(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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127 帰国

 世界がどんどんきな臭くなるのと反比例するようにルーマニアの前線は平和なもので、1月下旬から段階的にルーマニア国境に張り付いていた新ソ連軍が減っていき、2月に入る頃には散発的な空襲などもなくなった。

 

 結局、大きな戦闘になることもなく派遣期間の2月を終え、3月1日。

 

 当初の予定通り、日本から派遣された本チャンの義勇軍(陸軍1個師団)と入れ替わる形で帰国した俺たちは、偉い人からひとしきり褒めてもらった後に各自次の任務に移っていった。

 

 俺たちもそうだが、第二・第三小隊も今回の件で部隊単位で勲章が授与されることになった。これからは部隊章とかにマークがつくそうだ。

 

 というのが表立って公表されている話。「実益」としては、今回突出してキルスコアの高かった第三小隊のメンバーに師補十八家の傍流と縁談が決まったらしい。

 

 俺たちが成功例なら、第二・第三小隊は実験体。彼らは今まさに試されている途中なわけで、こうやって成果が出たやつから苗字とか結婚相手とかが与えられて名門魔法師一族に組み込まれていくことになるだろう。十師族の取り込みが進んでるとはいえ、強い魔法師はいくらいてもいいからな。

 

 お見合いと言えば。検討が続いていたドラキュラ(本体)の嫁入り先だが、十文字家、おそらくは十文字克人で纏まる方向らしい。

 

 カウンター型で嵌れば戦略級魔法師を殺れる実力は首都防衛の要にぜひ欲しいという判断からか、あそこはロシア人の調整体と隠し子作ってた前科があるし、そういうのは得意だろうという当てつけなのか。まあ十文字克人は(おとこ)だ、うまいことやっていくだろう。

 

 長期出張明けということで特選隊のメンバーはいくらかの休暇を挟んだ後、次の任務に割り当てられることになった。

 

 いやぁラジオで大雑把なニュースは聞いてたけどさ。俺が出張行ってる間にキューバ危機クラスの案件が2つ起こって2つ(ほぼ)解決してるの世界情勢動きすぎじゃない?

 

 日本絡みだけでもベンジャミン・カノープスとハロルド・ポラリス(誰だよ)が新たに捕まってて? CIAの施設1つ潰して? 九島烈が死んで? 七草の当主が暗殺? 極東ロシアに攻め込んできたUSNA軍を司波達也が叩き返した? ()()()()()()()核弾頭で核武装宣言? 表向きはUSNAからの核シェアリング名義になってる? 日本が停戦交渉を仲介して今度東京に各国首脳を呼んで会議やる?

 

 たった1ヵ月半で情報量が多すぎる……状況頭に入れるだけでだいぶかかりそうで面倒だな。

 

 ……さて、現実逃避はこれくらいにして、休みをもらってしまったからには白巳から来ているメッセージ「帰ったら話がある ぱーと2」に対応するか。いい加減逃がさないという圧を感じるし、何より俺の蒔いた種だしな。

 

 まずはケジメつけて、それから溜まった仕事を片付けよう。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 2096年3月5日(月)。

 

 3日間の(少なくとも、前半2日間は本当に休んでいた)休暇を終えた創一朗は、今度は旧鹿児島県沖、種子島宇宙センターを訪れていた。

 

 バイザーのおかげで顔面に紅葉をつけて出勤しても笑われないのは助かるなあ、と軽いノリの創一朗を尻目に、管制棟に詰めている空軍関係者や宇宙航空研究開発機構(JAXA)の面々は緊張に包まれており、特に宇宙関係の専門家たちは懐疑的な視線を隠そうともしてない。

 

 そんな中、創一朗は生身(海軍の軍服姿)のまま発射台の1つに飛行魔法で降り立つ*1と、両手で構えていた大型CADを一度肩に担ぐ。

 

 このCADは今回の「デモンストレーション」のため白い地獄が用意したデモ機であり、対物ライフルのような大きさの大部分は欺瞞のためのデッドウェイト、つまり張りぼて同然の代物だ。

 

 正直言うと今日予定されているデモを成功させるだけならシルバーホーンで全く問題なく、中身の性能もそれに準ずる以上は拳銃サイズに収められる。

 

 だが「こういうものにはスゴ味が必要だから」というよくわからない理由で屯倉隆が作ったこの機器は、純白に対魔装特選隊の隊章がくっついてるだけという簡素すぎるデザインがいかにも「試験中の最新型」感を醸し出しており、なるほどこちらの実力をごまかすには丁度いいのかもしれない、と創一朗は思った。

 

 そのまま、発射台の中央まで特に気負いもなく歩み寄り、支柱に固定されている金属の塊を空いた手で軽く触れる。

 

 直径約7.5メートル、高さ約90メートル、重量約300トン。打ち上げをやると聞きつけた一般の報道関係者の中でそれは新型のロケットであると考えられていたが、実際は違う。

 

 これ全体が、新型宇宙ステーションのコアブロックだ。

 

 本来ならロケットの頂点部分、つまり人工衛星が格納されているカプセルだけで、並みのロケット程度の大きさをほぼ占有している。

 

 当然、それは21世紀初頭に盛んに打ち上げられていたものより何倍も大きく、明らかに現行の宇宙ロケットに乗せられるサイズは超過している*2

 

 この金属塊に燃料は最小限しか搭載されていない。ここで言う最小限は、宇宙に物体を送り出す最小限ではなく、宇宙空間で姿勢や速度を制御するための最小限だ。

 

『お好きなタイミングで始めてください』

 

『了解』 

 

 インカム越しに管制からの雑な指示を受け、創一朗は一度金属塊から数歩距離を取り、肩のCADをライフル射撃のような立射の姿勢に構える。

 

 対物狙撃銃サイズの巨大な銃身は明らかにそんな姿勢に対応したものではなかったが、創一朗が巨体ゆえに案外「それっぽい」画として成立しており。そのまま数秒の沈黙が流れた後、一連の魔法が起動する。

 

 第一段階、慣性制御の魔法で加速・減速時の反動を限りなくゼロに近づける。

 

 第二段階、金属塊をすっぽり覆う空気の繭を作り出す。

 

 第三段階、この繭を囲うように真空チューブを発生させる。ただし創一朗一人の魔法力では成層圏までチューブを届かせるのは難しいため、3,000メートル程度のチューブの終端付近から段階的に気圧が戻っていくように構成。円筒形の発射台を疑似的に作り出した形でセットする。

 

 これにより押し出された空気が周辺に気流となって吹き出すが、ロケットの噴射と比べればそよ風みたいなものだ。現にすぐそばで術式に集中している創一朗は、風圧で裾をはためかせながらも微動だにしていない。

 

『発射カウントします。5、4、3……』

 

 一応、慣例として準備が整った後に猶予期間5秒を開けておくように設定されている。このカウントは創一朗のバイザーにも数字で表示され、管制に対して逆にそれを宣告する。

 

『2、1……ゼロ』

 

 第四段階、「疑似瞬間移動」による打ち上げが発動。直上へ向けて一気に打ち上げられる。

 

 だが、この時点で速度は精々が亜音速、秒速250メートル前後だ。衛星の軌道投入に必要な第一宇宙速度(秒速7900メートル前後)までは遠く及ばない。

 

 そこで、ここまで直立不動だった創一朗が銃身を上へ向け、ここまでに掛けた各種の魔法が効果を失ったのを確認した後引き金をもう一度引く。

 

 第五段階、硬化魔法で一時的に金属塊の強度を向上。続く第六段階の衝撃に備える。

 

 第六段階、連続した「鉄槌」により速度を上昇させ、一気に大気圏を突破させる。

 

 亜音速ですっ飛んで行ってる物体に後から魔法をかけるシーケンスは、戦闘機動を取る戦闘機に目視で鉄槌を当てられる創一朗だから可能な荒業であった。

 

『衛星フェアリング分離』

 

『姿勢制御用エンジン始動』

 

 一通りの作業を完了し、創一朗がそそくさと飛行魔法で管制室へ引っ込んだ数分後、今度は技師たちが慌ただしく動き始め、ここでようやく「常識的な」ロケット打ち上げの光景が戻ってきた。

 

 衛星軌道への投入とソーラーパネルの展開成功、つまり打ち上げ成功が報じられたのは、それからさらに数十分後のことであった。

 

 

 

 

 

「使ってみてどうだ? その魔法」

 

 喜びに沸く管制室の中、難しい顔で腕を組んでいた屯倉隆が、同じく手持ち無沙汰そう*3にしていた創一朗に問いかける。

 

「どうって言われても、いつも通りでしたよ。特に負担やノイズもなし、難しい部分もなし。流石の調整スね」

 

「そうか。上からできるだけ安く上げろって言われたんで、アレは既存魔法のちょっとした組み換えとありものでポン付けした改造CADなんだよ。トータルの打ち上げコストは9割が人件費、残りが燃料代と魔法シーケンス(ソフトウェア)開発費って感じだな。従来品と比べりゃタダ同然だ」

 

「そりゃまた……宇宙に出てからの姿勢制御もほぼAI制御で行けるって聞きましたよ」

 

「ゆくゆくはな。これから月2で24発、つまり1年はここに通って試験を兼ねた打ち上げだ。それが済んだらいよいよその辺の飛行場やミサイル基地からいくらでも、って話になる。見ろよ空軍の奴ら泣いて喜んでるぜ」

 

 相変わらず小汚い作業着が妙に似合っている屯倉がそう言って笑うと、創一朗もつられて苦笑する。

 

「んで、お前はこれから別の現場って言ってたな」

 

「ええ。東京にとんぼ返りして、明日朝イチからオフショアタワーだかっていうクソデカいビル建設の手伝いですね」

 

 極東戦争の影響で建設作業が中断されていた東京オフショアタワーは、随所に魔法が盛り込まれた最新建築技術の結晶であり、高さ2000メートルにもなる東京の新たなランドマークだ。

 

 これの完成を早めて経済発展をアピールしたい日本政府により、広告戦略の一環として大重量の持ち上げや高高度への物資搬入などなど、約2週間の日程でこまごまとしたことを手伝う予定になっている。

 

「戦火の続くユーラシア大陸を尻目に平和と繁栄を享受する日本」というようなプロパガンダをやるにあたり、また事実上崩壊状態の国際魔法協会にさらなる追い打ちをかけるべく、「国際魔法師連盟は魔法の民生利用にも積極的に取り組む」という姿勢をアピールしたいとのことだ。

 

戦争(ケンカ)から土木工事まで、便利な魔法持ってると大変だな」

 

「まぁスケジュールはギチギチですけど、言われたことやってりゃいいから楽なモンですよ」

 

 それは小市民としての創一朗の偽らざる本音であったが、これだけ実績を積んでしまうと傍目には「指示待ち」ではなく「命令遵守」の姿勢に見えてしまうのだった。

 

()()()()()()

 

 そこへ、スっとスーツ姿の何者かが現れ、すれ違いざまに一言だけ発すると、軽く一礼してそのまま通り過ぎて行った。

 

 特に物品の受け渡しはしていない。だが彼は、小脇に封筒を抱えていた。

 

 創一朗のマルチスコープは壁や床を貫通して視覚を得られる関係上、意識すれば閉じた本や封筒の中に書いてあることを透かして読むくらいは簡単にできる。

 

 今のは、「封筒の中、6枚目の内容を伝達したい」という符丁だった。

 

「……なんだ?」

 

「んー……ちょっと言えない部署の……まあ、アレですよ。飛び込みで仕事が増えました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七草家の構成員を粛清することが決定した。

 

 最重要目標(しばたつや)への精神的負荷を考慮し、決行は2096年3月20日の第一高校における卒業式終了後とする。

 

 ただしそれ以前の段階でも、対象が司波達也の庇護下に入る兆候が認められた場合には、それが決定的となる前に貴官の判断で決行せよ。

 

 対象者は――

*1
見に来ているマスコミ向けのパフォーマンス

*2
第三次世界大戦当時に世界の宇宙開発が長期間停止状態だった影響で、各国の打ち上げ能力は冷戦末期レベルまで劣化していると言われる

*3
自分の仕事はもうないが、あんまり仕事終わった感出したり先に帰ったりすると周りの反感を買いそうだからとりあえず何かやってる感を出して様子を伺っている状態




タイトルは「15日後に死ぬ会長」とかにした方がよかったかもしれない。
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