(思ったより長いな……寝そう)
検査の間手持無沙汰のため、これからのことを考え込んでいる訳だが、いよいよ長すぎて眠気との戦いになり始めた。定期調整も一緒にやるので朝から始めて昼までかかるとは言われていたものの、実際体験してみるとなかなか退屈だ。
寝ちゃうと臓器や脳波の動きが変わってくるので意識は保っておけと言われているので、居眠りしないようにまたとりとめもないことを考えることにする。
戦争勃発のせいで警備員どころじゃなくなった俺だが、そもそも魔法科高校は魔法師の大規模徴兵に伴って全校休校になっている。
東京の第一高校は被害を免れたので生徒たちは自宅待機で済んでるが、京都の第二高校や金沢の第三高校なんかは大亜連合の報復爆撃で校舎が吹っ飛んだらしいので、授業再開の目途は立ちそうにない。さらに魔法大学は一応動いているが二十八家関係者の8割方が国の要請に応えて「志願」したことになっているので、学術機関は軒並み歯抜け状態である。ちゃんと稼働してるのは防大の特殊戦技研究科くらいなもんだ。
一応戦時体制は大亜連合の完全解体まで……つまり来春まで半年間続く予定となっているが、学校機関の休校は年末までで終了、12月からは段階的にオンライン講義などが復旧していくと聞いている。
とはいえ戦略級魔法師として公開されてしまった俺も白巳も、四葉家当主の息子としてお披露目された達也も、今まで通りの学生生活を続けるのは難しいだろう。司波、もとい四葉深雪も、この時勢では四葉家次期当主+達也の婚約者として遠からず発表されることになる。
もともと、四葉真夜としては高1の1月時点で次期当主指名と婚約者指名を完了させるつもりでいた。原作では灼熱のハロウィンからの来訪者編のどさくさで1年延びてしまったが、この世界では予定通りにお披露目される公算が高い。
婚約者に昇格してガーディアンを実質解任になる達也の後釜で桜井水波が来るように、彼らへの監視という名の警備体制も刷新が必要だ。
まぁそもそも、それでいうと来年度をめどに魔法科高校の制度自体がかなり抜本的に変わるらしいので、そのどさくさに紛れて何かしらやることになるのだろう。
すでに戦後を見据えた計画が着々と進んでいて、日本の進んだ魔法技術の共有を建前にして陣営各国に日本式の「魔法科高校」と「魔法大学外地キャンパス」を建てる方向で会議がされているという話を真砂少将から聞いている。判断が早い。
東南アジア同盟などは「資料等も全部日本語のままで構わないから各国1校以上建ててくれ」と譲らないそうで、最終的には第32高校くらいまで作る大計画になっている。反対にインド・ペルシア連邦は自前のハイダラーバード大学との共同研究という形を推しており、比較的穏当な方針だそうだ。
かつてアメリカが陣営諸国家に大量の武器や技術、軍事訓練を支援していたように、日本は加盟国へ魔法技術を供与することになる。すでに魔法師の海外渡航が「実質禁止」から「刑事罰付き禁止」になる代わりに、陣営内国家への渡航なら許可制で承認する方向で検討すると発表があった。反対に、各国の才能は日本の魔法機関で学ばせて強化しようという訳である。
基本的には戦前の帝国大学みたいなもんだとして、東南アジア同盟なんかの技術が進んでない国は組織的に魔法師を育成するノウハウ自体ないからこれは福音だろう。
実際、世界一の魔法技術をチラつかされた各国の目のギラつき方と言ったらすさまじいものがあるそうで、日本の学生との交流も多く企画されているらしいのでこれからは2科生がどうとか言ってられなさそうである。
教員不足は軍人と研究員で賄う気らしいし、何よりこれからは百家あたりを対象に国際結婚が奨励されまくることだろう。これに関しては既に有名なアニメスタジオにプロパガンダ映画の製作依頼が出てると(国防仮面から)聞いた。
遺伝子操作技術を持たない国では、魔法師を作るにあたって国家ぐるみの人間ダービース〇リオン(同意なし)を大真面目にやってると聞く。それを思えば日本の魔法師の妾になるくらい天国だろう。そういう考えの連中が魔法科高校やら大学やらに大量になだれ込んだら、日本の魔法師にとっては向こうから嫁が押しかけてくる時代の到来だ、あんまり羨ましくはないけど。
こうしてみると日本が慈善事業を主導しているように見える(実際そういう側面もある)が、ちゃんと利益については考えているらしい。
曰く、現代魔法技術の基底インフラを日本式・日本語で統一するだとか、結局は一番進んでる日本の魔法大学にすべての才能が独占されることになるだとか、日本企業と軍で実質的に働き口を独占して日本のために働かせようとか、バカ高い学費を盾にとって任意の年数国家事業への参加を要求しようとか。
何しろインド・ペルシア連邦で7億、東南アジア同盟で3億、大亜連合の生き残りが試算1.5億、トルコと日本合わせて1.1億、総人口12億6千万人、世界人口の半分以上*1を抱える最大の陣営が完成したのだ。
大亜連合からとれる資源と各国の有する暴力的な量の人的資源という、日本に足りない二大リソースが揃った今、多少強引にでも開発を促進させれば国力の面でもUSNAに対抗していけるというのが日本のスタンスなのだろう。
「はい、もう外していいわよ。お疲れ様」
スピーカー越しに舛田さんから声をかけられ、俺は待ってましたと頭に被っていた機械を外す。
代わりにいつものバイザーを付け直して部屋を出ると、タブレットを持った舛田さんが待ち構えていた。
「血液、脳、内臓、精神その他、多少の疲労は見られるけど正常値の範疇。今まで見てきた調整体の中で一番安定してるわ」
半分呆れた様子でタブレットをよこしてくる。そこには詳細な検証データが並んでいるが、俺にもわかりやすいようグラフ化されたそれらは、すべての値が正常値の範囲内に収まっているらしいことが見て取れる。
「これは参考までに聞かせてほしいんだけど、史上最も多くの人命を奪った個人っていうのはどんな気分?」
「うーん……正直実感湧かないんですよね。いや、カウンセリングの人に無理言って津波被害の現場の映像とか見てるんですけど、"まぁ……そうなるな……"以外の感想が出てこないっていうか」
「案外、本質的なところでほかの人間を同族として見れてないのかもね。私たちが魚の大量死のニュースを見ながら平気で晩御飯食べたりしてるように。調整体は結構そういう価値観の子多いわよ」
にしては魔法師も殺しまくってるけどなァ、と首を傾げたが、ともかく何ともないのは職務上はいいことだなと思いなおす。
昨日、横須賀に帰ってきていた第一小隊(プラス一条将輝&九島光宣)のメンツに会ったが、やはり向き不向きがあるのか人によってかなり機嫌が違った。
会うや否や自分の使った霹靂塔のバリエーションについて嬉しそうに話していた光宣や、相変わらず婚期の心配をしている玲さん、暗部出身で割り切りができているのだろうつかささん辺りは全くいつも通り。山田さんは口では文句を言ってたが全く応えてなさそうで(おそらく俺もはたから見たらこっち側)、思う所がありそうだったのは龍征さん、遼介、一条将輝。皆とりあえず反抗までするほどじゃなさそうでよかった。
確かに散々殺したけれども、俺たちはそのために作られてその仕事をやってる訳で。結局はどこかで割り切りが必要だろう。でも、それって理屈のはずだ。心のほうが追い付いてこないってことはあるはずなんだが……俺ってこんなに薄情だったかなあ?
そういう意味だと、その辺割と平気な俺が一番キルスコアが高かったのは良かったかもしれない。大雑把な被害データはこちらにも来ている(心情に配慮してか閲覧は任意扱い)が、俺一人で歴代の独裁者たちはおろか、かの人類種の天敵をすら超える勢いだ。次の比較対象は地ならしやコロニー落としになるんだろうか?
そんなわけで、全人類の6%をこの手で殺した感想は、今のところ特にない。
「まぁ、詳しいところは専門チームが頑張って調べてるから結果待ちね。皆あなたくらいサッパリしてればケアの手間も省けるんだけど。とりあえず検査はこれで終わり。午後からはさっそく叙勲だっけ? 休みなのに大変ね」
そう、この後の予定は3年ぶり2回目となる叙勲式。
この後もしばらく任務で空けることになるため、休みの取れる今のうちに第一陣をやっちまおうということになったらしい。
俺もこないだの「軍事パレード乗っ取り事件」で散々持ち上げられてしまい、今や「謎の戦略級魔法師・鉄仮面」ではなく「世界初、2種の戦略級魔法を使いこなす国防海軍の切り札・榊創一朗」として大々的に公表されてしまっている。
素顔は出してないので道行く人がそれと気づくみたいなことはないだろうが、昔みたいにイチ警備員として第一高校に潜入みたいな無茶はもうできないだろう。
俺はこのところ横須賀の特選隊本部に缶詰め――マスドライバーで日帰り成都旅行とかいうバカの作戦は置いておくとして――だったのでいまいち実感が持てないが、世の中は随分過激な論調に支配されているらしい。
まぁ無理もないだろう。国の方で散々煽ったのもそうだが、霹靂塔爆弾による奇襲攻撃と追い打ちのBC兵器攻撃で突然大都市を焼き払われたら誰だって怒りもする。
俺が戦略級魔法を連発してた頃なんか現場の映像や国際魔法協会による被害状況の集計が出るたびに「あと何億」がSNSでトレンド入りしてお祭り騒ぎだったと聞いてる。政府がこの時代に絶滅政策なんか推し進めてるのも、そうしなきゃ「ただ殺すだけ」の政権が新たに台頭しちゃうから「日本国民が許す範囲で一番穏当」な形でまとめてるんだよなアレ。実行役しといてなんだけどキレすぎじゃない?
警察の皆さんは日本国内に40万人ほど残っていた大亜連合人を
そんな訳で、ここまでで実際に戦略級魔法を使った俺、司波達也、玲さん、光宣の4人は今回の戦争MVPということで、全員揃ってる今のうちに早速の叙勲が行われる運びとなったのだ。
聞くところによると、もともと宮内庁と軍部の中では「実際に戦略級魔法が使われたとき用の勲章」みたいなものの製作計画は存在していて、今回それが現実のものになったことで国威発揚を懸けて超特急で用意したらしい。つまり完全新規、このためだけに作られた勲章だ。前回もらったのも大概豪華だったけどどうなっちゃうんだろうねこれ。
まだ論功行賞が確定した訳ではないが、俺が勲一等、他3名が二等まではとりあえず決定で、あとは「大陸で特に活躍した魔法師」「大陸に行った魔法師」「本土防衛戦で負傷・戦死した兵士」がおいおい叙勲されることになっている。俺だけで10発だか11発だか戦略級魔法ぶっ放してるので、もらえるメダルも一回り豪華になるという寸法らしい。
っていうか素顔どうすんだろうなこれ。現場に居合わせてる連中には開示していいと言われたけど、マスコミの撮影もあるわけだし、詳しい段取りは聞いとかないといけない。
「もう次の仕事入ってるの? あんたも大変ね」
考えに耽っていると、横でタブレットをいじっていた舛田さんが呆れたように言った。
「――次はアメリカですよ」
責任取らせなきゃいけない奴がいるもんで。