ありがとうございます。励みになります。
ドイツが自国領内で核兵器を使用したところまでは他人事扱いを決め込んでいた日本陣営だが、USNAの極東ロシア侵攻のニュースでついに介入せざるを得ない状況へ追い込まれた。
USNA政府はこの軍事介入によって、新ソ連軍の背後を突いて戦力の分散を強い、極東に橋頭保を獲得して日本に睨みを利かせ、ついでに新ソ連軍への勝利を喧伝して国威を発揚するという一石三鳥の利益を得る。
今でこそUSNAのミサイル基地はカムチャツカ半島南端で、ここから東京までの距離はグアム-東京間より若干短い程度だが、2月17日時点でUSNA軍は新ソ連軍の守備隊を蹴散らして進撃を続けており、これがウラジオストクや旧黒竜江省まで到達すれば、日本は新ソ連とUSNAという二つの超大国に目と鼻の先から睨まれることになる。
その事態を回避するため、日本は表向き今次戦争についての停戦交渉の仲介を申し出、その裏でUSNAが占領した新ソ連領内への破壊工作を仕掛けた。
2096年2月19日 カムチャツカ半島南部。
数日前まで新ソ連が管理していたミサイル基地であるここは、ついこの間USNA軍が占領して所属を変え、そしてこの数時間ですっかり基地としての機能を喪失していた。
その最重要区画である地下司令室内の生存者はあと3名。
軍事基地には全く似つかわしくないゴスロリ姿の
『これが最後だ。核ミサイルのセキュリティ解除コードを教えろ』
ゴスロリ服の片方――黒羽文弥がナックルダスター*1で彼の頬に優しく触れて英語で問いかけると、椅子に縛り付けられた基地司令官はそれだけでびくりと震えた。
彼に目立った外傷はないが、何度も気絶から無理やり起こさせるために冷水をぶっかけられて水浸しになっており、手足は拘束されたまま暴れて出血、表情は完全に憔悴し切っている。
無理もない。彼はここで、文弥の「ダイレクト・ペイン」によって「存在しない痛み」をショック死しないギリギリの範囲で与えられ続けていた。
『し、知らな、知らないんだ、本当だ、神に誓う』
『あぁ、そう』
文弥が表情一つ変えずにCADを起動させると、司令官は身体をひときわ大きく震えさせた後、力なく崩れ落ちる。これで生存者はあと2名になった。
「作戦計画、投入兵力、魔法師の有無と分布……まあ、大まかな情報は手に入ったけれど。肝心の核弾頭周りは最期まで知らないの一点張りだったわね」
隣で得た情報を転送していたゴスロリのもう一人――黒羽亜夜子が呆れたように基地司令官だったものを見やる。
「今日一番気の毒な人だったわねえ」
「どうかな、新ソ連の末端が捕虜の処刑映像を毎日のようにネットに流してるし、アレと比べたら流石にちょっと負けるかも」
九島老師が亡くなってこっち嫌な世の中になったもんだね、という言葉で感想戦を総括すると、文弥は自前の通信機を取り出してどこかへとつなげる。
「すみません、こちらは外れでした。ええ、基地司令官は知らないと――」
やがて通信を切ると、二人は音もなく撤収を始める。
基地から脱出し、迎えのヘリに乗り、さっき襲撃した基地が見えなくなった頃。文弥はようやく「素」に戻った様子で、これ見よがしにため息をついた。
「結局、これって汚れ仕事だよね。『USNAの占領地域への攻撃は新ソ連領への侵攻には当たらない』っていう屁理屈の下のさ」
「あら、不満?」
「内容には不満はないよ。やってることは昔と同じだ」
その返答は、つまり仕事内容以外のところに不満があると言っているのと同じだ。
「ただ、今の四葉は……親体制的過ぎないかい? そりゃあ、
「あらそう?」
一方、亜夜子には迷いはないようだ。
「今でも、何にも指図されない立場を希求しているのは皆同じよ。当主が真夜様から深雪様に代わっても同じ。……
「要するに、自分より強いやつには逆らわないってこと?」
「そうでしょう? 最も魔法力の高い者を当主に据える私たちが、そこに反抗してどうするのよ」
亜夜子は当然のごとく言い切った。
あの日同じように痛めつけられ、力の差を見せつけられ、しかし反応は双子で全く異なる。
抵抗不可能な圧倒的実力を前に文弥は反骨心と少しの嫉妬を持ったが、亜夜子は当然のことと受け入れるどころか自分の顔面を破壊してくれた相手に好意さえ持っている節があった。
当人は自覚していない……というか理性で否定して目を背けているようだが、15年ばかり双子の弟をやっている文弥からは完全にお見通しだ。
おそらくは「強さを求める」という本能が強い故の性差であろう。そのあたりも文弥にとっては反抗理由に含まれる。
「今の私たちに求められているのは"正気"と"狂気"、その両方。序列に従うという正気と、敵対者の全てを破壊する狂気。自由である前に、まずは生き残らないとね」
魔法師の本能を極めた存在として長らく「狂犬」であった四葉家は、ここに来て暴力組織として一定の秩序を獲得しつつあった。
その姿は武闘派の
「大体、あなた鉄仮面にやられてから暫く
「ね、姉さん!? なんで知って」
「あら、隠してたつもりだったの?」
◆ ◆ ◆
ドイツ国境部でついに核兵器が使用された今、これまでになく核のリスクは高まっている。
確かにドイツの核使用は「敵国に押し込まれ、ついに本国を侵されるところでやむにやまれず使用」という情状酌量の余地のある使い方であった。
だがそれは魔法協会の懲罰動議によって国を制圧されないとか、世界の敵として各方面から潰しにかかられないとかそういう意味の「同情」であって、その使用を西EUやUSNAが非難しなかった時点で「訳があれば核を使っていい」という前例が生まれてしまった。
それに伴い、これまで事実上核兵器を封じていた国際魔法協会もその力を失った以上、使用のハードルは当分の間下がることはあっても上がることはない。
その先の未来では、核保有国と非核保有国が一等国と二等国に分かれ、前者は後者を一方的に蹂躙・支配・収奪することが許される世界がやってくる。神聖不可侵の「大国」と、それに切り分けられるパイだ。
だが第三次世界大戦前の時代と違うのは、核兵器に伍する大量破壊兵器「戦略級魔法」が新たに存在するということ。日本はそれの力で新興超大国の座に手をかけつつある訳だが、それは核が脅威ではないということを意味しない。
核が解禁された世界で得をするのは、当然元から核を持っていて魔法戦力に乏しい先進国……すなわちフランスとUSNAと新ソ連だ。
その中で一番に飛びついたのがUSNA。すなわちベーリング海峡からの新ソ連侵攻であった。
もちろん新ソ連の背後を突いて欧州を救援し恩を売るという意義もあるだろうが、主目的はユーラシアの極東側に対日拠点を設置することにある。
USNAが保有している
さらに言えば、新ソ連が統治している黒竜江省では、大亜連合の生き残りがアウシュビッツもかくやの環境で働かされている訳で。その「実態」がUSNA軍によって暴露されれば、国際世論は確実にUSNAの味方をするだろう。
超大国の条件とは戦争の強さや政治体制ではなく、国家としての体力、すなわち国力である。
スターズ総隊長を撃滅され、生き残った部隊も敗走し、CIAの拠点を攻撃され、国が抱えていた魔法戦力をことごとく叩かれ。それぞれの「掛け金」は、仮に日本が同じ損害を出したら容易く陣営が瓦解する程度に巨大であり、同時にUSNAにとっても大ダメージだが、「痛いで済む」程度でしかない。
太平洋戦争を思い返してほしい。その辺の大国ならとっくに国家が瓦解しているくらいの大敗を何度も何度も喫し、おびただしい数の戦力を失っても、涼しい顔でもっと多くの戦力を出すことができるのがアメリカだ。
時代遅れだろうと巨人である。無限の資金でポーカーをしているかのような、このどうしようもない「デカさ」こそが、USNAを世界最強たらしめてきた。
ゆえに、日本側の作戦目標は、カムチャツカ半島南部の基地に運び込まれた
表向きは、直近の新ソ連情勢に対応するための核シェアリングとか、そのあたりの言い訳をUSNAに強要することになるだろう。これだけ裏で殴り合っていようと、建前上は未だに同盟国であるし、同盟が破棄されて困るのはUSNAも同じ*2だ。
実態として、新ソ連へは「あくまでUSNAが制圧したUSNA領での行動である。新ソ連領への軍事行動には当たらない」と強弁。
USNAには核弾頭を盾に状況の追認と極東ロシアからの撤退を強要。
さらに新ソ連に対し、USNA撤退の交換条件としてヨーロッパ戦線を今の形(ポーランド以東が新ソ連占領下)で強制的に終戦させ、生き残った東EU諸国は陣営を解体して西EUが吸収、日本は分け前としてルーマニア以南をかすめ取る、というのが日本の考えている「仲介案」だ。
ちなみにこの件で日本はさも今初めて核保有国になるかのように振舞っているが、ユーラシア同盟に混ざっているインドが核保有国なので陣営としては既に核保有済である*3。
その作戦の実行役として、日本政府は四葉家に協力を要請した。
「――了解した、プランBを発動し、こちらで取り外し作業を行う」
場面は戻り、基地内の別ブロック。
黒羽の双子が繋げた通信の先に居たのは、四葉家最高戦力・司波達也であった。
プランAは、黒羽家の人員が聞き出した核ミサイルのロック解除コードを利用し、正規の手続きを踏んでミサイルごと持って帰る最善策。
だがあくまで奇襲であり時間的制約が厳しいことから、難しいようならすぐにプランB、達也の「分解」で信管や制御装置を無力化して弾頭だけ持ち帰る次善策に切り替えることが決められていた。
彼と四葉家が投入した荒事担当の傭兵魔法師たちの働きにより、基地の警備を担当していた部隊は既に全滅している。
アメリカは(通常戦力で南米制圧の手伝いをするという条件で)ブラジルから借りてきた戦略級魔法師、ミゲル・ディアスを前線に配備。
基地警備にはスターズの生き残り3部隊の他、スターダストと彼らの新リーダー、ハロルド・ポラリス*4*5が付いていたが、司波達也という戦力を前にすれば居ても居なくても誤差みたいなものだ。
既に彼は達也の部分分解により、四肢の腱に穴をあけられた状態でその辺に転がっている。
(…………)
世界ではドイツの核使用。日本では九島烈の死。達也は自分が激動の時代にいることを実感しつつ、粛々と仕事をこなす。
既に警報機や防衛システムの類は全て分解されて砂に変わっており、後は防弾ガラス(だったもの)の向こうに鎮座している核弾頭を運び出せば任務は完了だ。
「汚れ仕事に思うところアリ、って感じかい?」
達也の心を見透かしたような発言に思わず顔を向けると、そこには横浜のあの時以来となる小柄な人影があった。
「どうだろう。日本の、今の世界の進む方向に少しでも嫌な感じがあるなら。ひとつ僕の話を聞いてくれまいか」
国際魔法協会会長、ユーディト・エフレイム。
平和機関の墓守と化した不老の怪物が、あの時と同じ装いで立っていた。
恐らく二次創作では世界初登場、ハロルド・シリウス(劇場版四葉継承編の特典に一瞬だけ出てきたリーナの次代にあたるシリウス)が一瞬で無力化されてしまった
さすおにが強すぎるのが悪いよー