ワールドエンド・クラッカー -電脳魔境戦線2075-   作:龍川芥/タツガワアクタ

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⑭ エピローグ

『オアシスサイバトロニクスタワー倒壊事件から三日。破壊されたタワーや街は、3Dデザイナーやデータ修復師によって今なお修復が進められています。依然事件の犯人は逃走中であり、電脳警察(ホワイトハッカー)がその足取りを……』

 

 そんなニュースが流れている。

 あの事件から三日。

 〈Hack&Luck〉アジトには、未だ事件の爪痕が残っているような微妙な空気が漂っていた。

 

「……結局、『記憶』と『人格』ってどっちが人間にとって大事だったのかね」

 

 ソファに身を沈めたまま、らしくもなく大人しい口調でカギヤが呟く。

 そんな、ともすれば独り言のような声に答えるのは、今しがた扉を開けて室内に入って来たEgo。

 

「『記憶』じゃないの? 僕、思い出が無くなったら全く別の人間になっちゃう自信があるよ」

「Ego。(アバター)はもう良いのか?」

「うん。瓦礫弾が当たって破損したデータは、知り合いのデータ修復師に全部直して貰ったよ」

 

 むん、と力こぶを作るようなポーズは、しかしカギヤを笑顔にすることはできなかった。彼は依然ソファに身を沈めたまま、茫洋と壁の一点を眺めている。

 と、作業がひと段落したのか既に室内に居たロゼが会話に口を挟む。

 

「でも、『記憶』はただの情報でしょう。そのデータを扱う『人格』が無ければきっと人とは言えないわ」

「た、たしかに」

「なら、『記憶』はそのままに『人格』が別人のものに変わったら?」

「……仮説に過ぎないけれど、ある程度『記憶』に引っ張られる可能性は高いわね。『記憶』は『人格』が無ければただの情報に過ぎないけれど、その『人格』は『記憶』の積み重ねとも言える。ただ、『記憶』を引き継いだからその人と全く同じ人間になる、というのが直感的に肯定しにくい暴論であるのも確かね」

 

 彼等はきっと、皆同じ顔を思い浮かべていた。

 だからこそ気の抜けたようなカギヤの心中を察し、そして自分の中にあるやるせない気持ちを消化するように答えのない会話を続けているのだ。

 

「じゃあ、一体『人格』って何なんだろうな」

「それは……精神の基底にある判断基準?」

「うーん、矛盾するみたいだけど、『記憶』がどうであれ変わらないもの、とか」

 

 そんな感じで3人が顔も合わせず話し込んでいた時であった。

 

『――ああもう、相変わらずつっまんねー話題ですね! マスターたちどんだけ好きなんですかその話、私イマイチ乗れなくて、疎外感マックスエンド級なんですけど!』

 

 室内にて唐突に、姿の無い4人目の声が響いたのは。

 

 ふわり、カギヤの頭上の虚空より、その少女は姿を現す。

 緩くウェーブした滑らかな金髪、電脳の海を思わせる青い瞳に、人形みたいに可憐な笑顔。

 その名は。

 

「……()()()

『はいはい、〈Hack&Luck〉専用超高性能美少女サポートAI、アリスちゃんを呼びましたね? 何か御用ですか? 御用がないならおしゃべりは? なんにせよ必ずや期待に応えてみせますよ、マスター!』

 

 そう言って、自称AI・アリスは、にこにこ笑ってくるりと空中で一回転するのだった。

 

 

 三日前。

 アランと融合し人格崩壊の危機に会ったアリス。そんな彼女の『記憶』を、カギヤ、ロゼ、そしてアランが協力して消した結果……彼女は自我崩壊を免れ、『アリス』として復活を果たした。

 だが問題は、全ての『記憶』を消してしまったため、カギヤたちと出会ってからの記憶も全て無くなってしまっていたことだ。

 緊急事態ゆえにそこまでは仕方のないことで済ませられる。自我崩壊よりはずっといい。

 だがここで、ひとつの問題が浮上する。

 それはアリスの置かれている余りに特殊な境遇だ。

 電脳の存在であるアリスは、現実(リアル)に体が存在しない。

 その辺のことをどう伝えるか、果たしてそんな重い事情を正直に話すことが彼女の幸せなのか、いいや言わない方がどうなのか、とカギヤやロゼが悩みながら最低限の情報を語ると……。

 

『なるほど、つまり私はAIなのですね! いいでしょう、お役に立ってみせましょう!』

 

 ……と、何か勝手に自己完結してこうなった。

 だがまあ、それ自体は渡りに船であったのだ。

 アリスの存在は重大すぎる。正体がバレれば〈電人研究会〉みたいな連中に狙われ続けることになるだろう。故にAIとして偽装できるならいいのでは、一度そういうことにして様子を見、大丈夫そうなら真実を伝えよう……という判断の元、とりあえずカギヤのAIということにしてみた結果。

 

 

『今日の午後は依頼人が来訪予定ですよ。私がサポートAIとして加入してから初めての活動、実に楽しみです! 必ずや成功させ、正義のハッカーチームとして電脳世界じゅうに名を馳せましょう!』

 

 情報体である彼女は本当にAIとして自分をカギヤのアバターに紐付けてしまい、今に至る。

 そんな出鱈目な電脳生命体アリスを……『彼女』とは異なるそのアッパーなテンションを今日も目の当たりにして、カギヤは遠い目で呟く。

 

「ホント、『人格』って何なんだろうな……」

『ああ、またそれ! 人格は人格でしょう、意味分かんないこと言ってないでもっと面白い話をしましょうよ! ホラ、ロゼちゃん様もEgoくん様も、何か言ってやって下さい!』

「……ホント、人間の精神は複雑怪奇ね」

「あはは。でも案外、これがアリスさんの『素』だったりして」

『ええもちろん「素」ですよ何を言ってるんですかEgoくん様? もう三日も経つのです、そろそろ私のキャラを憶えてくださいよ!』

 

 そう言って部屋を飛び回るアリスの姿は、まるでおしゃべりな妖精だ。

 と、そんな彼女の目がピコンと輝く。通知だ。

 

『おっとマスター、そうこうしているうちに学校のお時間です! さあ早くログアウトして準備を。このアリスの目の黒い内は、サボりなんて許しませんよ!』

「(やっぱ、所々似てんだよな……)」

『寂しいなら私も着いて行きますから! さあ、ハリーアップ!』

 

 まあ、そんなこんなで。

 正義のハッカーチーム〈Hack&Luck〉に、4人目の仲間である自称超高性能美少女AI・アリスが加わることになったのだった。

 

 

◎Now Loading..._

 

 

 現代、日本首都某所。

 今時珍しい対面型の高校の廊下にて、オレの手元から姿なき声が発せられる。

 

『いやあ、良いものですねえ対面の学校! 正に00年代アニメの『青春』の匂い! まあ、そんな青春の空気からうちのマスターが思いっきり浮いてやがるのが玉に瑕ですが』

「おまえなあ……スマウォの充電減るから盗み聞きとかやめろよな」

『まあまあそう照れずとも。あるいは逆に定番ですものね、学校では寂しくひとりぼっち、でもネットの世界では正義のヒーロー! みたいなのって』

「ぐぬ、人の苦労も知らずおちょくりやがって! 電源切るぞマジで!」

『な、横暴ですよ! 一方的な対話拒否、さてはAI差別ですか!? 録音してロゼちゃん様たちに言いつけます!』

 

 と、見知らぬ生徒とすれ違った。スマートウォッチで誰かと通話するなんて別におかしなことではないのだが、思いっきり変人を見る目で見られた気がするのは気のせいだろうか。というか気のせいであってくれ。

 

『しかし、ホントに不思議です。マスター、あれだけ〈CLONE〉内では陽気なのに』

「うっせ。そりゃあオレだって、できれば人気者で居たいけどさ。現実はそうもいかねーの」

『なぜ?』

「なぜって、そりゃ……」

 

 と、そんな時だった。

 

「――……!」「――!」

「……――……!」

 

 何か揉めるような声が聴こえた。声のした方を見れば、一見人目につかない場所で生徒が言い合っている。……否、一方的に恫喝している。

 

『……揉め事、でしょうか』

「あれは――」

 

 彼等の姿に見覚えがあった。

 あの日校舎裏で絡まれていた1年と、絡んでいた上級生たちだ。

 自然、足が止まる。

 

『……行くのですか?』

「だったらどうする?」

『リスクが高い選択です、推奨できません。ここは〈CLONE〉ではありません。声紋分析的に相手は3人以上……もしかするとマスターに危険が及ぶかも。端的に言って、無茶です』

 

 スマートウォッチのスピーカーからそんな冷静な分析が流れて来る。

 まあ、そうだろう。オレだってこの前は逃げたわけだし。今だって見なかったことにして逃げたいし。

 でも、なぜだろう。

 アリスに見られていると思うと……自然、オレの口は言っていた。

 

「……ハッ。忘れたならもう一回言ってやるよアリス。いいか、無理無茶無謀は『やらない奴』の為の言葉じゃなくてだな――」

『うーん、なんかそれ聞いた事ある気がするんですけど。誰の名言パクりですか?』

「100%オレのオリジナルですけど!?」

 

 ……そうだ。きっとあの時言った言葉は、紛れもなく本心だったのだろう。

 『友達』と一緒に居るからこそ……オレはどんな困難であろうとも、勇気をもって立ち向かえる。

 

「まあ見てな。オレは『カギヤ』だぜ……どんな困難にも立ち向かう、正義のハッカーだ!」

 

 そうして、オレはあのとき踏み出せなかった一歩を踏み出した――。

 

 

◎Now Loading..._

 

 

『――そこで私は言ったのです。「これ、マスターが無茶をする必要あったのですか? 普通に先生を呼べばいいのでは?」と』

「あーもう、おまえマジでそういうの先に言えよな! たまたまあっちが引いてくれたからよかったものの!」

「あはは。でも立派なことだと思うよ、カギヤ。僕は尊敬する」

「ハァ。アリス、ソイツがバカなのはこの三日でもう分かったでしょう。サポートAIを名乗るなら、上手いこと手綱を握ることね」

 

 そして再び〈Hack&Luck〉アジトにて。

 騒がしい彼等の元に、珍しく来客が訪れる。

 

 扉を開けた来訪者が見たのは、室内にて高々と叫ぶ少年の姿。

 

「オレたちを頼るとは、ラッキーだったなお客さん! オレたちは不撓不屈にして常勝無敗、愛と正義のハッカーチーム!」

 

 ばっ、と身振り手振りすら五月蠅い少年は、いつも通りご機嫌に声を上げ、頼れる仲間たちを紹介していく。

 

「リーダーはこのオレ、天才ハッカー、カギヤ!」

 


 KAGIYA 

 @kagiya_ezhack

 Hack&Luck[@hack_luck]リーダー 正義のハッカー 電脳詐欺の解決から害悪チーター退治まで DMにて絶賛依頼受付中!

 211フォロー 90フォロワー


 

「チームの盾にして頭脳、凄腕電脳防壁技師(プログラマー)、ロゼ!」

 


 Rosevelt

 @rosevelt_program

 フリーランスのプログラマー、電脳防壁技師 依頼受付中[@clone.net/businessspace_rosevelt]

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「絶対無敵かつ神速の矛、最強ゲーマーEgo(エゴ)!」

 


 Ego

 @ego_000

 元GhostGaming[@ghost_gaming]所属プロゲーマー

 24フォロー 1031万フォロワー


 

「そして期待の新人、自称・超高性能美少女AI、アリス!」

 


 Alice

 @alice_hackluck

 4フォロー 4フォロワー


 

「4人揃って〈Hack&Luck(ハック・アン・ラック)〉!! どんな依頼も、オレたちが無料で請け負おう!」

 

 Booooom!! と虹色が部屋いっぱいに爆発し、ギリギリ『Hack&Luck』と読める崩されたデザインの文字が空中に現れ派手に音と光を撒き散らす。

 余りにも性急で自己満足的な自己紹介に呆気にとられた依頼人に対し、カギヤはにやりと笑いかける。

 

「――ところで、物は相談なんだがお客さん。Xter(エックスター)戦闘力(フォロワー数)は幾つかな?」

 

 虹色の目を持つ電脳の悪魔は、悪戯っぽくそう言った。

 そんな彼等を今日も乗せ、電脳世界〈CLONE(クローン)〉は眠ることなく動き続ける――。

 

 

 

WORLD END CRACKER

-The Cybernetic Revenge Program-

 

【完】

 

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