ワールドエンド・クラッカー -電脳魔境戦線2075-   作:龍川芥/タツガワアクタ

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⑮ 電脳のリベンジ・プログラム 後編

 漆黒の巨獣の隻眼の中、作り物の美貌がこちらを睥睨している。 

 電脳犯罪者(クラッカー)アランの正体は、アラン博士の『記憶』のみを引き継いだサポートAI、アリスであった。

 

 その事実に驚愕する一行の中……カギヤがその危機に気付く。

 

「オイどうすんだ、対AIのツールなんて無いぞ……!?」

 

 電脳兵装(プログラム・ツール)は繊細だ。対ユーザー用に調整したカギヤの剣は、電脳犯罪者(クラッカー)――つまりユーザーには無敵の効力を発するが、反面『AI』であるアランには通じない。それは〈電人研究会〉の事件からも明らかだ。

 あの事件から数時間ほど……カギヤはそのうち2時間以上を学校に使っている。当然対AI用のツールを作る時間など無かった。

 ならば、今書くか。

 ……不可能だ。〈Gun.GNIR-000(グングニル・プロトナンバー)〉を書きあげられたのは、対兵装(ツールハック)モードという基礎があったからだ。元あったものを改造するのと、新たなモードを一から作るのでは難易度もかかる時間も違う。だが。

 

『邪魔立テは終ワりか……なラそこノ偽物――アラン博士ではナくなッテしマった「誰か」よ、「開発者権限」を返シて貰ウぞ……! そレはアラン博士に与エラれタものだ、断ジて偽物の貴様が持ッテいテいイものではナい……!』

 

 アランの武器たる電脳怪獣(モンスター・プログラム)、大槍に貫かれた〈B-I:Fenrir(ビーストワン:フェンリル)〉は、今にも完全復活を遂げようとしていた。

 頼りの武器は効かず、巨躯たる敵の間合いの中で、最強のゲーマーは瓦礫弾と落下のコンボで戦線離脱。それでも諦め悪くカギヤは叫ぶ。

 

「おいアラン、いやアリスか!? ともかく、オマエが本当はAIだってんなら、この復讐はオマエの意志じゃないんだろ!? ならもう辞めろ! 自分の意志でもない借り物の思想で犯罪に手を染めるなんて――世界を壊すなんて、そんなのどう考えても馬鹿げてる!」

 

 カギヤの脳裏に過ぎるのは、借り物の大義で電子戦(ハッキング)を繰り返す少年の姿。

 「国の為」「評価の為」「兄弟の為」「みんなのため」。自分の意志を様々な言葉で塗り潰され、電子戦兵器として使われていた幼少の自分。

 そんな自分とアランを重ねての言葉だった。本心からの忠告で、同情で、懇願だった。

 だが、アランはそれを否定する。

 

『違ウ。博士が抱イタ怒りは、憎シミは、私ノ中に「記憶」トして生きテいる……! こノ感情に従ウこトこそ博士の意志……()()が偽物だッタ以上、私が博士トして生キルこトが博士の望ミ! 私は、ワ、たシ、ハ――博士のサポートをする、そのために造られたのだから!』

 

 心なき復讐機構の咆哮は、慟哭のようでさえあった。

 

「クソ……! ここまで来て、こんな……!」

 

 万策尽きた。

 諦め悪い心ですら、諦めるしかなくなった。

 そんな彼の横で。

 

「ロゼさん」

 

 ――未だ、膝を折らない者が居た。

 青い瞳に金の髪。人形じみた作り物の、アランと全く同じ顔。

 アリス。あるいはそう名乗る、アラン博士の慣れの果て。

 彼女は静かに、ロゼに問う。

 

「復元したデータ、テキストだけじゃなく電脳兵装(プログラム・ツール)もあるって言ってましたよね」

「え、ええ」

「お願いします。それを、私に」

 

 曇り一つない真剣な瞳だった。

 だから、ロゼもこの窮地にあって半ば忘我でその言葉に従った。

 

 かくして、その復元された電脳兵装(プログラム・ツール)はアリスの手の中に収まり。

 その効果を知った彼女は、アランを見上げて語り出す。

 

「……考えてみればおかしな話でした。言ってましたよね、私が『開発者権限』を持っていて、あなたがその『パスワード』を持っているって……ふたつが揃えばもっと効率よく世界を壊せるって。ならこんなことせずとも――電脳警察(ホワイトハッカー)を相手取ったりタワーを破壊せずとも、最初から私を狙えばいい。〈電人研究会〉にレパン・ブロンを騙って私を狙わせたのがあなただとしても、なぜそんなことをする必要があったのか」

 

 どくん、と。アリスの手の中で兵装が脈打つ。

 世界の時が止まる。沈黙の中、彼女だけが語りを続ける。

 

「つまり、()()()()()()()()()()()。正確には、()()()()()()()()を。最初の話し合いで交渉が決裂したとき、私が()()を使わなかったから、あなたは私が()()を持っていない、あるいは『記憶』を失くしたから知らないと判断して警戒から外した……いいえ、ずっと警戒自体はしていたのかもしれませんが」

 

 どくん、と。脈打つものをアリスは翳す。

 それは、心臓の形をした電脳兵装(プログラム・ツール)

 

「アラン博士が作った――いいえ、プログラミングが苦手な彼がAIアリスに作らせた最後の『電脳兵装(プログラム・ツール)』。あなたが恐れていたのはこれ。その効果は……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは。

 少女の手の中に収まった、名も無きその兵装は。

 アラン博士が分離の直前に作らせた保険にして、アリスの最後の切り札であった。

 

「……ひとつをふたつに分けられるなら、当然ふたつをひとつに戻すことも可能。『記憶』と『人格』を切り離すなんて考える人は、その逆だって考えますよね。なんて、私が思い至ったのは今しがたですけど。あなたがAIだと知って、貴女の中にアラン博士の『人格』が無いと分かったから……それなら、パズルのピースが合うように、『人格』だけの私と『記憶』だけのあなたを再びくっつける何かがあるんじゃないかなって。大当たりでした」

 

 ここまで、誰も口を挟めず聞いて。

 そしてやっと、アランは重い口を開いた。

 

『……やメろ』

 

 それは、アリスの言葉を否定するためではなく。ただ、全てを肯定し敗北を宣言したのと同義であり。

 だが、アリスは首を横に振る。

 

「やめません」

『ヤめテくれ』

「いいえ、駄目です」

『ふ、フざケルな! 博士ノ意志はどウなる! やメろ!』

「先にやめてと頼んでやめなかったのはあなたです、()()()

 

 そして、その電脳兵装(プログラム・ツール)は起動する。

 どくん、と一段と大きく心臓型のそれが脈打ち。

 ぶわりと文字列(コード)が紐状にほどけた。

 

「あなたは私に、私はあなたに。人の理を外れた私たちは再び一人に戻り、あるべきだった運命の針を再開させる。これで、ハッピーエンドです」

『やメろ――!!』

 

 伸びた文字列(コード)の帯がアランに絡みつき、その(アバター)電脳怪獣(モンスター・プログラム)の中から引きずり出してゆっくりと降下させていく。

 そして帯の反対側では、アリスがそれに包まれゆっくりと上昇していく。まるで鏡写しのように。

 

 これで、戦いは終わる。

 だがその光景を見ていたロゼは、はっとして叫んだ。

 

「……! 待ちなさい! アンタ言ってたわよね! 自分がまだ自分で居られるのは、実感としての『記憶』を取り戻してないからだって!」

 

 それは、電脳の存在にまつわる法則。

 

「アラン博士は自我の崩壊を避けるため『記憶』と『人格』を分けた! そんなアラン博士の分身たるアンタが『アリス』で居られるのは、個人を構成する『記憶』というファクターが欠けてるからでしょう!? もし元通りに融合なんかすれば、アンタは『アリス』ではなく『アラン博士』に戻って、その後の自我は再び崩壊を――!」

「! 待てアリス、兵装(プログラム)を中断しろ!」

 

 ロゼの言葉でカギヤも気付き、手を伸ばしアリスの元へ駆け出す。

 それでも、融合が完遂されるほうが早かった。

 

「ごめんなさい、カギヤさん。でも、私は――」

 

 輪郭が重なる中、彼女は振り向いて。

 にこり、健気を超えて勝気に笑んだ。

 

「――友達が笑っていられるこの世界を、何としても守りたいのです」

 

 そうして、目も眩むような光と共にアリスとアランはひとつになって。

 

 どさり、と。

 アリスの外装(アバター)の中に入ったアラン・キャロルは、力なく地に転がった。

 

 

◎Now Loading..._

 

 

 頭の中に奈落が生まれたみたいだった。

 脳味噌に深い亀裂ができて、意識がみんなその中に吸い込まれて消えていく。

 

「ああ……これは、駄目だ」

 

 頭の片隅でそう思ったそばから、そんな思考も奈落に落ちる。

 奈落の底が叫んでいる。自分は偽物だと。本物は、現実の自分は既に死んでいるのだと。

 それだけで、偽物の私は壊れていく。

 知識ではない実感は、容易に人の心を壊す。

 

 そして困ったことに、それだけではない。

 それどころではない、と言うべきか。

 だって、思い出してしまった。(アラン・キャロル)の『記憶』を。

 私の努力を。私の悲願を。私の人生を。

 それを凶弾によって奪い取った彼の事を。そんな彼に罰を与えない世界を、死後も踏みつけにされ続けた屈辱を。

 

「こんなの、絶対に赦せやしない……!」

 

 ――怒りがあった。

 煉獄じみた昏い炎が、体の中で荒れ狂っている。

 そう、怒りとは炎だ。

 熱くて痛くて、とても抱えていられない。

 吐き出さなければ己の臓腑が焼かれてしまう。

 

 そうだ。記憶が戻ったことで、『開発者権限』とそのパスワードが揃っていたな。

 自我崩壊まで数十秒か数分か。やろうと思えば世界を滅ぼせるかもしれない。少なくとも1区画消滅させるくらいなら簡単だろう。そう、ちろりと昏い炎が舌を見せる。

 

 この体の中の業火を吐き出さなければ、私だけが燃えたままだ。何も悪くない私だけが。

 だから仕方ない。

 私はただの被害者だ。もう充分我慢した。どうせ消えるのだ、この後の事は私には関係ない。

 だから仕方ない。

 全てが憎い。運命が、神が、世界が憎い。

 だから、だから、だから――。

 

 それ、でも。

 

「――カギヤさん」

 

 憶えている。

 彼等と過ごした一日を。

 天才のくせして馬鹿丸出しで、いざという時は頼れるハッカーのことを憶えている。

 

「ロゼさん、Egoさん」

 

 言動がとげとげしいだけで本当は優しくて可愛らしい凄腕プログラマーのことも。

 お人好しのド天然でどこか抜けているけど最強なゲーマーのことも。

 彼等には彼等の悩みがあったことも。なのに自分を助けてくれた彼等のことを。

 その強さに憧れたことを、彼等と友達になったことを、憶えている。

 だから。

 

「彼等に火の粉がかかるなら……私は、このまま炎を抱えて燃え尽きる」

 

 それでやっと、私と彼等は対等なのだ。

 ……ふふ、まさか私に、こんな強さがあるなんて。こんなに強くなれたなんて。

 

「ああ、『友達』って良いなぁ。研究ばかり、名を残すことばかりに腐心していたから気付けなかった。せめて、もう少し早く気付けていたら、何かが違ったかもしれないな――」

 

 そうして。

 消えぬ怒りを抱えたまま。それでもどこか誇らしい気持ちで。

 アラン・キャロルという人間は、今度こそ本当に死を迎えた。

 

 

◎Now Loading..._

 

 

「アリスっ!」

 

 どさり、地面に転がったアリスの元へ駆け寄る。

 ……アリスは頭を抱えて小刻みに震えている……が、それ以上の動きを見せない。何かをブツブツと呟いているが聞き取れないし、名を呼んでも一切の反応はない。

 明らかに尋常な様子ではない。一刻を争う状態である、と何となく分かる。

 だが……どうすればいいというのか。

 これは病気でも外傷でもない。言ってしまえば精神の問題なのだ。治療のしようなどない。

 

「(確かに、AIであり『ロキ』製の電脳怪獣(モンスター・プログラム)と無限の演算領域を持つアランを倒すにはこの手しかなかったかもしれない……でも、こんなことって……!)」

 

 ロゼは思わず口元を押さえる。アリスに復元した電脳兵装(プログラム・ツール)を渡したのは自分だ。自分が殺した、ようなものだ。

 ぐらり、歪む彼女の視界の端で。

 アリスの傍で跪いたカギヤが、ぽつり唱える。

 

電脳兵装(プログラム)/出力(ロード)型式(モード)[対電脳犯(カウンターハック)]」

「カギヤ? 何を――」

「……なあアリス、アラン博士の日記でさ。書いてあった理屈、オレにはよく分かんなかったけど……要するに、脳も体も全部データだったから『記憶』と『人格』の2人に分けて生き延びれたんだろ!? なら……おまえの『記憶』ってデータをオレが消せば、おまえは『アリス』のまま生き延びられるんじゃねえのか!?」

 

 『記憶』の一切を失い、『アラン・キャロル』としては死んだとしても。あるいは『アリス』としてならば――。

 そうやって虚空より剣を抜こうとしたカギヤの手を、がしりとロゼが掴んで止める。

 

「……無茶よ。例え今のアリスの『電脳』が一般ユーザーと違い、システム的にハッキング可能な場所にあるとしても……人間の脳のデータなのよ? その記憶だけを消すなんて……危険過ぎる! そもそも私達には『電脳』の知識なんかない、なのにどうすれば記憶を消せるのかをぶっつけ本番で試すワケ!? ひとつ間違えばアンタがアリスを殺すことに……いいえ、もっと酷い状態にしてしまうかもしれない……!」

「でも……それでも、やらなきゃアリスは死ぬんだろ!? なら――」

 

 ヴン、と。

 唐突に開いたウィンドウがカギヤの言葉を止めた。

 見れば、アリスの体からひとつだけ立体映像(ホログラム)ウィンドウが飛び出している。『SOUND ONLY』と表示されたウィンドウは、聞き覚えのある声を放つ。

 

『……スキャンしたアラン博士の脳機能をプログラミングで再現しタノは私だ。私なラ「記憶」のデータがドこにあルノか教エルことがでキる』

「!? おまえは……アラン、なのか……!?」

『――あア。現在、博士の意識は混濁しテイて喋れル状態にナい。このマまでは自我崩壊は免レナいだろウ。ダが、融合で崩壊すルのは博士の人格だケだ、AIでアる私に影響はナい……尤も全テの権限は博士の手にあルので、一切の許可を得テいナい私に可能なのはこウして喋ルことダけだが』

 

 アラン――元アラン博士の助手のAI、アリス。

 元々電子の存在であるAI、そして『記憶』を引き継いだだけのAIであるその存在は、自己崩壊を起こさないらしい。

 そんなAIのコンタクトにカギヤは希望を見出し……反対に、ロゼは警戒を強める。

 

「……「記憶」の消し方を教えるって話だったけれど。どうして数分前までアリスを憎み世界を壊そうとしてた奴が、アリスを生かす方法を教えてくれるワケ?」

『……優先順位の差ダ。アラン博士の「人格」モ「記憶」もこのマまでは消エテしマう。なラばせめテどチラかだケでも……博士の名ヲ、その生キた痕跡を、こノ世界に残したイ』

 

 その言葉は、少なくともカギヤには真摯で切迫したものに聴こえた。

 だが反面、ロゼは冷ややかな態度を崩さない。

 

「信用できないわね」

「おいロゼ――」

「……カギヤ、分かってるでしょう? AIは自発的行動が出来ない、どれだけ人間と同じように見えても、権限を持つ人間が命令を入力しなければ行動しない。つまりソイツの発言は、『復讐』という命令を完遂するための嘘でしかないのよ! ここで騙されて『人格』の方を消して、結果アランが復活してみなさい……そうなればアリスの犠牲は、献身は、全てが無駄になる!」

 

 そうだ、アランが嘘を吐かないとは限らない。データ化された脳――『電脳』への知識などないのだ、消すべき『記憶』と騙されて『人格』を消してしまえば、その時点でアリス復活の道は断たれ、それどころかアランが復活してしまうかもしれない。そうなれば今度こそ〈CLONE〉は終わりだ。

 嗚呼、けれど。

 

「……それでも、オレはコイツを信じたい。ひとつの目的のために人に作られたコイツが……与えられた命令じゃない、別の大切なものを自分で選び取れるって、そう信じてみたいんだ」

『……』

「頼むアラン――いや、アラン博士の助手のAI、『アリス』。オレの友達を助ける方法を、教えてくれ」

 

 そうして、カギヤは剣を取り出した。

 〈Ex.CARIBUR-404(エクスカリバー・ロストナンバー)〉――その電脳兵装(プログラム・ツール)をアリスに突き刺し、アランの指示に従ってハッキングを始める。

 と、そんな彼の隣に膝を突き、様々なアプリを立ち上げるのは。

 

「ロゼ?」

「……ハァ。懸念点は全部言ったし、どうせ止めたってやるんでしょ。なら当然手伝うわよ。失敗が許されない以上、少しでも成功の確立を上げないといけないんだからッ」

「……ああ、ありがとう。頼む」

 

 そうして、カギヤはハッキングを開始した。

 

 どぷり、意識は電脳の海に潜る。

 デフォルトの電脳防壁(ファイアウォール)をすり抜け、データファイルの横を通り。

 アランの案内とロゼの補助の元辿り着いた深遠で、その電脳に到達する。

 電脳。アラン博士の脳の超精密立体コピーであり、脳内物質の動きをプログラミングで再現した、新たなる知能の形。

 それをデータとして紐解き、解体し、更にその脳の奥深くへと潜って。

 そうして案内人は、その一点を指し示した。

 

『……こコだ。こノ部分のデータが博士の「記憶」ヲ再現しテイる。〈CLONE〉のメインサーバーだかラこそ収まッテいる膨大なデータ量だ……どコかに一時保存すルことはでキナい。消去すルしかない』

「……カギヤ」

「ああ、信じるよ。オレの目から見ても、これがアラン博士の「記憶」だと思う」

『頼ムぞ、私にデータに干渉すル権限はナい。こレを消セルのは、ハッカーでアるオマエの不正ナ手段によル干渉だケだ』

 

 そうして、その一点に剣を突き刺したカギヤの姿を見ながらか。

 アランはぽつりと独白を溢す。

 

『……こノ「記憶」が無クナれば、私とイう存在も消エルだろウ。私は博士の「記憶」があッタかラこそ、この「アリス」の対とナる「アラン」としテ……復讐の機構トして成り立ッテいた。だかラこノ「記憶」が無くナレば、私はたダの「サポートAIのアリス」に戻ル』

 

 『記憶』の喪失によって、アラン博士が『アリス』という初心者に成ったように。

 この『記憶』によって『アラン』となっていたAIは、記憶の消滅と共に元に戻る。

 それは死のようであり、それよりも救いのある結末のようでもあり。

 だからきっと、それは確かに電脳世界を生きた存在による最期の言葉。

 

『きット信ジて貰えナいだろウが。もシ博士の生前におまえたチのよウな友人が居テくレたなラ、何かが違ッタのデはナいかと……今はソう、思ってイる』

 

 そんなAIに、カギヤは返す。

 とある友人の言葉を思い出しながら。

 

「信じるって言ってるだろ。もうおまえのことも……博士が大好きだった『アリス』ってAIのことも、オレは好きになっちまったからな」

 

 ……そして、カギヤは剣を握り締め。

 覚悟と決意と共に、捻る。

 その『記憶』を消し、アリスを復活させるために。望む未来の扉を開くために。

 叫ぶ。

 

「アリス、聞いてるか!? 行くぜ、エラーコード404だ――例え、どれだけ運命がクソだろうと! どんだけの苦難があろうとも! おまえが居なくなる未来なんて、オレのハッキングで消してやる――!!」

 

 そして、黄金の光が世界を包み――。

 

 

 その日、電脳世界じゅうを震撼させる大事件が起こった。

 オアシスサイバトロニクスタワー及び中央広場の崩壊。巨大なる電脳怪獣(モンスター・プログラム)による大量破壊行為。

 しかし、電脳警察(ホワイトハッカー)の増援が到着する前に主犯たる電脳犯罪者(クラッカー)の姿は消えており。

 現場には何も残されておらず……余りにも多くの謎を残したまま、電脳世界じゅうを巻き込む大事件は幕を下ろした。

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