(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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総評27500を突破、合わせて拙作が原作「魔法科高校の劣等生」総評順3位になりました
ありがとうございます。

ABC兵器+戦略級魔法を全て食らったことがある広島とかいう不滅都市。


92 歴史を終わらせる魔法

2095年 10月31日 16時(モスクワ時間10時)

 

 師族会議の開催された日、日本政府は最後通牒の回答を待ちつつ、裏でホットラインを起動していた。

 

 日本の首相から掛けられるホットラインは、大亜連合を含め世界の大凡の大国と繋がっており、この日起動したのもその中の一つだ。

 

「せっかくの非公式会談だ。腹を割って話すにあたり、前置きは抜きにして本題に入りたいのだが、よろしいかね?」

 

「そうしましょう」

 

 電話口ははるか西、モスクワのクレムリン宮殿、新ソビエト連邦の国家最高指導者がそこにいた。

 

 つまりこれは、極秘の日ソ首脳会談だ。

 

「我が国としては、日本とことを構えるつもりは毛頭ない」

 

 古式ゆかしい音声通話が繋がって早々、新ソ連共産党書記長はいけしゃあしゃあと言い放った。

 

「……では北海道の件はどのように釈明されるおつもりか?」

 

 対するのは、日本国内閣総理大臣。

 

 官僚出身、3代前の総理のブレーンとして活躍していた彼は、その総理の派閥を継ぐ形で総理の地位に立った。だが彼は頂点よりも裏方が本職、総理になってからも持前の調整能力でそれなりに長い在職期間を舵取りしてきた一方、その実態は陰の支配者たちの御用伺いに終始する置物に近い存在だ。

 

 起こった事態への対処能力は抜群だが自ら事を起こせない、「時間稼ぎの達人」「延命しかできない男」「後手後手内閣」等々バリエーション豊かな謗りを受けてきた印象の薄い男だ。

 

 流石にこの状況では強く出ざるを得ないのだが、それでも背後でやいのやいのと議論している元老たちのバランスを取らねばならない。

 

 政府はひとまず「大亜連合に報復攻撃をする」までは一致していたものの、背後の元老院は各界有力者を巻き込んで議論を紛糾させていた。

 

 大亜連合滅亡は前提として新ソ連への攻撃も主張している獅童と軍部。

 

 大亜連合を滅ぼすのはやむを得ないとしつつも軍部が提唱する戦後秩序に難色を示している安西と官・学界。

 

 カウンターの呪殺や核攻撃を懸念して国家滅亡まではさせるべきでないとする樫和・穂州実と旧華族たち。

 

 そして、ある程度打撃を与えたら手打ちにして賠償金や労働力をせしめたい東道と政・財界。元々は彼らが最大派閥であったが、敵がABC兵器の使用をすら躊躇していないことが知れるにつれ声が小さくなって今に至る。

 

 それらの利害をどうにか調整し、政府としての方針を定めるのが彼の仕事だ。

 

「確かに、極東軍管区には対日強硬論を唱える者もおりましたが、それは『私』の考えとは違う。少なくとも我が国は、ABC兵器の使用をためらわない野蛮な国家にほとほと愛想が尽きた。ついてはこの戦争では、貴国と利害が一致するものと考えている」

 

 本国の機甲師団を持ち出してしまった手前、佐渡侵攻の時のように「うちは無関係です」は流石に通らないと承知しているのだろう。書記長はあくまで一部の軍人、対日強硬派が独断でやったという方向に持っていくつもりのようだ。

 

 かの国において書記長と意見が違うというのは、つまり遠からず粛清されるという意味だ。新ソ連は北海道上陸の件を、極東軍管区の司令官クラスをスケープゴートにして事態を収拾したいらしい。あるいは最初から、そのポストには現指導者と折り合いが悪い人物があてがわれているのかも知れなかった。

 

 利害の一致に「この戦争では」という但し書きを付けたのは、日本の対ソ感情が最悪であることを考慮しつつ「だが今回に限っては協力できる」と示した形か。

 

 強かと言うよりは、呆れてものも言えない強引さ。旧ソ連時代から変わらぬ交渉術であった。

 

「あれは明確な軍事侵攻でしょう。貴国内の事情がどうあれ、ことは国家と国家の問題であると考えますが」

 

「あなたの発言には確かに検討すべきところがある。しかし今はもっと身近に問題がある。目前の事態への対処が先決だと思いませんか」

 

 大亜連合を滅ぼすのが忙しくてそれどころじゃないだろ、という副音声が乗っている。

 

 あるいは、その問題を言葉で解決する気はないから、つつきたければ軍事力でつついてこいという姿勢か。

 

 モスクワは内陸にあり、「最悪でも極東水没」なら、新ソ連にとって許容できるリスク。

 

 既に大亜連合との戦闘で日本の通常戦力は半壊しており、戦略級魔法以外の攻撃ができる余力ははない。新ソ連はそう読んでいるから、交渉も強気だ。

 

「…………大亜連合に宣戦布告をすると聞きました」

 

 総理はそれに反論せず、話を進めにかかった。外交の緒戦は新ソ連の勝ちと言った趣である。

 

「ええ、かの野蛮な国家は一線を超えた。あのようなならず者と国境を接していることは、我が人民に対する危機であると言って相違ない。よって我々は先制的自衛権を行使します。確かそちらの言葉に、敵の敵は味方というものがあるとか。まさに今の状況を表していると言えますね」 

 

 流石の総理も「どの口が」と言いたくなったのをグッと堪え、会話を続ける。

 

「であれば、沿岸部には近づかないことをお勧めします。戦略級魔法というのは細かい加減が利きづらい。万が一があってはいけません」

 

「そうですな。あの魔法は確かにすべてを押し流してしまうでしょう」

 

 沿岸部に軍を派遣して流されても知らないからな、という警告は、きちんと届いたらしかった。

 

「………貴国と敵対するつもりがないのは本当です。その証明のため、こういうのはどうでしょう」

 

 その後もいくらか続けられた会話の中で、新ソ連はあくまで北海道侵攻をなかったことにして日本と一時的共闘………と言う名の領土の切り取り競争をする気であると立場を明確にした。

 

 一方日本は、北海道侵攻を公式に認めさせ、新ソ連不利の講和条約を結ばせて戦争から退場させたい格好だ。

 

 両者の交渉は、このような形で結実するに至る。

 

「我がソビエトが誇る戦略魔法兵器『トゥマーン・ボンバ』を………そうですな、2カ所の爆撃をお約束しましょう」

 

 日本が持たないであろう内陸への攻撃力を補いつつ、大亜連合を踏み絵代わりにして禊としようという提案だ。

 

「どこでもよろしいので?」

 

「大亜連合国内であれば。新疆でも海南島でも、30分で更地にしてご覧に入れますよ」

 

 そして同時に、新ソ連にも日本に負けない戦略級魔法があるということを世界に示す結果になる。

 

 今この時点でも、新ソ連は自国領土から中華大陸全土を射程に収めている=日本本土攻撃がいつでも可能だと匂わせてきた形だ。

 

「ふむ………戦時中の落としどころとしてはそのあたりでしょうな」

 

「では」

 

「次に、戦後のお話をしましょう」

 

 総理は、確かに受け身の調整役としての側面が大きい。

 

 だが実際に起こった危機への対処能力は、目を見張るものがあった。

 

 この時点で戦闘開始から約28時間、総理は不眠不休で各方面の調整に奔走している。ついでに言えばこの2時間前まで彼は皇居におり、一連の事態の報告と今後の予定について説明し、承認を取り付けていた。

 

 元老院の議論が紛糾していたのは、彼が調整に乗り出す前までの話。

 

 現在の日本政府には、「戦後構想」と呼べる合意が既に存在していた。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 横須賀、対魔装特選隊本部。

 

 地下司令室よりさらに下層、案内図や設計図面にも載っていない地下空間。ちょっとした会議室くらいの広さを持つ部屋の中央に、戦略魔法兵器専用CAD「セイレーンシステム」の二号機が鎮座している。

 

 機器本体の大きさはせいぜい医療用のMRIを縦にしたくらいで、そこから伸びる大量のコード類と操作盤が隣に纏められ、診察室のデスクと似た要領でセッティングされている。

 

 秩父先進技術研究所に続いて設置されたこの設備は、3年前の沖縄戦で実戦投入されて以来、常に稼働状態を保ってきた。

 

 機器の中央に設置された椅子には既に、この装置の核となる戦略級魔法師・榊創一朗が待機していた。

 

 彼は目を閉じ、来る時刻に向けて待機している。

 

 その隣には、操作盤のすぐそばに陣取った桝田と真砂少将。

 

 さらに部屋に繋がるドアの付近に遠上遼介と山田宏文、部屋の反対側の角に十山つかさ。

 

 そして、創一朗に寄り添うように存在している五輪澪。

 

 本来であれば最高機密の塊であるこの場所に存在することが許されない彼女だが、この日もう一人の立会人の計らいにより、創一朗の傍に付くことを認められていた。

 

 もう一人の立会人とは、操作盤付近、真砂少将の隣に立っている獅童尚久だ。

 

 その誰もがただならぬ雰囲気を感じ取り、一言も発することなく持ち場で待機し続けている。

 

 彼らは既に1時間以上、この厳戒態勢を崩していなかった。

 

 瞬間、けたたましい電子音が響く。

 

 事前にセットされていたタイマーが作戦時間の到来を告げたのだ。

 

 歴戦と呼べる面々が、チープな目覚まし時計の音にビクリと身体を震わせる。その部屋にはそれだけの緊張感が満ちていた。

 

「…………0時になりました」

 

 誰ともつかず、うめくような声が上がる。

 

 答えたのは真砂少将だ。

 

「事前の決定通り、念のため5分間待機する。その間に統合軍令部に最終確認を取れ」

 

 11月1日 0時0分。

 

 この時、対魔装特選隊は一つの密命を帯びていた。

 

 すなわち、大亜連合への報復作戦の実行である。

 

 31日に政府が発行した最後通牒の返答期限は24時間。それに回答が行われないか、第一声が降伏宣言以外であった場合、かねてからの作戦通り、「深淵改二」による無差別攻撃が開始される。

 

 創一朗はその準備のため、既にセイレーンシステムとの同調を済ませていた。あとは発動するだけだ。

 

「統合軍令部より入電。大亜連合政府からの返答確認できず。規定時刻まで通信を継続します」

 

 0時1分。

 

 山田が受けた通信は、日本政府の通信機能の無事と、大亜連合の宣言の黙殺を指し示した。

 

 同時に通信機器をもう一台起動し、時報を流すことで確実を期す。

 

 

 0時2分。

 

 つかさや遼介がしきりに腕時計やスマホの時刻表示に釘付けになる。

 

「……」

 

 0時3分。

 

 真砂少将が懐から物理鍵を取り出し、最終チェックを始める。

 

「…………」

 

 0時4分。

 

 いよいよ緊張がピークに達する。

 

 

 

 

 

 

 そして、0時5分。

 

「……時間だ。セイレーンシステムの起動を承認する」

 

 真砂少将の号令に合わせ、桝田も首から下げている物理鍵を手に取り、二人同時にキーを回す。

 

『最終セーフティが解除されました』

 

 照明が赤い非常灯に切り替わり、戦略級魔法の発動が可能になったことを知らせる警告メッセージがブザー音と共に再生される。

 

 同時に、創一朗のバイザーには衛星軌道からの海上の様子が映し出され、サイオンの抽出と起動式の読み出しが開始される。

 

 発動シーケンスは以前の起動時よりさらに洗練されたもので、1分もしないうちに全ての準備が整う。

 

 目標地点 南シナ海、西沙諸島沖。

 

 それは今までのような示威行為でも対艦隊での使用でもなく、沿岸地域の市街地を狙った無差別攻撃の開始を意味する。

 

「準備完了」

 

 それでも創一朗は力に酔うでもなく、事態を悲しむでもなく、淡々とシーケンスの完了を告げた。

 

 後は、引き金を引くだけ。

 

 たったそれだけで十数の沿岸都市が水没し、創一朗は稀代の虐殺者へと変わる。

 

 そして、それが裁かれることはない。

 

「本当にやれるんだな」

 

 真砂少将が確認を取ったのは、史上最大の十字架をひとりで背負うことになる創一朗を案じてのもの。

 

「思うところがないとは言いませんが……そのための戦略級魔法です。いつかはこうなるんじゃないかと思ってましたよ」

 

 そのために俺は作られたんだから。

 

 創一朗はそれを軽く笑い飛ばして、そして澪の方を見た。

 

 彼女は創一朗のコンソール操作の邪魔にならない方、左手に自分の両手を優しく重ね、少しうつむいた姿勢で目を閉じ、その姿勢のまま微動だにしていない。

 

 それは祈りだ。

 

 澪はただ、創一朗に精神的な何かを捧げていた。

 

 その表情は真剣そのもので、澪の華奢さと美しさが合わさったその絵面はどこか神秘性をさえ湛えていたが、ただ一人創一朗だけが「きっとロクなこと祈ってないな」と理解していた。

 

 望んだわけでもないのに戦略級魔法なんてものを背負って生まれ、代償に虚弱な身体を押し付けられ。

 

 国防の要だ家の誉だと持ち上げられたところで、本質的な部分で政治に関わることも、軍人として戦うことも許されず、ただその名声と遺伝的素質だけが彼女に価値を与えた。

 

 挙句、その血筋と魔法に目を付けられて敵国の軍に襲撃され、家族のほとんどを失い、自らも敵国に拉致されるところだった。

 

 最早すべてを失ったと言っていい。表面上は普段通りに見える澪だが、今や創一朗が少なくとも同室にいないとまともに眠れない精神状態なのを創一朗は知っている。そんな彼女の心から染み出す祈りがどのような形をしているか、創一朗には薄々察しがついていた。

 

 創一朗はそれに何も言わず、ただ困ったようにひとつ笑いかけると、獅童の方へ向き直った。

 

「いつでも行けます」

 

「その意気やよし。元老院議員、獅童尚久の名において命ずる。今こそ戦略魔法兵器"深淵改二"を発動し、卑劣な侵略者どもに鉄槌を下すべし!」

 

 

 獅童の宣言に応えるように、創一朗はひときわ強くサイオンを噴き出す。

 

「"深淵改二"、発動します」

 

 宣言とともに、最後のレバーが引かれ、ここに戦略級魔法「深淵改二」は完成した。

 

 その魔法は南シナ海を半径30キロ、深さ1キロに渡って陥没させ、それによって移動した莫大な量の海水は津波となって大亜連合南部の大都市、深センを直撃する。

 

 発動からおよそ2時間で波が沿岸に到達。観測された津波の高さは最大で300メートルを超えると推定され、沿岸から50キロ圏内に存在したすべての建物が流失した。

 

 いわゆる珠江デルタ地域を中心とする広東省の大半の地域が水没し、合わせて存在していたはずの香港・マカオ両特別行政区が地図上から消失。流域人口4000万人のうち少なくとも70%が死亡したものとみられ、「深淵改二」は単一の兵器が齎した死者数のギネス世界記録を大きく更新した。

 

 それは、後の世に「終末の10日間」と呼ばれる人類史の転換点の第二幕、日本が投入した戦略級魔法による絶滅戦争の幕開けと位置付けられる。

 

 人類はたったの10日間で実に7種28発もの戦略級魔法を敵国に叩き込み、この時点でおよそ3億人もの死者が推計されている。

 

 魔法の撃ち合いが世界人口を1割減らしたという負の実績により、既存兵器とABC兵器に対する魔法師の優位性が決定づけられ、戦場の主役は今や現代兵器から魔法師へと移り変わったことが示された。

 

 それは魔法師の栄光と苦難の歴史の、真の始まりの日でもある。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 戦略級魔法 発動記録

 

 

日付      時刻   魔法名         標的

2095年10月30日 14時30分 霹靂塔         札幌

2095年10月30日 14時30分 霹靂塔         仙台

2095年10月30日 14時30分 霹靂塔         名古屋

2095年10月30日 14時30分 霹靂塔         豊田

2095年10月30日 14時30分 霹靂塔         敦賀

2095年10月30日 14時30分 霹靂塔         広島

2095年10月30日 14時30分 霹靂塔         愛媛

2095年10月30日 14時30分 霹靂塔         北九州

2095年10月30日 14時30分 霹靂塔         福岡

2095年10月30日 14時34分 霹靂塔         対馬沖 国防海軍艦隊

2095年10月30日 15時37分 深淵改二        島根沖 大亜連合艦隊

2095年10月30日 16時22分 深淵改二        鹿児島沖 大亜連合艦隊

2095年11月01日 00時05分 深淵改二        深セン

2095年11月02日 00時05分 深淵改二        泉州

2095年11月03日 00時05分 深淵改二        温州

2095年11月03日 00時05分 トゥマーン・ボンバ   西安

2095年11月04日 00時05分 深淵改二        上海

2095年11月04日 23時30分 トゥマーン・ボンバ   南京

2095年11月05日 00時05分 深淵改二        青島

2095年11月06日 00時05分 深淵改二        ソウル

2095年11月07日 00時05分 深淵改二        天津

2095年11月07日 12時05分 霹靂塔         北京

2095年11月07日 12時06分 オゾンサークル     北京

2095年11月07日 12時05分 マテリアル・バースト  重慶

2095年11月07日 12時05分 無人地帯        成都

2095年11月07日 19時53分 アグニ・ダウンバースト 南寧近郊

2095年11月08日 00時05分 深淵改二        大連

2095年11月08日 12時05分 マテリアル・バースト  武漢 

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