新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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3-5 昔話をしよう

「ミカ……お前さんどうしてここに」

 

 俺は歩み寄ってくるミカに対して声をかける。

 情けねぇことに、動揺を丸出しでな。

 しかし、ミカは俺の声が聞こえてないのか、銃を持つ腕を力が抜けたようにダラリと垂らしながら、焦点の合ってない瞳でこちらを見つめている。

 

「……あはっ……あはははは!!ねぇ、どうしたの?錠前サオリ。会えて嬉しい……って顔じゃなさそうだけど」

 

 彼女は今、サオリの事しか見えてない。

 

「そんな、魔女でも見たみたいな顔しちゃって」

 

 そう声を出すと彼女の姿が消え、大砲が放たれたかのような衝突音が空間に響き、背後の壁に何かがぶつかる。

 舞い上がる土煙の中から水色の髪が見え、ヒヨリが一撃で倒された事実に気が付く。

 

「……ヒヨリ!!」

 

「あははは☆ねぇ、愚鈍な女だと侮ってた?まぁ、そうだよね。掌の上で転がせたんだしさ。それでもね、貴女達の暗号ぐらいは分かるんだから」

 

 サオリの叫びを無視して、ミカは喋り続ける。

 吹っ切れてるなんてもんじゃねぇ。

 明らかに頭がイカレてやがる。

 

「入り口が閉まるまで、残り40分……先生がいるとは言え、戦うのは無謀だよ。リーダー」

 

「集合場所とか、拠点とかもまだ覚えてる。こう見えても、クーデターを起こした張本人だからね! あはは……多分、バカだと思われてたみたいだけど……利用しやすかったかな?まぁそれは否定できないかなぁ」

 

 ミサキがサオリに耳打ちしている横で、ミカは喋り続けている。

 今になってようやく感知出来るようになったが……あのヒエロ二ムスが比にならないほどのエネルギー……神秘が彼女に集まって、そして放出されているのが分かる。

 

「ヒヨリを置いてはいけねぇだろ……とは言え、あれから逃げるのもな……」

 

「あぁ……やるしか、ないな」

 

「ねぇねぇ、私の話聞いてるの?無視? 無視って酷くない?これでも一緒にクーデターを起こした仲なのにさぁ……それってさ?仲間はずれって事だよね!」

 

 ミカがこちらに向かって肉薄する。

 防御を微塵も考えてねぇ、そんな走り方だ。

 

 しかし……困ったな。

 ミカを殺してでも止めるのなら、間違いなく『あれ』をしなきゃいけねぇ。

 ただ、アイツは俺の生徒だ。

 だから……マグナムは極力使いたくねぇんだが……

 

 ミカは真っ直ぐサオリへと突貫する。

 サオリも同様にミカを引き付けようと立ち回り……その様子を見ていたミサキがヒヨリを担いだ瞬間。

 ミカの顔がミサキの方を向く。

 

 マグナムを抜いて、ミカへ構え、引き金を引く。

 発射された弾は、真っ直ぐミカの元へ向かい……

 

 空中で何かに当たり、地面へと転がる。

 

「マグナムが効かねぇ……!?」

 

 ミカはそのままミサキの首を掴み、地面へ叩きつけ、彼女を盾にするように持ち上げて、サオリの方を向く。

 

「ねぇねぇ。油断したんじゃないの?私がサオリだけ狙うと思ったんでしょ……あはは☆私よりも頭回ってないんじゃない? 安心して?貴女達のことも恨んでるからさ。 ほら、どうしたの?サオリ。早く撃ちなよ……まさか、撃てないの?」

 

 撃てないというよりも、俺のマグナムが止められたことを目撃して、それへの対応で頭を悩ませているのが正しいだろう。

 今のは、無意識下でやったことなのか?

 だとすれば、厄介だが……

 

 それよりも、今はミサキの救出を考えるべきか。

 あのままじゃ首を折られる。

 

「あは……あははははは!!! まさか、仲間が大切なの? まぁでもそうだね、どんな屑にも大事な存在っているよね。うんうん、私もそうだから分かるよ……貴女達が殺そうとした、セイアちゃんの事なんだけど」

 

 この様子からして……恐らく、ミカは何かしらのことが原因で、スクワッドへの恨みと怒りが爆発しちまった……ってところか。

 だから、俺が見えてなくて、他のスクワッドは見えている。

 現に、俺以外に向けてさっきから喋ってるからな。

 

「知ってる?セイアちゃんってさ、人を怒らせる天才なんだよ。何回グーパンが出そうになったか分かんないくらい! でも……不思議だよね。普段は嫌な奴って思ってるのに、いざ怪我したら心配なの。 大丈夫かなって不安になっちゃうの」

 

 ミカはずっと喋っている。

 絶えず絶え間なく。

 そうしないと、壊れちまうかのように。

 

「セイアちゃんが死んだって聞いた時は、すごく辛かった。 ……変だよね。あんなに話すだけでイライラするのに、ちっとも嬉しくなかったの……そりゃあセイアちゃんのことは嫌いだったよ?ワケ分かんない事ばっかいうし。 それでもね、私にとっては大切な人だったの。死んでほしいわけじゃなかった。人殺しになるつもりもなかった」

 

 彼女は、目を伏せて、悲しみに暮れた表情で。

 ちっとも笑えない笑顔で、サオリの方を向く。

 

「嘘をついてまで、私を止めようとしてたのに、もう……全部、ぜーんぶ無駄になっちゃった」

 

「っぐぁぁあぁぁああ……!!」

 

 そういって、ミカはミサキを地面に倒し、その背中を踏みつけて、彼女に銃口を向けて三発銃弾を浴びせる。

 まるで命令を聞かない世話係に対して躾を施すかのように、残忍に甚振る。

 

「私は……ちょっと痛い目に、みたいなことを言ったよね? いつヘイローを壊せなんて言ったのかな? まぁ、私もアリウスの子達と一緒に勝手に暴れて作戦を台無しにしたし、今更被害者面するの?って感じだけどさ……」

 

 彼女は、銃口をミサキの頭に押し付けながら話す。

 私の話を聞けと言いたげに。

 

「私の……大切なもの……ぜーんぶ、無くなっちゃったんだよ? 学園も……友達も……宝物も……帰る場所も……先生と、親友との約束も…… 明日になったら、私も前を向いて生きていけるのかなって、そう信じてたのに…… そんなものは御伽噺の中だけだった……あはは……運命はもう決まってるみたい」

 

「っあ……」

 

 鈍くすり潰すような音と共にミサキの頭に突き付けられた銃口が更に強く押し込まれる。

 

 ミカの狙いが分かった。

 だが、それだけはさせちゃいけない。

 それをしちまったが最後、ミカは二度と世界から許されない魔女になっちまう。

 

 ミカは俺のことを見ちゃいねぇ、だからこそ……覚悟を決めるべきなのは俺だ。

 

 歩きながら、俺は懐から取り出した弾を装填する。

 

「だからさ……『スクワッド』、特にサオリ。貴女達も私と同じ痛みを受けなきゃね。 私が失った分だけ、貴女達も失ってよ。そうじゃないと……不公平でしょ?」

 

 普通の弾じゃ止められちまうし、効かない場合すらある……。

 こいつは特別製だからな。

『.357Kaiser弾』

 俺が保有している理事長の二つの身体から採取した合金を使用した特別製の弾丸。

 死ぬことはねぇだろうが……止めるためには使うしかねぇ。

 

「……!!」

 

 ミカが引き金を引こうとした瞬間、銃声が響き、ミカが横に飛ばされる。

 サオリが驚いた表情をしたのは、俺がミカの頭の横に銃口を置いて、その引き金を引いたからだろうな。

 

 こんなんでくたばるようなタマじゃねぇのは、分かってる。

 だが……いい気付けにはなったろ。

 

 この時、止まったミカを近くで見ていたからこそ気が付いたが……ミカのヘイローに僅かなヒビが走っていた。

 あの動きからして、死にかけてるようには見えなかったが……

 

「っっっったい!!誰!!邪魔するのは!!」

 

「俺だ」

 

「……え、せ、先生……な、なんで」

 

 倒れ込んだミカが俺を見上げると、ようやく視界に映ったのか、動揺を見せる。

 そして、その表情に絶望の色が浮かぶ。

 

 ここで、ようやく俺とミカの目が合った。

 

「ミカ……何があったのかは聞かねぇ。だけどな……それだけはやるな」

 

「っ……ねぇ、なんで……どうして先生が『スクワッド』なんかと一緒に……うぅ、どうして……どうしてこんな、よりによってこんな姿を見せることに……」

 

 俺の言葉が届いているかは分からねぇが、一瞬の間の後に、今にも泣きそうな表情で呻き始める。

 見ちゃいられねぇ……

 よく見ると、先ほど見つけたヘイローのヒビが広がっているのが見える。

 まさか……心理状態とも関わりがあるのか?

 

 俺がそう分析していると爆発が俺たちを襲い、その奥から声が聞こえる。

 

「居たぞ!こっちだ!」

 

「聖園ミカもいるぞ!撃て!!」

 

「ちっ……ミカ!説教は後だ!先にトリニティ……それが無理ならシャーレに帰れ!」

 

「先生、時間が無い!走るぞ!!」

 

 サオリに呼ばれた俺は、気絶から目覚めたばかりのヒヨリとミサキを立ち上がらせてから、カタコンベに入る。

 ミカにもう少し時間を使ってやりたいが……こっちも人命が掛かってる。

 

 立ち止まるミカを背に俺たちは進み続ける。

 どうやら、追っ手はミカの対応をしているせいか、少し遅れているらしいな。

 

「はぁはぁ……ぎ、ギリギリセーフ……ここから先は、電波も通じないから……道に迷ったら終わりです」

 

「電波もか……」

 

 ヒヨリの言葉を聞いて俺は少し不安に感じる。

 アロナに頼んで送ってもらったメール達が届いているといいんだが……

 

「この先がアリウス自治区だ。行こう」

 

 そうしてしばらく歩いていると、どうやら目的地に着いたようで……ヒヨリを先頭に外へと出る。

 どうやら墓の一つが出入口になっているらしく、外に出た先に待っていたのは寂れた遺跡だった。

 壁の構造や造りからして、教会の跡地か?

 

「ここが……アリウス自治区か」

 

「……昔はそうだったけど、今はただの跡地だよ。 本当の自治区はもう少し先。 でも、私たちが向かっていることがバレてるから、そう簡単には近づけないと思う」

 

 少し歩きながら、ミサキはそう説明してくれる。

 話している横で、ヒヨリが語り出す。

 

「……ここは訓練場でした」

 

「妙にこびりついてる硝煙はそれか」

 

「そう、元は遺跡だったんだけど、内戦が終わった後は訓練場としても使われてたの」

 

 ミサキが言葉を継いで説明をする。

 内戦か……アリウスもどうやら一枚岩じゃなかったのか……?

 それとも……ベアトリーチェに関わることなのか。

 どちらにせよ、ろくでもなかったのは間違いないな。

 

「10年くらい前、アリウス自治区の内部が二つに分かれて起きた戦争……私達と同年代のアリウス生ならみんな知ってる」

 

 俺はそのまま、ミサキの言葉に耳を傾ける。

 その様子を察したのか、ミサキは少し溜息をつく。

 

「……話してもいいんだけど、あまり面白い話じゃないし……今回の任務とは無関係だよ」

 

「嫌ならそれで構わねぇよ、ただあれだ。こういう仕事を受けてる以上は無知じゃいられねぇってだけだ」

 

「そう……」

 

 ミサキがそう目を伏せ、その様子を見ていたヒヨリが口を開く。

 

「私、覚えています……アズサちゃんと初めて会った場所がここでしたよね」

 

「…………」

 

「どの訓練だったかな……射撃か、爆弾製作か……。 大人の『命令』に従わなかった子が、酷く殴られていて……周囲はみんな、見てるだけで……でもその子は何度も起き上がって、ずっと大人を睨んでました」

 

 アリウスの教育環境の劣悪さは、前に聞いてはいたが……

 まるで戦争に備え兵士を育成する……いや、兵士を造るための場所といったところか。

 俺は古い人間だが……ガキに対してそういう扱いをするのは気に食わねぇな。

 

 そして、その従わなかった子が……アズサなんだろうな。

 

「このまま放っておいたら、その子のヘイローが壊されてしまいそうだったのに……でも、私は怖くて動けなかったんです……。 そんな時、サオリ姉さん……いえ、リーダーが走ってきて──「……思い出に浸るのは後にして。今は任務に集中するよ」……」

 

 その頃から、サオリは仲間思いだったようだな……

 ただ、それがいざとなった時に仲間を撃ち殺せるほどの冷酷な判断を手に入れてしまう程に、ここの教育によって変わってしまったのだろう。

 

 俺が、サオリの方を向いて、考え事に浸っていると、サオリの様子がおかしいことに気が付く。

 ふらついて、今にも倒れそうな……

 

「ミサキ、ヒヨリ。少し休むぞ」

 

「なっ、先生……時間がないんだ……先に進まなくては……」

 

「……うん。そうだね、少し休憩を挟もう」

 

 サオリだけが反対する中で、俺の言葉でサオリの異変に気が付いた二人はうなづいて、物陰のある場所で座り込んで休憩をすることにした。

 

「先生……私はまだ……」

 

「その熱と体で戦えるわけがねぇだろうが、寝てろ」

 

「ぐっ……」

 

 サオリをミサキに預けて、俺は懐からアンプルに入れられた解熱鎮痛剤を取り出す。

 物騒なのもあってな、ミネとセナに持たされてる常備薬の一つ。

 普段は、胸ポケットの中にあるシャーレの紋章の中に収められている。

 

 手際よくそれを開封し、同じく常備してる注射針を使ってサオリに投与する。

 

「……そんなもの持ち歩いてるんだ」

 

「心配性の医者がいてな、そいつらに持たされてるんだ」

 

「……先生、ありがとう」

 

 サオリは四日間休むことなく、動き続け、怪我を負っても治す暇もなく戦い続けた。

 その無理が祟ったんだろう。

 こいつの生真面目さには呆れたもんだ。

 

「……お前さんらも寝とけ。番は俺がやっといてやる」

 

「それは悪いよ。先生、体弱いんでしょ?先に私がやるよ」

 

「でしたら、その後に私が……」

 

 敵地とは言え、少しは体を休めないといけない。

 ガキに譲られるのは、情けねぇもんだが……ミサキの強い目線を感じて、俺はその提案を甘んじて受けることにした。

 

 俺は壁に寄りかかって座り……少し目を閉じる。

 

 

 

 

 

 声が聞こえる。

 

 ──先生、私の声が届いているかい……?

 

 聞き覚えのある声だ……

 セイアか?

 

 ──私の声が届いているのなら……どうか……耳を傾けてくれ……

 

 今までのような茶会の場でもない、何もない殺風景な白い空間で、セイアが一人喋っている。

 これは、対話ではなく、セイアからの置手紙だと言うことに気が付くのにはそう時間はかからなかった。

 

 ──私は今、夢でも現実でもない狭間の世界に閉じ込められている……いつまで此処に留まれるのか、定かではない。

 

 ──時間があまり残されていない……先生に、今の状況を伝えなければ……

 

 セイアは、俺に向かって、頭を下げる。

 その肩が震えていることから……彼女が泣いている事にも気が付く。

 

 ──私は……二つ、過ちを犯してしまった……

 

 ──一つは、夢の中でゲマトリア……彼らの会議を識ってしまった……明晰夢の中で、ベアトリーチェに私は見つかってしまい……彼女が起こそうとしている儀式。その向こう側にいる存在と接触してしまった……あれはキヴォトスの終焉を招くものだ。

 

 ──二つ目に、その終焉に接触し、恐慌状態に陥った私は……ミカを責め立て、弁解する間のなく……身体が崩れ去って行って……

 

 彼女の瞳からポロポロと涙がこぼれているのが見える。

 ミカがあぁなってしまった理由にも説明がついた……

 

 だが、俺はこいつを責め立てる気にはなれなかった。

 

 ──私はいつも……あの子を傷付けてばかりだ……私のせいで……ミカは己を責め、取り返しのつかない罪を犯そうとするだろう……私の尻拭いをお願いして、申し訳ない……彼女を、私の友達を止めてくれないだろうか……?

 

 そして、セイアから俺は依頼をされる。

 全く、こういうのは困るんだがな……。

 受ける以外の選択肢がねぇじゃねぇか。

 

 ──ベアトリーチェは、キヴォトスの終焉を望んでいる。そして其の過程で、アリウススクワッドのアツコは、命の花を散らすだろう。

 

 ──そして、ベアトリーチェの狙いは……貴方だ。機会を逃すことなく殺しに来るだろう。

 

 ──……私は、ここを何とか脱出し、その後ナギサと他のみんなの力を借りて、ミカを取り戻すよ。今度こそ、伝言ではなく、私自身の口で顔を付き合わせて彼女に謝りたいんだ。

 

 ……セイアの姿が希釈していく。

 どうやら、メッセージはないようだが……そうか、なら俺の仕事は決まったな。

 ミカ、アイツの手をこれ以上汚させない。

 そして、アリウススクワッドに協力してアツコを助け出す。

 

 全く、二つの仕事を同時にこなさなければならないとは。

 先生の辛いところだな。

 

 そうして、俺の意識が浮上していく。

 

 目を覚ますと、ミサキとヒヨリが俺の顔を覗き込んでいた。

 

「……ごめん、起こした?」

 

「せ、先生大丈夫ですか……?」

 

「あぁ、問題ねぇよ……それで……サオリはどうだ?」

 

 俺がサオリの方を探すと、近くの物陰で、服を畳んで枕にして寝かされていた。

 どうやらマシにはなってるみたいだな。

 

「解熱剤が効いたみたいで、もう熱はありません。今は眠っています」

 

「といっても、いつまでも休んでいるわけにはいかないけどね。まだ追手は来てないから……あと30分くらいしたら出発しよう」

 

「そうか……お前さんらは寝なくていいのか?」

 

 二人は俺の質問を聞いたのちに顔を見合わせて何かアイコンタクトをしている。

 それが済んだと思えば、うなずき、話始める。

 

「私たちは大丈夫……ありがとう、先生」

 

「そうか、それなら……さっきの話の続き、聞いてもいいか?」

 

「……それも先生の仕事ってこと?」

 

「まぁ、そんなもんだな」

 

 俺が言葉を零すと、ミサキたちは嫌々ながらも話し始めてくれる。

 彼女たちの過去のお話を。

 

「最初の記憶は、長年続いた内戦の終わりを宣言する『マダム』の姿。私たちは幼かったから、内戦のことも『マダム』の事も、何一つ知らなかった。ただ、そうなんだ、って漠然と受け止めていた。 『マダム』は自分がアリウスの新たな生徒会長であり、主人であり、支配者だと言ってた。そうして、残っていた生徒に多くの事を教えるようになっていったの」

 

 内戦が大体10年前……

 その頃からベアトリーチェは、アリウスと接触していたのか。

 いや……内戦の片側に協力でもしていたのか?

 

「……VanitasVanitatum. (全ては虚しい。)EtOmniaVanitas(何処まで行こうと全てはただ虚しいだけだ)様々な戦闘技術……そして『全ては虚しいもの』という真理……」

 

「わ、私達が経験する苦痛は全て『トリニティ』のせいで……『ゲヘナ』は、そもそも共存できない存在だと教えられました……」

 

 俺の手に力が入る感覚がする。

 あぁ、こいつは……想像以上にクソだな。

 独裁者として最悪だ、ベアトリーチェは。

 

「わ、私たちは、誰かを憎み嫌う『殺害の意志』を持っているから……『人殺し』と同じなのだと……そして、この自治区以外に、『人殺し』の居場所はない、とも…… 『彼女』は、自分こそが真実を教える真の存在であり、生徒達が従い、尊敬すべき大人なのだと言ってました…… そ、それを大人の話だから……疑うことなく、受け入れてました」

 

 ベアトリーチェのやった行いは、殺人と何ら変わらねぇ……いや、幼いガキ相手にしている分、よりタチが悪い。

 てめぇの言う事のみ信じる都合のいい兵士に育て上げる。

 外道の行いってもんだ。

 

「みんな、その教えに従ってました。 反抗すると、怒られるから……アズサちゃんとか、姫ちゃんみたいに……」

 

「そうか……」

 

「ひっ……!?せ、先生……そ、その殺気、と顔が……凄いことになってますが……!?」

 

「ね?言ったでしょ……面白い話じゃないって……」

 

「怖い……大人って怖いです……」

 

 二人の言葉で、相当俺が頭に来てたことに気が付き、冷静さを取り戻す。

 これは漏れ出すもんでもねぇし、ましてやこいつらにぶつけるようなもんでもねぇ。

 

 話を纏めていると、ふと疑問に思うことがあった。

 

「そういえば、お前さんら……いや、アリウス生もか? アツコをどうして『姫』なんて呼ぶんだ?」

 

「アツコちゃんをどうしてそう呼ぶのか……お姫様だから……?」

 

「姫は……私たちが幼い頃からお姫様だった」

 

 言い方からして、貴族か、それに近い出自を持っていると推測するべきか……

 それとも何かしら特別な血筋なのか?

 

「姫は……自治区を統治していた、かつてのアリウス生徒会長の血を引いてるんだって。だから『ロイヤルブラッド』って呼ばれてたみたい」

 

「なるほどな……キヴォトスならそういうのもあり得るのか……」

 

 学園都市だからな、生徒会長の血ってだけで何かしらあるものか。

 ましてや、最古の学園の一つな訳だからな。

 

「アリウス自治区の会長は世襲制だったらしいから。 ……本来なら、彼女がアリウス分校の生徒会長になるはずだった」

 

 ただ、今はベアトリーチェがトップになっている。

 そのことからして……その地位に何かあるのか、それとも……アツコを手駒に置きたかったのか……

 

「……リーダーと私、ヒヨリは幼い頃から貧民街でろくでもない生活をしていたの」

 

「私の記憶の姫ちゃんは……昔から気品あふれる服を着ていました。 わ、私達とは全然違って……へ、へへ……」

 

「ある意味、憧れの対象だったって訳か……それがどうして、スクワッドに……いや、それは前に教えてもらったな」

 

 俺はサオリとベアトリーチェの間に結ばれた協定を思い出していた。

 

 ──アツコは、元よりそのように育てられた存在なんだ……

 幼い頃からそうやって『生贄』にされる運命にあったのだと……

『彼女』は、姫の運命を変えたいのなら、『彼女』の命令に従えと……

 そうすれば、姫だけでなく……他の仲間も助けてやると……

 

 なら、ベアトリーチェは……アツコ、いや『ロイヤルブラッド』に目をつけてたのか?

 

「そうだね……私にとっても、アツコは大切な人だよ……まぁ、そうして姫は顔と声を隠して、私達と一緒に訓練を受けるようになったの」

 

「……今思い出してもつらい記憶ですね……あの時のリーダーは凄く怖かったから」

 

「それだけ、背負ってるもんが大きかったってことだろ」

 

 やっちまった事の罪の重さはある。

 堅気には戻れねぇ、そんな生き方をしてしまった。

 だとしても、それでも守りたいものがあった。

 

 それ自体を悪いことだとは俺は思わねぇ。

 

「何やら面白い話をしているな」

 

 気が付くと俺の背後にサオリが立っていて、俺の隣に座りこんだ。

 その様子をみて、ミサキが心配そうに話しかける。

 

「……目が覚めたんだ。体調はどう?」

 

「あぁ……動けないほどじゃない、助かった」

 

「よ、よかったです……へへ……全部終わってしまったと思ってましたけど……」

 

 万全とはいかずとも、サオリが動ける程度回復した辺りで、次の動きについての会議が始まる。

 無策で挑んで勝てるほど楽な相手ではないのは確かだからだ。

 何せ相手は、アリウス生全員と、そしてベアトリーチェなのだからな。

 

「この人数だ。正面からやるにしては……ちと無理があるだろ。どうする」

 

「アリウス分校の旧校舎に、バシリカと分校を繋ぐ地下回廊が、聖徒会によって作られたと昔アツコが教えてくれたことがある……かなり昔に作られたものだ、『彼女』も見落としている可能性が高い」

 

「その回廊の場所は知ってるの?」

 

 ミサキの質問に対してサオリは首を横に振る。

 正面突破が不可能な時点で、その噂に乗るしかねぇって訳か。

 

「死ぬよりかはマシだろ」

 

「そうだね……普段ならこんな噂に頼るなんてこともしないけど……今は先生もいるし、やれるんじゃない?」

 

「は、はい!出発です!」

 

 荷物を纏め、俺たちはその件の旧校舎に向けて足を延ばす。

 

 ようやく折り返し地点……

 ミカも、アツコも、どっちも助けてやらねぇとな……

 

 夜明けまで、あと3時間。

 

 

 




憎悪、怒り、軽蔑、嫌悪
負の感情を操り
偽りと欺瞞をもって支配する

次回 『大人』のやり方








ようやく折り返しと言ったところでしょうか……
私用ではあるのですが、来週から忙しくなるので、更新ペースがガクッと落ちます。
ご了承ください……
それはそれとして、最近読み始めた二次創作のお陰でモチベはありますのでね!
エタらないように頑張ります!
語りたい設定もありますしね!

そういえば、書き忘れではありましたが、前回のあの自爆。
あれしっかり服の内側に爆弾が巻き付いてました。
そして、『スクワッドを』殺す気でやってた辺り、その威力と自爆したあの子の結末は察せるものかと思います

では、ここすき、評価、感想お待ちしております

今の話のタイトルが分かりにくいとの意見を得て変更するか否か

  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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