新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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えー……始まる前に謝罪を一つ
前回前々回と、ブラボー隊のことをベータ隊と呼んでいました。
既に修正済みゆえに、分からない方もいるかと思いますがこの場を借りてお詫び申し上げます。


後編 俺の出番

「ふぅ……風紀委員長抜きでもここまで出来るようになっているとは……」

 

「先生に鍛えられてるんだから当たり前だよ」

 

 スケバン集団との戦闘からほぼぶっ続けで、美食研との戦闘は、体力の疲弊も相まって風紀委員会は苦戦を強いられていたが、数と個々の練度、それに便利屋の援護もあり、軍配は風紀委員会側へと上がっていた。

 

 一息つくハルナに向けて、クモリが銃を構えるが、それを気にしている様子は見当たらない。

 

「先生……近頃噂になっている御方ですわね。ふむ……一時撤退と致しましょうか!」

 

 ハルナがそう話すと、狙撃銃を取り出し、地面を素早く撃つと勢いよく砂埃が舞い、それが晴れると美食研は、大量のとうもろこしと共に姿を消していた。

 風紀委員会自体も決して油断していた訳ではない。

 ただ、それをハルナが上回っただけの話だ。

 

「逃げ足、相変わらず早いっすね」

 

「全くだよ。何はともあれお疲れ様だね」

 

 完全に気配も捉えられなくなってしまってから、風紀委員会達はホテルへと帰っていった。

 その後、先生との歩行訓練があるという事をすっかり忘れて。

 

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 ──────

 

 ようやく待機が終わって、ホテルの入口に行ってみりゃ、そこには死屍累々の形相の風紀委員会達が、整列していた。

 

 普段からかなりキツい訓練を行っているはずの彼女らが、この有様だ。

 今日の戦術訓練は相当ハードだったらしい。

 

「さて……と、歩行訓練のはずなんだが……お前さんら平気か?」

 

「うぅ……はい……」

 

 呻き声しか出ねぇ情けない声で返事を返される。

 ……流石にこれは、中断だな。

 

「今日はヤメだ。お前さんら風呂にでも入って、明日に備えろ」

 

「え、いいんすか!!!」

 

「お、メルナ。元気がいいじゃねぇか。お前さんだけやるか?」

 

「きょ、教官の慈悲に感謝します!」

 

 一人だけ威勢のいい声を上げたメルナを指名したが、速攻で断られちまった。

 しかし、この様子と言い……昼間のあの音にそれにあの神秘……

 まぁ、そこまで隠したいってのなら……静かにしといてやるか。

 

 夜は何故かやけに上機嫌なホテルの支配人の計らいで、豪勢なビュッフェを食わせてもらった。

 ビュッフェで品を選んでいる最中に、見覚えのある紅い長髪の女を見かけたが……声を掛ける前にそそくさと立ち去っていってしまった。

 俺の目に狂いがなけりゃ、あいつは……?

 

 酒がねぇのが残念だが……まぁ仕方ねぇな。

 

 風紀委員会の奴らが寝静まった辺りで、俺は海岸沿いを一人歩いていた。

 サンダルの中に入る砂の感触に、耳を打つ波の音。

 平和ボケしちまいそうな、そんな平穏を俺は今味わっている。

 

 ここまで平穏なのは、下手すりゃ数十年ぶりってところか。

 しかしこれはこれで……

 

「退屈なもんだな……」

 

「先生……?」

 

 背後から声が聞こえる。

 振り向くと、そこにはヒナが立っていた。

 

「ヒナか、どうした?」

 

「いえ……少し寝付けなくて……良かったら一緒に少し歩かない?」

 

 俺の隣まできたヒナと二人で砂浜を歩く。

 どちらも特に話しかけることもなく、ただその沈黙を楽しみながら。

 

 そして、ヒナがゆっくりと口を開く。

 

「……先生は、今日みたいな日は苦手だったかしら」

 

「聞こえてたか」

 

「えぇ……その、ごめんなさい……私なんかと一緒にいても、退屈よね……」

 

 悲しそうなそんな声で話すヒナを、そっと撫でながら歩み続ける。

 相変わらずネガティブな女だよ、全く。

 

「俺が退屈だって言ったのはお前さんに対してじゃねぇよ」

 

「…………」

 

「俺には、こういう平穏で平和な日常ってのは合わねぇ」

 

 だから、ヒナのせいじゃねぇって言いたかったんだが……伝わってるかも怪しいな。

 まぁ、こいつもバカじゃねぇ、ちゃんと分かってるだろうな。

 

「それは、それで、悲しいわ」

 

「人にはな、生まれついた性ってのがあるもんだ。俺はな……どうあってもこいつと離れられねぇ生き方しか出来ないんだよ」

 

 俺は懐から、相棒であるマグナムを取り出して、それを見つめる。

 生まれついた性……まぁ、ヒナが固有名を使えてる以上そんなことは百も承知だろうけどな。

 

「それにな、ヒナ。別に嫌いって訳でもねぇんだぜ?少なくともお前さんと休めたのは……悪くない体験だったよ」

 

「そう……そうね、先生がこういう嘘をつかないってことは……きっと誰よりも分かってるわ。私も先生とお休み出来て良かった」

 

「そいつは良かった」

 

 少しは笑顔が戻ったのか、にこやかに笑うヒナを見ながら、折り返して、ホテルへと帰っていく。

 

 ──────

 

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「明日もこのままホカンスさせるのかしら」

 

「なるほど……先生が退屈だと……」

 

 深夜のオペレーションルームにて、再び会議が行われている。

 ヒナが、先ほど先生から聞き出した退屈しているという情報を元に、本当にこのままでいいのか、それを再確認するための会議だ。

 

「所謂暇疲れってやつだよね」

 

「そうですね……しかしこれ以上我々に用意の出来るものがあるのでしょうか?」

 

「んー……それはそうかもしれないよな」

 

 ここまで誰か個人の為に悩むという経験がなかった為か。その会議は難航していた。

 先生ほどではないにしろ忙殺する苦しみは、それぞれ理解しているつもりだからこそ、今回の先生への恩返しが休暇なのだ。

 うんうんと唸りながら悩んでいると、アルが口を開く。

 

「……全く、聞いていれば呆れたものね」

 

「……アル、それなら貴女はどう思うかしら」

 

 ヒナがアルに対して少し鋭い視線を送りながら、彼女の意見を仰ぐ。

 少なくとも、大口を叩くだけのことはあるのかと見定める気持ちもあるのだろう。

 

「先生の忙しさは並大抵のものじゃないわ。それなのにろくに休もうとしない。

 だから、私は貴女達の今回の依頼を受けたの。あの人を休ませたいから。

 なのに、うじうじと悩んで……全く。

 少なくとも貴女達は理解してるんじゃないのかしら。あの人は、贈物に対してケチをつけるような性格じゃないことくらいは」

 

 そこまで言って、アルは席を立ち出口の方へ足を運ぶ。

 

「私からすれば、隠してる方が不思議なものよ。しっかりなさい。少なくとも、一度決めたのなら、最後までやり通す覚悟くらい見せてみなさい」

 

 そう捨て台詞を吐いて、彼女は出て行ってしまった。

 

「……全くその通りね。夏季訓練のスケジュールを使ったものだから隠し通さないといけないけれども」

 

「えぇ、うだうだ考えていても仕方ありませんね」

 

 それでも、彼女の残した言葉はしっかりと伝わっていたようだ。

 決意の固まった表情で彼女たちは翌日を迎える。

 最後までやり切って彼にゆったりとした休日を楽しんでもらうために。

 

 そうして迎えた翌日、この日の午後四時を以て夏季訓練が終了し、即時帰宅となっている。

 

「皆さん大丈夫ですか?各部隊、応答をお願いします」

 

『こちらアルファ隊、ポイントに到着。問題ありません』

 

『はいはい、ブラボー隊。異常なし準備オーライ』

 

『チャーリー隊、現着。配置に着きました~』

 

 アコの無線からそれぞれの隊の隊長らの声が聞こえてくる。

 それぞれ問題なく防衛場所につけたようだ。

 

「問題ありませんね。それでは最後の作戦概要の確認です。 午後の全体射撃訓練までの間、どうやら先生はこの海辺をヒナ委員長と散歩するらしいとの事です。 さらに、ヒナ委員長もこのことを非常に楽しみにしておりました。 ですので皆さん分かっていますね?」

 

 声の圧力が強まっている辺、ヒナ委員長への忠愛は相変わらずのようだ。

 無線からの返事は聞こえないが、それぞれ少なくとも気持ちは一つだろう。

 

「私たちの任務は、最後までこの夏休みを全力でサポートすることです!終わる最後の一秒まで気を抜かずに頑張りましょう!! 具体的には、海辺の危険要素を徹底的に排除。その後も引き続き、海に近づく不穏分子を片っ端から処理することで、先生達が気を使うこともなくこの海を楽しめるようにするのです!!」

 

『なぁ、これ……流石に職権乱用なんじゃないのか……?』

 

 息巻くアコの様子に、不安な目を向けるイオリ。

 先生との訓練を経て、比較的冷静な情報分析の力を鍛えたアコではあるが、こと『誰かの為』となると冷静さを欠いてしまうようだ。

 

「シャラップ! 先日の件で地域住民の方々がほぼいないことは、確認済みです!」

 

『うーん……そういうことじゃないような……』

 

 イオリの呟く声を最後に、ミーティングは幕を閉じ、各々最後の仕事に取り掛かっていくことになった。

 

 青い空、遠くに見える白い雲、潮風が頬を撫で、暑い日差しが健康的に肌を焼いていく。

 遠くの空を羽ばたくカモメの鳴き声が聞こえ、アコウや、メラレウカの葉擦れの音が心を穏やかにしていく。

 

「……平和っすねぇ」

 

「……平和だな」

 

 アルファ隊と共に警護に当たっていたイオリとメルナが、何気ない会話をしている。

 

『イオリ、メルナ?気を抜かないでください』

 

 そんな中、二人の声が無線に乗ったのか、チナツが二人に注意する。

 それが聞こえた二人は、お互いの顔を見合わせ、少しはにかみ、無線に声を入れる。

 

「チナツは心配症っすねぇ~」

 

「そうそう、大丈夫でしょ。これ以上問題も起きっこないだろうしさ」

 

『二人とも……昨日も言った記憶がありますが、そういうのは態々口に出さないほうが……』

 

「いやいや、まさかそんな珍しいことが起こるわけないっすよ」

 

「二度あることは三度あるなんて言葉はあるけど……流石にね」

 

 その瞬間、街中に響き渡るサイレンの音。

 本来ならば、津波などの大災害時に使われるようなレベルのものだが……キヴォトスに置いては別の役割で使われることの方が多い。

 

「え゛……」

 

『はぁ……嫌な予感がしてたんです』

 

 それは、大規模な軍勢がこちらに迫ってきている際に使われるものだ。

 サイレンが鳴り止むと、風紀委員の無線へと連絡が入る。

 

『伝達!伝達です! ホテル裏手、スラム街に続く山道に現在、スケバン集団「破茶滅茶」と「びしょびしょヘルメット団」が集結中! その規模……千……二千……二個大隊以上です!!』

 

「あいつら仲悪かったんじゃなかったんすか!!」

 

『向こうから、通信が入りました!繋ぎます!』

 

 メルナの悲鳴の返事として流れてきた映像には、スケバン集団のボスとヘルメット団のボスが肩を組んでカメラに向かって中指を突き立てている姿が映し出される。

 

『私たちがどうして一緒にいるのか……今頃、さぞかし驚いていることだろう!』

 

『ふはははは!!あたしらは一時的に、不良同盟を結ぶことにした!』

 

『昨日は散々ボコしてくれやがって……』

 

『『ぶっ殺してやるからな、風紀委員共……それに、陸八魔アル!!!』』

 

 風紀委員会とアルのへたくそな似顔絵に赤いバツが書かれた看板を見せつけて、通信が切られてしまった。

 

「…………」

 

『何で私まで目の敵にされてるのよ!!!!』

 

 突如、風紀委員の無線の中に入ってきたアルの悲痛な叫びに全員が噴き出してしまったが、妥当である。

 何せ、アル一人でヘルメット団の保有していた秘密兵器である、攻撃用ヘリコプター10機を全て撃墜。

 キヴォトスでもそれなりの値段のするAH-1S。通称『コブラ』を全てスクラップ送りにしたのだから。

 さらに言えば、ムツキが行った事だが、ヘルメット団の保有していた戦車15台も同様である。

 

「しかし、どうしたものかね?兵器類はないかもだけどさ。片方だけでも面倒くさかったのに、連合でしょ?」

 

「それなら、私達と便利屋さんでやればいけるんじゃないっすか? これだけなら私達でもやれるっすよ」

 

『あの……それフラグじゃ……『伝達です!』』

 

 チナツが、苦言を零したタイミングで、再び新たな報告が入って来る。

 

『ホテル周辺に少数ではありますが、武装した何者かが接近中! 何やら袋を……とうもろこし?』

 

「……美食研じゃん!!!」

 

『通信をジャックしました!繋ぎます!!』

 

 そして、昨日聞いたばかりの声が彼女らの耳に入る。

 ある意味このタイミングで最も聞きたくなかった声でもある。

 

『お祭りだ~!!焼いても茹でても美味しいとうもろこしだよ~!やっぱりとうもろこしにはイチゴジャムとヌガーだよね~!!』

 

『フフフッ☆ようやくお祭りらしくなってきましたね』

 

『ほら!そこ食べることばっか考えてないで、売ること考えて!! っていうかとうもろこしにイチゴジャムとかヌガーを塗らないで!!』

 

『ふふふっ、テンションが上がってきましたわね……!! お祭り騒ぎにおけるとうもろこしの味は、その場の盛り上がりに比例する……この仮説を証明できる絶好の機会ですわ…… さぁ、もっと騒がしい夏を! 賑やかなお祭りを! そしてその先にある……究極の味を!!!』

 

 そして、通信は閉じられたが、全員唖然として、誰一人として喋ることもできなくなっている。

 そんな彼女たちに、更なる追撃が襲い掛かる。

 

 キヴォトスの常識だが、泣きを入れたらもう一発なのだ。

 

『すみません、もう一件ご報告です!また別の勢力が、スラム街に向かっているとのことで……』

 

「次から次へと……ってか、今回の登場人物は全員出てきたっすよね?」

 

 やけになり始めているメルナが、疑問を浮かべるとその回答として風紀委員会の防衛カメラにその勢力が映る。

 

『ハーッハッハッハッ!! 久しぶりだなぁ、風紀委員会!』

 

『はぁ~い!私達だよ!』

 

 赤い髪の少女に肩車される非常に小柄な黒髪の少女が映し出される。

 その快活な声と特徴的な姿に、風紀委員の背筋にひやりと汗がこぼれ落ちる。

 

「温泉開発部……!」

 

 ゲヘナ……否、キヴォトス屈指の問題児集団である温泉開発部。

 その部長である黒髪の鬼怒川カスミと、副部長の下倉メグが部員を引き連れて、この海岸まで向かっているのだ。

 

『なんでも、すぐそこのホテルのオーナーが、温泉事業に手を出すらしいじゃないか!つまりここには温泉が出るのだろう? 温泉があるところに我々はいる!いや、たとえ温泉がなくとも我々がいる!!』

 

『ぶちょー、海洋深層水の温泉がどうたらかんたら言ってたもんね~』

 

『あぁ、まぁそんなことは些事に過ぎない。さぁ、発破の準備をしよう!開発の開始だ!!』

 

『あっ、温泉が出来たら、ちゃんと無料チケットはあげるからね!じゃ、そういうことで!お邪魔すんね~!』

 

 彼女たちはそのままカメラを横切り進み続け、部員の群れが過ぎたと思えば……戦車やブルドーザー、ショベルカーの重機まで横断して……カメラを壊されてしまった。

 

『伝達!先ほどの不良連合の元に、ドロイド、戦車、ヘリも確認できました!』

 

『これは……? 他の地域から、別のスケバン集団たちもやってきています……あ、シートを広げて観戦する模様……その集団同士、席取りの関係で戦闘を開始しました!』

 

『美食研究会、大通りのど真ん中に、とうもろこしの屋台を出し始め……温泉開発部の部長と何やら交渉しています!』

 

 アコは、先生の演習から今に至るまで、こと情報処理と整理の速度、作戦の組み立てや指揮に関しての訓練を積み重ねてきた。

 

「……」

 

『…………。』

 

 たった数ヶ月程の時間。

 されど、学生にとってのその数ヶ月はとても長いもの。

 成功ばかりではなかったが、失敗も糧にしてアコは成長を重ねていた。

 

 しかし……

 この怒涛のイレギュラーと、ハプニングの連続。

 そして、人生最大の失敗の可能性を前に。

 

『……うっ』

 

 彼女の心は決壊した。

 

『うわぁぁぁああんっ!!こんなの、こんなの私にどうしろって言うんですかぁっ!?』

 

 無線がハウリングするほどの絶叫が聞こえる。

 まぁ、無理もない。

 そこらのチンピラや大組織それら一つ一つ相手にする程度であれば、どうとでもなる。

 しかしだ……今回は全員がそれなりの手練でかつ、同時に攻め込んできている。

 いくら訓練を積んできたとはいえ、アコの処理能力のキャパを超えて、お手上げ状態に近い。

 

「あ、アコ先輩落ち着いて……」

 

『これが落ち着いていられますか!!』

 

「な、何か方法があるって」

 

『方法も何も、あんなのどう解決しろって言うんですか!?』

 

 当然、やりようはあるかもしれない。

 ただ、先生にバレないようにするという屈指の鬼門を超えねばならない。

 早く決断を出さなければ、被害が増える一方。

 

『何が「ゲヘナで一番静かな海岸」ですか!? 今一番ホットでトレンドな場所じゃないですか!!』

 

 そんな中、無線の中に1人の声が入る。

 

『……ったく、ぎゃあぎゃあ喧しいな。お前さんは。冷静に戦局を見ろ。盾と矛の使い方は教えただろ』

 

『……冷静に……そうですね、それぞれの進軍速度にはバラツキがあります。だから抑えるのと叩くのをそれぞれバラして平行に進めていけば……』

 

 その落ち着いた口調に乗せられて、アコは息を整え、涙を拭い再度情報を整理して盤面を組み立てていく。

 

『少なくともお前さんの手に持つ矛と盾は一流だろう。なら扱いようでこの危機、征するのは容易だろ』

 

『えぇ、先生に研いでもらったのですから当然です。となると抑え叩くべきは……って、あれ?』

 

 さも当然のように無線に入ってきたその声の違和感にようやくアコの情報処理の手が届く。

 本来であれば、海辺を委員長と共に歩いているはず。

 

『もしそれで人手が足りねぇってのなら……』

 

 アルファ隊の元へと歩み寄る音が聞こえる。

 その先にいるのは、いつもの黒いスーツに着替えたキヴォトス唯一の先生の姿。

 

「『俺が手を貸してやる』」

 

『先生!?』

 

「驚いてる余裕なんざねぇだろ、ほらさっさと指示出せよ」

 

 ヒナと共に次元の姿が目に映り、驚く間もなく指示を出すように急かされるアコ。

 それどころでは無いと言いたげだが、時間が無いのは事実。

 アコが何故バレたのかと疑問を浮かべている様子を見かねたヒナが口を出す。

 

「アコ、大きな声出しすぎ……私の無線から先生に聞かれちゃったわ」

 

『あ、それで……不覚でした……っ、アルファ隊と幹部組!まずは不良連合を叩きに行きます!電撃戦を仕掛けます!』

 

「はい!」

 

『その間、ブラボー隊とチャーリー隊は他地域からの不良集団を抑えてください!』

 

『了解』

 

「便利屋、お前さんらは俺と一緒に温泉開発部と美食研究会を止めに行くぞ」

 

『えっ、あっ、バレてる!?』

 

 素早く指示を出したアコと次元はそれぞれの戦いの場へと走っていく。

 

 

 ────────────────────   

 

 ────────────   

 

 ──────

 

「ねぇ、先生。何時から気付いてたの?」

 

 美食研と温泉開発部がいるという座標に向かってるところで、ムツキに聞かれる。

 何時からか……

 

「疑問を感じたのは昨日の昼間。覚えのある神秘を感じたのと……確信に変わったのは、昨晩だな。 お前さんら昨夜のビュッフェの会場に居ただろ?」

 

「えっ……態々席遠くの場所選んだのに……」

 

「少なくともあれだけ綺麗な赤い髪の女は他に見た事ねぇからな」

 

 俺が走りながら答えると、隣を走るアルの顔が赤く染まっていく。

 こいつの反応は分かりやすいからな。

 随分と小気味いいもんだ。

 

「ぶー、イチャイチャしないのそこ!」

 

「し、しし、してないわよ!!」

 

「お前らそろそろ着くぞ」

 

 目標地点に近づくと、大きな爆発音と重機のエンジン音がけたたましく鳴り響いて聞こえてくる。

 そして、俺たちを迎える六人の人陰。

 先ほど通信が入った、美食研究会と温泉開発部の連中だな。

 

「おや?貴方は……噂に聞くシャーレの先生ですか?」

 

「そういうお前は、美食研究会の会長 黒舘ハルナと温泉開発部の部長 鬼怒川カスミで間違いないな」

 

「そうかそうか、噂通りの傑物だな。良い子のアルちゃんがついていくのにも納得がいく」

 

 どちらも初対面の人間だが……なるほどな。

 厄介な奴らだ。

 特に……カスミ、アイツの視線には嫌な記憶がある。

 人を見透かすようなそんな目つきで、計算高い女の視線だ。

 

「先生はどうしてこちらに?」

 

「成り行きだな。不良連合が殲滅されるまでの間、お前さんらを足止めするように頼まれててなぁ」

 

 美食研自体、普段の行いはともかくだ。

 今回はただ飯を売ってるだけに過ぎない。

 だからこいつらを捉える気はないが……温泉開発部に関しちゃ、止めねぇとここの土地が危ないからな。

 

 俺の理由を話した時、それを黙って聞いていたカスミが口を開く。

 

「ふむふむ……ならば、便利屋。我々と協力しないか?」

 

「何のつもりよ」

 

「見たところ先生、君はここに休暇に来たのだろう? であればだ。私たちの利害は一致していると思わないかい?」

 

「アル、聞くな」

 

「便利屋は、その手伝いと言ったところか? どうだい?私たちがここに温泉施設を作る。そこで休めばいいじゃないか。 私たちがその時間と場所を提供する。君たちはそこで思う存分、先生と共に休暇を満喫できる。win-winの関係だろう?」

 

 面倒な相手だな……こいつ。

 交渉技術に、相手の状況を一瞬で見抜く観察力……

 相当慣れてやがる。

 

 何よりも、アルはこういうのに引っ掛かりそうな……

 

「ふざけないで頂戴」

 

「ほう……?」

 

「あんたの推測は概ね正解よ。確かに私たちは先生を休ませてあげたい──「であれば」それでもよ」

 

 アルが真剣な顔つきで、懐から俺が何時ぞや渡したリボルバーを取り出し、その銃口をカスミへと向ける。

 どうやら、俺はこいつを見くびってたらしいな。

 

「他人から享受されたものに甘えるほど、私達の思いは軽くないわ」

 

 そして、アルは引き金を引き、カスミの背後に止めてあった重機をその神秘によって爆破。

 爆炎が瞳に反射し、輝く目を向けながら再び撃鉄を起こす。

 

「便利屋を舐めないで頂戴」

 

「交渉失敗。残念だよ、ところで先生はどうかな?」

 

「先にマコトから依頼されてるんでな。諦めてくれ」

 

 やれやれと首を振りながら、彼女は周りを指揮し始める。

 どうやら向こうも止まる気はないらしい。

 

「……ふむ、では私たちは向こうに」

 

「行かせるわけないでしょ、美食研」

 

「おや、カヨコさん。釣れないですね」

 

 どさくさに紛れて離れようとした美食研の前にカヨコとハルカが立ち塞がる。

 休んでたせいで凝り固まった肩をほぐしながら、俺はリボルバーを取り出す。

 

「はぁ……ったく、ここが俺の居場所だな」

 

「さっさと終わらせてバカンスの続き、しましょう?先生」

 

 二丁のリボルバーが火を噴き、戦いの幕が上がった。

 

 

 

『スケバン集団「破茶滅茶」および、「びしょびしょヘルメット団」の制圧完了しました!』

 

「あとは、こっちにヒナが来るまで抑えとくだけだな」

 

 戦闘開始から数十分が経った頃、無線に連絡が入る。

 流石、あいつらだな。あっという間に殲滅してのけたか。

 

 あとは、持久戦をしつづけるだけだと声を出すと、明らかに様子を変えた人物が現れる。

 

「ひ、ヒナ?今、ヒナと言ったかい?」

 

 カスミだ。

 顔色が悪く冷や汗を搔き始める。

 

「あぁ、もう少ししたらアイツが来るはずさ」

 

「ひ、ひええぇぇぇ……!! そ、総員帰るぞ!!」

 

「え、うーん……まぁ仕方ないか!じゃあねぇ~」

 

 血相を変えたカスミは急いでその場を離れていく。

 ……明らかな怯えと恐怖心。

 ヒナ相手であれば、妥当ではあるが……最後にチラリと俺を見つめてきたあの目……

 

 アイツ、さては本心じゃねぇな?

 

 どちらにせよ、これで温泉開発部は撤退した。

 あとは、美食研究会だが……

 

 カヨコ達と戦っていたはずの彼女らだったが、今のどさくさに紛れて完全に姿を消していた。

 

「カヨコ、アイツらは」

 

「ごめん、先生。見失った」

 

 カヨコですら見失うレベルか……

 なら無理もないか……

 

 どちらにせよ、これでこの海岸を襲ったハプニングは幕を閉じた。

 

 そして、この夏の合宿は終わりを迎える……はずだったが……

 

「さてと……お前さんら、一体どこから俺を嵌めてやがった」

 

「……その、マコト議長の時点から」

 

「あの野郎……怪しいと思ってたが……」

 

 俺は、オペレーションルームにて、幹部組と便利屋を呼び出し、聞き出しを行っていた。

 こいつらのお陰で、確かに休むことは出来たが……それはそれとして俺を嵌めてたのも事実だからな。

 

「まぁ、お前さんらのお陰で久しぶりに平和って奴を味わうことが出来た。そこは感謝してる」

 

「ふっ、依頼は完璧にこなすのだから当然ね」

 

「えぇ、風紀委員会としても先生に少しでも恩返ししたかったから──「但し」」

 

「これは、風紀委員会の夏合宿を横領してやったんだろ? 嬉しい気持ちは……まぁなくはねぇが、こういう私物化した使い方ってのは認められねぇ」

 

 ケチをつけたかねぇし、こいつらの努力を否定する気はさらさらねぇが……俺個人としてではなく、先生って仕事からしたら注意しなくちゃならねぇ。

 

「でだ。今マコトとホテルの支配人に連絡を入れた」

 

「え……」

 

「ここから2日間、便利屋との演習を行ってもらう。慈悲は昨日上げたからな。今度はねぇぞ」

 

 全員の顔が青く染まっていく。

 仕方ねぇだろ。

 

 俺は、マコトの依頼でここに来たんだぜ?

 アイツからの依頼はこうだ。

 

 夏季訓練の私物化をしてるのなら報告しろってな。

 

「せ、先生……?その私たちまで巻き込まなくっても……」

 

 アルが涙目で縋り付いてくる。

 可哀想だとも思うが……。

 

「元々、お前さんらと風紀委員会の演習は行う予定だったんだ。遅かれ早かれな。それに……俺に隠し事した罰だ」

 

「うわぁぁぁん!!!」

 

 どこまでも青く澄んでいる夏の空。

 

 この短くそして長い夏は、まだまだ終わらない。

 

「どうしてこうなるのよぉぉお!!!」

 




次元休暇指令 
~完~

という事で、アルオチです。
仕方ないね、オチ役に便利なんだもの

実は作者、カスミが好きなんですよね。特に声が……とある音MADで聞いて、一時期狂ったように聞いてました。とても好き。絶対に知能犯で演技派な強キャラだと思うんですよ彼女

他の二次創作をしている皆さま……このイベント、風紀委員会とヒナの強化クエをしてるとすごく書きづらいので……大変でした……
次の更新は、また少し遅れるかなと思いますが……いよいよ、エデン条約編三章に突入します。
作者が一番好きなスチルも出てくる章ですからね……そのために、あのルートを潰さずに残したのですから。
ではでは、また次のお話で……

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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