新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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エピローグ?

 全てが終わり、一段落が着いた翌日。

 

 俺はとある病室に足を運んでいた。

 

 出入口には常に定時交替する警備をつけており、その部屋に眠る人物の持つ権力というものが窺える。

 ベッドの上に眠る茶髪の少女がゆっくりと瞼を開く。

 

「目が覚めたか、ナギサ」

 

「ヘイローが砕けるかと思いましたが……どうやら無事のようですね……」

 

「お前さんら、ホストが目を覚ましたぞ」

 

 俺は手に持っていた剥き欠けのリンゴとナイフを置いて、少し離れる。

 少なくとも慕われているようで、ナギサの後輩であろう人物がベッドの周りに集まる。

 

「ナギサ様……御存命で何よりです。どうか無理なさらず……先ほど先生がリンゴを剥いてくださったんです。毒見は済ませておりますので……」

 

「先生、皆さん……ありがとうございます。ところで何かご用件があるのではないでしょうか?」

 

「目覚めたばっかなのにワーホリだな。お前さんは……」

 

 俺ぁどちらかと言えば、一区切りついたってのに未だに目を覚まさないお嬢様が心配になって来たくらいなものだが、どうやらこの後輩たちはそうではないらしい。

 そういう少しの表情の変化に気づくあたり、こいつもホストの器だなと思う次第だ。

 

 まぁ、疑心暗鬼になってちゃ世話ねぇがな。

 

 ナギサの後輩は、懐から手紙を取り出す。

 ピンクの上品な色合いの封筒だ。

 

「あ、実はその、ミカ様からお手紙が……」

 

「あのお転婆姫からか」

 

「……中には何と?」

 

 ナギサが聞くと、手紙を開き、中を読み始める。

 

『ヤッホー、ナギちゃん!

 何か聞いたところによると、ミサイルが撃ち込まれてからずっと気を失ってたんだって?

 あんなに色々あったのに、気楽にすやすや寝てたなんて、ホストとして中々みんなには見せられない姿だね?

 

 まっ、私のせいでもあるけど、あんなにずっと頑張ってたんだし、休んでほしいとは思ってたけどね。

 いやぁ、でもまさかそこまでぐっすりだなんて思わなかったよ。

 

 無事に目覚めたみたいだし、ちょっとお願い聞いてくれない?

 早めにホストに復帰して、どうにかしてくれると嬉しいんだけど!

 

 まずここのテレビ、普通の放送しか見られないじゃん?

 24時間いろんなのが見られるアレ入れてくれない?

 

 あとハンドクリームが切れちゃったの。

 私いつものブランドじゃないと肌に合わないからさ、買ってきてくれる?

 売ってるところは後で伝えるね!

 

 それとヘアドライヤーが何か弱くなってきたんだよね。もうちょっと高いやつに変えてもらえないかな?

 

 あ、折角だしナギちゃんとお揃いのにしよっと!

 すっごく良いブランドの最上級モデル使ってるんでしょ。

 髪質良くなったタイミングで変えたの、私見逃してないからね!

 

 あとさあとさ──「もう結構です」』

 

「くっくっくっ……!」

 

 図太くなったなぁあの嬢ちゃんも。

 ナギサの冷たい一言で、読み上げるのは止まったが、少し覗いたところ、まだまだおねだりをする文は続いていた。

 

 思わず笑い声を漏らしてしまったが……

 

 あの酷い表情で、十字架を背負って、怨嗟を吐いていたころに比べりゃうんとマシになったもんだ。

 それにしても、図太いことこの上ないがな。

 

「えっと……そのナギサ様、いかがいたしましょうか……やはり監獄ではなく──「ミカさんのお食事は今後一切、全てロールケーキだけで構いません」……はい……はい!?」

 

「もう一度言いますね。ミカさんのお食事を今後、全てロールケーキのみにしてください」

 

「ぶっあっはっはっはっは!!!」

 

 本来静かであるべきはずの病室に笑い声が響く。

 こいつのことは何だかんだ反りが合わねぇと思っていたが、こういう思いっきりの良いところは嫌いじゃねぇな。

 

 その後、俺はうるさいとミネに叱られ、そのまま部屋を出ていくことになった。

 随分と騒いじまった。

 

 あの決戦の時に見かけたが、どうやらマコトは無事の様だった。

 万魔殿の戦車部隊。

 話しかけることはなかったが、かなりの数の戦車が隊列を成していた。

 ありゃ俺でも相手にするとなりゃ、苦労しそうなもんだ。

 

 ゲヘナと言えば、風紀委員会はあの後も無事に活動を続けているようだった。

 火傷を負ってしまったアルファ隊だが……

 前よりも今の方が俺は好みだな。

 どいつもこいつも、良い面をするようになった。

 もう片方の翼であるブラボー隊も、負けじと頑張っているようでヒナが卒業したとしてもあの両翼がいる限りは、ゲヘナは安泰だろうな。

 

 もう一つ話しておかなきゃいけねぇのは、エデン条約機構についてだ。

 あの時、俺が『先生』としての権限を使って勝手に調印したもんだが……結局は白紙に戻っちまった。

 

 マコトもナギサも、手を結ぶことについては問題ないんだが……

 今はそれ以上に内政について考えなくちゃいけないことが多すぎるってことらしいな。

 

 特にトリニティは、ミカのことをきっかけにしばらくは荒波が続きそうだ。

 それでも、ナギサはもう一人じゃねぇ。

 ミカ……は、まだ監獄に居なくちゃいけねぇが会おうと思えば会えるだろうし、セイアが学校に戻ってきてくれたらしい。

 同じ過ちを犯さないように、躓きながらも前を向いていけるだろうさ。

 

 しかし、今回の件で少し感じたが、あの隙を見せたら足を引っ張って来るような蹴落とし合いの精神というべきか……俺はどうにもトリニティが苦手に感じちまうな。

 

 まぁ、まだしばらくはあそこに通わなくちゃいけないわけなんだがな……

 というのにも訳がある。

 

 具体的に出すなら二つの理由だな。

 

 俺はその後、目的のためにトリニティへと車を走らせていた。

 

 何でもトリニティには、古くからの本が集まる古書館なる場所があり、そこには古書に関する知識とその修繕技術に関してはキヴォトス一の通称『古書館の魔術師』なる女がいるらしい。

 そいつに頼みたいことがある。

 

 トリニティの中央部から少し外れたところに、古書館は立っていた。

 聖堂が良く見える位置だが、外から見ても分かるほどに完全に閉め切っており、本当に開いてるのかすら怪しい。

 

「……なんだこの臭い」

 

 ドアを開けると、少しのカビと皮脂が混じった独特の香りが蔓延している。

 古書館のなかは、随分と薄暗く今時珍しく蠟燭の灯が館の中を照らしている。

 

 部屋の奥に人の気配を感じる。

 利用客らしい雰囲気でもねぇな。

 ってことは、お目当ての魔術師か?

 

「……ひいぃっ!?」

 

 こっちに気が付いたようだが、随分と情けない声を上げる。

 そのまま放っておくと逃げられちまいそうな様子だ。

 

「アンタが、噂の古書館の魔術師さんか?」

 

「……? あ、あのどちら様でしょうか……」

 

「俺は、シャーレで先生ってのをやってる次元大介だ。お前さんは?」

 

「先生……先生……シャーレの……」

 

 何やらぼそぼそと独り言を話しているようで、俺の質問が聞こえてるのか怪しい。

 逃げ出すような様子はなくなり、しばらく待っていると蝋燭の光の下に現れる。

 

 小柄な体型の藍色の髪をした少女、この子がその古書館の魔術師だろう。

 

「は、はじめまして……私は古関ウイ……この古書館の管理をしている、図書委員会の委員長、です……それで、その……有名な先生が、どうして……」

 

「お前さんは、古書のことに関しちゃキヴォトス一って話を聞く。そんなアンタに依頼をしたくてな」

 

「依頼……ですか?」

 

 最新の情報であれば、アロナが一番なんだが……

 今回欲しいのは、トリニティの古い情報だ。

 恐らくネットにすら載ってねぇ時代のそんな情報。

 

「あぁ、最近また壊されちまった古聖堂の地下に広がる地下墓地……カタコンベの地図を探してもらいたい」

 

「うぇ、そ、それは……」

 

「依頼金はお前さんの言い値で構わねぇ」

 

「言い値でっ!? わ、分かりました……それなら、がんばり、ます……」

 

 アリウス校は、恐らくあの果てしなく広がるという地下墓地の先にある。

 スクワッドのことも気になるが……あいつらのような存在を、これ以上生み出されるのは気に食わない。

 アリウス校の生徒会長となっているベアトリーチェ。

 そいつの胃に鉛を馳走しに行かなくちゃな。

 

 まぁ、そのために、ウイに依頼をしに行ったってわけだ。

 

 これがトリニティに居なくちゃいけねぇ理由の一つ。

 

 それでもう一つの方なんだが……

 俺は久しぶりに、とある教室に来ていた。

 

「はぁ……補習授業部は確か解散したって聞いてるんだがな?」

 

 俺の目の前には……無事に合格点を出して、脱却したはずの”元”補習授業部の連中が席に座っている。

 ハナコ何でニコニコしてやがる。

 

「今日は、新しく補習授業部が出たって聞いてるんだが……説教の前に弁明くらいは聞いてやる」

 

「あ、はは……えっと……それが、その……ペロロ様のコンサートに参加してたのですが、実は試験日だったようで……」

 

「次の試験範囲はまだ習ってない」

 

「えっと、その……三年生の試験を受けてみたんだけど……」

 

「一人だけ放置プレイなんて寂しいじゃないですか♡」

 

 この馬鹿ども……

 

 手を握りしめていくが……ふっと力が抜け、俺は腹の底から笑い始めていた。

 

「な、何よ!そんな笑わなくてもいいじゃない!」

 

「はっはっはっ!」

 

 どれだけの事件があろうと。

 どれだけの悲劇があろうと。

 

 日々は変わらず過ぎていく。

 

 過ぎ去ったことは全て笑い話。

 

 いつだったか相棒に言われたそんなセリフを、俺は思い出していた。

 




雨音の中、俯き嘆く声が聞こえる。

空虚で無価値な世界に絶望し

それでも慈悲を求め与えんとする少女は口ずさむ

次章 Vol.Ⅲ-Ⅲ 憐れみの賛歌と共に響けよ、銃声




原作だとあったあのシーンは、わざとカットしてます。
区切り良く、そして、あくまでもこの物語は次元視点のお話ですから。

さて、ここいらで、一度イベントシナリオを挟んで休憩と行きましょう。
イベントシナリオは現在(2025/07/31)、アンケートを取っているのでその中から選んでくださると嬉しいです。
#EXは、やはりあの子たちのこともやりたいので、3章終えてからにする予定です。
あと、次の#EXで行う予定の『貴女にとってーシャーレ編ー』では、うちのアルちゃんに対しての質問を募集してみようかなとか思ってます。色々思案中なのですな……もしよければいいアイデアあれば、待ってます

では、ここすき、評価、感想等々お待ちしております。

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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