総評30000
たくさんの感想
ありがとうございます。
「躊躇なく撃ってきたなあいつら」
「ノリが軽い!」
魔法師が搭乗していた偽装軍用車両を事故らせてから数分。
当局の追跡がそれだけで止むはずもなく、日没直後のニューヨーク市街でハリウッドばりのカーチェイスを繰り広げている。
「45口径じゃなあ……当たっても痛いだけだし……」
「普通死ぬんです人間は!」
運転してくれている工作員(ちなみに女性)と仲良く言い合っているが、今は公道のど真ん中でハリウッド映画ばりのカーチェイスを演じている最中だ。
今俺たちを追いかけているのは、車体のロゴから見て
どんな命令を受けているやら、こっちの車自体を破壊する勢いで容赦なく実弾を発砲してきている。撃ち込まれる弾も随分バラエティ豊かで、45口径のハンドガンからセミオートのショットガン、ライフル、サブマシンガンとなんでもござれ。恐らく拳銃以外は各警官の私物だろう、さすが銃社会。
とはいえ、軍用でもない銃の火力で俺は殺せない。車体が破壊されないように硬化魔法で守りつつ、俺は車体による体当たりと増援の到着にだけ気を配っていた。
「右から装甲車、対処を」
「はいよ」
魔法師の載ってた最初の1台を消火栓に突っ込ませて以来、追ってくる車の台数はみるみる増えていっている。
そしていよいよ州軍あたりが動き出したのか、こちらの進路を塞ぐように飛び出してきた8輪装甲車を鉄槌でやさしく持ち上げてやると、そのままひっくり返って動かなくなった。
同じように邪魔な民間車両をどけたり進路上のパトカーを停めたりしつつ、JFK国際空港からマンハッタンまで18マイル(だいたい29キロ)の道のりをかっ飛ばす。
高速を降り、住宅街の中を突っ切っているとだんだん「手配度が上がって」来たのか警察車両の数も増えていく。
ちらほらと魔法師の姿も見え始め、既にこの車を狙った空気弾やスパークなどの魔法をいくつも打ち消している。
この車、オンボロなのは見た目だけで中身は新車であり、幸いエンジン性能の差で追いつかれるということはなさそうだ。
「トンネルに入ります。警戒を」
「入口検問敷かれてるけど?」
「突っ切ります」
「ははっ」
いよいよハリウッド映画だ、楽しくなってきた。
マルチスコープにより進行方向数百メートル先、トンネルの入り口で検問を張っている部隊を捕捉。
魔法師が10人ほど配備されている。こちらの目的地がマンハッタンであることはもうバレているらしい。
とはいえ。
「弱っ」
しっかりバリケードを組み、2人一組でお互いをカバーするように警戒し合っている。訓練は積んでるようだが、根本的な魔法力が低すぎる。
十師族の出涸らし呼ばわりされる日本の警察や軍の水準と比べても1枚か2枚落ちる、恐らく第一高校の入試に受かれるか微妙なライン、加重系以外の白巳とどっこいだろう。アレがウィズガード、スターズの出涸らしか。
「よくこんなんで魔法技術世界一を自称できたもんだ」
実際、FAE理論の実証やらアンティナイトと似た効果を発揮する装置の開発やらサイオンパターンから個人を識別する技術やら、一部で日本の先を行く先端技術を有しているのは間違いないが、それはどちらかと言えば国力の高さであって、抱える魔法師のレベルが高いことを意味しない。裾野はこんなもんということか。
俺は硬化魔法で車体やフロントガラスの強度を上げつつ、検問の中心を起点としてごく小規模の「無人地帯」を発動。
設定をマイナス0.3G程度にして、物資や人が「逆さ吊り」になるようゆっくりと持ち上げていく。
USNA軍にはフォアリーブス製の飛行デバイスが大量納入されているはずだが、装備している魔法師は見当たらない。どうやら「敵が使ってくる重力操作魔法を中和するのに使う」という所まではまだ考えが及んでないようだ。
彼らは急なマイナス重力になすすべなく空中に浮かんでいき、その高さが数メートルに達し、あるいはトンネルの天井に当たる頃、がら空きになった真下を猛スピードで駆け抜ける。100㎞/h以上出している車にとっては、一瞬車体が持ち上がったと感じるやすぐに影響範囲を出て着地する程度の影響しか与えない。
「地面に固定するタイプだったら面倒だったな」
「感想戦の前に増援対策してください」
「へいへい」
無人地帯を解除し、1Gに戻った重力によって地面に激突した元バリケードにより入り口は封鎖された。
さらに、トンネル内部に何カ所かある点検口の入り口を「鉄槌」で歪めてやり、ドアを開かなくする。ただの鉄扉なんぞ鉄槌の前では粘土細工みたいなもんで、専用の工具で数分掛けなければ開かない状態に1秒未満で加工することが可能だ。
これで後は真上からトンネルごと沈めるか、真正面から俺の装甲をぶち抜――
「げ」
突如として目の前に生じるサイオンの光。
それが魔法の兆候であると認識するより早く現れるプラズマ光。
それでも、半ば条件反射的に展開された「圧斬り」による斥力フィールドが間に合った。
ただしビーム自体を散らすことには成功したが、このやり方だと周囲に電流が飛び散ることになる。
俺は外骨格にアースとしての機能が備わっているので問題ないが、運転していた工作員と、それから拡散したビームが貫通していった車体は無事では済まない。
「退避!」
言いながらドアを蹴破って飛び出すと、直後に車体はスピンして壁に突っ込み、炎上。運転席は完全に潰れており、ひしゃげたフレームから脱力した腕だけが飛び出ている。バラまかれた電撃のせいで回避行動が取れなかったか……短い付き合いだったが惜しい人を亡くした。
「ったく……あの日と逆の構図か」
ズボンの埃を払いながら立ち上がる間、第二射の兆候は感じられない。
代わりに、薄暗いトンネルの闇の中から、溶けるように人影が現れる。
「参ったな、仮装行列がずいぶん上達してる」
「……っ」
アンジー・シリウス。
米軍「スターズ」最強の魔法師は、「奇襲がもろに入ったのに」という驚愕を隠そうともしていない。外見もいつもの赤毛モードではなく素の金髪なので、ほぼ全リソースをさきほどの砲撃に割いていたのだろう。
俺はマンハッタン島へ向かうにあたり、わざと「車で公道を走っていく」という分かりやすい方法を取った。
それは当局の目を俺に向けさせるためだったが、もう一点、USNAの魔法戦力には簡単に対応可能だったからでもある。
実際、最高戦力であるアンジー・シリウスの「ヘビィ・メタル・バースト」を不意打ちされた今も俺は無傷だ。
だが当初の見立てが外れ、不意打ちが成立し被害が出た。俺の探知能力ならば見落とすはずがないアンジー・シリウスを相手に。
「いや、何か違うか?」
俺は最初、彼女の仮装行列が俺の探知をすり抜けるほど上達したのかと考えた。
だが直後現れたリーナの恰好を見て、すぐに理解が及ぶ。
「……そうか、光学迷彩!」
手に持ったブリオネイクまでは前回同様。だが今のリーナは、その全身をぴっちりとした水着のような材質のボディスーツで覆い、その上からローブのような服を着ていた。
USNAで運用されている最新型は、顔や手先はもちろん、持っている装備まで透明化し、サーモグラフィーやAIによる画像認識、音や匂いさえカバーして軍用犬を撒ける代物。恐らくそれよりもう一回り隠密性の高い研究中の新型だろう。
光学迷彩単体では俺の目を誤魔化せない。仮装行列単体でもそうだ。
だがこの2つが揃った時、俺の視覚にさえ「盲点」が産まれる。そこを突かれた。
見れば、リーナの着ているスーツは首元や手首の機械部分がバチバチと火花を吹いており、その機能を失っていることは明らか。
魔法的に食い合わせが悪いのか技術的な問題なのかは不明だが、俺に対し不意打ちを仕掛けるチャンスはさっきの1回しかなかったということ。流石はUSNA、金のかけ方が違う。
「正直舐めてたよ……認識を改めないとな」
長い直線トンネルというビームを撃つのに最適な環境。さっきの一撃は威力を収束させた「狙撃」であったが、ここは海底(水底)トンネルだ。直径と同じ太さのビームをぶっ放されたら避けようがないし、最悪の場合壁を破壊して俺ごと沈めてしまえばいい訳だ。どうやら思ったより覚悟が決まっている。
「悪いけど、あと1時間は付き合ってもらうぞ」
危険は承知の上とはいえ、味方に死人を出されて何も思わない訳じゃない。
俺にできるのは任務を全うすることだけだが、精々時間を稼ぐとしよう。
――俺の任務は、この戦争を引き起こすため裏で暗躍していた黒幕、顧傑を確保することだ。
表向き「大漢崩壊に伴う難民」としてUSNAに保護されているこの男は、確かに大漢人ではある一方で、難民化した理由は大漢が崩壊したためではない。もっと以前、崑崙法院で行われた現代魔法師と古式魔法師の権力闘争に敗れたためだ。
大漢当局の粛清の手からも四葉家の追跡の手からも逃れ続け、40年近い逃亡生活をしているだけはあり、彼の隠蔽能力、攪乱能力は世界でもトップレベルにある。
何より、レイモンド・クラークの手で「フリズスキャルヴ」という最強の電子戦ツールを与えられた「賢人」でもあるこの男の居場所を、科学技術やそれに立脚している現代魔法によって特定することは不可能だ。
(持つべきものは権力者とのコネだなあ)
だったら古式魔法師を使えばいい。
創一朗が捕らえた顧傑最強最後の弟子、周公瑾。その身柄は対魔装特選隊ではなく、比叡山のとある寺へと移送された。
表向きにも実質的にも極めて歴史が長く、徳の高いそこでの技術は十師族とは別の意味で秘中の秘であり、本来ならばM機関どころか獅童尚久と言えども軽率にものを頼めない存在。その闇の中へ身柄が消えた数日後、あっさりと顧傑の居場所は判明していた。
何が行われたかも、周がどうなったかもあえて聞いたりはしていない。ただ、そのまま身柄を返さないことと引き換えに情報を得た特戦隊は、今こうして捕物を手伝うことになったという事実関係だけが存在した。
ただ、「彼ら」が動いている、あまつさえ成果を国防軍に共有しているという事態は、「顧傑という存在に報いを受けさせる」という方針が元老院の大老たちの間ですら共通認識になっており、この捕物が挙国一致の作戦であることをすら意味している。
「安心しろよ、イヤでも付き合わせてやるからさ!」
余裕たっぷりに宣言するが、もとより逃げられる心配はしていない。
数百メートル先。トンネルの向こう側で微かに震えながらブリオネイクを構えるリーナの姿を、創一朗の目は既に捉えているからだ。
ふたりにとって、この数百メートルという距離は「至近距離」である。
リーナが第二射を構えるより早く。
彼女の眼前には、振りかぶった創一朗の拳が迫っていた。