新任教師『次元大介』   作:レイゴン

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3-6 『大人』のやり方

「……クリア、ここまでは安全」

 

 先を偵察しているミサキが合図を飛ばす。

 俺たちはあれから旧校舎を目指して走り続けていた。

 アリウス自治区は暗く、町自体に淀んだ空気が満ちている。

 建物は歪み、窮屈に建てられている。

 恐らく、建物の構造からして、わざと住みずらくして、人に不快な感情を植え付けるように作られていることが確認できる。

 内戦後の復興の際に、ベアトリーチェが行った政策ってところか……

 

「それにしても、静かだな……」

 

「あぁ、ここまで静かなのはおかしい……元々人通りが少ない場所だが……ここまでではないはずだ」

 

 隣を走っているサオリも、その様子に違和感を感じている。

 嫌な予感がする。

 ここまで順調に進めてきている。

 しかし、それは本来おかしいはず。

 何故なら、本来ゲリラ戦でも仕掛けられて、足止めをしてくるのが戦術の基本だからだ。

 まるで誘い込まれているような……

 

「な、なんか……知らないものがいっぱい増えてます」

 

「そうだね……違和感は、私もさっきから凄くある。自治区から長く離れていたとはいえ、私の全く知らない街になってる」

 

 ヒヨリとミサキの会話を聞きながら、俺は考えている。

 このまま先に進むか、様子を見るか……

 罠の臭いしかしねぇが、ここで足を止めるにしても時間がねぇ。

 これがタイムリミットのない潜入任務ならまだ安全策を取れるが……

 

「な、なんというか……よくよく思い返すと、以前から少しずつよく分からないものが増えていった気がします。 自治区のあちこちに設置された巡航ミサイルや……補給された謎の武器。 それに今考えてみると、あの複製(ミメシス)というのもすごく変じゃないですか? なのに、何も疑わずに受け入れてた気がします」

 

 ヒヨリの呟いた言葉を聞いた時、俺は少し足を止める。

 セイアの話から、ベアトリーチェとゲマトリアの繋がりは知っていたが……

 あれがミメシスなのか?

 

 俺が思い出したのは、あの砂風が吹くアビドスにおいて、暗い部屋の中で出会った陽炎のような男。

 黒服、彼が話していた内容だった。

 

 ──『ミメシス』で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。

 

「お前さんらが言ってるミメシスってのは、あの守護者たちのことか?」

 

「あぁ……私達はマダムからの命令であれを起動した」

 

 さっき、ヒヨリが言っていた徐々に知らないものが増えていったってのは、ベアトリーチェがゲマトリアと手を組んで、少しずつ彼らの技術をアリウスへ流して行ったからだろうな。

 

 んでもって、ミメシスの本質は、何かを無限に複製するってことなのか?

 てっきり、観測してその情報を調べる道具だとばかり思っていたが……

 別々のものに態々同じ名前を付けるとは考えにくい以上……同一のものだと思うが……

 

 俺の思考を掻き消すように近くから俺たち以外の足音が聞こえる。

 

 声を出すことなく、俺は3人にハンドサインで近くの路地に隠れるように指示を出す。

 そして暫くすると、その足音の主が近づいてくる。

 路地からそっと顔を出して観察すると、そこには少し前に散々見かけた存在が偵察をしている姿が見えた。

 

 幽霊のような青白い肌にやたら際どい古代の修道服とガスマスクをつけたヒビの入ったヘイローを持つ存在。ユスティナ聖徒会。戒律の守護者たちがそこにいた。

 

「……あれは」

 

「せ、聖徒会!?ユスティナ聖徒会ですよね? それにあの姿は……」

 

「……何故だ? エデン条約が取り消された以上、使役は不可能なはずだ」

 

 動揺するヒヨリと考え込むサオリが言葉をこぼす。

 理由はともかくとして、ベアトリーチェが守護者たちを使えることは間違いない。

 

「大方、一度繋ぐことが出来てしまえば、それで充分なんだろうよ」

 

 そうなるとさらに厄介だな……あの無限の兵力があるのならより戦いは厳しい。

 この辺りを探索している辺りから、俺たちの位置も概ねバレてそうな気がするが……

 ミサキが俺の言葉を聞いてから、口を開く。

 

「……なら私たちの任務は……姫を古聖堂に連れて行って、複製(ミメシス)を一度でも成功させることだけだった?」

 

「そ、それなら……トリニティとゲヘナの占領任務は……『彼女』にとってはどうでもいいことだった……?」

 

 ヒヨリが嘆くような声を上げた時、俺たちの背後から足音が聞こえる。

 振り向くと、そこにはユスティナ聖徒会が銃を構え、そしてそこから逃げ出そうと路地から出るとそこでようやく気が付く。

 

 俺たちがずっと前から包囲されていることを。

 建物の中からぞろぞろと銃を構えた守護者たちが現れ、俺たちを円形に囲んでいく。

 

「さっきのは囮って訳か」

 

『えぇ、その通りです』

 

 声が聞こえたかと思えば、守護者の中からドローンらしきものが飛んで、そいつからホログラムが投影される。

 そこに映るのは赤い肌に白いドレス、そして何枚もの赤い目の付いた白い翼で埋め尽くされた異形の頭部を持つ女性……特徴からしてこいつが……

 

 俺が口に出すよりも前に、サオリが答えを喋る。

 

「……マダム」

 

『ここは私の「支配下」にある領地。 皆さんの位置や目的地、その経路に至るまで……文字通り全て視て、把握しております』

 

「……やっぱり全部分かってたんだ」

 

『えぇ、あなた達の目的地は旧校舎の回廊……そうでしょう? 愚かな子供たち……私に隠し事なんて、不可能ですよ』

 

 耳にへばりつく悪意しかない声で、ベアトリーチェはサオリ達に話している。

 ベアトリーチェ……ダンテが書いた『神曲』に出てくる天使の如き永遠の淑女の名前だが……こいつは、淑女の形をした悪魔ってところか。肌も赤いしな。

 

『そも、あなた達の任務は最初から「ロイヤルブラッドを古聖堂に連れて行き、聖徒会を顕現させる事」……それだけです。 パス(Path)は一度接続さえすれば、次からは私が統制できるので、マエストロは自分の作品を奪われるようだと嫌がっていましたが』

 

 そう鼻で笑いながら、くだらないとばかりに吐き捨て、彼女は話し続ける。

 

『まぁ、トリニティやゲヘナを占領するかどうかなんて、私にとっては些末なことです。この自治区が長年抱いていた憎悪を統制するための方便ですから。 私自身、あの学園に何の遺恨もありません』

 

「……!!」

 

 良く考えれば、その通りではあるが……自分のトップである奴がただの道具としてしか見ていない、その確固たる証拠を口にして動揺を見せる。

 心の何処かでは、そんなことはないと思っていたのだろうな。

 

『そうですね。ですから、貴女は任務を遂行したと言えるでしょう。私に複製(ミメシス)の能力を提供しましたし……ロイヤルブラッドも素直に生贄として捧げてくれました。貴女は言いつけをよく聞くいい子ですね、サオリ』

 

「やはり、最初から約束を守るつもりなんてなかったのか……」

 

 いい子とは、上手い言い回しをするもんだ、この女は。

 所詮、自分に都合のいい子ってだけだろう。

 約束……口だけのそれでサオリだけじゃない、今まで何人ものアリウス生を食い物にしてきたんだろう。

 

『まぁ、不毛な話はこの辺りで……私の興味は……そう』

 

 そうベアトリーチェが言ったのちに指を鳴らすと聖徒会が動き始め、サオリ達と俺を分断する。

 サオリ達の抵抗の銃声も聞こえるがそれも虚しく拘束されてしまったようだ。

 

 ベアトリーチェの御望みは俺か。

 

 俺はてめぇと話すことなんざ、一言もないってのにな。

 

『はじめまして、次元大介先生』

 

「…………」

 

『私はベアトリーチェと申します。既にご存じかもしれませんが、「ゲマトリア」の一員です。通信越しでの挨拶となる事をお許しください』

 

 丁寧な口調で話しかけてくるが、その節々に滲み出る人を見下した気配に嫌気がさす。

 あぁ、こいつは……俺が嫌いなタイプの女だ。

 

『黒服やマエストロ、ゴルコンダから、貴方については色々とお話を聞いており……っ!』

 

 俺は懐から煙草を取り出し、それに火をつけ、煙を吸い込み……上を向きながら、紫煙を吐き出す。

 

 自分の前置きをロクに聞いてない俺の姿に腹が立ったのか、彼女は言葉を止めて俺を見つめる。

 口元から見える鋭い牙を見せながら、あたかも怒っていると言いたげに。

 

「テメェと交わす言葉はねぇよ。ベアトリーチェ」

 

『ほう……気にならないのですか?私がどうやってアリウスを手中に入れたのか──「ならねぇよ」』

 

「お前さんのような小悪党の手口は散々見てきてる」

 

 この街の構造に、ミサキとヒヨリの話、そしてサオリへの対応……極めつけは、あのアリウス生の自爆とその最期の言葉。

 

 あの憎しみの種の根源がこいつであるならば、全てに答えが着く。

 

『小悪党です、か……自己紹介なら要りませんよ。私の名誉の為、話しておきますが何も特殊な能力は使っていませんよ。神秘による『洗脳』や『読心術』……くくくっ、そんな便利な力があれば良かったのですが。残念ながら、それは大人のやり方ではありませんので……』

 

「皆まで言うな、テメェにそんな大層な力があれば……別のやり方でひけらかしてるだろ。お前さんのような、負の感情を利用して、嘘しか吐かねぇ女の考えなんざ読める」

 

『……私にも忍耐の限界というものがあります。それ以上その汚らしい口から侮辱の言葉を流すのなら、この場で撃ち殺しても構わないのですよ』

 

 どうやら、先に向こうの堪忍袋の緒が切れたらしいな。

 随分とキレやすいらしいな。

 

「侮辱のつもりはなかったな。ただの事実だろう?……どうした、カルシウムが足りてねぇんじゃないか?」

 

『っ……!! やはり、貴方は私の敵対者です。

 黒服は貴方を敬愛すべき仲間と認識し、互いに競い合えると信じ。

 マエストロは貴方をいつか辿り着く理解者と認識し、互いに高め合えると信じ。

 ゴルコンダは貴方を注目すべき美学へのメタファーと認識し、互いを通じて完成されると信じ……

 

 そして私は、貴方を唾棄すべき敵対者と認識し、互いに反発すると信じています』

 

「よくもまぁ、口が減らねぇもんだ。ベアトリーチェ。俺からの答えは一つだ……勝手に信じてろ」

 

 俺は、ホログラムを投影しているドローンを撃ち落とし、それを返事代わりにする。

 

 銃口を一斉に向けられる。

 どうやら、指示は遠隔でもできるらしい。

 俺の周りを囲む守護者が持っている銃は、SVD。

 言わば、狙撃銃だ。

 こんな近間で撃つようなもんでもねぇが……弾の動きは素直だ。

 

 怒り心頭であろうベアトリーチェの指示のせいか、俺の頭を狙ってくれてるのも……今は好都合。

 

 引き金が引かれていくのが見える。

 

 そして……タイミングを見計らう。

 

 今。

 

 銃声が轟く。

 俺の周りを囲んでいた守護者たちが地面に倒れ、塵となって消える。

 銃口と、引き金を引くタイミングさえ分かれば……避けるのも簡単なもんだ。

 特にこいつらは……人の意志のないロボットのようなもん。

 一度入った指示を直前で変えるほどの頭脳はないらしいな。

 

 サオリ達を押さえつけていた守護者たちの眉間に銃弾を叩きこみ、塵へと返す。

 

「スクワッド」

 

「……先生、今のは……」

 

「ただの曲芸だ。それよりも……決別は済んだな?」

 

 倒れたサオリに手を貸して立ち上がらせる。

 少し寝たとは言え、こいつの疲労は消えちゃいない……余り無理はさせたくないからな。

 

「あぁ……行こう!」

 

 サオリの言葉と同時に俺たちは、前に立ちはだかる守護者とアリウス生の兵団へと走り出す。

 

「来たぞ!!スクワッドを狙え!!」

 

「そいつは困るな」

 

 守護者はともかく、アリウス生に関しては確実に気絶させなくちゃいけない。

 あの爆発を何度も喰らえば、アロナのバリアがある俺でも死にかねない。

 

「邪魔をする──「少し寝てろ」っぐ、がっ……」

 

 腹に右腕で肘打ちを入れ、体を浮かせ、そのまま腕を起こして、顎に銃弾を当てて、寝かせる。

 俺が入って、向こうの連携が崩れると不味いからな。

 俺はあくまでも軽い指示と、浮いた駒を殲滅することに徹して動く。

 

「先生っ!」

 

 サオリが、銃口を向けて話しかけてくる。

 その意図を理解した俺は、軽く首を傾けるとサオリが銃撃を行い、俺の背後に何かが倒れる音が聞こえる。

 

「助かった、サオリ」

 

「これで貸し借り無しだ」

 

 律儀な奴だよこいつは……

 あの調印式や古聖堂跡での戦いの発言は……こいつが余程精神的に追い込まれていたからか。

 なら、こっちが素なんだろうな。

 

 そう思いながら、サオリの背後へと飛び出してミニガンを構えた守護者の眉間をマグナムで撃ち抜く。

 

「はっはっはっ、また貸しが増えちまったな?」

 

「くっ……すぐに返してみせるぞ、先生」

 

「二人とも、集中して」

 

 ミサキに叱られながら、俺は徐々にこいつらの連携に混ざりながら、戦いを進めていく。

 ヒヨリの援護射撃の正確さと威力はかなりのものだ。

 C&Cのカリンともいい勝負が出来そうなもんだな……

 

 それに、ミサキ。珍しいミサイルランチャーを得物にしてるが、彼女の咄嗟の判断力と、その援護技術は中々のもんだ。

 もし仮にサオリに出会わなければ、一軍隊のリーダーにでもなれただろう。

 

 まぁ、それが彼女にとって幸せなのかは置いとくがな。

 

「これで最後です!」

 

 ヒヨリの射撃によって最後の守護者が壁へと叩きつけられてから塵へと変わる。

 

 そして、前へと進もうとした時、駆けてくる足音が聞こえる。

 援軍かと身構えた時、現れたのは……聖園ミカだった。

 

 既に銃を構え、そしてこちらに向かってその銃口を向けている。

 どうやら、話をするつもりはないらしいな……仕方ねぇが……一度落ち着いてもらうとしよう。

 後方に立つヒヨリに向かってハンドサインを送る。

 それを確認したヒヨリが向かってくるミカに向かって射撃を行う。

 

「さっきのお返しです!」

 

 と言ってもだ、これで素直に当たってくれるほど甘い相手だと思っちゃいねぇ……

 だから、その逃げ道を塞ぐように左右を俺の射撃とミサキのミサイルが。

 正面からサオリの射撃を開始し、確実にどれかに当たるように行わせる。

 

 そして、ミカへとそれらは吸い込まれるように向かい……爆発によって土煙の中に紛れる。

 

「……まさか、ここまで追いかけてきたのか……どうやってカタコンベを……」

 

「その後来た、アリウスの子に教えてもらったんだよ☆ すっごく丁寧に教えてくれたんだ」

 

 土煙を腕で薙ぐことで吹き飛ばし、サオリの質問に答えながらミカが歩み寄る。

 丁寧に……か。

 あのミカの様子を見る限りとてもじゃないが……まともな方法を取ったとは思えない。

 

「久しぶり……ってほどでもないか。また会えて嬉しいよ、サオリ。 先生がいるスクワッドにどうやったら勝てるか考えてみたんだけどさ……あんまりいいアイデアが浮かばなくて」

 

 彼女は顎に手を当てながら、そう話し……今度は俺の方を向きながら話す。

 

「とりあえず一回ぶつかってみようかな?って思って来てみたんだけど……やっぱりダメだったね。 相変わらず強いね、先生は」

 

「強くはねぇよ。迷わねぇだけだ」

 

「そっか……なら、弱いのは私かな」

 

 悲しい笑顔を浮かべた彼女は、再び銃を手に取る。

 

「せ、先生……」

 

「どうする?」

 

 ミサキたちにそう呼ばれるが……俺としては、こいつに銃口を向けるのはかなり気が引ける。

 

「止まる気はねぇのか?」

 

「ごめんね……先生。 私、元々言う事を聞かない『悪い子』だったでしょう?」

 

「…………それでも、止まれる時に止まれた良い子だったぜ」

 

「っ……」

 

 ミカが目を見開き、口の端を硬く結んで、俺を見つめる。

 まだ葛藤してるんだな。

 

「ミカ、お前がスクワッドを恨むのは妥当な理由だ。それを悪いとは言わねぇ。許してやれとも言わない。ただ、お前がこいつらに、サオリに引き金を引いたらどうなるのか。考えたのか?」

 

 以前、俺はミカの凶行を止めてやれなかった。

 だから、今度こそ言葉で銃を使わずに止めてやりたい。

 

 少なからず、こいつの手がこれ以上汚れるのは、見るに堪えないからな。

 

「……ごめんね……私はいつもこんなだよね……私みたいな問題児はさ……先生に何度も心配をかける生徒は……先生の傍に居られないってことも、よく分かってる……」

 

 彼女は震える声で、話し始める。

 

それでも……分からないよ……分かんないよ先生!

 

「……ミカ」

 

「私は……わたしには……もう、帰る場所がないの……トリニティにも……どこにも、誰のところにも……」

 

 銃を落とし、膝をついて彼女は、涙を流し、鼻水を垂らしながら、みっともなく情けなく泣き始める。

 俺はそれを黙って見届ける。

 こいつには、それを叫ぶだけの理由があるのだから。

 

「私はトリニティの『裏切り者』で、『みんなの敵』で……そして、何度もセイアちゃんを傷つけてしまった『魔女』だから……

 

 学園から追い出されたら、ナギちゃんにも、大切な人にも……二度と会えなくなる」

 

 この学園都市にとって、学園から追放される。

 即ち、退学処分を受けるってのは、戸籍を奪われ、ありとあらゆる権利を無くすことに等しい。

 かつてナギサが補習授業部に行おうとしていた事に、批判の声が上がるのも仕方のないことである。

 

「生徒じゃなくなったら……私みたいな問題児、先生だって、もう会ってくれないよ……

 私にこれ以上幸せな未来なんか訪れないってことも、よく分かってる……

 

 わ、私は……悪党だから……人殺しだから……

 

 だから……私に残っているのは、こんなものしか、ないの」

 

 アリウスでは、ベアトリーチェのせいで憎悪を募らせていく環境が整えられていたが……それと比較しても、トリニティの方がその傾向が強い。

 

 元から何もないのが辛いか。

 何かある状態から無くなるのが辛いのか。

 

なのに、あなた達は……どうして?

 

 答えは簡単だ。

 

「私は大切なものを全部失ったのに! 全部、奪われたのに!!」

 

 どっちも辛いことに変わりはない。

 

「あなた達が、何の代償も支払わないで、何も奪われないでいるなんてそんなの……そんな事、許したら……私は……」

 

 だからといって、彼女が残された復讐心に身を焼かせるのを黙って見届けるわけにはいかない。

 

「ミカ……お前さんは、こいつらが何も支払ってないと本気で思ってるのか?」

 

「分かってる……アリウスに捨てられたのは知ってる……それでも……

 

 先生ならきっとどうにかしてくれるんでしょ?」

 

 皮肉な話だ。

 ミカは、俺が必ずスクワッドを助けることを信じている。

 だから……だからこそ、彼女はスクワッドを……錠前サオリを許せないのだ。

 

「……その女が、何の代償もなく先生の庇護を受けるなんてダメ……」

 

 そうして、拾い上げた銃口をサオリへと向けたミカは、名残惜しそうに……今生の別れかのように俺の顔を見つめて……口を開く。

 

「だから……先生……私を止めないでね」

 

 そう言って、彼女は闇の中へと消えていってしまった。

 俺は、またあの娘の手を掴んでやれなかった。

 

「い、行ってしまわれました……?」

 

「一体なんなの……あの女」

 

「そんなに……私が憎いのか、ミカ」

 

 そう言葉を零すサオリたちの言葉を聞きながら、俺は煙草を取り出し、それに火をつける。

 

「そらぁ、そうだろう。お前さんら……あれは、お前らが背負う罰だ。 例えベアトリーチェに操られてたとしても……それでも、実行したこと、それで消えない傷がついた奴らがいるのは変わらない事実なんだ……だから、背負うしかないんだよ」

 

 そういって吸った煙は、やけに辛く感じた。

 




背負うべき罪と罰

乗り越えなければならない怨嗟の壁

語らいが終わり……少女たちは血を流し合う

次回 灰色の決闘






このミカの泣き顔スチルホント好きなんですよね。
滅茶苦茶美しいと思ってます。
それはそれとして……ミカの恨みは、妥当だと思ってます。
大前提として、ベアトリーチェが悪いのですが、それでも実行犯が与えたことに変わりはなく、結果論として失敗しましたが、上手く行ってた場合、ゲヘナとトリニティは壊滅してましたし……それに、アルファ隊の火傷も消えることはないのですから。

善悪では、語り切れない灰色の世界ではありますな。

では、もしよろしければ、評価、感想、ここすきお待ちしております

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  • 例:殺し屋の矜持
  • 例:1-10
  • 例:1-10 殺し屋の矜持
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