俺は隣を歩くサオリの姿を横目で見る。
かなり酷い傷だな……
左腹部と右大腿に、弾丸による裂傷と火傷。
足の動かし方からして、相当疲労も溜まっている。
よく動けてるなこいつ……
「サオリ、少しおぶってやろうか?」
「!?……必要ない……ただ、気遣いには感謝する」
気力で動かすにしても限度はある。
断られちまったが……少しでも寝かせねぇと、肝心な時に動けなくなっちまうかもしれねぇ。
そう考えていると、明らかに他の場所とは違う気配を感じる地点を見つける。
俺の視界に留まったのは、路地裏を封鎖するように立っている二人組のアリウスの生徒と、火薬と血の香りだ。
「ヒヨリっ!」
俺と同様にその地点を捉えたサオリの表情が一変し、鬼の形相で、銃を持って走り出す。
どうやら、仲間の神秘を感じ取ったらしい。
仕方ねぇ、援護に回るとするか。
「ん? なっ、貴様は!」
「錠前サオ……っぐぁ!」
アリウスの生徒が無線を使うよりも前に、一人を素早くサオリが銃撃し、もう片方の生徒がそれに目線を逸らしたその側頭部を俺の弾丸が捉える。
奇襲だったとはいえ、接敵から僅か一秒以内の決着……流石、スクワッドのリーダーだな。
「ヒヨリ、大丈夫か!」
サオリが声をかけると、路地裏の壁の隅から水色の髪の少女が顔を覗かせて、ゆっくりと歩いてくる。
どうやら、血の臭いは彼女が反撃した生徒とその際の返り血によるものらしく、動き方からしても怪我らしきものは見受けられなかった。
「リ、リーダー……どうしてここが……」
「あんとき以来だな、ヒヨリ。無事なようで何よりだ」
「…………………………」
俺が声をかけると向こうも俺の存在に気づいたらしく、目を少し見開いたあと石のように固まり、黙り込んでしまう。
前会ったときは、確かに殺し合った仲だが……サオリも同様だからな。
そんな驚くようなものでも……
「……え、ええっ!? シャ、シャーレの先生がどうしてリーダーと一緒にいるんですか……!?」
ヒヨリが大声で驚き、ワナワナと体を震わせて絶望したような表情をし始める。
こいつさっきまで死にかけた割には元気だな、おい。
その様子を見かねたサオリが、説明をしようと声をかける。
「それは……──「つ、ついに天罰の時がやってきてしまったんですね?やっぱり、私は終わりなんだ……」ヒヨリ?」
「そうですよね……よくよく考えてみたら、先生は私たちをアリウスから取り返したいですよね……自らの手で処罰したいでしょうから……」
俺を何だと思ってるんだこのガキは……
「私たちを捕まえて、シャーレにあると噂の地下牢に入れる気なんですね!シャーレに反抗した子達の啜り泣きが夜な夜な聞こえるという、曰く付きのあの場所に……! それで乱暴をする気なんですね!私知ってます!縄で椅子に括り付けて冷たい氷水かけられて、無理やり隷属関係を結ぶつもりなんですよね!!」
「そんなことしねぇし、そんな場所もねぇよ!!」
シャーレの地下にあるのは、牢屋ではなく、
夜な夜な聞こえるのは、啜り泣きでもなくただの笑い声と爆発音だけだってのにな。
「うわぁぁぁぁぁああん!!もう終わりです……まだやりたい事も、読みたい雑誌もたくさんあったのに……」
「人の話を聞け!」
前に戦ったときにも思ったが、こいつ図太いというべきか俺の反対意見を完全に無視しててめぇだけで会話してやがる。
あぁ、マイペースっていうんだったか?
サオリも、若干だが呆れたものを見る目でヒヨリのことを見つめているが、それでも彼女の口は止まらない。
「……仮にそうだとしても、リーダーが先生と一緒にいるのはどうしてでしょうか……? あぁ、私完全に理解しました」
「ヒヨリ……」
「リーダーは、シャーレの先生に脅されてるんですね!? あぁ、リーダーも苦痛だらけの人生で、可哀想に……」
「お前さん、いい加減落ち着け。俺が本気でやる気なら、てめぇが喚いてるうちにことを済ませるだろうが」
「はっ……た、確かに……では、なぜ……?」
俺の言葉がようやく届いたようで、ヒヨリは小鹿のように震えながらも首を傾げる。
「次元先生は、私たちの手助けをしてくれるんだ。ヒヨリ」
「えっ、ど、どうして?もしかして記憶喪失……いや、その顔のシワからしてついにボケが始ま゛っっ……いっ、たぁぁぁい!!!」
つい、ヒヨリの脳天に拳骨を墜としてしまった。
こいつ……本当に言葉のブレーキってもんがねぇな。
なんだ?失礼の権化か?
「アツコを助けたい。その依頼を受けただけだ」
俺がアツコの名前を出すと、驚いた表情をしたのちにアツコが立ち去って行ってしまったことを思い出し、やがて悲しそうな表情へと落ち浮く。
「そうだ、姫ちゃん……は、果たして私達で……姫ちゃんを助けられるんでしょうか……? 私は……リーダーの居場所を教えれば、アリウス自治区に戻れるよう便宜を図ると『彼女』に言われました……」
彼女は、少し考えたのちに……ベアトリーチェから裏切りの提案を持ち掛けられたことを話す。
内容から察せるが、嘘だな。
いや、一部真実ではあるのだろう。
戻れるという確約をしたわけじゃねぇ。
あくまでも便宜を図るだけ、どうせあとで駄目でしたとでも言って殺すのがオチだろう。
「わ、私はリーダーの言葉に従っただけの存在だから……まだ情状酌量の余地があるのだ、と言っていて……へへ……」
きな臭いことこの上ないな……
ベアトリーチェ、想像以上に汚い手も容易に使ってくる相手らしい。
セリカでも引っかからなそうな提案に、ヒヨリが乗ってないか不安になった俺は、ヒヨリに対して声をかける。
「おい、ヒヨリまさかそれに──「そうか……ならば、そうするといい」」
しかし、その言葉に被せるように、決意の籠った目をしたサオリが声を出す。
まさか、サオリ信じてるのか?
「えっと……?」
「私の居場所を『彼女』に伝えて、そのまま自治区に戻れ。そうすればヒヨリ、少なくともお前には迷惑は掛からない」
どうやら……こいつは、筋金入りの大馬鹿らしい。
「は、はい!?……わ、私は」
言った張本人であるヒヨリですら困惑しているが、サオリはヒヨリの肩に優しく手を置いて話し始める。
「いつかこんな日が来ると、分かっていた。お前は今までよく私に付き合ってくれた」
「サオリ、まさかお前さんこのベアトリーチェの提案が本物だって信じてるのか?」
「……違うのか?」
「大方、情報だけ毟り取られて、そのまま殺されるのがオチだぜ?」
俺の言葉をきいたサオリが動揺を見せる。
こいつ本気だったのか……
仮に戻れたとしても、裏切り者の烙印を押されたヒヨリがマシな待遇を受けれるとは思えねぇ。
余程、頭が回ってないらしい。
「あの、お二人共……その、もう断ったんですけど……」
恭しく、声を上げるヒヨリがそのままサオリの手を掴んで目線を合わせる。
「その、リーダー……何ですか?その裏切り者に理解を示すみたいなムーブ。私ってそんなに簡単に裏切ると思われてたんですか?」
マイペースな女だが、少なくとも自虐すら戦略にして俺から一本とった女だ。
そこまでのバカじゃないと思ってたが……サオリの対応に関してはかなりショックを受けてそうだった。
「先生の言葉で確信に変わりましたが……『彼女』が私を生かしておくわけがないと思いますし……それに、もう私達は同じ船に乗って運命共同体のようなものですし……それに、私一人が救われても、アツコちゃんは……」
今度はヒヨリが、サオリへと一歩前に出てその手を掴んで、決意の籠った目で見つめる。
どうやら、俺もサオリも、ヒヨリっていう少女の心意気を捉えられていなかったらしい。
「わ、私もみんなでアツコちゃんを……姫ちゃんを助けられるなら、その方がいいと思うんです……それは、リーダーだって同じじゃないですか? だから私を助けに来たんですよね?」
「あぁ、その通りだな……詳しい話は全員集まってからしよう。まずはミサキを探さないと」
「そうですね……ミサキさんなら上手く説明できるでしょうし……ミサキさんがどこにいるかは、何となく見当がつきます」
「あぁ、恐らくあそこだろう。行くぞ」
そうして帽子を目深に被り直し、サオリが歩き始める。
先頭を歩いているサオリの隣まで俺は歩き、そっと声をかける。
「リーダー冥利に尽きるな?」
「あぁ……自慢のメンバーだ」
恥ずかしがり屋らしいな全く。
一見表情はほとんど変わっていないが、よく見るとほんの少しだけ口角が上がっている。
サオリとヒヨリの案内の元、辿り着いたのはトリニティ自治区の郊外にある橋だ。
恐らく長くにわたって、整備がされておらず放置され続けたであろうその橋は、地面のアスファルトが割れており、照明もいくつか壊れている。
橋は川を渡ってかけられており、水面からおよそ50m程、かなりの高さだ。
「こいつは落ちたら一溜りもねぇな」
俺がそう呟くと、それに答えるように声が聞こえる。
「そうだね、それに下の川は水深5m以上はある……」
橋の手すりの上に危なっかしく立って、川を眺めていた人影が、照明の下へと歩いてくる。
そこにいたのは、サオリ達の予想通り、スクワッドのメンバーであるミサキだった。
「ここの川の流れは、秒速3m。落ちたら入水の衝撃と一緒に意識を落としてそのまま水底に沈むことになるだろうね」
「ミサキ……」
「ミ、ミサキさん……」
サオリとヒヨリが声を上げると、その二人と俺の顔を交互に見て、ミサキは大きくため息をつく。
その表情に浮かぶのは、落胆と諦めの色だ。
「リーダーにヒヨリ……そして、『シャーレ』の先生か…… そっか……そういう選択なんだね、リーダー。まさかリーダーが、ね……それに、先生もそれを受け入れたんだ……どっちにせよ、意外だったな」
情報分析が上手いとは聞いていたが、俺たちが並んでいる様子を見ただけで、何が有ったのかを粗方見抜いてるのだろう。
どこぞの眼鏡のガキが言っていたが、人の仕草や些細な服の汚れから多くの情報が取れる。
見るのと観察するってことは大きく意味が変わる。
ミサキは、そういう意味で、眼が良いらしい。
「でも、先生知ってる?私たちは『先生』を始末すれば、アリウス自治区に戻れる」
「あのベアトリーチェとかいう女の言う事を信じてるのか? お前さん、そこまでバカじゃないだろう」
「……そうだね、でも。この提案はヒヨリもサオリも持ちかけられたはず、そうだよね?」
俺の返事を聞いて、少し目を伏せてから、俺の後ろに立っているヒヨリとサオリに質問を飛ばす。
「わ、私が受けた提案は少し違いましたけど……」
恭しくヒヨリが答え、眼を閉じて考え込んでいたサオリがゆっくりと眼を開き、頷きながら答える。
「……あぁ、そう言われたな。先生を始末すれば私たちの裏切りを許す、と」
ヒヨリは、聞いていたが、サオリも同じことを持ち掛けられてたとはな。
それは初耳だった。
まぁ、下手に言って信用を失う訳にはいかないという判断だろうな。
「……いつ後ろから引き金を引くか分からないのに、先生は私たちを信用できるの?」
信用……信用と来たか。
なるほどな、実際に今サオリに隠し事をされていたことを、それらを踏まえて聞きたい訳か。
存外、頭が回るじゃねぇか……
「しかも、それが『かつて自分を撃った相手』なのに?」
「そうだな。確かにお前さんらには一度殺されかけた……いや、一度死んでるらしいな俺は」
「……」
サオリの眉間に皺が寄る。
辛そうな顔すんじゃねぇよ。
「ただな、ミサキ。終わったことはみんな笑い話さ。ガキが血迷うくらいあるもんだ」
「それで、前科のある私達を許すつもりなの」
「許す許さねぇの話じゃねぇよ。俺のような真っ赤な手の悪党が、先生なんざやれてんだ。 若いお前さんらは、まだやり直せる。許される道が残ってる。 ならよ、大人ならせめて背中押してやる事くらいはしてやんねぇとな」
「そっか……」
そういって、ミサキは一歩川へ向けて足を進める。
「じゃあさ。変わる気のない子はどうするつもりなの?」
「止めはしねぇさ。ただ……対応は変わるがな。ガキ扱いはしてやれねぇ……で?ミサキ。死ぬつもりか?」
「姫を救うのは無理。 アリウス自治区に潜り込んでどうするの?姫がいるバシリカに辿り着くために、四人で戦うの?アリウスの全生徒と?しかも日が昇る前までに? 『彼女』は、私達すら知らない兵器を用意してるはず……そんなの、私達だけじゃ、不可能だよ」
そう彼女はつらつらと出来ない理由を並べていく。
よくもまぁ、止まらないもんだ。
「もし仮に、アツコを救出できたとして、そこに何の意味があるの? 帰る場所のないこの世界に取り残されて、泥水を啜って生きるだけの……この無意味で苦しい人生が続くだけでしょ? 苦痛ばかりだった姫の人生を引き延ばして……そこに価値があるの?」
しばらく流れる沈黙……少し考えたのちに、俺は口を開く。
「そんなもの、生きてみりゃ分かる……アツコは、自分を身代わりにお前さんらを生かしたんだろ。それは、嫌がらせをするためだとでも思ってるのか?」
「それは……」
「なら、サオリが何でアツコを助けたいのかなんざ、分かるだろ。やれるやれないじゃない、お前さんはどうしたいんだ」
俺からの問いに、ミサキは悩む。
彼女の心を縛るベアトリーチェの洗脳教育。
全てはただ虚しいだけ。
恐らく、ゲマトリアのやり方から考えるならこれも歪まされたものかもしれねぇな……
自身の心の声と無駄だ意味がないと話す感情の揺らぎで、彼女の足取りが覚束なくなる。
早めに、下ろしてやろうと近寄った瞬間橋を横断するように突風が吹き、ミサキの体が川の方へと吸い込まれていく。
「あっ……」
ミサキの呆気ない声と共に倒れていく彼女が伸ばした手を……
「ミサキっ!」
「ミサキさんっ!」
駆け出したサオリが手を掴み、自分の方へと抱き寄せる。
どさりと倒れながら、サオリはほっと一息つく。
「リ、リーダー……」
「ミサキ。命令がいるのなら私が下す。私にはお前のチカラがいるんだ。だから……頼む、姫を救う手助けをしてほしい」
恥ずかしそうにサオリの抱擁から離れたミサキは、黙ったまま頷くことで答える。
しばらく恥ずかしそうにしているミサキだったが、やがて落ち着き始め、いつもの様子で話し出す。
「……じゃあ、早く行こう……残された時間は約90分。それまでに入り口に辿り着かないと」
「あぁ……詳しい説明は道中で行う。それでいいな、ミサキ」
ミサキとサオリが戦闘体勢であるマスクで口元を隠し、走り始める。
どうにか……これでアツコを除いた全員が揃ったわけだ。
あとは……アツコの元に辿り着き、救助。
ついでにベアトリーチェの脳天に鉛を馳走しにいってやるだけだな。
そんなこんなで走りながら、俺はコッソリコピーしてたカタコンベの地図をミサキに投げ渡す。
俺たちにはただの地図に見えるそれも、アリウスの彼女らなら何か別の読み取り方が出来るんじゃないかと踏んでの行動だ。
「なにこれ……うわ、凄い古い地図だね……あ、これすごいよ……全ルートが書き記してある」
「ホントか!」
「うん……今使えるか分からないけど……でも300か所ある入り口……それらが正解だった場合の、それぞれの正しい道のりと変化パターンが暗号で書いてある」
俺たちが読んだときはそういう風には見えなかったが……まさか特殊な読み方か、暗号パターンが刻まれてるのか?
「後で、教えてくれるか?」
「うん……まずは、私たちの知っているルートを目指そう」
何でもサオリ達の話によると、いくつかあるルートのうち、逃げ出した猟犬である彼女らが使えるルートがあと一時間後には使えなくなっちまうらしい。
普段は暗号で知らされてるらしいが……まぁ、彼女らに教えられているはずがないからな。
そうしてそのルートに向かって走っていると銃弾がヒヨリの足元に着弾する。
まるでここから先は通さないとでも言いたげにな。
「居たぞ!!『スクワッド』だ!」
「……まぁ、あっちも同じことを考えるよね」
「戦闘準備」
サオリが冷静に号令をかける。
元仲間であるとは思うんだがな……仕方ねぇ、これも成り行きだ。
「俺とサオリで、前衛を張る。ミサキとヒヨリで援護頼んだぜ」
「あぁ、先生のプランで行こう……手負いの猟犬の意地、見せてやろうじゃないか」
サオリと俺が走り出すと、同時に前方の4人の生徒が銃を構える。
銃口はサオリの方を向いている。
先に手負いの方からって訳か。
伊達に訓練されていた訳じゃねぇ。
とは言え……俺から完全に視界を外すのは頂けねぇな。
腰にしまってあるマグナムを取り出し、早撃ちの四連射を行う。
放った弾は回転を伴いながら、真っ直ぐ飛び、アリウス生徒のガスマスクを割りながら眉間へ着弾する。
「……敵だと脅威だが、頼もしいな」
「はっ、貸一だ」
サオリの言葉を笑い飛ばしながら、先に進む。
その奥からゾロゾロと他の生徒が走ってくる。
どうやらそれなりの数回されてるらしいな。
「さっさと突破するか」
「あぁ、そうだな……ヒヨリ!」
「は、はい!!」
サオリが少ないハンドサインをヒヨリへと飛ばすと、背中に背負っていた荷物を下ろし、それを台替わりに対物ライフルを構える。
そこに込められていく神秘を見て、俺とサオリは道の端に飛び退く。
そして放たれる20mm口径の火力によって、敵陣を一射の元に風穴を開く。
「増援が集まるよりも前に早く行こう」
ミサキの掛け声と共に、俺たちは走り始める。
しっかし、カリンもそうだったが、神秘を込めただけでここまで強力な射撃ができるもんなのか?
まぁ、俺も人の事は言えねぇか……
そうやって風圧で吹き飛ばされて、道の隅で伸びている奴らを目の端で、見ているとモゾりと立ち上がろうとする姿を見つける。
「っ、ぅぐ……」
まだやる気なのかと銃を構えるが、引き金を引くのに戸惑いが生まれる。
俺の視点が彼女の手に持っているものに留まったからだ。
そいつの手に持っているのは小型のスイッチのようなもの。
あの系統には見覚えがある……ロビエト連邦で出会ったもう1人のルパンが使ってた……
まさか、ガキにそんなことをやらせるつもりか!?
「てめぇら走れ!!」
「なっ!?」
俺の叫び声を聞いて、振り向いたサオリ達の目にも映ったのだろう。
彼女がまさにスイッチを押そうとしている姿が。
押させる訳には行かねぇと、引き金を引いて彼女の親指を吹き飛ばす。
自爆に比べたらマシのはずだ。
ただ俺は見誤っていた、目の前の生徒が持つイカれた狂気を。
そのレベルにまで洗脳したベアトリーチェの悪意を。
「……死ね、スクワッド」
そのアリウス生徒は、手に持ったスイッチを逆手に持ち直し、地面へと押し込む。
それと同時にカチリと何かが作動する音と炸裂する爆炎の臭い。
アロナのバリアで、火傷と炸裂した破片による裂傷は防げたが、かなり近くで爆破の衝撃を食らってしまったがために、前を走っていたはずのサオリ達の近くまで飛ばされる。
「……っ、イカれてやがる」
「いよいよ、出し惜しみしないと言うわけか……」
サオリは、帽子を目深に被り直しながら、その爆炎を見つめ、再び走り出す。
ベアトリーチェ……このケジメはつけさせねぇとな。
俺は、その爆炎を目に焼き付け、炎に背を向けて彼女達の後を追った。
やがて、俺たちは一つの地下通路へと入り込む。
「ここは、随分と古いな」
「うん、ここは昔からある地下道、この先にカタコンベの入口がある」
俺がつぶやくとそれに対して、ミサキが答えてくれる。
「この道はみんな知ってる場所ですので……」
「あぁ、間違いなく準備されてるだろうな」
さっきの自爆……下手すりゃ全員が持っている可能性が高い。
酷いことしやがるが……本人にスイッチを押させなきゃどうにかなる。
つまりだ、確実に意識を失わせりゃ、押される心配は無いだろう。
「……とは言え、迂回路もないし他の道を探す時間もない」
「あぁ、強行突破するしかない。この先には訓練されたエリート兵しか居ないはずだ……」
そんなエリート兵を使い潰すようなことをしないはずと暗に考えてるのだろうが……それは無いな。
何せ、一番強ぇはずのお前らがこうやって使い潰されようとしてたんだ。
あの自爆ベストを支給されてないはずがない。
「サオリ、どちらにせよ全員の意識だけ奪っちまえばいいだけだ」
「……そうだな」
……取捨選択ってのはそういうもんだ。
こいつの若さでそれをさせるのは酷な話だと思うがな。
しばらく歩いていると、地面に空のマガジンや、撃った後の薬莢が散らばっている。
待機していると言う割には随分と静かで、それに散らかっている。
薬莢を手に取るとほんのり熱が残っている。
「これは……」
「どうやら、先客がいるみてぇだな……」
さらに歩いていくと、壁に埋め込まれて下半身を垂らして気絶しているエリート兵を見つけ、そこからゾロゾロと気絶しているアリウスの生徒達が横たわっている。
一応脈をとったが命を取られたわけでも無さそうだ。
「一体誰が……?」
「ま、まぁでも戦闘しなくて済んだのは良かったんじゃ……」
「そいつが俺らの味方なら、な」
どの兵士達も一撃で仕留められている。
弾痕らしきものもあれば、殴打痕が残ってるものも。
余程の怪力の持ち主と見るべきか……
さらに奥へ進んでいくと、二つの人影が見える。
いや、正確に言えば、片方の人物によって首を掴まれ持ち上げられている姿……か。
そして、月明かりが差し込み、その持ち上げている人物の姿が映る。
白い翼を彩る月の装飾品と美しく長い桃色の長髪。
そして、渦巻く銀河を表すヘイロー。
その少女は、爛漫な笑顔をこちらに向けて、話し出す。
「……悪役登場☆ってところかな? ここに来ると思ってたよ☆」
そして、目を開き、ドス黒い圧の掛かった声で、宿敵の名前を呼ぶ。
「……錠前サオリ」
「聖園、ミカ……」
手に持っていたアリウスの生徒を投げ捨てて、彼女は銃を手に取り、こちらに歩み寄ってくる。
その笑みと足取りはまるで……御伽噺に出てくる魔女のようだった。
足取りは重く
その手は血に汚れ
次回 昔話をしよう
魔女ミカほんと好きなんですよねぇ……どうしようもないくらい愚かで、どうしようもないほど純粋で。
あと、以前感想で頂いたアイデアを少し使わせてもらいました……いやぁ、ね。
描写弱めてますが……この小説はR15の残酷な描写ありですので、悪しからず……
ではでは、感想、ここすき、評価もしよろしければお願い致します
今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か
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例:殺し屋の矜持
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例:1-10
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例:1-10 殺し屋の矜持