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11月12日。
ニュースサイトのヘッドラインには勇ましい言葉や希望を感じさせる文言が並んでいる。
「大本営発表って言うにはウソついてなさすぎるよなあ」
実際、民間経済をほぼ崩さないまま敵国と戦争した挙句、国力で数倍差があったはずの相手を滅ぼそうとしている現状は、間違いなくある種の偉業ではあるんだろう。
主要な貿易相手国が消滅した関係上経済にかなりの打撃が出ているものの、占領地から接収した金準備や資産で影響を補填しつつ、新たに構築された地域統合体内での貿易ルート再構築、IPUを足掛かりとした中東への影響力拡大、各国から入ってくる予定の租借料などで3年とかからず元が取れる……と政府は発表している。
国防軍は結局、予備役動員こそかけたが徴兵はしていない。軍需企業などへの無茶ぶりもかなり限定的だったため戦費による経済の圧迫はほぼ皆無。だが霹靂塔が効いた土地では中心市街に毒ガスや細菌兵器を叩き込まれて地獄絵図になってると聞く。
攻撃を受けてから10日ほど経つが、とりあえず避難と当座の救助が済んだだけで、今も多くの都市は解毒が間に合わず無人化してしまっており、経済やら何やらにかなりの影響が出ているらしい。大陸方面に全然出てこない陸軍の通常兵力は暇しているわけではなく、総動員でこれらの復旧作業に従事していた。
一番痛かったのは、いまだに世界売り上げ最大手を維持している自動車メーカーの本社工場を狙った攻撃。人口密集地でもない豊田市をわざわざ標的に選ぶだけあり、現地に存在していた大規模工場の類は軒並み機能停止状態。国が大々的に支援に動いているものの復旧には数か月単位の時間がかかる見通しだ。
この会社だけで日本のGDPのだいたい6%を占有してたって話なので、全損ではないにしろ今次戦争最大の被害はこれだろう。日本最高戦力こと四葉家が防衛を担当してるだけあって要地もいいところなのだが、折悪く現地の防衛を担当していた黒羽家が弱体化しており、今回の攻撃を防ぎきれなかったんだとか。
ここ最近、四葉家の動向が妙に軍よりだと思ってはいたが、この点をつつかれたら何も言えなくなるせいだったらしい。達也が妙におとなしくて俺の想定する動きとブレると思っていたが、考えてみれば彼はまだ1年生。原作で3年きっちりかかっていた「逃走手段」の準備ができていないうちにこんな大事が起こったせいで立場の確保が間に合わなかったのか。
(となると、今は情勢の心配をした方がいいか……)
陣営の盟主なんて吹かしてしまった手前、将来的な大軍拡は不可避だろうし、しばらくは戦勝貧乏とでも言うべき状態が続きそうなので、うまいことメディアが実情を誤魔化してくれることを祈ろう。局地的な物資不足ではあっても大量の公共事業発注のせいで強制的な特需状態になるので、見かけほど景気の悪化は見込まれないというマスコミの報道が本当だといいが。
戦地に赴く予定のない一般人と、前線に出ている魔法師の間にはかなりの温度差がある。軍の中でさえ魔法師以外の部隊は(現在進行形で海上封鎖を試みている海軍を除き)既に戦後ムードになり始めている。一部では早速「次の戦争」に向けたポジション取りを始めているやつさえいるという話だ。
そんな中、俺たち前線の魔法師たちには引き続き大亜連合潰しの命令が下っている。主だった都市の破壊は完了したが、発電所や物流倉庫、パイプラインなどなどの破壊目標が今も山ほど残っているためだ。既に政府が瓦解し、抵抗らしい抵抗はほぼなくなったのでこれまでほどのデスマーチではないが、ちまちまとした破壊工作と海上封鎖は春まで続けると聞いている。ウイニングラン状態とはいえ、ゴールしたわけではないのだ。
俺は横須賀に詰めてるのでいいとして、大陸に投入されている魔法師たちにも順繰りで休養を取らせるべく、今も台湾の港に空母を停泊させて基地代わりにしたり、内陸に前哨基地を建てたりと色々やってるようだ。なにしろトータル1000人もいない少人数なので、数台のトラックと空輸だけで補給が成立してるらしい。もう少ししたらシフト制が定着し、1ヵ月単位のローテーションで本土に帰って休養できるようにすると聞いている。
一方で、11月8日までで戦略級魔法での攻撃はいったん終息。開戦当時から出づっぱりだった俺や、大陸全土を行脚して重要拠点を潰して回っていた第一小隊のメンツはいったん前線から退き、今は秩父の研究所で精密検査を受けている。
今こうしてあれこれ考えているのは、久しぶりに仕事のことを考えなくていい時間――検査中の手持ち無沙汰な時間が訪れたからだった。
この10日、特に俺はかつてないペースで戦略級魔法から何から使いまくった訳で、魔法演算領域やら臓器やらに負担がかかっていないかを調べるということで、今日は朝からいろんな種類の検査機器に出たり入ったりを繰り返している。
少なくとも俺が自覚するところでは残業が続いてる時くらいの疲れ方なので2週間や3週間で身体がどうこうなる訳ではないと思うが、特に調整体は自覚がない所で演算領域が焼け付いてるケースがあるそうで、今もこうして徹底的に調査を受けている訳だ。
と言っても俺が何かをする必要はなくて、大規模な健康診断のノリであっちこっちの部屋に置かれている検査機器を順番に巡っていくだけだ。検査中のヒマな時間はこうしてバイザーに表示されるネットの記事なんか読んでていい*1ので、まあ休み時間みたいなものだ。
他にカウンセリングなんかも受けたが、まぁ正直あんまり堪えてないので世間話してただけだった。先生曰く「殺される方」になるとある程度皆共通だが、「殺す方」は極端に向き不向きがあるそうで、平気なヤツは全然平気なんだとか。PTSDになった奴が臆病者ではないのと同じように、特になんともないからといって人でなしではないから気に病まないようにと変な方向から気を使われてしまった。
実際、戦略級魔法師に限らず大陸で破壊工作をやってる魔法師たちは大分心に来てて大変そうだ。現場で破壊工作やってる魔法師は特に、一般人が大勢餓死するのを分かってて食糧庫に放火する汚れ仕事を延々やり続けてる訳で、在宅(?)で統計上の数字を動かしてる俺の現状を思えば頭が下がる。
大活躍してるって話の「
術式解体以外の対抗手段がほぼ間に合わないため「魔法の使用阻止=武装解除が実質的に不可能」、CADを携帯する必要がないため「市井に紛れられたら捕捉不可能」。その「あまりにもゲリラ向きすぎる性能」のせいで軍事基地から外に出ることが許されなかった。魔法師たちが軍を造反して十師族という枠組みを作った時、政府との交渉の一環として切り捨てざるを得ず、以来30年経った今でも同じ魔法師からすら同族扱いされていない節がある。なんなら魔法界にはびこるBS魔法師や超能力者を下に見る風潮は、「あいつらは同胞じゃない、だから切り捨て踏み台にしたのは間違ってない」と自分に言い聞かせてきたところから始まってるんじゃないかと俺は見ている。
要するにハガレンの終盤に出てきた「ブラッドレイになりそこなった連中」みたいなのがわんさかいて、なまじ戦力としては優秀なものだから処分する踏ん切りもつかず、今までは脱走のリスクに怯えながらあちこちの基地に閉じ込めていた。数字落ちなんぞよりよっぽど闇が深い存在である。
そして今、彼らが大陸での汚れ仕事を必死でこなしてる理由は、「餌」としてぶら下げられている「人権」だ。
今回の作戦において、日本の魔法師は全成人徴兵されている。用意された兵力は十師族、師補十八家、その分家や郎党、総勢約1000名。そして元々軍籍にある独立魔装大隊、対魔装特選隊、その他各部隊に存在していた戦闘魔法師の大半、防衛大の特殊戦技研究科、そして死蔵中の人造サイキック、総勢約2000名。
合わせて3000ほどの魔法戦力がおおむね3交代で大陸中を駆け回っており、現地には常時1000から1500名が作戦行動を維持するように調整する予定だと聞いている。
このドリームチームは大亜連合の完全解体が完了すれば解散する訳だが、帰るところのない人造サイキックたちについてはそのまま海軍M機関の管轄に入ることが決まっている。というのも、M機関は今回の戦争における褒賞として(存在は秘されたまま)大幅な予算増額と規模の拡大が予定されているのだ。
合わせて、大亜連合内陸、
周辺は一種の学研都市として、巨大な演習場と軍事基地を併設して大規模に造成する予定になっている。行われる研究の規模と、IPU租借地の飛び地という立地から、従業員のほとんどが家族を連れてそこに住み込むことになるためだ。
そこで、人造サイキックたちには国防海軍の正規の軍籍と、ここの従業員兼駐屯兵力としての仕事が斡旋され、そのポストや待遇は戦地で示した「性能」に依存する。場合によっては叙勲や結婚相手の世話も込々だ。彼らの活躍は本国で大々的に報道され、英雄として扱われることが内定している。
つまり、一生涯日本本土に帰ってこないことを条件に「名誉」と「人権」、あと金と女を与える(人造サイキックに女性はいないと聞いている)という話である。一生涯研究サンプルとして生きるはずだった人造サイキックたちにとっては最初で最後の任務であり、人生を一発逆転するチャンスでもある。
もちろん、それは実験体待遇から解放されるという話を意味しない。遺伝子調整や後天的改造によって得られた魔法力を血統に定着させる研究は、俺という才能を一代で絶やさないため(自分で言っててなんか恥ずかしいけど)日本の最優先研究事項になっている。彼らはそれを試すのに最適な駒だ。
ただ、投薬の内容と効果について説明と拒否権が与えられ、意味もなく身体を切開されず、救国の英雄として尊敬され、研究所近くのマンションに住み、好きなように外出や娯楽を楽しみ、「教育の行き届いた若い嫁」とひたすら子作りして暮らすのだ。もちろん遺伝子サンプルを確保した上で、彼らの見えないところではいろいろな事が行われるだろうが……少なくとも、今後彼らの献身には相応の対価が払われるようになる。
魔法戦力の拡大が急務なのもそうだが、活躍した魔法師に「勝ち組」になってもらい、折に触れプロパガンダすることで戦意の高揚にも繋げる狙いだ。合わせて大亜連合の
彼らには現役を引退して、研究資料から種馬になってもらう訳だ。まあ、形はどうあれ仕事に対価を出すことは徹底している白い地獄だ。間違いなく彼らにとって良い形のアガリだろう。
……いやまあ、突っ込みたいことはいろいろあるけれど、俺に言う資格があるとすれば一言だけだ。
俺もやったんだからさ。
あまりにも文字数が増えたため分割しました。
明日続きが出ます。