(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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105 帰国

「交戦継続中! わが方が劣勢!」

 

「クソッ、自爆もあるかもしれん! 兆候を見逃すなよ!」

 

 マンハッタンとクイーンズをつなぐトンネルの付近、キッチントレーラーに偽装された移動指揮車の内部では、当社比6割増しでFワードが飛び交っている。

 

「オイオイオイ!? なんだよこりゃ!? 魔法師ってのはこんなUMAの集まりなのかよ!?」

 

「無駄口を叩くな! ハリウッドごっこがやりたければハイスクールに戻れ!!」

 

「へいへい」

 

 中でも一層口と態度が悪いのは、指揮車内の一角を占拠している一団だ。彼らは兵士用の野戦服を着てこそいるが、他にいる精鋭部隊の面々と比べると着こなしが雑で、そこだけ纏う雰囲気が少し緩い。

 

 彼らはスターズではなく、魔法師でもない。今回の作戦に際して国防総省直属のタスクフォースから派遣されてきたドローンオペレーターだ。

 

 本来の業務は各軍や特殊部隊の保有する無人航空機の操縦支援や教導のための人員で、彼ら自身が前線に出ることはめったにないが……ワシントンで発令されたこの作戦に間に合わせるため駆り出されてきたのだ。

 

「しかし……このバケモンの隙を突けってか。俺らが駆り出されるわけだ」

 

 リーダー格の男性はもともと民間の工場労働者で、趣味で出場していたドローンレースで世界記録を更新したことを理由に軍からスカウトされ、士官待遇と国家公務員の座を勝ち取ったアメリカンドリームの体現者だ。下についているオペレーターたちも、多くは元プロゲーマーやラジコン競技者などから選抜された者たちで構成されている。

 

 もともとは第三次世界大戦中、新ソ連や大亜連合が得意としていたドローン攻撃に手を焼いたUSNAが、彼らの戦術を模倣する形で発達させてきた部隊である。

 

 とはいえ、サイバー戦と並行して国家ぐるみでオペレーターを育てている東側各国と比べると、民間の競技者主体の西側勢は数で劣り、戦訓の不足から練度で劣ると言われている。新ソ連結成以来持ち直してきたロケット技術と並び、世界最強の軍事大国USNAが珍しく東側に追いつけていない部分の1つだ。

 

 それから半世紀、幾度かの代替わりを経ながら陸海空軍に多くのドローンオペレーターを輩出してきた彼ら教導隊だが、純粋に操縦技術で見た場合の全米トップ集団は彼らである。

 

 ゆえに、今回アンジー・シリウスの援護のため集められた彼らは、ほとんどぶっつけ本番だったにもかかわらず十分な成果をもたらした。

 

「いけ!!」

 

 指揮官の号令に合わせ、8人の部隊が一斉にコントローラーを制御。X字型の翼を持つ人間サイズのドローン200機が入口両側からトンネルに次々進入していく。

 

 AI制御を組み合わせた最新の群体制御システムにより1人頭20機以上のドローンを同時に制御する彼らは、先ほどまでのダラダラした態度が一変、目を見開いてヘッドマウントディスプレイの向こうを凝視しコントローラーを握りしめている。

 

 USNAの技術の粋を集めて作られた機体は、一般に想像するプロペラ式ではなくジェット推進式であり、遠隔操縦式のリモコンミサイルとでも言うべき代物。レール状の発射台さえ用意すれば1秒以内にトップスピード(亜音速)まで一気に加速して敵戦車や拠点などに突っ込んでいく。

 

 車の荷台やヘリのドア横、砲塔のなくなった戦車や輸送機にまで、金属のレールさえ置けば、つまり旧ソ連のカチューシャの要領で手軽に発射でき、旧日本軍の特攻機並の精度を発揮し、かつ操縦者が死なない超精密誘導爆弾である。欠点は値段と、遠隔での観測と操縦が必須でジャミングに弱いこと、あとは見た目のわりに射程が短いことくらい。ちなみに、廉価版で光ケーブルを伸ばしながら飛んでいく有線式のものも存在する。

 

 弾とオペレーターさえ用意してしまえばあとはレールをポン付けするだけでどこからでも撃てる気軽さにより、大戦中からあらゆる前線で使用され、あまりの戦果から一時期は主力戦車の進化を迷走させて二本足にしてしまった凶悪な対装甲兵器である。

 

「電源遮断!」

 

「光学術式展開急げ!」

 

「ジャミング確認されません!」

 

 同時に、電子戦担当者がトンネル内の全電源を遮断。トンネル内を完全な暗闇にする。

 

 とはいえこれ自体はお為ごかし程度の効果しかないのはわかっている。立て続けにドローン発射台を運転していたアジア系の男が魔法を発動し、ドローン全体に認識阻害の術を仕掛ける。

 

 この男もスターズの惑星級隊員で、奇しくも今問題になっている顧傑と同じ「大漢から亡命してきた道士」の三代目だ。とはいえこちらは顧傑とは別流派の人間で、今の状況にはあまり関係がない普通の移民である。根付く土地を変えたことで彼の代ではかなり術式が劣化しているものの、簡単な認識阻害くらいは可能だった。

 

 そう、これは大亜連合が今次大戦で実戦投入していた「式神化した不可視のドローンによる爆撃」をUSNA軍なりに再現したものである。

 

 本家ではジャミング対策で操作まで魔法化されていた一方、魔法資源に乏しいUSNAでは不可視化だけを再現して操作の方は従来の機械式に頼っているなど未だ粗が多い。とはいえ、件のドローンが実戦投入されたのは10月30日の横浜事変が最初。高々半月で最新の戦法を真似してくるあたりが、軍事大国USNAの強みであった。

 

 とはいえ、これらドローンに搭載されているのは炸薬ではない。通常兵器で鉄仮面を殺せるなら誰も苦労はしないのだ。

 

「第一波迎撃されました!」

 

「第二波通信途絶!」

 

「第三波全機の反応消失を確認!」

 

「第四波全滅です!」

 

 1秒と経たないうち、前後の入口から2回に分け計4群で殺到したドローンは、その全てがまともに創一朗に近づくことなく迎撃されたことが明らかとなる。

 

「よし、後は待つだけだ」

 

 ドローンが積んでいるのは炸薬でも化学兵器でもなく、粉末状に加工した大量のアンティナイトである。

 

 産出量がごく少なく、通常は指輪として使用するそれを閉鎖空間内にばら撒くことで、その場でサイオンが使用された際に連鎖的・爆発的な反応を起こし、嵐のようにサイオンが吹き荒れることで強制的に魔法を使えなくする。

 

(東海岸中のアンティナイトを根こそぎかき集めたのだ、これほどの物量作戦はUSNAと言えども何度も実施できん……!)

 

 この作戦の仕掛け人は移動指揮車に同行しているバランス大佐だが、彼女は自らの魔法関連部署へのコネを総動員し、鉄仮面の無力化、最悪でも撃退という「目的」を達成するため動いていた。

 

 以前から、粉末状にしたアンティナイトをミノフスキー粒子のごとく散布して魔法の使用を妨げるフィールドを作成しようという案は、USNAに限らず各国で検討されてきたものだ。

 

 だが、この作戦で撃ち出されたドローンに搭載されていたアンティナイト粉末は2トンあまり。これは世界一の備蓄量を誇るUSNAの戦略備蓄全体の約20%に当たる凄まじい物量であり、7~8月ごろにメキシコの「アンティナイト戦争」を制圧した際に押収、産出した分をまるごと流し込んだ形になる。

 

 USNAの物量をもってしても、明確に国家戦略に影響が出るほどの物量を流し込んで、ようやく狭いトンネル内で魔法を使えなくさせる程度の効果しか及ぼさない。目下キャスト・ジャマーの大量投入による代替が検討されている程度には費用対効果が破綻しており、それでも「普通にアンティナイトを使うより制限度合いが高い」という一点で今回の作戦に採用された。

 

 実際この作戦は、創一朗に()()()魔法使用の制限を強いた。

 

 大半の。

 

 自爆上等のリーナが、魔法演算領域への損傷覚悟で無理やり「ヘビィ・メタル・バースト」を使ったように。

 

 創一朗もまた、突出した得意分野である加重系魔法の使用を妨げるには、この量をもってしても足りなかった。

 

 「アンティナイトのサイオンノイズによる魔法封じ」は、榊創一朗という理外の干渉力を持つ存在によって戦術として破綻したのである。

 

 それは、この場にいた全員の将来が閉ざされることをも意味しており。

 

 「対象健在」の絶望的な報告を聞きながら、バランスは視界と音が遠くなっていくのを感じていた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 公海上を移動する大型輸送機。

 

 政治的やり取りの結果、軍務でスターズと合同訓練をしていた()()()()()()創一朗は、大手を振って迎えの輸送機に乗りこんでいた。

 

「あだだだ、アドレナリンが切れた……」

 

 創一朗は、肘先が無くなっている右腕の断面を撫でている。断面と言ってもすでに応急処置は完了しており、白い地獄に帰ってから再生治療を受ければ問題なく完治すると思われた。

 

「流石に無傷とはいかなかったな……まさか自爆されるとは」

 

 ちょっと舐めプしすぎたな、と残った左腕で今度は頭を掻く創一朗。

 

 リーナが自爆を試みたあの瞬間、持ち前の反射神経を活かしてプラズマ化し出した光学迷彩装備の背骨部分をひっつかみ、ギリギリのタイミングでちぎり取ったのだ。

 

 遠くに投げるまでは間に合わず、そのまま肘先あたりまでが炭化する羽目になったものの、腕を伸ばしたおかげで咄嗟の斥力場の展開が間に合い、爆発の威力をしのぎ切ることに成功したのだ。

 

「思えばこの仕事で負傷したの初めてか……アメリカ最強、伊達じゃないんだなあ」

 

 最後の最後で根性を見せられ、危うく勝負をひっくり返されるところだった。

 

 創一朗にはない種類の、「献身」あるいは「忠誠」の発露と言える捨て身の攻撃を受けて、創一朗に感じ入るところがあるとすれば……「自分にはアレはできないだろう」という感嘆と、知らず知らずのうちに自らが調子に乗っていたという自戒。

 

 結果として勝利したとはいえ、こんなことでは対司波達也どころか、どうでもいい仕事で足元をすくわれかねない。

 

 日本に到着するまで残り数時間、ひとしきり反省を終えて手持無沙汰になった創一朗は、バイザーからニュース記事をホログラムで投影する。

 

『速報です。本日未明、USNA政府は日本政府との交渉の結果、此度の戦争における戦争犯罪人の引き渡しに合意したと発表しました』

 

 あれから10数時間しか経っていないが、「本隊」の頑張りがさっそくマスメディアに流れているようだ。

 

 今このご時世で日本に協力したとなれば、実態はどうあれ国際社会から見れば「USNAは日本との同盟関係を切っていない」と映る。この既成事実は大きい。

 

 現場レベルでも、表向き全てはなかったことになっているものの、USNA軍は最大戦力だったアンジー・シリウスをMIAという形で失い、結果として日本側の作戦がすべて通る形となった。

 

 USNAは絶大な国力を有する軍事国家であるし、公的にはリーナの行方不明を認めていないため、彼女一人の喪失は見かけ上の地政学にはあまり大きな影響を与えないだろう。

 

 しかし戦力のほとんどを魔法に依存する日本陣営にとって、それまで世界最強と目されていた魔法戦力が明白に日本の戦力に敗北した事実は大きい。

 

『また、日本とUSNA両国は近日中の首脳会談を予定しており、新たに地域共同体"ユーラシア同盟"の盟主となった日本と、USNA盟主、アメリカとの関係の再構築が模索される見通しです』

 

「――だってさ」

 

 創一朗が声をかけた先。

 

 医療用ストレッチャーに乗せられているのは、両腕が肘から、両足が根本から消失し、全身が焼け爛れてカプセルのようなものに放り込まれているリーナであった。

 

「正直舐めプした件もあるし、ちょっとは申し訳ないと思ってるんだけどさ。一応生かして連れて来いって言われてんだ」

 

 爆発の瞬間。プラズマ化寸前の金属部分を素手で引っぺがした創一朗は、爆発寸前に自分とリーナの体を可能な限り守る形で斥力バリアを展開していた。

 

 自分との距離の関係で無傷では済まないどころか半死半生の状態に陥ったその後、半ば遺体と遺伝子情報を回収するくらいの心づもりでリーナを回収し、このような事態を想定し接収した救急車に放り込んだ結果……手足が炭化し大量出血を免れたこともあり、ギリギリのところで命を繋がれる結果となった。

 

「流石にその状態から五体満足に戻れるかは微妙らしいけど……今一応意識あるんでしょ?」

 

 身体が動かないだけで、という創一朗の言に答えるように、リーナは焼け爛れた顔と白く濁った眼球を少し動かしたような気がする。

 

「何て言うか、持論を訂正するよ。才能とか、役目とか、そういう身の丈にあった生き方をすればいいと思ってたけど……才能と別で、向き不向きってあるんだな」

 

 声をかけられて、リーナの繋がれている人工呼吸器の呼吸音が少し荒くなった……ような気がした。




今のリーナは大体マウスウォッシングのカーリー状態ですね。
創一朗本人は斥力バリアでどうにかなりましたが、リーナは生身だったのと創一朗から遠かったのでこんがり焼けちゃいました。一応この世界の各種医療技術はかなり高いので生存はできます。生存は。
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