(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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125 ベルカ式国防術

 2096年 1月18日。

 

 当初の予定通りルーマニア軍陣地に帰投した俺たち対魔装特選隊は、現地の兵士たちから大歓迎を受けた。

 

 俺たちはルーマニア語が分からないので基本的に通訳頼みな訳だが、言葉が通じなくても歓迎ムードなのはよく伝わってきた。当初来た時は「あーはいはいお義理で何人か観戦要員送ってきたのね」的な空気の下でお客さん扱いされてたのを考えると、随分な変わり身の早さだ。まぁ気持ちはわかるけどね。怖がられるよりよっぽどいいや。

 

 まぁ歓迎もそこそこにけが人の治療を、ということになった訳だが、幸いにして俺たちの中に死者は出なかった。

 

 オーバークロックの反動で頭クソ痛いくらいで大したダメージのない俺。無傷の山田さんと龍征さん、あとドラキュラ。ヘリから飛び出した時金具に頭ぶつけてて3針縫った遼介。例によってガトリング・キャストの反動を喰らって寝込んでいる玲さん。

 

 多くは軽傷以下とはいえ満身創痍だ。特にひどかったのがつかささんで、アンジー・シリウスにシールドぶち抜かれた時以来の絶唱顔*1を晒しており、大事を取って後送(帰国)ということになった。

 

 毎度身体を張らせてしまって悪いな、やはり部隊の防御力が補強ポイントか。十文字はムリでも四葉家から桜シリーズあたり引っ張ってこれないもんかね……。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 魔法師にとっての補給は、まあ多くの部分は普通の兵隊と同じだ。食って寝て体力を回復させるほかに、武装であるCADの調整が必要になる。

 

 先端技術の塊であるため、ちょっとした整備をするにもそれなりの設備が必要になってくる。そのため前線に魔法師が投入される場合は専門の支援部隊がセットだ。健康診断の時に出てくる移動検診車みたいな車載用機材が開発されていて、軍用に限らず民間でも会社の出張などで便利に使われている。

 

 今回は第二・第三小隊と帯同している後方要員がその役だ。彼らがルーマニア軍陣地に間借りして、車ごと持ち込んだ調整設備を現地に展開してくれている。思えば九校戦の時にわざわざ各自で調整機器を車ごと持ち込んだり、ホテルの部屋でやればいいものをわざわざ炎天下に天幕作って作戦本部みたいなのを構築していたのは、こういう時のための軍事訓練の一環でもあったわけだ。

 

 ただでさえ国家機密の塊な魔法技術の、それも最先端レベルに位置する俺たちのCADデータは新ソ連軍としてもルーマニア軍としてもドイツ軍としても喉から手が出るお宝だ。敵だけでなく友軍が変な気起こさないための予防措置としても、外国基準では全然高レベル魔法師な第二・第三小隊にガッチガチの警備体制を敷かせて、中の人員は日本人だけで構成する徹底ぶりが必要だったのである。

 

 中の会話も文章も全部日本語にして天然の防諜にしたり何たり、この辺情報部出身のつかささんが張り切って体制組んでくれたのだが、当人いなくなっちゃって大丈夫だろうか……。

 

 現に、俺たちが前線でドンパチしてた間、こっちでは何度か爆撃が来ていた上、最終的には特殊部隊(スペツナズ)と思われる魔法師まで空挺降下して来てたらしい。特戦隊総隊長として各部隊の戦果とかも書類で上がってくるのだが、戦闘爆撃機が20機くらい計上されてた時は何事かと思ったよ本当。

 

 言われてみれば第三実働小隊には歩兵携行兵器としては最強クラスのレールキャノンが何丁も配備されてるし第二実働小隊には弱いなりに鉄槌持ちが何人かいるけども、だからって自分とこを爆撃しに来た飛行機を撃ち落とすかね普通。バトルフィールドやってんじゃないんだからさ、練度だけなら俺たちより高いんじゃないのあいつら……ああそうか、任務漬けの俺たちより訓練期間長いもんな……。

 

 空挺の連中は、魔法技能的には十師族と比べるべくもなかったので第二・第三小隊に瞬殺された(そもそも対魔装特選隊(おれたち)は魔法戦部隊ではなく魔法師殺しの部隊なので、こういう仕事が一番得意)のだが、全員飛行魔法装備だったということで上が大騒ぎになってるとかなんとか。シルバー君さあ。

 

 まあ冗談は置いといて、戦闘記録(映像で残してくれてた)を見るとやっぱり制空権取られてるとこういう奇襲が怖いなという気持ちが半分、空挺兵が空飛んでるとこんなに怖いのかという気持ちが半分ある。特戦隊の面子は既に飛行デバイス標準搭載だからよかったものの、第二・第三小隊(あいつら)連れてきてなかったら後方支援基地を焼き払われて挟み撃ちされてた訳だ。

 

 それにあれだ。ここで彼らが暴れてくれていたお陰でルーマニア兵の皆さんの好感度を獲得していたので、俺たちが帰った時も歓迎ムードだったということか。帰ったらあいつらに何かボーナス出せないか上申しとこ。

 

 なんでこうやって考え込んでるかと言えば、シンプルにヒマなのだ。

 

 一般兵の皆さんは塹壕掘りから食事の準備まで大忙しだが、大して人数がいなくていまいち部隊に組み込みにくい上、ほぼ全員が魔法師で構成されてて扱いに困られてる(魔法先進国で宗教観が雑な日本ですら人種が違う的な扱いな以上、特にこういう信心深い国だと完全に異種族扱い。異端じゃないだけマシ)手前簡単な手伝いくらいしか仕事が回ってこない。

 

 いや新ソ連軍と戦えよって話なのだが、陣地で調整と休養に努めること2日間、3日目から戦線に復帰というハードスケジュールをこなしたものの、戦線は国境沿いで完全に膠着しており散発的な小競り合いにとどまっている。

 

 ソ連軍と言えば複数の梯団を使った連続攻撃というイメージがあるし実際今もそういう感じの戦術を使ってるらしいので、俺たちが補給だなんだで引っ込んでるうちに再攻撃を仕掛けてきたらヤバいのではとあんまり気が休まらなかったが、幸いなことに新ソ連軍がこっちに振り向けている部隊は混乱しているらしかった。

 

 底なしの物量で知られる新ソ連軍だが、流石に精鋭の何個師団かが吹っ飛んだらキツいらしく……キツいよね? キツいと言ってくれ。ともかく向こうが攻撃を仕掛けてこない以上、下手に突っつく訳にもいかずにらみ合いが続いている状況だ。

 

 言っちゃ悪いがルーマニア軍は吹けば飛ぶような兵力しか持ってない(こないだの無人地帯一発で吹き飛んだ新ソ連軍の兵数よりギリ多いかなくらい)し、一応救援で来ているドイツ軍もポーランド方面の戦況がヤバすぎて本当に一応来ただけみたいな数である以上、新ソ連軍がちょっと攻勢かけたら明日には星になってるような状況である以上、今の状態は望ましい。

 

 そして向こうが迂闊に攻めてこられない理由が俺たちの存在にあるなら、俺たちは「万全の状態でここにいる」ということに意味がある。

 

 残念ながら、当分はここで観戦としけこむことになるだろう。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ルーマニアの前線付近でラジオだけが楽しみな生活を始めて1週間あまり。

 

 こちらの前線はたまに攻撃にくる飛行機を叩き落すくらいで(俺たち基準では)平和なものだが、ポーランド側の前線では動きがあった。

 

 俺たちが戦って以降、向こうの前線でもトゥマーン・ボンバの使用が確認されていないらしい。

 

 どうやら俺たちの作戦によるカウンターがモロに入っていたようだ。担当してもらったドラキュラによれば殺せた手ごたえはないらしいが、同時期にソビエト科学アカデミーで爆発騒ぎがあったらしいことは確認が取れてるし、向こうにそれなりの打撃は与えられたと見ていいだろう。この調子でルーマニアからは手を引いてくれるとありがたい。

 

 向こうの装備についての情報は限定的だが、分かっていることを総合すると俺たちのセイレーンシステムと似たようなものを開発してるらしいことが想定された。

 

 セイレーンシステムには魔法の威力を増大させる他にも、それ自体が人間であるために一種のVPNみたいな機能があって、「魔法が逆流する」事態が起こった時に使用者の名義を「わたつみ」が吸収して本当の術者を呪い返しの対象から外せる。

 

 向こうが()()()()()()()()()()()()()()して、山田さんに負荷をかけてもらった。普段より魔法使用の難易度が上がって、ソーサリー・ブースターの交換時期が早まる程度の負荷を。

 

 向こうの戦略級魔法が打ち止めになり、セイレーン相当装備が交換されるそのタイミングで、ベゾブラゾフ本人がこちらの被害状況を確認する。これら条件が全部揃えば、ベゾブラゾフがワンチャン死ぬ。これがベスト。

 

 よしんば死ななくても現実的なラインとして、カウンターで向こうの設備やらなんやらをメチャクチャにできる公算はあった。その場合も向こうはカウンター対策が機能していないと考え、対策に相当な時間をかけるはず。少なくとも今次戦争中、日本勢力圏内にトゥマーン・ボンバで再攻撃するような真似はできないだろう。向こうだってベゾブラゾフは替えが効かないのだから。

 

 それで思い出したが、新ソ連内では南方戦線つまりルーマニア侵攻軍を指揮していた戦線司令官(上級大将)が粛清されたらしいという話もある。あいつら砲兵ひとつから明らかに精鋭部隊っぽかったし、それを軍団規模で投入して俺たちを殺し損ねたということで責任を取らされたのだろう。

 

 ここのところ前線が混乱してる様子だったのはそのせいなんだろうな。だからといって反攻作戦ができるほど兵力がないのが悲しいところだが。

 

 日本本国の方でも、今回の無茶な作戦でつかささんが死にかけた件が問題になって獅童のジイサマが怒ってるようなので、帰ったら偉い人が何人か交代してるかもしれん。因みに当のつかささんは四葉家(の分家の津久葉家)の技術供与の下で順調に回復中らしい。やっぱ精神周りの技術は政府を超えてるよねあいつら。怖。

 

 俺は戦果やらなんやらのせいで大佐まで駆け上がってしまったが、将の階級になると流石に前線には出られなくなるのでこの辺で階級は打ち止めになることが通告されている。正直これ以上権限を増やされても何したらいいか分からんので助かった。残念ながら、俺の身の丈には社畜でいるくらいが丁度いい。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 モスクワでテロがあったらしい。

 

 クレムリンを中心とした十数か所で同時多発的に「オゾンサークル」が使用され、特にモスクワメトロ全域が汚染され立ち入り不可能な状況。現時点で、新ソ連側発表で1万4千人、東EU側発表で8万人の死者を計上しているそうだ。差ありすぎだろ大本営かよ。

 

 下手人はドイツの保有する「ウィリアムズ・ファミリー」十数人、まぁ塹壕にガス弾として投入するよりはこっちの方が効率的ではある。光宣君たちがやった北京への攻撃と比べたらショボいもんだが、霹靂塔も支援要員もなしで適当にぶっぱしたんじゃこんなもんだろう。

 

 えーと今1月30日だから……トゥマーン・ボンバが止まって約1週間か。

 

 日本側の戦果は大々的に公表されているので、恐らく東EUとしてもベゾブラゾフが態勢を立て直して爆撃を再開する前に反攻作戦をやりたいのだろう。その狼煙としてのテロということか。ドイツは結構前の段階で防衛事態を宣言して凄い勢いで徴兵対象を拡大していたが、急ごしらえの戦力でどうにかなるんだろうか。

 

 まあ、相変わらず新ソ連の繁栄は極端な一極集中構造だというから、そのモスクワで万単位の死人が出たらそれなり以上のダメージはあるだろう。要人も何人か巻き込まれたらしいし。

 

 とはいえこれで、一応は正規軍同士の殴り合いに終始していた戦局が「何でもあり」の方向へ一歩進んだわけだ。ルール無用の残虐ファイトは確かにドイツの得意技かもしれないが、世界で一番「そういうの」が上手いのは多分――

 

 

 

 

 

 

 

 

2096/01/30

 ドイツ軍、モスクワで同時多発オゾンサークルテロを実行 同時に特殊部隊がクレムリンを急襲

 死者8万人(東EU発表)も書記長暗殺は失敗 犯行に関わっていたウィリアムズファミリー13名は全員戦死

 

2096/02/01

 新ソ連、報復を宣言しベルリン中心部に向けてトゥマーン・ボンバを使用 推計死者42万人

 

2096/02/01

 新ソ連、意図的に細菌兵器に感染させた大亜連合敗残兵やヨーロッパ人捕虜を難民として東EU後背地に大量送致する作戦を開始

 ドイツとルーマニアでは検疫に阻まれ失敗するもバルカン半島でパンデミック発生

 終戦後事態収束が宣言されるまでに6年を要し、総計1000万人超の死者を計上

 

2096/02/03

 新ソ連、作戦目標を達成した北方戦線(バルト三国侵攻軍)および苦戦している南方戦線(ルーマニア侵攻軍)の解散を決定

 日本義勇軍の抵抗を受けて南下は諦め西進に集中

 

2096/02/13

 新ソ連、ポーランドの制圧を完了しドイツ国境まで到達

 

2096/02/13

 ドイツ、新ソ連に最後通牒を発行

「もしドイツ領内に侵攻すれば」から始まる文章に対し、新ソ連の返答は「もし?」の3文字

 

2096/02/14

 新ソ連軍が越境開始

 

 

 

 

 

 

 

2096/02/14

 ドイツ、自国領内で核兵器を使用

 

 

 トゥマーン・ボンバによって廃虚化していたベルリン市街を含む国境近隣地域が一斉に自爆

 市街占領のため集中していた新ソ連軍部隊に直撃

 ドイツ民間人死者2万9千人、東西EU軍の巻き添え3千人、新ソ連軍死者24万人

 

2096/02/14

 新ソ連書記長、ドイツを激しく非難

 報復核攻撃を示唆

 

2096/02/14

 USNA大統領、英国首相、仏大統領が共同演説「新ソ連が報復核攻撃なら米英仏も躊躇わない」

 ベルリン危機発生

 

2096/02/14

 ユーディト・エフレイム、ドイツへの非難決議と魔法師による多国籍軍結成を発令

 西EU・USNA・新ソ連代表 全会一致にて反対を表明し頓挫

 国際魔法協会、事実上崩壊

 

 

 

 

 

2096/02/14

 USNA、ベーリング海峡を越えて新ソ連へ侵攻開始(第二次アークティック・ヒドゥン・ウォー)

 欧州侵略に対する懲罰戦争との位置づけ

 

2096/02/14 

 USNA、東西EU及び南米諸地域へ新陣営「AEU」の結成を呼び掛け

 

2096/02/14 

 ブラジル、AEU加盟を発表

 

2096/02/14 

 東西EU、相次いでAEU加盟を発表

 

2096/02/15

 ブラジル軍、USNAの要請に応える形でミゲル・ディアスをベーリング海峡に派遣

 

2096/02/16

 USNA、カムチャツカ半島制圧、同地に核ミサイル基地設営を画策

 カムチャツカ危機発生(ベルリンと合わせユーラシア東西危機とも)

 

 

 

 

 

 

2096/02/17

 日本、介入開始

*1
アニメ「戦記絶唱シンフォギアに登場する変身ヒロイン風鳴翼が見せた、大きな反動を伴う必殺技「絶唱」を使った後の壮絶な顔芸のこと。吐血・血涙・瞳孔ガン開きの瞳という三拍子が揃った「女の子がしちゃいけない顔」の代名詞的存在




Q.これだけ暴れまわって底が割れた扱いは厳しくない?
A.司波達也ならできたぞ?

19:48追記:地理情報に違和感があったため修正(フランクフルト危機→ベルリン危機)
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