(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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今回で決着です。


104 怪獣大決戦④

 場面は戻り、ニューヨーク市。

 

 マンハッタン島へ続くトンネルの中で、創一朗とリーナが対峙していた。

 

 ――アンジー・シリウスことリーナは、一般的な魔法師のスペックを説明する「処理速度」「演算規模」「干渉力」すべてにおいて他と隔絶した高水準を誇っているが、強いて分類するならばパワータイプである。

 

 バランス型である司波深雪を全項目100とした場合に、処理速度90、演算規模100、干渉力110といった趣だ。総合力で言えば完全調整体とほとんど互角、人為的な調整の施されていない「天然もの」としてはぶっちぎりで世界最強のスペックを有する。

 

 この数字を基準とした場合、「鉄槌」を使うときの創一朗の干渉力は概ね130から140と推定されている。

 

 彼の持つ魔法演算領域は十師族当主クラスに匹敵する性能であり、対司波深雪換算75%程度の性能を有すると考えられ、それが加重系魔法を使用する場合に限って「2人分」が稼働する。演算領域2つが同時稼働することによる多少のロスを差し引いて導かれる数値が、冒頭で示した干渉力だ。

 

 これはいわば一人で乗積魔法(マルチプリケイティブ・キャスト)をやってるようなもので、マルチスコープともども七草家の遺伝子から回収・習得した技術によって実現されたものだ。

 

 同時に白い地獄は、創一朗最大の武器である「鉄槌」に対し、どれくらいの干渉力があれば抵抗できるのかを検証したことがある。

 

 きっかけは約3年前、沖縄戦に続く暗闘の中でアンジー・シリウスに鉄槌が抵抗され、効かなかった事例だ。

 

 確かに鉄槌は旧第一研究所の技術系統に存在する人体に直接干渉する類の魔法。本来なら、魔法師が無意識に展開している干渉装甲に防がれて実用が難しいとされている。

 

 一条家などはそれを突破することを第一義とした「調整」と「交配」が行われてきたわけで、そのノウハウを引き継いでいる創一朗と言えど、本質的には「圧倒的な干渉力によるごり押し」以上のものではないことを、ここにきて研究者たちが思い出したのである。

 

 加重系、特にPKに対しておよそ人に許された領域を超越した干渉力を有する創一朗ならば、鉄槌の使用が妨げられる事態はごく一部、それこそ同じ技を持つ一条の人間や素で圧倒的な干渉力を有する司波深雪クラスの戦力でもなければ問題なしと考えていた上層部は考えを改め、「どこまでなら効くか」検証する方向にかじを切った。

 

 結果として判明したのは、「対司波深雪比で90%程度の干渉力」があれば安定して鉄槌を防げるという事実。これは「爆裂」などほかの直接人体に干渉する魔法と同様で、使用者の干渉力の2/3程度の力があれば抵抗可能という旧第一研究所の経験的知見と一致していた。

 

 現状、十師族の当主クラスが持つ魔法力が平均でちょうどこれくらいと考えられている。創一朗の戦闘判断基準として策定された「カテゴリー2」と「3」の境目はこれだ。

 

 翻って、アンジー・シリウスの実力はカテゴリー3.5相当。「鉄槌」に抵抗されることは最初から分かっている。

 

 ゆえに創一朗の初手はごくシンプル。

 

 相手が次弾を発射するより先に、まっすぐ行ってぶっ飛ばす。

 

「ちょっとそこ通りますよ」

 

「ッ!!」

 

 それにリーナが反応できたのは、二人の間に存在した約250メートルという距離のおかげだ。

 

 自らを鉄槌で飛ばすことで生まれる殺人的な加速は、創一朗に容易く音速の壁を越えさせる。後から展開される硬化魔法や障壁魔法が間に合うまでの0.3秒ほどのタイムラグを肉体の強靭さに任せて耐えきる、文字通りの人間大砲であった。

 

 最高速度マッハ3(秒速約1キロ)まで瞬間的に加速。狭いトンネル内でそんなことをすれば、巻き散らされるソニックブームはメチャクチャに反響し、人体を容易く破壊する威力を伴ってトンネルを埋め尽くすことになる。

 

 当然、パンチどころか体当たりされただけで相手は人型を保つこともできなくなる訳だが、幸いにしてリーナは障壁魔法の展開と、本体を回避する反射的移動が間に合った。

 

「はは、やるなあ」

 

 停止した創一朗は、手を手刀に構えていた。リーナが何かを察して大げさに避けなければ、すれ違いざまに首筋を叩かれていたところだ。

 

 創一朗の手刀は創作物で出てくるような昏倒による優しい制圧手段ではない。本気なら首と胴を切り離す「本来の忍者」としての威力が、非殺傷として加減した場合は脊椎を中身ごと破壊して首から下まるごと不随にする威力がある。現代の医療技術なら脊髄の再生治療が可能なので、制圧するにあたって一回潰してしまうのが手っ取り早いのだ。

 

 超音速で後ろに回り込み、瞬時に停止、()()()()()()()()()()()。加速の元が移動魔法であるため、体当たりするだけなら向きを揃える必要はない。

 

 リーナが持つ攻撃手段ヘビィ・メタル・バーストは収束プラズマビームであり、つまり線での攻撃だ。並大抵の障壁魔法や遮蔽物をぶち抜いてくる威力は脅威だが、機動力で翻弄することは可能だった。

 

「~~っ!!」

 

 リーナはうめき声とも悲鳴ともつかない声を上げ、慌てて創一朗がいた場所に照準を合わせビームを射出。

 

「やっぱ怖いのは一発目だけだな。穿血と同じだ」

 

 創一朗はロクに避けもせず、自身に「圧切」の斥力場を発生させてビームを偏向させて防ぐ。

 

(さて、前回は光線級吶喊(レーザーヤークト)をやった訳だが……)

 

 リーナが同士討ちを嫌うだろうことを利用して、前回(第17話「美少女魔法戦士プラズマ☆リーナ」を参照)は味方(ベンジャミン・カノープス少佐)の身体を盾に肉薄することでビーム攻撃を突破した。

 

 このやり方は「マブラヴ」における光線級BETAの対処法と似通っており、光線級吶喊(レーザーヤークト)はそこで用いられる作戦名である。

 

 もっと言えば、創一朗が対策として常用している「圧切」の斥力場を使った回避方法も、作中に「ラザフォード場」という形で登場している。あれと違い、ビームは偏向できても残留する電撃によって本来なら行動不能になるところ、創一朗が強化改造でダメージを踏み倒している状態なのだが。

 

 創一朗はそれをもとにし、わざとビームで撃たせることで重金属雲を巻き散らして光線の減衰と毒殺を狙うアンチレーザー(AL)弾の開発を具申してみたこともある。

 

 だがリーナのヘビィ・メタル・バーストは重金属プラズマを使った「ビーム」で、BETAの光線は収束された光エネルギーによる「レーザー」だ。効果は薄いどころか、最悪AL弾を飲み込んで威力を増幅される恐れもあるということで、実用化はされていない。

 

 というわけで手元に有効な「盾」がない今回は、普通に機動力で翻弄するしかないという結論に至った。

 

「よっと」

 

 敗北後3年間の鍛錬によりビームを撃ちながら自由に移動できるようになっているリーナだが、残念ながらその程度で創一朗の追撃からは逃れられない。

 

 ぶちっ。

 

「い゛っ!?」

 

 リーナが腕に激しい痛みを察知した瞬間、創一朗は確かにリーナの眼前数メートル、発射されたビームの真横あたりにいた。

 

「面倒だから使わせてもらったぞ、()()()()

 

 そこには、リーナの腕を掴んだ……否、()()()()創一朗の姿。

 

 魔法的探査をすら突破する位置情報の偽装。それは紛れもなく――

 

仮装行列(パレード)!?」

 

「正解」

 

 それは本来リーナの得意技であり、ルーツをたどれば九島家の秘伝であった偽装の術。アンジェリーナ・クドウ・シールズをアンジー・シリウスに変える秘術。

 

 一度の戦闘データと古式魔法師・山田宏文の協力により習得したものであった。

 

 そしてリーナ自身も今使用中なので、条件はイーブンになったと見えるかもしれない。

 

 実際は違う。

 

 リーナの仮装行列は、初見の時点から創一朗の目には見破られている。それ単体では彼女の姿を隠せない。

 

 この時点で、二人の決闘という意味ではもはや勝負はついていた。

 

「さて」

 

 創一朗は腕をつかむのではなく、手首の内側あたりをつねるように「摘まんで」いる。

 

 ぶちっ、という音が出る程度には力を込めてだ。

 

 腕の「内側」に食い込んだ爪が、ギリギリ太い血管を外す形でリーナの手を、その内側にある「腱鞘」のあたりが掴まれている。

 

 その状態で思いっきり腕を引きはがすとどうなるか。

 

 ――ぶちっ。びぃぃぃっ。

 

「い゛ぎぃああああああっ!?」

 

 腕の中に埋没している「腱」が無理やり引っ張りだされることで、肉と肌を裂いて白い線のようなものが伝線していく。

 

 創一朗が手を放すと、血と脂のようなものにまみれた帯状の白いなにかがべちゃりとリーナの腕に絡みつき、遅れて親指の制御を失う。

 

 高々指一本と侮るなかれ、突然制御を失ったその手でものを把持することはできず、リーナは慌ててもう片方の手にブリオネイクを持ち替えようと動き、

 

「ほい次」

 

 その動きを潰すように、創一朗の前蹴りがリーナの膝を砕く。

 

 ぐしゃ、と生々しい音を立てて右膝が逆側に折れた。

 

「ぎゃっ」

 

「まだまだ」

 

 ガクンと前側に倒れたリーナの背後に回り込み、踏ん張っている左足のアキレス腱あたりを踏み抜く。

 

 生物的な水音の中に「ぶちっ」という音が混ざり、彼女の足の機能はただの一踏みで完全に失われた。

 

「ぎぇっ!」

 

 最後に、かろうじて無事な左腕を掴んで持ち上げ、そのまま引っ張って脱臼させた。

 

「がっ……おぇ……」

 

 あまりの痛みでたまらず嘔吐しかけるリーナだが、彼女にとって残念なことに、この状況はまだ「初手」に過ぎない。

 

 この時点で交戦開始から約3分。創一朗の抱えている任務では、少なくともあと57分くらいはここで彼女と戯れている必要があった。

 

「さて、やること無くなっちまったな」

 

 帰還用の足が到着するまで、まだあと1時間近くある。最終的には無力化したアンジー・シリウスを「持ち帰り」できれば最善、彼女を殺害か完全無力化するのが次善、本命の任務完了までここで時間を稼げば最低限だ。

 

「がっ……ごぼっ……」

 

「いやいや、手足以外は壊してないでしょ。勝手にむせてんなよ」

 

 やっぱ気絶させといた方がいいか? とぶつぶつ言いながら、倒れたリーナを仰向けに転がし、潰れた左足首をぐりぐりと踏みつける。

 

「ぎゃああああああああっ!!! あーっ!! あー!!」

 

「うるっさ……対拷問訓練とか受けてないの?」

 

 踏み壊された足は、かろうじて光学迷彩スーツが覆っているため肌は出ていないが、骨折と内出血で明らかに元の倍以上の大きさに腫れ上がっている。それを体重かけて踏まれれば、特別に鍛えていなければ大人でも泣きを入れる激痛が走るだろう。

 

 彼女はスターズ総隊長、特別に鍛えていなければいけない身分だし、実際に一般人よりははるかにマシなのだろうが……その耐性レベルは、彼女の腰もとに広がる生暖かい水たまりと、水を吸って変色した迷彩スーツの股間部分が証明している。

 

 ともかく、まともに動かない四肢をよじらせ、少しでも創一朗から距離を取ろうとうごめく様は、彼女の心がどうしようもなく折れていることを示していた。

 

「あ……あぁ……あ……」

 

「しまったな、顔も潰しとけばよかった。美少女すぎて変な性癖に目覚めそうだぞ」

 

 創一朗が見下ろす先には、顔を青ざめさせ、怯え切った目で見上げているリーナの姿が視えている。

 

 ちなみに、先ほどからリーナは英語、創一朗は日本語でしゃべっている。お互いに日英両言語を習得しているから問題なく意思疎通ができているだけだ。

 

 抵抗力を失いブリオネイクを手放し、完全にされるがままになったリーナの姿。

 

 最新型でも、迷彩スーツはボディラインが露骨に浮き出るぴっちりとした恰好だ。形の良い胸、見事なスタイル、そして司波深雪にも匹敵すると言われる美貌。下着を着ることができないため、かつて小野遥が着ていた旧型品ほどではないにしろ服としての機能はほとんど果たせない状態のそれが、創一朗の眼前には転がっている。

 

 そのうえで、芯から怯えた表情が研究所で宛がわれてきた女たちを彷彿とさせた。

 

 流石に一つ生唾を飲んで、「逃げられないようにという名目で裸にひん剥いておこうか」と私欲半分の提案が脳裏をよぎった創一朗だったが、流石に首を振って仕事に集中する。

 

「……お前さ、"バキ"で一番痛そうな技ってなんだと思う?」

 

「は……ぇ……?」

 

 とはいえ特に聞きたいことがあるでもない。意識を飛ばして回収する前に、もう一押しくらいやっとくかと考えたことに、これと言った理由はなかった。

 

 ただ、迷彩スーツの機能が、首元あたりから背骨を覆うように伸びている機械部分に集約されていることは知っている。

 

 その機能をできるだけ損なわない範囲で、最大限ダメージを与えるなら――

 

「鞭打か空道のやつだろって説が有力だけど、個人的には"ゆうえんち"のコレだと思うんだよな」

 

 そう言う創一朗の手元から、血まみれのなにかが落ちた。

 

 皮膚と、血管何本かと、脂肪、それから筋肉が少し。

 

 リーナの胸元少し上あたりから「ちぎり取った」肉塊である。

 

「ぁ、あ……あ……」

 

「体重が気になる年ごろだろ? まぁ1キロばかりダイエットしようや」

 

 そういって、今度は頬の肉をちぎり取ろうとした刹那。

 

 トンネルの両側入口から飛来する「何か」を感じ取り、「鉄槌」で撃墜する。

 

(ドローン……?)

 

 それらは時速数百キロにもなる猛スピードでトンネルに突っ込んだが、創一朗のマルチスコープの前に近づくことなく叩き落される。同時に100機近い「軍勢」と呼べるほどのドローンだが、創一朗の鉄槌の乱射ならばこの程度は容易い。

 

 爆薬や化学兵器を積んだドローンにリーナごと攻撃される可能性を考慮し数十メートルの距離をあけて墜落させた訳だが、その残骸からは大量の鉄粉のようなものが巻き上げられ、創一朗の側へ押し寄せる。

 

(毒か?)

 

 その粉末を吸わないよう気流操作の魔法を発動しようとした瞬間。サイオンの波動がその粉末に触れた途端、強烈なサイオンのノイズとなってトンネル内を反響する!

 

「しまった、アンティナイトか!!」

 

 そう、ドローンに搭載されていたのは大量の粉末アンティナイト。それなりに距離があったとはいえ1トン近くにもなる大量のアンティナイトをトンネル内に流し込まれ、それが放つ強烈なサイオンノイズによって魔法を使えなくさせる算段だろう。

 

「……なんちゃって。これくらいじゃ止まらんよ」

 

 確かに、まともな魔法師なら死にかねないほどの物量とサイオンのノイズが吹き荒れている。この魔法師にしか見えない嵐の中で、普通に考えれば魔法を使用するのは自殺行為。

 

 だが創一朗の魔法演算領域は、この程度でダメージを受けるほどヤワでは――

 

「え、ぇ。そう、でしょう、ね」

 

 だが、ここには超高レベルの魔法師がもう一人存在する。

 

(CADもなしに何を、いやそもそも、この嵐の中でそんなサイオンを使ったら反動で演算領域が潰れるぞ!?)

 

「ステイツは、わたしが、守る――!!」

 

 そう、一瞬。

 

 ドローンを撃墜した一瞬だけ、創一朗の注意はリーナから離れた。

 

 ブリオネイクは既に遠くに放り投げられているが、()()()()()()()()()()()()()、リーナは装備している迷彩スーツの金属部分を利用してヘビィ・メタル・バーストをいつでも発動可能だった。

 

 防御のための魔法を大量のアンティナイト粉末で妨害。

 

 そして、ブリオネイクによって制御されないヘビィ・メタル・バーストは、全方位に高エネルギープラズマをばらまく戦略級魔法。

 

 リーナの背中で生まれた光球は、一瞬ののちにプラズマとなって爆発を起こす。

 

 爆発がトンネルを破壊すると、当然真上に存在している川から大量の水が流れ込んでくる。

 

 普通は鎮火される。だがリーナの作るプラズマは、タングステン合金の塊を瞬時に蒸発させて全く減衰しないほどの熱量を有する、旧十三使徒最大の攻撃力を持つ戦略級魔法だ。

 

 大量の水が超高温の物体に触れたとき、気化する際の膨張率は1700倍。そこで起きる水蒸気爆発の威力は――

 

 

 

 

 

 この日、マンハッタン島付近のトンネルを発生源とする、巨大な水蒸気爆発が観測される。

 

 結果として燃料気化(サーモバリック)爆弾と同じ原理の超高圧が維持された爆心地にも関わらず、周辺地域では沿岸数十メートルに瓦礫が飛来したほかは、爆風で飛び散った熱湯が降り注ぐ程度の被害しかもたらされなかった。川の水という大量の緩衝材が、爆発の威力の大半を殺したのだ。

 

 崩落したトンネルは完全に水没し、そして自爆攻撃を選んだリーナの献身により、マンハッタンは、ステイツは危機から守られる――

 

 

 

 

 

 

「あっぶねぇ……流石に死ぬかと思った」

 

 

 はずだった。




FANBOXも更新してます。
今回は澪要素もあります(例によってR-18)。ぜひご覧くださいね。
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