「やっぱ呪術界ってクソだわ」を追い越して拙作が最高評価作品になりました。
日頃の応援に感謝いたします。
在宅で虐さ……んんっ、テロリストの掃除をしたかと思えば日帰り成都旅行、それも終わったと思えば今度はアメリカ出張ときたもんだ。戦争中とはいえ人使いの荒いことである。
俺がアメリカ……今はUSNAか、にあっさり入国できたことに、これといったからくりはない。普通に羽田空港から日本の航空会社の飛行機に乗り、直行便でニューヨークに行っただけだ。
そもそも、日本とUSNAは(今のところ)同盟国だ。まだ国交もあるし、貿易も続いている。日本のやたら強力なパスポートはまだギリギリ現役、新ソ連圏以外なら大体どこでも移動可能だ。
普通、戦争が始まると当事国の人間は国外に出られなくなりがちであるが、これは海外に伝手のある人間や富裕層などが国外に逃亡、それが連鎖して国家の資産――人的資源と財源――にダメージを受けないようにするための措置だ。つまり政府主導で出国を禁止することで生じる。
ところが日本は、今も戦時体制に移行していない。横浜と北部九州に侵攻され、工業地帯を魔法兵器で攻撃され、人口密集地にガス弾を叩きこまれ、空襲され……それでも、国から号令を出されていない一般人は粛々と「いつも通りの日常」を続けていた。
それは、世界の多くにとって脅威的であり、意味不明であり、何かそういう習性をもった「人型の真社会性動物」であるかのように思われ始めている。西側諸国の反応と言えば、文字通りの全てを戦争に注ぎ込んで「国家は戦争に奉仕する」とか真顔で言ってた頃のドイツと似たようなもんだ。
が、長らく日本人をやっている俺には理解できる。関係ないからだ。
隣町が爆撃されようと、大都市が毒ガスまみれにされて100万単位の人間が仮設住宅送りになろうと、それは目の前にある仕事が忙しくなる以上の効果をもたらさない。ネットで知ってる街並みが破壊されていくのを見ながらいつも通り通勤するのみ、元気なのはネットのコメント欄だけ、実際に自分の家が燃えるまでそれが続くのだ。
世界最大の民族を丸ごと根絶やしにしようという狂気的な絶滅政策を実行しながら、その実軍人と魔法師以外は……国家としてはまったく普段通りの経済活動に勤しんでいるという意味不明な状態に、アメリカ政府は対応できずにいるようだ。
結果として、名目上は「同盟国」である日米間の国交はいつも通り続いている。今は開戦から2週間しか経っておらず、そしてアメリカは未だ今次大戦での態度を明らかにしていない。
当事国でないことや、当初の目論見をすべて崩されたのだろうことを差し引いても、全体的に現代戦とは思えないほど反応が鈍い。先に攻め込んだ挙句ABC兵器をためらわなかった大亜連合。反撃とは言え明らかにやり過ぎている日本。USNAとしては正直どっちにも触りたくないのだろう。
一昔前なら両方叩いて黙らせればよかった。ところが今、日本を頭ごなしに叩いて黙らせるだけの軍事力がもはや米国にはない。3年前の時点で彼らの持つ魔法戦力は鉄仮面の暗殺に失敗しているし、現在日本の戦力はもっと強化されている。「世界最強」の看板は、3年前の時点で自国民にしか通用しないハリボテに変わっているのだ。
どう答えても角が立つのが分かり切っていたので、アメリカは表向き、両当事者へ理性ある対応を求め、日本の「やりすぎ」を言葉で非難するにとどまっている。
そして水面下では今まさに、「落としどころ」を探すための交渉が始まっていた。
日米同盟をどうする気なのか。アメリカともやりあう気なのか。そもそも対話の余地が存在するのか。本人の口から聞こうということで、NY時間の今朝からホットラインが作動しているらしい。
当初は大亜連合との仲裁を計画していたUSNAだが、11/8時点でまともに連絡を取れる相手が消失したことから断念。そこで、日米がもはや相容れないのは前提として、どこまで強く出てくるかが問題だ。
こうなる前の日本はUSNA(旧アメリカ・カナダ・メキシコ)から大量の食料を輸入していたし、その下の大亜連合は滅ぼしてしまったし、そのまた下のブラジルは親米だし、昔はこのランキングの常連だったオーストラリアは今や完全鎖国状態である。
原油や鉱産資源はイラン方面や旧大亜連合などから調達可能だが、USNAは相変わらず食料によって日本を干上がらせる能力を維持している。司波達也がアンジー・シリウスを殺さなかった理由の一端だ。
寒冷化時代に発展した水耕栽培技術や土壌改良・品種改良の発達、何より人口が激減していることにより、今の日本の食糧自給率は21世紀初頭と比べればだいぶマシではある。
東南アジア同盟やIPUからの輸入だけでも国民が餓死する事態にまでは陥らないだろうが、戦勝した結果パンが食べられなくなりましたでは笑えない。少なくとも大亜連合の復興が軌道に乗るまで、向こう10年から20年くらいはギリギリの綱渡りを強いられる。
つまり、USNAはおそらくベトナム戦争以来となる「軍事的に劣勢の交渉」を強いられている一方で、全面禁輸されたら日本はちゃんと困るのだ。そこは大日本帝国のころと同じで、違うのは軍事力の多寡だけ。今までの外交局面は「武力だけが足りない」という状況だったので俺という手札がぶっ刺さり続けてきたが、今回はそうではない。
大亜連合戦で圧勝した俺たちが今やらなくてはいけないのは、「幼女戦記」の二の轍を踏まないこと。つまり、日本VS全世界大同盟という構図を完成させないことだ。逆に言えば、そうでもなければ日本は勝ち切れる。
そのためにオーストラリアを叩き返し、大亜連合を消滅させ、ユーラシア同盟なる大東亜共栄圏のパチモンをでっち上げ、先手で新ソ連に格付けを与えた。
軍事力だけで言うなら司波達也>俺≧その他全世界で上二人がどっちも日本国防軍所属なんだから、内ゲバさえ辞められたらこうなるのはわかりきっていた。俺なんかもともと司波達也対策のために作り出された訳で、まず陸軍と戦い余力でアメリカと戦うという旧軍精神をこれ以上なく体現してしまっている。
日本が望むのは、最上でUSNAを味方に引き込むこと。だがこれは現実的でない。向こうに目をつぶってもらわないといけない事項が多すぎる。開戦してないのはUSNAもタダでは済まないからというだけ、冷戦構造の再演だ。
そこで現実的な目標としては、今の曖昧な関係を続けさせることだ。国家間の仲は悪い、なんなら事実上の冷戦状態、なのに名目上は同盟国、お互いを助ける気は全くなく、それでも貿易で得られる利益はお互いちゃっかりと確保する「相互利用」。今度はこっちが黒船になる番という訳だ。本家本元ほどの不平等条約を結ぶ気はないらしいが。
話し合いで解決しそうなのに、何故俺が派遣されているか?
正面切って殴る以外にも使い道があるからに他ならない。「棍棒を携えて穏やかに話せ」と言ったのは他ならぬアメリカの大統領である。
土台、俺の「仮装行列」なら国際空港のサイオン探知機程度はごまかせる。USNAが警戒していないわけではないが、リーナの偽装が軍の中で通用してしまってるんだからさもありなん。国家が後ろ盾についていて、魔法の効果で顔と背格好を好きに弄れるとなれば、偽造国籍とパスポートを用意して密航するくらいは訳なく実行可能だった。
入国審査官に見事な日本語英語で「ビジネストリップ」と答えた俺は、堂々と国際線ターミナルを出て、迎えに来ている現地工作員の調達したオンボロ車で貧民街へ。この車がまた絶妙な汚さで、NYの市街に居ても「金ないんだな」以上の感想は持たれないくらいの見た目でありながら、盗難車や改造車がゴロゴロしている貧民街に停まってても違和感がないように仕上げられている。
日本だとなかなかお目にかかれない「スラム街」の風景を面白そうに見ていると、数百メートル後方に一般車に偽装した装甲車両が現れる。
それ自体は米軍か警察の車でも通っているのだろうで終わるところだが、俺のマルチスコープは車内に魔法師が複数人乗っていることを探知した。
「思ったよりすぐバレたなぁ」
「同じ目標を追ってるという可能性もあり得ます」
運転手をやってくれている工作員に軽口を叩くと、ちゃんと返答が返ってきた。スパイってもっと人間味のないイメージだったが、意外とちゃんとした人柄らしい。
「往来で銃を撃つのと魔法を撃つの、どっちが手配度上がるかな?」
「ここはロスサントスじゃなくてニューヨークですよ。あとその二択なら魔法ですね」
「結構話わかるじゃん」
言いながら車の窓から身を乗り出し、いつの間にか真後ろにつけていたSUV(見た目だけ)を確認すると、躊躇なく「鉄槌」を発動させる。
といっても致死攻撃ではなく、車体前方にいいタイミングで横方向の力をかけてスピンさせるだけだ。普通なら魔法師が乗っている車両にこんな小細工をしても領域干渉なり対抗魔法なりで防がれて終わりだが、俺の「鉄槌」はそのどれよりも出が早い。
いきなりハンドルを取られた装甲車の反応は劇的で、進路が急激に横にブレ、直後に路肩にあった消火栓と衝突して水を噴き上げる。
「一丁上がり」
「とはいえ、これで街中の監視システムに検知されました。隠密行動はここまでです」
「今更今更。予定通り、このまま目的地に突っ込もう」
「了解」
運転手にオーダーを出しつつ、相手の次の出方を伺う。
今回、俺の仕事はいつも通り暴れることだが、暴れ方に条件が付いている。
ひとつ。死人を出さないようにすること。
ひとつ。軍や警察当局には「俺が来た」とバレるようにすること。
目的地……というより目的の人物のところに着くまでにどんなのが出てくるか、精々油断しないで待っておくことにする。
しくじり方によっては対米開戦まで見えてる訳だが、唯一最大のチャンスだと上が判断したなら俺は従うまでだ。流石にちょっと緊張してきたぞ。
◆ ◆ ◆
「状況は?」
作戦室のドアを開け放つなり、リーナは最大限の虚勢で説明を求めた。
質の悪いドッキリだと言ってほしかった彼女の祈りを無視して、オペレーターがよどみなく説明を始める。
「時系列順に説明いたします。85分前、七賢人を名乗る匿名の人物により、"日本の魔法師がNYに集まっている"旨の情報提供が国防総省宛に行われました」
七賢人を名乗る謎の個人、あるいは集団が存在する。
現代のUSNAをもってしても正体を掴めずにいる彼あるいは彼女は、「七賢人」を名乗っては軍や情報機関、メディアなどに向けて「情報提供」と称した怪文書を押し付けることを主な活動内容としている。
不思議なことにその内容は本当に政府の機密であったり、未来を予知しているかのように言う通りの事態が起こったりするため、ただのイタズラとして処理もできず米国首脳を困らせている存在だった。
「イタズラとはいえ内容が内容であるため、統合参謀本部はマーズ少尉を招集しニューヨーク市街を調査させました。これが20分前です」
「また頭越しに人を……まあいい、それで?」
本来ならスターズ総隊長であるリーナが召集の事実を知らないのはあり得ないのだが、残念ながら参謀本部がこのような越権をやらかすのは珍しいことではなかった。最強の魔法師として同じ魔法師からは絶対的な尊敬を集めていても、そうでない一般人からはただの小娘として舐められているのである。
ジョン・マーズ・ファーストもといジョン・ジョージ・マッケンジー少尉は、占星術に分類される古式魔法を扱うイギリス系アメリカ人であり、スターズの惑星級構成員だ。
彼の場合、星見を用いてマークした最大12人の動向をおぼろげに監視できる異能が重宝されて惑星級の地位にある。「おぼろげに」という古式らしさが厄介だが、代わりに「国内ならば」一方的な監視が可能であることが経験的に理解されている米軍の対テロ戦における切り札のひとつだ。
この切り札の切り方は、敵魔法師の動向を監視するものではない。
「クロです少佐。"鉄仮面"は少なくともUSNA国内におります」
オペレーターの代わりに、机の上でホロスコープを睨んでいたマーズ少尉が答える。
動向が「占える」ならば、その魔法師はかならず国内にいる。「占えない」ならば、いない。
魔法的限界を逆手に取った「検知システム」でもって、USNAは七賢人からの情報の裏付けに成功していた。
「占えたか?」
「はい、いいえ少佐。抵抗されました」
マーズ少尉の占いは、対象の持つ魔法力があまりにも強い場合は抵抗されて正確な結果をもたらさない。USNAが個別で警戒している魔法師など誰も彼も怪物的な実力者なので、彼の占い自体が役に立ったことはほぼなかった。
大事なのは、占い失敗という事実ではなく「占いは成立したが抵抗され成果なし」か「そもそも占える前提条件を満たしていない」か。「0」か「Null」かだ。その違いさえ分かれば、十分に国内向けの魔法探知機として運用可能だった。
「だろうな。それで、どうやってニューヨークだと特定した」
「はい少佐。別任務のためマンハッタンに向かっていたハンターQ、R、S、Tが遭遇、撃破されています。その際"鉄槌"のサイオンパターンを検知しました」
「緊急時だぞ、それ単体で十分断定可能だろう」
「はい、いいえ少佐。"鉄槌"は比較的再現が容易な魔法ですので、賢人による事前警告がなければ精密分析にかけなければ断定できなかったものと愚考します」
論理的にぶった切られて自分が過敏になっているのを気づかされたところで、リーナの脳裏に直近の仕事内容が逆流する。
別任務。
彼女が就寝(気絶)する直前。対日交渉と並行して行われた会議にて、日本側が要求してくるかもしれない事項への対応のため、ウィズガードとスターダストの一部を急遽マンハッタンへ送る。
USNA側が想定する最悪の要求事項は、USNA国内に存在する華人の引き渡しだ。
大亜連合人をすべてテロリストとして認定している日本の理屈ならば、同盟国にテロ容疑者の引き渡しを要求するのは見かけだけでも筋が通ってしまう。
だがUSNAは移民の国、それは到底受け入れられない。なので日本が工作員を使った拉致などの強硬手段に訴える可能性を考慮して、国内の華人街への警護を強化していた。
「……まさか、"チャイナタウン"?」
マンハッタンには、USNAで最も歴史が深く、広東系の人間が集まるチャイナタウンがある。
「まさか、鉄仮面は他国の領土でまで虐殺を!?」
「交渉材料に使われる可能性は、憂慮するに足ります。少佐」
つまり人質にされるかもという推測をあくまで平坦な調子で告げる副官に、口調が崩れかけているのも気づかず怒鳴り散らす。
「嘘でしょう!? まだ殺し足りないって言うの!!?」
「リーナ……」
半ば慟哭のように声を張り上げたリーナに気圧され、オペレーターがたじろぐ。
リーナの1歩後ろで待機していたシルヴィア・マーキュリー准尉も、何と声を掛けたらいいかわからないという様子だ。
「見ていられんな、少佐」
「ば、バランス大佐……!」
ブリーフィングルームの地獄のような空気に割って入ったのは、同じく招集命令を受けて駆け付けたらしいヴァージニア・バランス大佐であった。
「そうさせんための
言いながら、バランス大佐はこのご時世に珍しい紙の命令書をリーナに寄こす。
「対日全面戦争に勝者はいない。向こうもそれをわかっているから戦略級魔法を使わず直接乗り込んできたのだ。丁重にお引き取り願え! 後のことは政治家が解決してくれる!」
バランスの喝で、リーナはようやく動揺を抑え込むのに成功する。
「そして……私がメッセンジャーにされたのは"これ"だ」
その様子を確認してから、バランスはずっと手に持っていた楽器ケースのようなものをその場に開ける。
中には、リーナの戦闘能力における半身、結界容器ブリオネイクが収まっていた。
「"これ"と、残存しているスターズ全部隊とスターダスト、それから
「市街地でブリオネイクを!?」
「命が惜しければ……いや、惜しくなかろうと絶対に威力制限はするな。最悪、
仮装行列の下で絶句するリーナを宥めるように、バランスが両肩をがしりと掴み、目を合わせる。
「最大限のバックアップを約束する。勝ってくれ
アメリカ人はこういうハックがやたらうまいイメージがあります。
第100話突破を記念して
設定解説のための記事を無料公開しております。
これを機にFANBOXもご覧いただけますと幸いです。
なお、有料記事エリカルートも本話と同時投稿予定です。
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