2095年10月30日
大亜連合及び新ソビエト連邦、日本侵攻を開始。
2095年10月31日
日本政府、最後通牒を発する。
新ソビエト連邦、撤退。
2095年11月 1日
大亜連合先遣隊、壊滅。
日本国防軍による戦略級魔法攻撃開始。
新ソビエト連邦、日本側に寝返って大亜連合侵攻を開始。
2095年11月 8日
大亜連合、政府機能崩壊。
2095年11月11日
横浜会談開催。旧大亜連合領の処遇が取り決められる。
2095年11月12日
日米首脳会談実施。
米国側が戦争犯罪人の引き渡しに合意、日米同盟は内容再考の上再締結の意向。
2095年11月30日
日本、新ソビエト連邦、インド・ペルシア連邦、東南アジア同盟により再度会合がもたれる。
◆ ◆ ◆
2095年12月1日。
この日、上陸被害から復興した横浜国際会議場にて、朝からイベントが行われていた。
5000人を収容する大ホールには、十師族の主要メンバーから軍の高官、マスコミや政治家、各界要人までが詰めかけ超満員だ。5000という人数にも拘らず、端に座っている一人からその辺の式典ならVIP席に通されるレベルの人物だけで固められており、その催しがどれほどの注目度を誇っているか分かろうというものだ。
もちろんイベントの様子はネットとテレビを利用して全世界中継されていて、後の調査では日本国民の約55%がリアルタイムで視聴、後から録画を確認したものを含めると視聴割合は92%まで上がると言われる。
壇上で挨拶をしているのは、この1か月でおそらく最も働いた男、日本国内閣総理大臣だ。
「昨日、我が国は、インド・ペルシア連邦、東南アジア同盟、新ソビエト連邦の3か国と協議を行い、我が国の領有する旧大亜連合地域の処遇についての条約を締結いたしました」
多くのカメラが向けられるなかで、壇上の総理は神妙な面持ちのまま淡々と述べる。
現在占領中の大亜連合の領土は、全て国際的な承認を受けて日本領となること。
そのうえで、その大半の領土を三国に有償で租借させ、日本は調停者および投資家としての役割を担うこと。
日本は北京、釜山、陝西省の一部地域(旧太乙法院所在地周辺)などいくつかの重要地点を確保し、運営していくこと。
「本条約の締結をもって、大亜細亜連合を名乗る敵性勢力は完全に消失いたしました。よってここに、今次軍事的局面における日本の勝利を宣言いたします」
それは、敵国である大亜連合を国家として認めず、同様に交戦を戦争と認めないことで種々の国際法違反から逃れているために持って回った言い回しとなったが、意味するところの分からないものは誰一人としていなかった。
その場に集められたVIPは、流石に叫び出すような真似はしなかった。
代わりに皆、一糸乱れぬ動きで立ち上がり、勝利宣言に対し万雷の拍手でもって応えた。
この日、日本政府は旧大亜連合への報復戦の完遂を宣言。相手方政府が消失しており、また日本政府がその政府を認めていなかったため、これが事実上の終戦宣言となったのである。
その後、「現地の秩序の維持」のため当面は派兵されている魔法師たちの仕事が続くこと、各国はすでに具体的な統治内容について日本政府と意見交換をしていること、ここまでの戦闘のため破壊された大陸の復興のため、ひとまず基金が設立されるのが決まったことなどの報告が続く。
後世において、第四次世界大戦の端緒と言われる横浜事変は2095年10月30日の侵攻開始から、11月30日の「大阪条約」締結までの丸1か月間と称される。
同時に世界トップクラスの国力を誇った超大国「大亜連合」は国家として消滅し、周辺3国によって分割統治されることとなった。
イギリスのイラストレーターが作成した、この頃の日本を示す風刺画がある。
旧日本軍の軍服の上からエプロンを着た日本人がラーメンの屋台らしきものを開いており、「China」と書かれた鍋から明らかに人体の一部と思われる肉片の入ったスープをよそっている。
客として座っている3人は露骨にカリカチュアライズされたインド人、ロシア人、フィリピン人であり、札束で「お代」を支払いスープを受け取っている。なお、ロシア人だけは顔に殴られた痕があり、他2人より出している金額が明らかに多い。卓上調味料の瓶には各種戦略級魔法の名前がズラリ……という塩梅だ。
この頃の世間の認識としては、日本が大日本帝国に戻ってしまったという意見のほか、やはりアジア人(この文脈ではロシア人もアジア扱い)は野蛮なのだという人種差別的な見方、そして欧州を中心に他国からたっぷり皮肉を言われている。
一方で、大国1つを消滅させ住民をほぼ皆殺しにする世界史上でもなかなか見ないレベルの惨事が「皮肉を言われる」程度で済んだのは、ひとえに日本の魔法戦力を世界が恐れていたから……ではない。
第三次世界大戦中、大体どこの国も似たようなことをやった覚えがあるからだ。
「人口を一定以下まで減らさせる旨の条約」、「意図的なエネルギー供給の停止」、「飢餓の誘発を理解した上での食料の強制徴発、略奪」、これらは当時の先進国の常套手段だった。核兵器を使わずに世界人口を60億減らすというのはそういうことである。
西側から見た日本の扱いは「未曾有の極悪国家」ではなく「頭が30年遅れてる野蛮国家」だった。そのことが目を曇らせて、今や魔法戦力は現代兵器に優越するという事実が民間レベルまで浸透するまでにはさらにしばらくの時間を必要とした。
そのような国際世論の無関心ぶりも後押しし、日本率いるユーラシア同盟の完成は比較的スムーズに進められたのである。
翻って、戦勝宣言の会場。
総理が降壇するのに合わせてさらなる拍手が巻き起こる中、続けて次なる催しが行われていた。
入れ替わるように壇上に現れたのは、7人の男女。
五輪澪。
榊創一朗。
榊白巳。
四葉達也。
九島光宣。
三咲玲。
一条将輝。
そして彼らを代表し、「鉄仮面」こと榊創一朗がマイクを取った。
「――皆様も知っての通り、先の戦いでは戦略級魔法が使われました」
仮面姿とはいえ、この戦争における最大の英雄だ。この場のVIPたちもその名は良く知っており、目を丸くしている。
「その効力のほどは、皆さんもよく知っておられると思います。我が国に多大な犠牲を強い、しかし同時に攻撃の要ともなりました」
この横浜も、戦略級魔法「霹靂塔」で攻撃されかけた地域の一角だ。
集まった要人たちが僅かにどよめいた。
「国際的な取り決めにおいて、戦略級魔法の使用を禁ずる項目は存在していません。そのことは、大亜連合を名乗る組織による襲撃が大規模で悲惨なものとなったことの大きな要因と言わざるを得ないでしょう」
どよめきが少しずつ大きくなっていく。
「国際魔法協会は核兵器による惨禍の防止を掲げて君臨しましたが、彼らは本当に気付かなかったんでしょうか? 開発され、デモンストレーションに使われ、散々宣伝されてきた戦略級魔法が、本当に核の代替品にはなりえない、大量破壊兵器足りえないと思っていたんでしょうか?」
「そんな訳ない。素人目にもわかっていたはずだ。それを禁じなかったのは、魔法師だけが強い力を持ちうる立場を、特権を手放したくなかったからじゃないのか?」
創一朗の演説は、砕けた口調ながら痛いところをついている。少なくとも聞いている有力者たちにはそのように思われた。
「彼らは少なくとも、戦略級魔法を正しく管理できなかった。実際にそれが使われた横浜事変に及んでもなお、彼らはそのツケを日本だけに押し付けて事なかれ主義を貫こうとした。あれは魔法協会の"怠慢"が生んだ事態だと言わざるを得ない」
第三次世界大戦を防げなかったことで、国際連合はその機能を停止した。
ならば、今次を第四次と呼んだとき、その機能を停止する国際組織は何か。
「ゆえに我々は、国際魔法協会と袂を分かち、代わりに新たな魔法師の居場所を設立することとしました」
このタイミングで会場のドアが開き、2か所からさらに数名の男性が歩み出た。
まるで往年のロックスターでも迎えるような演出だが、実際に現れた面々を見て、会場は戦慄することになる。
アリ・シャーヒーン。
ソム・チャイ・ブンナーク。
バラット・チャンドラ・カーン。
3名はそれぞれトルコ、タイそしてインド・ペルシア連邦が公的に承認している戦略級魔法師である。
彼らは堂々たる態度で壇上まで歩いていくと、そのまま日本勢の横に並んだ。
「我らが同盟国である東南アジア同盟、インド・ペルシア連邦そしてトルコの魔法師たちを代表して、彼ら3名にお越しいただきました。そして」
創一朗の合図で、背後にセットされていたモニターが点灯。
そこには、豪華なソファに座った2人の男性が映っている。
一人は学者風の白衣を着た金髪の中年、もう一人は70代ほどに見える老人。
イーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフ。
レオニード・コンドラチェンコ。
新ソ連が有する2人の戦略級魔法師であった。
『オブザーバーとしてですが、我々新ソビエト連邦も参加します』
金髪のほうが代表し、たどたどしい日本語で応じる。
新ソ連からすれば、この魔法協会の分裂騒動は遅れている自国の魔法技術を日本からかすめ取るチャンスだ。民意が意味を持たないかの国にとって、さっきまでの屈辱を忘れる程度の掌返しは容易いということだ。
その様子をバイザー姿のまま見守っていた創一朗が告げる。
「任務の都合で遠隔での参加となっているお2人を合わせて、今、ここには12名。世界全体の2/3に相当*1する戦略級魔法師がいます。彼らは、我々の大義である"軍事力としての魔法の適切な管理・運用"そして"民生技術としての魔法のさらなる発展"に同意してくれました」
創一朗は一拍置いて注目を集めると、自らのバイザーを脱ぎ捨てた。
「これは、複数の国家による適切な管理と監視によってのみ許される力です。……ただ、未成年のメンバーについてはプライバシーの問題もあるので、この場で顔を晒せないことは許していただきたい」
その場の面々は、創一朗が晒した
「彼らの立ち合いのもと、我々はここに、国際魔法師連盟の設立を宣言します」
それは万雷の拍手でもって迎えられた一方、数分かけてそれが落ち着いてもなお、彼らは降壇しなかった。
やがて訝しむような空気が流れだしたころ、ポツポツと言葉が続く。
「あぁ、それと。1か月前、あの事変が始まった瞬間。ここでは魔法科高校の生徒たちによる論文コンペが行われていたことをご存じですか?」
その発言に、会場の面々は顔を見合わせる。
「今日、この会場は少し長めに時間を取ってあります。この後は、あの日終わらせられなかった”発表の続き”を、第一高校と第三高校代表チームの皆さんでやっていただきましょう!」
そのサプライズははじめから予定されていたもので、参加者たちはわが意を得たりとばかりにわざとらしく感動して見せている。
それは「あの日侵攻でかなわなかった論文コンペの続きをやる」というエモーショナルな演出であるだけでなく、既に四葉家の一員かつ戦略級魔法師として公開された達也の「重力制御式熱核融合炉」の論文を広く世間に晒すことには多くの意義がある。
「魔法の平和利用にも尽力していく」ことを示し、さらにそれを(原作のように独立国としてではなく)日本陣営の枠組みの中で実践させようという、一石三鳥の策であった。
今話で世界大戦編は終了、閑話を挟んだ後次章に移ります。
横浜事変(大陸に被害がいくら出ようと横浜事変)は終戦しましたが、連鎖的に戦争は続いていきます。