新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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2-3 その時、古くからの相棒が言った

「さてと……初めまして、だね。私の名前は百合園セイア」

 

 狐耳を揺らしながら、目の前の少女が二度目の挨拶をする。

 

 初めましてだなんて、変なことを言いやがるな?

 俺とセイアは、あの病室で会ったのが初めてのはずだ。

 

 それを察したのか、俺の顔に出ていたのか。

 怪訝な顔をしながら首を傾げたセイアが、声をかける。

 

「……おや?その顔、もしかして『初めまして』ではないのかな?」

 

「あぁ、向こうって呼んでいいかは分からねぇが……現実の方で何度か会ったことがある」

 

「……なんだって?それはあり得ない。それは本当に私なのか?」

 

 セイアが信じられないと言わんばかりの表情をする。

 そこまで言う程なのか?

 こいつの雰囲気といい、確かに俺の知っているセイアとは別人のような感覚はするが……

 何処か食い違っているような……

 記憶喪失ってわけでもねぇな……?

 

 そう、まるで経験してきたことが違うかのような……

 少なくとも、病室で会った彼女とは別人と考えるべきだろう。

 

「まるで別人みたいな扱い方をするんだな?」

 

「あぁ……今の私にとって時間軸というものは、あやふやでね……君が会ったというセイアは、過去の私かもしれないし、未来の私かもしれない。尤も今ここにいる百合園セイアという存在も然りだがね」

 

 ややこしいが……前に会ったセイアの中身の話ってことか?

 こういう話し方というか伝え方ってのは、トリニティの伝統なのか?

 めんどくさいと言うべきかなんと言うか……ミカの言いたいこともわかるもんだ。

 

「それで、なんで有り得ねぇなんて言葉を使ったんだ?」

 

「先生も見ただろう?この物語の末路を……」

 

 セイアは近くに浮かぶ泡の様な何かを手元に寄せて、それを掬うように分け、俺の方へと渡す。

 泡の中には、ハナコとマリーが大量の本が並ぶ部屋で話している様子が映っており、また別の泡を見れば、アズサに置いていかれてその場で泣き崩れるヒフミの姿が映っている。

 

 さっき俺が夢だと思ってみてきた景色が、映っている。

 

 これが……セイアの神秘か。

 ってことは……さっきまで見てた景色はどれも実際に起きた事……ってわけだな。

 

「何もかもが虚しく、全てが破局へと至るエンディング。ここから先を見たところで、無意味な苦痛が連なっていくだけだ。……だから私は夢の中に引き籠った」

 

 セイアは、手に持った泡を握り潰し、泡沫となって空へと昇るそれを見上げながら語る。

 ここから先は無意味だと。

 

「これは、つまるところ各位が追い詰められ、結局誰かが誰かを殺める物語。誰かが人殺しにならざるを得ない話。不快で、不愉快で、忌まわしく、眉を顰めたくなるお話だ」

 

 目をそっと閉じ、そして俺へと向き合い、言葉を綴る。

 

「君の会ったというセイアは、恐らく過去のセイアだろう。このエデン条約のことを知らない私なら、喜んで手を貸すだろう。 ただ今の私というのはあり得ない。この先、目を覚ますことがないのだからね。こんな悲しくて、苦しくて、憂鬱になるような救いのないお話……私には耐えきれない」

 

 その言葉に俺は首を傾げる。

 仮に過去の彼女だとしたら、違和感が残る。

 何せ、アイツが過去のセイアな訳がねぇからだ。

 アイツはこの先起こることを理解していた。

 

 やけに回りくどい予言すら残してくれて、ミカを止めるための伝言を託してくれた。

 

 同じ虚無主義なところがあるが……俺が一度会ったセイアの方が、幾分か未来への期待ってものを信じている節があった。

 

「なるほどな……」

 

「分かるかい?これは、贖罪に近いのだよ……先生、貴方の働きかけにより、ゲヘナとトリニティ……少なくとも上層部だけは手を取り合おうとすることが出来た。だとしてもだ……それを許さないとばかりにアリウスという名の悪意は伝播し、そしてあの末路を生んだ。 『七つの古則』における第五条、楽園の証明……全く『エデン』とは皮肉な名を冠したものだよ。連邦生徒会長の悪意すら見えてしまう」

 

 俺の独白を聞いたセイアが、息を巻いて話始める。

 俺は、決してそのことに関して、理解をしたわけじゃねぇ。

 

「どちらにせよ、楽園を追放された私たちにとっては相応しい結末だと思わないかい?」

 

「全くそうは思わねぇな」

 

「……何?」

 

 きっとセイアは、俺に同意をしてほしかったんだろう。

 自分たちのような罪深い存在を罰してほしいってな。

 

 ただ、先に生きる者として、俺はそれに首を縦に振るわけにはいかない。

 

「お前さん……映画は最後まで見ないタイプか?」

 

「……見る必要が、あるのかい? 悲しいバッドエンドの後、そこに続くエピローグを見たところで悲哀が増すだけ。苦しみが連なるだけだ」

 

「……なるほどな、お前さんと俺は似た者同士だよ」

 

 こいつの小難しい話し方は似ちゃいねぇが、それでも俺達の根本は似てる気がする。

 そして、あの病室で会ったセイアの正体も見当がついた。

 少なくともだ……目の前のセイアは、俺の過去を知らない。

 

「俺たちは、お互いにニヒルなリアリストだ。お前さんがその下らない七つの古則って奴にご執心なのを除くがな」

 

「っ!随分な言い方をしてくれるじゃないか……仮にそうだとしても、君がここから動いたところで……いや尤も、既に君の体は死んでいるはずだが……仮に動けたとして何かが変わるとでも思っているのかい? この先の結末は『七つの古則』から既に導き出されたこの世界の真実だ!」

 

「あぁ、それは大した優先事項でもねぇさ。どこぞの哲学者が考えた、おまじないみたいなもんだろう?」

 

 その言葉を聞いたセイアが、目を閉じながら考え込み、冷静に俺へと言葉を投げかける。

 

「……つまり、先生は七つの古則を否定するつもりかい? エデンの存否は、全ての人にとっての宿題だろう?それの存在を証明できなければ何も……いやまさか、先生。君は未だに、そんなものを信じているのかい?」

 

 信じる……か。

 

 俺にとっちゃそれは、そんなくだらねぇ哲学に左右されるようなそんなヤワなもんじゃねぇと思っている。

 あの時だってそうだ。

 

 俺とセイアの間に沈黙が流れる。

 セイアは、俺の返答を待ち望んでいるようだった。

 

 だから、俺は、古くからの相棒の言葉を借りて、こいつに伝え始めることにした。

 俺はあいつと違って、演技が苦手だが……それでも伝えるべきだろうからな。

 

「その時、とある天使が語った『諦めろ』と……敵は強い。もしかしたら過去最悪の敵かもしれねぇ……仲間はみな傷つき、戦う意思を失っている」

 

 俺たちの間に泡沫が通る……

 そこに映し出されるのは、ベッドの中で蹲り暗い表情で涙を流すヒナ、トリニティの生徒に囲まれ身動きの取れなくなったセナ、雨に打たれながら涙を流し俯くアズサの姿が。

 

「どうなるんだ、次元大介。逆転の秘策はあるのか?」

 

「……先生、ふざけるのも──「なぁ、セイア。こうしていると聞こえてこねぇか?いい音楽がよ」……音楽?」

 

「あぁ、主人公が逆転する時にかかるカッコいい音楽さ」

 

 セイアが、初めて感情を見せる。

 おちょくられているのかと、そう言いたげな視線だ。

 ……やっぱり、俺らは似た者同士だよ。

 

「先生……人生は物語じゃないんだぞ」

 

「なら、物語にすればいい」

 

「…………」

 

「俺って人生の視聴者は、俺だけだ。だったら俺が続きを見たくなるような物語じゃないと意味がないだろ?」

 

「一体……何を……」

 

 セイアの顔に困惑が広がる。

 言いたいことは理解しているが……それでもということだろうな。

 

「かなりのピンチだが、あいつどうやって切り抜けるんだ?

 強すぎんじゃねぇかこの敵。こっからどうやって勝つのかなぁ?ってな。

 俺は俺に期待したいんだよ。」

 

「っ、結末が先生の望んだものじゃなかったとしたらどうするんだ」

 

「ちっ、気ぃ持たせやがって、残念だが逆転は次回までお預けだな」

 

「その逆転がいつまで待っても来なかったとしたら!!」

 

「そんときは、俺って視聴者は居なくなる」

 

「……なんだって?」

 

 俺も随分とアイツの影響を受けちまったもんだ……

 良くも悪くもな。

 ただそれでもだ……あいつといて後悔した記憶は何処にもねぇ。

 

「なぁ、セイア。俺はな、終わりが来るその日まで、次元大介でいたいんだ」

 

「それが、君のとっての信じるということなのかい?」

 

「まぁな。ほら、見てみろよ、まだ全て終わっちゃいねぇようだぜ?」

 

 

 ──────

 

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「やめてくださいっ!!」

 

 救急車の周りに群がるトリニティ生を見て、苛立ちを募らせていた私の耳に制止の声が聞こえてくる。

 

 その声の元を見ると、そこにいたのは紫髪の少女とピンクの短髪の少女。

 その二人の右腕につけられた腕章……見覚えのあるそれは確か……

 

「救護騎士団……?」

 

「どうして負傷者が乗っていると分かっていて、救急車を攻撃しようとするんですか!そんなこと、この救護騎士団が許しません!」

 

「負傷者を攻撃するなら、その前に私たちがお相手します。本当になんてことを……!ミネ団長がいたら悲しみますよ!!」

 

 確か、ハナエさんとセリナさんでしたね……

 そのお二人が、取り巻くトリニティ生徒に対して銃口を向ける。

 あまり刺激をしてほしくはないのですが……でも今は助かります。

 

「お二人とも。感謝します、中に重傷の先生とヒナ委員長が乗っていまして……!」

 

「先生がっ!?それなら、緊急事態ですよね……」

 

「救護騎士団……ってあの問題児ミネがリーダーしてるところでしょ!冗談も大概にしてよ!!」

 

 ハナエさんが何とか収めようとしている中で、セリナさんと話をする。

 ミネ団長の名前だけでは、どうやら抑えきれないようで、また徐々に救急車へと近づいてくる。

 

 そんな中で、セリナさんがバッグの中から信号弾のようなものを取り出す。

 

「それは?」

 

「ミネ団長が、緊急事態があれば打ち上げろと……先生が乗っているなら仕方ないですよね!」

 

 空に向かって、信号弾を打ち出すと、青い光を輝かせながら、弾は空へと駆け上り消えていく。

 

 そして消えたと思ったのもつかの間……何やら音が聞こえる。

 あの光と共に巻かれていた神秘が、正しく信号の役割を果たしていたのですね……

 

 上空から声が聞こえる。

 彼女の神秘『ミネルヴァ』は、己の救助活動の際に無制限の力を与えるもの。

 とはいえ……ここまで飛んでくるのは……流石ですね。

 

「救護っ!!!!」

 

 上空から堕ちてくる一筋の蒼い流星が、救急車の前方へと着地する。

 不思議なことに衝突による衝撃は発生せず、吹き飛ばされた生徒も見受けられない。

 

「団長!中に重傷の先生と風紀委員長が!」

 

「なるほど、貴女達!!どうやら、負傷者がいると知って、襲ったようですね。どうやら重大な精神疾患があるようです……救護致します!!!」

 

 その言葉をきいた生徒たちが一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 一喝で、この騒ぎを……

 

 いえ、呆然としている暇はありません。

 急いで、先生を救いに行かないと……!

 

「ミネ団長、御協力感謝いたします、私だけでは手に余りますのでお力添えをいただければ」

 

「えぇ、もちろんです。例え殺したとしても救ってみせましょう!」

 

 救護騎士団の皆さんを乗せて、病院へと走らせていく。

 絶対に救います、先生!

 

 ──────

 

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「……まだだ。まだ挫折している場合ではない」

 

 雨に打たれて冷たくなっていく私に、声が投げかけられる。

 私自身の声だ。

 

 あぁ、そうだ。

 まだ、こんなところで、止まっている場合ではない。

 

「動いて、考えて。挫折して悲しんでいる暇があったら、今からでも方法を探して、どうにか……」

 

 震える足を叩き、立ち上がる。

 涙は、もう雨で流れ落ちた。

 

「止まっていられない、動かないと……何か方法を……」

 

 ユスティナ聖徒会が、消えていないということは……恐らくサオリとアツコは生きている。

 

 そのことに安堵している自分がいる。

 

 サオリは言った。

 そんな感情が私を縛り付け、弱くしていると。

 

 それでも。

 

 それでも!

 

 それでも、私は、この感情が無意味で虚しいとは思わない。

 

「……何としてでも、サオリを……止めないと。」

 

 まだ、歩みを止めるわけにはいかない。

 

 

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 ──────

 

 

 

「……俺よりも若ぇ奴が頑張ってるんだ。俺が諦めていい訳がねぇだろ?」

 

「…………」

 

 幾つかの泡が飛んでいき、暗い夜空の向こうに明るい日が差してきた。

 どうやら、この茶会も、もうそろそろお開きの時間のようだ。

 

「俺は、そろそろ先に行くぜ」

 

「……先生、君はこれを見越してたのかい?」

 

「さぁな、あいつらにはあいつらの音楽があるんだ」

 

 俺は、席を立ち、ドアを開く。

 背後から声が聞こえる。

 

「……先生、私も少し聞こえてきたよ。私の、私だけの音楽が」

 

「そうか、ならまた明日会おう」

 

「……先生、最後に1ついいかい?」

 

 ドアの先に進もうとした俺を、セイアが呼び止める。

 

「さっきの言葉は、一体誰の言葉だい?」

 

「……先に生きた人間の言葉だ」

 

 俺は微笑み、ドアの向こうへと足を踏み出す。

 

 そろそろ、ベッドから起きる時間。

 いつもからすれば、むしろ寝すぎたくらいだ。

 

 ……さて、面白くなってきやがった。

 




降り積もる怨嗟
煮え滾る怨念
それらの向こうで貴方は……

次回 エリート






セイアの神秘。
めちゃくちゃややこしい事になっているのですが……
結果的に話すと、セイア視点では、今回が正真正銘の初めましてで
以前出会った彼女は、『過去のセイア』ではなく『未来のセイア』です。
この経験を既にしたからこそ、先生にやけに協力的だったわけですね。

まぁ、あの神秘は、セイア様には少し身に余るレベルで本来のものではありませんし、こうなるものです。

さて、評価、感想、ここすきお待ちしております!
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