手を伸ばし、そしてぬいぐるみを取り出す。

 それを一瞥し、再度銃口を構える。

 

「そう、こんな状況でも離そうとしないその人形のように。初めてお友達がくれたプレゼントか?……虚しいな」

 

 冷たく言い放つと共に、銃口が光り、私の体に痛みと衝撃が走る。

 

「虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい」

 

「ぐっ、あぁ、ぁぁぁぁっ……」

 

「虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい」

 

 私の体をくまなく銃撃し、マガジンを変えて、さらに発砲を続ける。

 虚しいという言葉を体に植え付けるように、何度も何度も何度も何度も。

 

 絶え間ない激痛と、苦しみが私の体を襲う。

 

「虚しいな、アズサ。友情か……ならば、その無駄で無価値で意味のない虚しいものから壊してやろう。たしか……ヒフミだったか?」

 

 それは、駄目だ。

 やはり、サオリは……ヒフミを殺そうとする。

 それは……分かっていた。

 

 ヒフミに仇なすなら……私は地獄にだって落ちてやる。

 

 部屋にきたアツコが、サオリに何か話しかけている……

 

 その隙を狙って、銃を回収し、私は逃げ出す。

 

 もう、充分時間は稼げた。

 

「アズサ、また逃げるのか!!」

 

 残っていた爆薬を起爆する。

 もうこれで全部……

 流石に追ってこれないはず。

 

 雨に撃たれながら……私は外へと逃げ出し……走り続けて……

 その時を待つ。

 

 あのぬいぐるみには仕掛けを施してある。

 

 その中に、『ヘイローを破壊する爆弾』が仕掛けられてある。

 セイアを殺すときに使うはずだったあの爆弾を……

 友達からもらったぬいぐるみに……

 

 遠くから大きな爆発音が聞こえる。

 

 ヘイローを破壊する爆弾が起爆したようだ。

 

 これで……私も人殺しだ。

 

 もう、彼女たちと会うことはない。

 

 そんなこと覚悟してきたはずなのに……

 

 涙が止まらない。

 

「うっ……ううっ……ヒフミ、ごめん……ごめんなさい」

 

 ヒフミからぬいぐるみを貰ったときの笑顔を思い出す。

 

 ────アズサちゃんおめでとうございます!ご褒美のペロロ博士のぬいぐるみです!

 

 ────いいのか!こんなかわいいもの……!ありがとう、ヒフミ!大切にする!

 

 私は、その思い出を汚し、殺しの道具にした。

 

「私は……もうこれで、二度と……うっ、ううぅぅぅ……」

 

 覚悟してたはずだ。

 

 ────アズサちゃん……!待って……!まだ他に方法が!!

 

 あの手を叩いて拒絶したのは……紛れもない私だろう……

 なら、泣く資格があるはずがない。

 人殺しの私に。

 

「ごめん、ごめん、みんな……うっ、うくっ……!!あぁぁぁぁぁぁっ……!!」

 

 

 ──────

 

 ────────────

 

 ────────────────────

 

 

「さて、どうだったかな。先生」

 

 俺の目の前には、黄色い髪と狐耳を生やした少女……百合園セイアが席に座って、俺のことを見ている。

 俺もいつの間にか同じテーブルを囲んで、席についている。

 

「今、君に見せたものが……このお話の末路さ。あぁ、そもそもここは何処だという話だね?」

 

 俺は、さっきまで夢でも見るかのように、正夢を追体験するようなそんな感覚に浸っていた。

 そして、気が付いたら……またいつぞやのように、彼女の空間に足を踏み入れていた。

 

 いや、向こうが俺の夢に来たのかもしれねぇがな。

 

「ここは君の夢であり、私の夢の中。あらゆる明晰夢と白昼夢が集まる空間……とでも思ってくれたまえ」

 

 どうやら、俺はようやく……こいつの茶会の席に着くことが出来たらしい。

 俺は、目の前でカップを傾ける彼女の話を聞き始める。

 




虚しく、破滅しかなく
無意味な苦痛しかない

分かっているだろう。

それでも、君は何か私に言いたいのかい?

次回 その時、古くからの相棒が言った





さて、寄り道もここまでにして、そろそろ物語を前に進めていきましょうか。
曇り空の向こうには常に太陽は輝いているのですから

今作の章タイトル、もしかしたら、もう一度登場するかもしれませんね。まぁ最後に扱うなんてルールはありませんから!

最後に、ここすき、感想、評価お待ちしております。

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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