実験室の奥、書物が入り乱れる机の前に、一人の少年が立っていた。彼の前には、奇妙な装置——魔法ではない、光を放つ金属線を何重にも巻き、その金属線の先には奇妙な計器に繋がっている。その何重にも巻かれた金属線の輪のなかに黒い石のようなものを通す。するとその計器の針が一瞬だけ振れる。
「……成功…なのか?」
その声を聞き実験室に入り様子を見る
「ほう、? 電磁誘導の法則の検証か。精が出てるな。」
「でも一瞬しか起こらなくて…本当にこれであってるのかなって」
少年は、机に両肘をつきながらぐるぐる巻になった金属線を睨む。
「…お前は、何を基準にして合ってるという?そもそも、お前は“知る”ということを、どう考えている?」
師の問いに、少年は言葉を詰まらせた。
「知るとは、お前の心の中にある“答え”を補強することか? それとも、己の信じてきたものを打ち壊し、まったく新しい視点を得ることか?」
「……」
「どちらを望むかで、お前が選ぶ道は変わる。知識は時に、すべてを焼き尽くす焔となるのだ。」
少年は拳を握りしめた。
「なら、俺は焔を手にする。どれほど痛みが伴おうとも」
師は小さく笑った。
「ならば、お前にひとつ、選択を与えよう」
ローブの内側から、一枚の羊皮紙が取り出される。それは、古めかしい文字が綴られた入学許可証だった。
「エドゥア魔法学園……?」
「ここで魔法について学べ。そこは魔法を学ぶ場所であると同時に、真理の眠る場所でもある。だが忘れるな。その真理に近づくほどに、お前の世界は変容する」
師は椅子に腰掛け、静かに目を閉じた。
「一度、知ってしまえば、元には戻れない。それでも行くか?」
少年は羊皮紙を見つめた。
「俺は——この
その答えを聞いた師は、ただ静かに微笑んだ。
「ならば、行け。そして、自分自身の目で、この世界を見極めてこい」
少年は羊皮紙を握りしめ、実験室を後にした。 やがて、この学園が彼にとって運命を決する場となることを、まだ知らぬままに。
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この世界は魔法によって支配されている。どんなに乾燥してる土地でも水魔法を使えば水は手に入るし、調理するときだって火魔法を使えば一発。夜を照らす明かりだって光魔法を使えば解決できる。国の防衛だってそれら属性魔法を使った攻撃魔法で大抵のことは何とかなる。
だからこの世界は魔法に依存し、個人の魔法レベルが社会の絶対的地位を決める。
事実、魔法レベルによって圧倒的な格差が生じている。魔法を使える者と使えない者の割合はおよそ9:1とされている。魔法を使えない者の殆どは奴隷と言っていいほどの過酷な重労働を強いられている。しかし、極稀に魔法以外の能力が秀でている者には比較的高い地位をもらっているものもいる。因みに、王国の騎士団長は魔法適性は無いものの、その圧倒的な武力で幾度も佳境を乗り越えてきた
魔法の世界に生きるということ、それがどれだけの重圧を伴うことか、青年・アルノートにはわかっていた。初級魔法しか扱えない俺はこの魔法社会の不適合者だ。
俺は別に魔法が使えないわけではないが、初級魔法程度しか使えない。
そんなの、知ることに比べたらすごくどうでもいいことなのだが…
しかし魔法の勉強は今後も重要になってくる
そのためエドゥア魔術学園の入試をうけたものの、初級魔法しか扱えないという理由で書類選考で落とされた。
すまんな師匠…俺はのんびり農家をして余生を過ごすぜ。
しかしその1週間後、エドゥア魔術学園の学長、エリス・ベルフォートがやってきた。
彼女はあのエンシェントドラゴンと真っ向からやりあったと言われている伝説の金髪美人魔女である。
そんな彼女がここまで赴いたのは、実技試験で落とされたものの、理論が完璧だったがために是非魔術学園の学生になって欲しいとのことだった。
どうやらうちの師匠が手を回してくれたらしい。
色々話しているとどことなく俺の事情を知っているような口ぶりだった。
うちの師匠、一体何者なんだよ…
入学式
エドゥア魔術学園の広大な校庭に新入生たちが集まる中、アルノートは他の生徒たちと少し離れた場所で立っていた。入学式の式典が始まる前のひととき、みんなが興奮して話し合う中、アルノートだけがその場に溶け込めずにいた。周りの生徒たちはみんな、得意げに魔法の小さな実演をしたり、得意気に杖を振って見せたりしている。
「私は風魔法が得意で、風を操ることができるんだ。」
「おれは火魔法だ! 火を使うのが得意だ!よろしくな!」
周りの会話の中で、アルノートの耳に入るのはそんな言葉ばかりだ。
「耳が痛え…」
ふとそう呟いた
式典が始まる合図が響き、みんなが一斉に動き出した。アルノートも自然にそれに従い、他の生徒たちとともに会場へ向かった。その足取りは軽くなく、どこかためらいがあった。
めんどくせぇ…
式典が始まると、アルノートは自分の席に着いた
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式典が終わり、学生たちは嬉しそうに集まって話し合い、笑い合っていた。
昼休み、広場の隅で弁当を広げていると、ふと足音が聞こえ、顔を上げると、そこには一人の少女が立っていた。彼女は明るい髪を軽く揺らしながら、少し照れたように笑っていた。
「ご一緒してもいいかな?」
アルノートは驚いて彼女を見つめた。ロングの赤髪を風になびかせる彼女は、自分とは違い、周りの生徒たちと楽しそうにしている様子だった。しかし、それでもアルノートに声をかけてきた。
「迷惑…かな?」
「俺に話しかけるなんて随分物好きだなぁ。」
そう答えたが、少女はにっこりと笑って、隣に座った。
「別にそんなことないよ!私はセラ!もしよければ一緒に食べようよ。」
セラの優しい言葉に、アルノートは少し戸惑いながらも、心の中で何か温かいものが広がるのを感じた。こんなにも気軽に声をかけてくれるなんて思わなかったからだ。
「ありがとう、セラさん。僕はアルノート、よろしく。」
「セラでいいよ、ね、アルって呼んでいい?」
「うん?あぁ、まあ…」
「よろしくね、アル!」
その日から、セラとは少しずつ話すようになり、彼女が持つ優しさや、周りを引きつける明るい雰囲気にアルも心を開いていった。
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学園の食堂
学園の食堂はもはや大講堂に近い。料理は講堂の左右の端で、魔法が勝手に調理し、配膳を行う。あらゆる国の料理が並ぶそれはビュッフェに近い。
アルは、昼休みに大講堂の縦に並ぶ長机で一人食事を取ろうとしていたが、周囲の生徒たちが会話を交わし、楽しそうに食事をしている中、彼はどうしても居心地が悪かった。
そのとき、視線を感じて顔を上げる。そこには知り合ったばかりのセラが彼の前に立っていた。
「アル、一緒に食べよ!」
彼女は、彼に優しく微笑みながら声をかけると、無理にでも彼を引き込むように席を取った。アルは驚きつつも、しばらく黙ってから言った。
「セラか、学校はもう慣れた?」
セラは少し考え込み、そしてすぐに軽く笑った。
「まだ…かな?やっぱりみんなピリピリしてて…。でもなんていうか、アルはみんなと違って話しやすいなって」
「みんな魔法のことになると目つき変わるよな」
「ほんっとそうだよね~。せっかく同じ学校になったんだから仲良くしようよって思うんだけど」
「そうだね。だから僕は入学してすぐに話相手が出来てとても幸運だったよ」
「本当?それならよかった〜」
「そうだ、セラは授業は何取るかもう決めてるの?」
「私は必須科目の属性魔術、剣術、回復術、魔法理論の他に、医術基礎、医術Ⅰ、薬草学、魔法生物学かな」
「随分医学に特化したカリキュラムだね」
「うん、やっぱりエドゥア魔術学園は医術に特化した魔法学校だからね。そのためにこの学校に来たから。」
「何か理由があるの?」
「私は、多くの貧民街を抱える領主の娘なの。だから多くの子供たちが飢えや病に苦しんでるのをこの目で何回も見てきた。。親からはあまり気にしちゃいけないとは言われてたから当時は見て見ぬふりしてきた。だけど、そんな私が許せなくて、悔しくてたまらなかった。だから私はここで医術を学んで私たちの抱える皆さんだけでも救えるようになりたいって、そう思うようになったの。」
アルは一瞬驚き、その様子を見て少し微笑んだ。
「…優しいんだね。」
「そんなんじゃないよ。半分は自己満足だから。」
「自己満足で他人を救えるのはとても素晴らしいことだと思うな。他人のためにそこまで出来る人はなかなかいないと思うよ。」
「そうかな…ちなみにアルくんは?」
「僕はそうだな…」
どう説明しようか考えていると授業の予鈴が鳴る。
「そろそろ授業の時間ね、話途中になっちゃったけど、次会ったときその答え教えてね!またね!」
「そうだね、んじゃまた。」
そう言いのこし、セラは大講堂を去っていった。
この子とは仲良くやっていけるような気がする。
そう思った。
「ねえ、あの人、もしかしてアルノート・エルノアじゃない?」
「ああ、初級魔法しか使えねーって話なんだろ?なんでこんなとこ入れたんだろーな」
「噂だと、座学の試験がトップだったらしいわよ?魔法がだめだめだけど、座学が優秀だからってお情けで学長から入れてもらったんだって〜」
「まじかよ、だっせぇ〜」
「「ギャハハ」」
めんどくせぇ…。