ワールドエンド・クラッカー -電脳魔境戦線2075-   作:龍川芥/タツガワアクタ

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⑭ 電脳のリベンジ・プログラム 中編

 電脳座標A-001。

 巨大なる怪物と巨大なる機兵、堂々相対す。

 

 アラン操る電脳怪獣(モンスター・プログラム)B-I:Fenrir(ビーストワン:フェンリル)〉が有するのは、不定形にして触れた相手をハックする慮外の巨躯と、巨体を中心に回転し周囲の全てを磨り潰す、大量のオブジェクトによる世界を呑み込む大嵐。

 対する〈Hack&Luck〉擁する電脳人型決戦兵器王『ハックラッキング』の武器は、鋼の体と電脳防壁(ファイアウォール)の鎧、そして自己進化型プログラムに特攻を持つ銀の槍〈Gun.GNIR-000(グングニル・プロトナンバー)〉。

 

 世界を蹂躙しうる破滅の巨獣。

 存在しないと思われた、その規格外の巨体に並び立つ者が、今――。

 

『――そレが、どウした!!』

 

 アランの憤怒の咆哮と共に、瓦礫の嵐が眼前目掛けて叩き付けられる。

 礫というには大きすぎるオブジェクトの群れは、元オアシスサイバトロニクスタワー上層階の慣れの果て。速度と質量であらゆるデータを破砕する死の轟風。

 オブジェクトの弾幕という規格外の飛び道具を持つアランにとって、巨大ロボなど寧ろ的が大きくなっただけだ。

 故に、隕石群さえ思わせる破壊の群れは、避けようもない巨体の敵駆体を捉えて粉々に――。

 

 ――無傷。

 オブジェクトの弾幕がしかと機体を捉えて尚、その装甲は無傷であった。

 瓦礫の砲弾を正面から受けてもびくともしない巨体の中、操縦席にてカギヤは笑う。

 

「はっ、どうやら効果覿面みてえだなぁ! オブジェクトと電脳防壁(ファイアウォール)の二重装甲――この『ハックラッキング』に瓦礫攻撃は効かねえぜ!」

 

 それは、死の嵐を超えるため生み出された電脳の機兵。

 カギヤ、ロゼ、Ego、アリス――4人の力が合わさり完成した電脳人型決戦兵器王。

 名を、HACKLUC-KING(ハックラッキング)

 

 そんな機体の操縦桿を握るパイロットは、〈Hack&Luck〉の最強ゲーマー、Ego。

 

「行けEgo!」

「うん!」

 

 ずん、とハックラッキングが一歩目を踏み出し。

 

『なラば、こレでドうだ――!』

 

 対し、アランはオブジェクトハックにより浮遊する瓦礫を操作、それらを四つの塊に纏めて融合させた。

 塔槌、と呼ぶべきか。それは、高層ビルそのものが浮遊する武器と化したような。

 長さ100mを超えるだろう余りにも巨大な鉄柱が、四つ。巨獣の頭上にて災害の具現として完成を果たす。

 

『潰レろ!』

 

 一本目、射出。

 遠距離にあって尚巨大だった塔槌は、接近によって空を覆うような圧力を生む。

 さしもの決戦兵器ハックラッキングでも、この一撃が当たればただでは済まない。

 オブジェクトとロゼ製防壁の二重装甲でも防ぎきれない超大質量――だがそれは、無限に近い弾数と手数を失ったことを意味する。

 降る巨塔の威容・威力を目前にしてもカギヤが恐れずそう笑うのは、親友の実力を知るがため。

 

「さあ魅せてやれEgo、去年の『アーマードロアX』世界大会優勝者である、おまえの最強の操縦テクを――!」

 

 その声に応えるように、Egoは力強く操縦桿を押し込み――。

 

 塔槌が強かに機体を打ち据え、ハックラッキングは衝撃で大きく吹き飛んだ。

 

「ぬわあああああ!?」

「えええええええ!?」

 

 機体が派手に地を転がり、大回転する操縦席から悲鳴が上がる。

 どすんずがんと街を転がり、ようやく止まり。罅割れ軋む機体をなんとか立ち上がらせながら、操縦桿を握りしめたEgoは問う。

 

「……えっと、カギヤ。スラスターはどうすればいいの? レッグホイールは? レバーが反応しないんだけど……ライフルもないしミサイルも出ないし」

「ふっふっふ……ンなモンねえよド畜生! なんとこちらの商品、レバーもボタンも全部飾りとなっております!」

「え」

「そもそもコイツはオブジェクトハックを無理矢理ロボット型にしただけのハリボテだからな! 相手の『瓦礫嵐』を乗り越えるためだけの使い捨ての鎧だと思え!」

「あんなカッコつけた合体しておいて!?」

「残念ながらな! ノリと勢いで覚醒できるほど現実は甘くねえの!」

 

 ぐぐぐと駆動音を立てながら立ち上がるハックラッキング……その機体は受けた一撃の威力で所々が歪み、防壁も半分以上が剥がれている。次巨大塔槌による攻撃が直撃すれば完全に破壊されるだろうことが、搭乗者の4人にはなんとなく理解できた。

 

 見れば、吹き飛ばされたため巨獣と機体の間にさっきは無かった距離が開いていた。

 ハックラッキングの巨大な歩幅で三歩の距離か。

 地面に激突した一本目の塔槌は、先端のデータが崩れてもう使い物にならないだろう。

 だが、三つ。あと三つ同じものが、フェンリルの頭上にて発射の合図を待っている。対し、こちらの武器はハックラッキングのスケールに合わせて巨大化させた〈Gun.GNIR-000(グングニル・プロトナンバー)〉一本のみ。巨大な装甲を破綻させない速度で動かなければならない以上、投擲では速度も精度も足りないだろう。

 

 槍が届く距離までは三歩。

 そしてその三歩は、塔槌という飛び道具を三つも残したアラン相手では絶望的なまでに遠い。

 スラスターによる加速も無い。レッグホイールでの高速機動も、ミサイルによる陽動も、ライフルでの遠距離攻撃も無い。

 それでも。

 

「――分かった。超えるよ、この距離」

 

 全てを理解した上で、最強のゲーマーは断言する。

 何故なら彼は独りではないから――操縦席には頼れる仲間が3人も居るから。

 だから、どんな困難も超えて行ける。

 

 合図は無かった。

 ただ、ハックラッキングの巨大なる脚部が弾かれたように一歩目を踏み出し――同時、そんな機体目掛けて塔槌が射出される。

 撃ち出されたのは右側の一本。複数同時の操作はさしものアランでも演算領域が足りないのか、先と同じく一本のみの投擲。

 だがそれはまるで矢のように、一本目が終わる前に届く超高速の破滅である。

 

「――カギヤ!」

「全く、無茶言うぜ!」

 

 決戦兵器ハックラッキングの駆動において、カギヤは正に要と言っていい。

 オブジェクトハックによる機体の構築と駆動制御によって、巨大なる機体はEgoの操縦を受け付けている。だが、アリスと共有した演算領域がほぼ無尽蔵であるが故に――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だがそれは、カギヤの脳の負担を無視すればの話。ただでさえ限界レベルの情報処理の中、果たしてそんなことが可能なのか。

 結論――可能である。

 

「持ってけ――対仮想物質(オブジェクトハック)Ex.CARIBUR-404(エクスカリバー・ロストナンバー)〉!!

 

 人型決戦兵器の左腕、徒手だったそこに権限するのは、カギヤの電脳兵装(プログラム・ツール)、その巨大化(スケールアップ)版。

 現れた剣の切っ先は、精妙たる刹那の剣技によって迫る塔槌の先端を捉え。

 斬る。

 塔槌を縦に割るように奔った黄金の斬撃痕は、しかして物理的な破壊が目的のものではなく。

 ぐらり、撃ち出された塔槌の軌道が揺らぐ。

 それは、カギヤのオブジェクトハックによるアランのオブジェクトハックの相殺であった。

 支配権を失った塔槌の勢いは僅かに落ち、機体はその横腹を擦りながら紙一重で一撃を回避した。

 

 オブジェクトハックによる機体の構築と駆動制御、そこに更に敵塔槌のオブジェクトハックという仕事を追加したカギヤ。

 現実世界で鼻血を吹きながらも彼がその荒業をやり遂げられたのは――友人の信頼に応えカッコつけたいという、ただの意地によるものであった。

 

 一歩。

 機体が前へと進む。

 

 次いで二歩目を踏み出すのと、新たな塔槌が迫るのは同時であった。

 二本目。しかし先とは明確に異なる。

 ――横に、広い。

 横倒しにされた塔槌は、しかし空気抵抗の存在しない世界故に先に劣らぬ速度を以て発射される。まるで地平がそもまま迫り来るかのような光景。

 オブジェクトハックによる相殺を受けての、相殺されても相手を巻き込めるよう急遽改良された二射目。横向きなぶん攻撃範囲が広いため、先と同じ対処方法では回避できず、そうなればその時点で機体が破壊されるか耐えても三つ目の塔槌による追撃は躱せないだろう。

 剣では足りず。アレの前ではどんな防壁も紙屑のように壊されるだろう。

 

 だが、Egoは歩みを止めない。彼の頼れる友人は、カギヤだけではない故に。

 

「ロゼちゃん!」

「ああもう、分かってるわよ!」

 

 瞬間。巨躯の機体は何もない宙を踏んで飛んだ。

 否。それは対仮想物質(オブジェクト)電脳防壁(ファイアウォール)を足場にしたのである。

 カギヤ同様、駆体制御の補助と電脳防壁(ファイアウォール)による装甲を展開するロゼが、無理を押して新たに展開した防壁。塔槌の破壊力には耐えられずとも、機体の足場になる程度なら強度は持つ。

 その荒業を為し得た理由……カギヤが意地なら、彼女の場合は対抗心。カギヤに出来たのだから自分が出来ないなど許さない――そんなプライドが、一瞬だけ不可能を可能にした。

 

 果たして――その機体は、横倒しに迫った塔槌を()()()()()

 

 二歩。

 二歩目は地ではなく空を踏む。

 

 続けて、塔槌を飛び越えながら三歩目を踏み出して。

 けれど。カギヤとロゼは既に限界を超えており。

 故に、迫る最後の塔槌を防ぐ手段は、もうその機体には残されておらず。

 

 着地と同時。

 身動きが取れないその瞬間を狙いすました塔槌の一撃が、機体上部を消し飛ばした。

 一撃粉砕。

 激突というよりは貫通、貫通というよりは消滅と言うのが正しいか。超圧力により一瞬で削り取られた装甲は、機体が吹き飛ぶことも許さずその頭部と胸部を抉り取る。

 

 半歩。

 あと半歩、足りなかった。

 

 塔槌の通過と同時……ずしゃり、首回りごとゴッソリと頭部を失った機体が膝を突き。

 ――胸部操縦席の空洞と外部を繋げるその穴から、青い人影が飛び出した。

 

 それは、紙一重の神業であった。

 着地と同時に膝を曲げて操縦席の高度を調整、最後の塔槌を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 言うは易し。操縦席に穴を開けるため、己の頭一つ上に塔槌を通過させる胆力たるや。

 

 そんな神業の目的は、開けさせた操縦席の穴から自分が外へと出るため。

 ハックラッキングの太い右腕を即座に駆けたEgoのアバターは、そのまま開いた手から槍を取る。

 同時、カギヤにより槍の操作権がハックラッキングの腕からEgoの腕に移譲され。

 

()()()()()!」

「分かりましたよっ、分かりましたけど、どうなっても知りませんからね――!」

 

 右腕に乗ったEgoを、Egoに代わってアリスが操作した機体が思いっきり投げた。

 カギヤもロゼもそれぞれの作業があり、機体の操作までは手が回らない。だが演算領域を貸す役目しかないアリスだけは、Egoが操縦席から離れた場合代わりのパイロットの役割を果たせる。

 

 そんなアリス操作によるEgoの投擲。限界以上の速度を出したことにより、機体右腕が肩から破綻し崩壊する。それを代償に、投擲されたEgoは恐るべき勢いで半歩の距離を飛翔する。

 もう塔槌はアランの手元に無い。彼を包む巨獣は、しかし特攻を持つ銀の槍の前では無力である。最早アランに、迫るゲーマーと彼が持つ巨槍を防ぐ手段などなく。

 

 否。

 念の為残しておいた最後の瓦礫弾、その群れが浮かび上がりEgoを襲う――。

 

「――うん。やっぱり残してるよね、弾」

 

 最強のゲーマーは読んでいた。

 読んだ上で、『勝てる』と判断し動いていた。

 

 迫る超大粒の弾幕、その刹那。

 瓦礫の隙間に槍が通る道を見て。

 針に糸を通すようなコントロールで、彼は重さの無い巨槍兵装を投擲する。

 

「ごめんね。僕は僕のエゴの為、君の復讐を否定する――!」

 

 閃光、奔る。

 神速にて放たれた銀光は、世界を貫く特大の箒星であった。

 瓦礫の礫の隙間を見事すり抜けた銀の切っ先は、深々と50m級の巨獣を刺しその背まで槍を貫通させる。

 必殺、命中。

 〈Gun.GNIR-000(グングニル・プロトナンバー)〉。自己進化型プログラムである〈B-I:Fenrir(ビーストワン:フェンリル)〉に特攻の槍。

 貫いた時点で勝負は決まった。そのはずだった。

 

 銀が。

 黒を侵す筈の銀が、槍が、逆に獣の黒色にじわじわと侵食され始める。

 

『くク、自己進化型プログラムの脆弱性ヲ突イたウイルスか……だがそレは一度受ケてイる! 故にコちラも無効化でキるヨう進化しテいルのだ……!』

 

 無限に適応する自己進化型プログラムと、それを逆手に取り無制限に弱体化・封印するプログラム。それらが矛盾の関係であったなど……絶対の結果ではなく、僅かな要因で結果が変化する均衡であったなど、一体誰が知り得ようか。

 つまるところ。アランの指示の元、〈B-I:Fenrir(ビーストワン:フェンリル)〉は一度受けた槍のプログラムを分析し、それをある程度無効化できるよう進化していたのだ。

 

 槍のウイルスを押し返すため動きは鈍りオブジェクトハックも機能を失うが、それでもEgoを狙った瓦礫は仮想の慣性に押されて空を奔る。

 ぐしゃり、と。

 瓦礫の砲弾を(アバター)に受け、衝撃に宙を舞いながら……Egoは呟いた。

 

「良かった――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 最強のゲーマーは全てを読み、そしてその先、予想外の事態に対しても布石を打っていた。

 

 瞬間。()()()()は三歩目を完遂する。

 頭部を失い操縦席が剥き出しになった電脳人型決戦兵器、ハックラッキングが、今、アランの目の前に。

 

『ナ、に――!?』

 

 ハックラッキングはオブジェクトハックにより巨大ロボのように動かしているだけの、ただのハリボテである。現実におけるロボットのように内部の装置で動いているわけではない。頭部や首回りを失っても、操縦席が破壊されても、カギヤのハッキング技術とアリスの演算領域さえあれば問題なく動かすことができる。

 故に、Egoが途中で機体を捨てたのは――捨てた機体がまだ動くという、その一点からアランの目を逸らさせ、アランの最後の手札を自分に使わせるため。

 

 剝き出しの操縦席からアラン目掛けて飛び出すは、手を繋いで繋がったふたつのアバター。

 アリスとカギヤ。

 

電脳兵装(プログラム)/出力(ロード)型式(モード)[対電脳犯(カウンターハック)]――」

 

 繋いだ手の内に黄金の剣を、無敵の電脳兵装(プログラム・ツール)を顕現させ。

 アランを遂に間合いに捕らえたカギヤとアリスは、剣を握る腕に渾身の力を籠める。

 

「アラン――!!」

 

 黒き巨獣の隻眼の中、アランは何とか打開策を探す――だが〈B-I:Fenrir(ビーストワン:フェンリル)〉は槍のウイルスを押し返す為の負荷で素早く動けない。万が一の瓦礫弾はEgoに対して使ってしまった。

 故に。この一撃を防ぐ手段は、無い。

 

 アリスは叫ぶ。

 

「あなたの復讐は私が止めます……同じ人間の『人格』を受け継いだ者として!」

 

 カギヤは告げる。

 

「エラーコード404だ――ここにオマエが壊していい世界なんて、無い!!」

 

 そして、一心同体の境地にてその一刀は振り下ろされ。

 常勝の剣は今翻り、電子の世界に残光を刻む――!

 

「「――Ex.CARIBUR-404(エクスカリバー・ロストナンバー)!!」」

 

  SLASH!!

 

 袈裟一閃――その黄金、鮮烈に闇を裂く!!

 絆が繋いだ(プログラム)の一撃は、遂にアランの(アバター)を斬り裂いた。

 

 

◎Now Loading..._

 

 

 決着。

 カギヤの剣に斬り裂かれたアランのアバターは血のように『ERRER』を噴出し、電脳怪獣(モンスター・プログラム)を強制解除して動けなくなる。

 後は動機や目的を聞き出し、説得なりして事態は一件落着。

 ――そのハズであった。

 

 ぎろり、怨念籠った視線がこちらを貫く。

 

「は――?」

 

 降った黒は、言わずもがな〈B-I:Fenrir(ビーストワン:フェンリル)〉の巨腕。槍を押し返す為相応に鈍った動きは、しかし予想外の事態に硬直したカギヤらを叩き潰すには充分で。

 ――巨獣、地を踏み砕く。

 故にカギヤとアリスがその一撃に巻き込まれずに済んだのは、腰に巻き付いた赤い茨の蔓がそのアバターを引っ張ったからであった。

 

「た、助かったぜロゼ……ていうかどういうことだ!? オレは確かに対電脳犯(カウンターハック)モードで奴を斬ったぞ……!?」

「カギヤさんの剣が、効いてない……!?」

 

 漆黒の巨獣の隻眼の中――アラン、健在。

 そのアバターは『ERRER』ウィンドウのひとつも出さず、変わらず眼下を睨んでいる。

 

 そうだ、予想外。〈Ex.CARIBUR-404(エクスカリバー・ロストナンバー)〉の一撃を受けて微塵の痛痒も見せない者が居るはずがない……そう確信していたからこそ動けなかった。

 故に、()()だけは咄嗟に動けたのだ。

 

「……そう。本当に、そうなのね」

「ロゼ?」

 

 彼女だけが――ロゼだけが、戦闘中もずっと考えていた。

 

 アラン博士の独白文書から、アリスに纏わる様々な事柄には納得できる仮説が立てられた。

 

 膨大な演算領域は〈CLONE〉のメインサーバーの演算力を借りたもの。

 〈電人研究会〉に狙われていたのは、彼女が彼等の望む『電脳の存在』そのものであったのが関係しているハズ。

 『開発者権限』は、運営が既に死人だった、使う者が居ないハズのアラン博士のアバターからわざわざそれを奪わなかったのだろう。

 だが、ひとつだけ大きな謎が残されている。

 

 アラン――『記憶』だけを引き継ぎ復讐を叫ぶ、そのアバターの正体である。

 何故なら……アリスが『人格』だけを引き継ぎ、その『記憶』を持たないように。『記憶』だけを引き継いだのなら、当然そのアバターの中に『人格』は存在しないことになるからだ。

 だがアランは喋り、行動し、明らかに『人格』があるように見える。

 ならばその『人格』とは()()()()()()()()()()()()

 

 ずっと頭の片隅にあった疑問――その答えは今、出た。

 アラン・キャロルと関係が深く、そして『人格』の代わりを果たせる存在……そしてカギヤの〈Ex.CARIBUR-404(エクスカリバー・ロストナンバー)〉を受けて、何の影響も受けない存在。

 そのふたつの条件を満たせるのは、この世に()()しか居ないのだから。

 

「そう、アランは――アイツはユーザーじゃない。アイツの正体は、『AI』! ()()()()()()()()()()()()()()()()A()I()()()()()()()()!」

 

 ――サポートAI、アリス。

 それこそが『記憶』のみを引き継いだアランに押し込められた代わりの『人格』であり、電脳犯罪者(クラッカー)アランの正体であった。

 

「え、AIだと……!? でも、アイツは明らかに人間――」

「外からはそう見えるってだけよ。恐らく『アラン博士の記憶』という学習材料(データ)を得たことで、人間の模倣精度が抜群に上がったのでしょう。それに、アンタのツールが効かなかったのが良い証拠……数時間前を忘れたの? 対ユーザーに調整したアンタのツールは、AIには効果が薄い」

「いや、でも……あ、そうか。だから電脳怪獣(モンスター・プログラム)を自在に操れたのか。AIはAIどうしで話すとき、暗号言語でより効率の良い情報のやりとりをするって聞いた事がある……だからアランがAIで、フェンリルに細かい命令を効率よく送ることができたと考えれば辻褄は合う……」

 

 あらゆる点と点が繋がり、その真実という線を描く。

 そして、アリスはぽつり呟いた。

 

「……私が付けた名は、逆、だった。(アリス)が記憶喪失の『アラン博士』で……彼女(アラン)こそが、その記憶を受け継いだ『AIアリス』だった、なんて」

 

 頭上、作り物の顔が描く怨嗟の表情は、どこか虚しいものに見えて。

 

 それは、主の命令と記憶によって復讐心を植え付けられた疑似人格。

 世界を壊す死人の遺志、電脳の新人類にして全自動の世界破壊装置。

 ――電脳の復讐機構(リベンジ・プログラム)

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