ワールドエンド・クラッカー -電脳魔境戦線2075-   作:龍川芥/タツガワアクタ

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③ キャラクター&ステージセレクト

 前回までのあらすじ!!

 電脳犯罪者(クラッカー)集団(チーム)に追われる初心者・アリスを助けたのは、電脳世界の魔法たる電脳兵装(プログラム・ツール)を自在に操る『正義のハッカー』カギヤであった!

 最高にカッコいいオr……間違えたカギヤとその仲間たちの活躍によって辛くも危機を脱したアリスであったが、そこに新たな脅威『電脳警察(ホワイトハッカー)』が現れる。カギヤに手を引かれるがままに……あるいは己の身に起きている異常の正体を探るために、アリスは電脳世界〈CLONE〉の更に奥へと飛び込むのだった――。

 

 

 とまあ、そんなこんなで。

 

「――ようこそ、我ら〈Hack&Luck〉の隠れ家(アジト)へ!」

 

 『電脳警察(ホワイトハッカー)』の追跡から逃れ、流れのままに逃げ込んだ部屋。

 メインワールドから隔離された招待制のプライベート空間にて、アリスは見慣れぬ三つの顔に囲まれていた。

 

 近未来の探偵事務所じみた室内にて。来客用の椅子に座る彼女とテーブルを挟んで向き合った、部屋の主たる少年がご機嫌に声を上げる。

 

「では改めて、オレたち〈Hack&Luck(ハック・アン・ラック)〉のメンバーを紹介しよう。まずはご存知このオレ、チームリーダーにして天才ハッカー・カギヤ!!」

 


 KAGIYA 

 @kagiya_ezhack

 Hack&Luck[@hack_luck]リーダー 正義のハッカー 電脳詐欺の解決から害悪チーター退治まで DMにて絶賛依頼受付中!

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 明らかに来客用の椅子より豪華なデザインのソファに身を沈ませ両手を広げるのは、短い付き合いながら奇人変人の類だと何となく察しがついている少年、カギヤ。

 彼を一言で形容するなら「派手」だろうか。齢の頃は10代半ばか、少年と呼ぶに相応しい、幼さの抜けきらない彼の容姿には美醜こそ特筆するものは無いが――まあなにせ()()なのである、色が。ゲーミングカラーとでもいうのか、色を変えながら虹色に光るというギミックが、髪と瞳の輪郭にアバターのアクセサリとして仕込まれているのだ。

 服装も黒を基調に至る所に同じくゲーミングカラーのラインが入っており、黒の中で虹色が目まぐるしく変わりながら光る様子は、とにかく見る者の目を引いた。

 

 そんなカギヤは実に楽し気に、道化師もかくやのわざとらしい身振り手振りでアリスの気を引くと……ぱちん、と指を鳴らした。すると机から少し離れた場所で座っていたアバターを、不意に現れた赤い薔薇の立体映像(ホログラム)が取り囲む。そして彼は、やはりサーカスのショーのように高らかに。

 

「次は触れる者全て傷つける茨の女、凄腕プログラマー・ロゼ!!」

「ちょっと()()()()。私をその変なノリに巻き込まないでくれる? 同類だと思われたらたまったもんじゃないから」

 


 Rosevelt

 @rosevelt_program

 フリーランスのプログラマー、電脳防壁技師 依頼受付中[@clone.net/businessspace_rosevelt]

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 さらりと毒を吐いたのは、「空飛ぶ椅子」に座った綺麗な女性アバター。

 赤い薔薇の只中にあって、彼女は御伽噺の美姫のようであった。

 赤いメッシュの入った滑らかな金髪のツインテールに白い肌、薄い色素に赤が映える彼女は、ともすれば折れてしまいそうなほどに線が細く少女的で可憐だ。白魚の如き指先をオルガンの鍵盤のような形状のキーボードに這わせる様は、深窓の令嬢を通り越して王子様を待つ儚いお姫様じみていると言っていい。

 しかしそんな印象を裏切るように……花の(かんばせ)を彩るエメラルドのような瞳は、苛烈なまでに鋭く飾られて。その今にも人を殺しそうな目つきで立体映像(ホログラム)モニターを睨む姿は、魔女も継母も近寄れぬ茨の女王そのものであった。更に時折見せるキーボードを強く叩いたり舌打ちしたり足を組んだりといった行動は、その高圧的な女王じみた印象を加速させる。

 

 ひええ、と本当に怖がっているのかいないのかカギヤが座ったまま仰け反り、そしてわざとらしく姿勢を正して。

 気を取り直してと言わんばかりに、両手を広げて3人目をアピール。

 

「そしてかの有名な最強ゲーマー・Ego(エゴ)!!」

「Egoです。本物? です。えっと、よろしくね」

 


 Ego

 @ego_000

 元GhostGaming[@ghost_gaming]所属プロゲーマー

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 青い龍の立体映像(ホログラム)に取り囲まれて尚全く動じる様子なく遠慮がちに手を振ったのは、これまた美形のアバターだった。

 さらり、藍色の髪が真っ直ぐに流れる様は、どこか歴戦の名刀じみている。

 長髪の隙間から覗く顔立ちは線が細く美しく、にこりと柔和に微笑む顔はその性別をまるで判別させない。清流を思わせる柔らかい美声もまた同じで、気取らない女性の声にも声変わりが半端な男性の声にも聴こえる絶妙なもの。体型も骨張るほどに肉が薄く喉も胸も服で隠れていて……男と言われれば男に見えるし女と言われれば女に見える、そんな不思議な人物だった。

 ……強いて言うなら言動は男性寄りな気がするが、それでも断言は出来ない。ただその穏やかな表情と仕草から、少なくとも部屋にいる3人の中では最も親しみやすそうな印象を受けた。

 

 そこで視線は急に勢いよく立ち上がったカギヤに戻り。

 彼はダンと机に片足を乗せ、片腕で天上を指し、よくある感じの決めポーズで高らかに叫ぶ。

 

「オレたち3人揃って、愛と正義のハッカー集団(チーム)Hack&Luck(ハック・アン・ラック)!!」

 

 Booooom!! と虹色が部屋いっぱいに爆発し、ギリギリ『Hack&Luck』と読める崩されたデザインの文字が空中に現れ派手に音と光を撒き散らす。

 立体映像(ホログラム)のアニメーションエフェクトによる実体なき爆発演出――プロのクリエイターへの依頼料しめて5万C(クレジット)也――は、アリスを呆気にとらせたものの……余りにも性急で自己満足的であり、カギヤが期待した拍手や歓声を唯一の観客から引き出すことはできなかった。

 しん、と室内に訪れる気まずい沈黙。それをいたたまれなく思ったのかそれとも茶番が終わったからか、少し離れた場所でキーボードを叩いていたロゼが指を止め沈黙を破る。

 

「……それでバカギヤ。彼女が?」

「お、おう。『ログアウト不可能』の被害者、アリスだ。超初心者だからそのつもりで」

「一応訊くけど本当なのよね? ログアウトできない、なんてサービス開始以来一度だって聞いた事ないけれど」

「マジもマジだぜ。音声、ボタン、ハッキングによる外部操作での強制ログアウト……全部弾かれた。正真正銘アリスは今ログアウトできない状態に居る」

 

 カギヤがさらりと言ったそれは、声音に反して大問題であり……そしてそれこそが、アリスがこの正体不明の大変人・カギヤの手を振り払えなかった理由であった。

 

 ――この世界は〈CLONE(クローン)〉と言う名の電脳世界である。

 剣と魔法(ソード&マジック)ならぬ娯楽と電子戦(ゲーム&ハッキング)の、現実の中にありながら現実(リアル)とは隔絶した異世界。

 そこから『ログアウトできない』というのは『現実に帰れない』ということで。それはそしてフルダイブ型メタバースとして、他の何よりもあってはならない重大問題に他ならなかった。

 何故なら、それはこの〈CLONE〉という世界に、現実から切り離された仮想空間に囚われるということであるからだ。専用ヘッドギア『NEO』は使用者の意識を電脳世界へ送り『中』での出来事を現実のように体験させる代わり、現実の体を動かす脳の電気信号の一切を遮断する。高価な自動栄養補給の追加アタッチメントを装着したネット廃人でも無ければ、まず脱水で3日と持たない。

 つまり、アリスは一刻も早く現状を打破する必要がある。

 のだが。

 

「さっき改めてハッキングを試してみたけどさ……『開発者権限によりこの操作は実行できません』、だとよ。こんなのオレも初めて見たぜ。しかもご丁寧にアバターデータの中核とリンクして、全リソースを機能封印(コマンドロック)の維持に使わせる解除不能の設定がされてやがる」

「……え、えーっと、つまり?」

「無理に突破しようとしたらアバターデータがぶっ壊れるかもしれないってこと。その拍子にログアウトできりゃまだ良いが……最悪、(アバター)だけ失って意識は〈CLONE〉に残り続ける、なんてこともあるかもな。どっちみち『今すぐにログアウト』ってのは難しそうだ」

「……!」

 

 突き付けられるのは有識者(カギヤ)による残酷なる宣告。

 この世界は今や、アリスにとって檻と同じであった。水も食も全てまがい物の、檻。

 なんとか脱出の手立てを探ろうと、アリスは眼前のカギヤに尋ねる。

 

「その、『開発者権限』というのは……つまり、『開発者』――運営の人が私に何かしたってことですか?」

「いや。『開発者権限』は確かに〈CLONE〉開発関係者にのみ許された特権だが、それもプレサービスまでの話で、正式サービス開始時に運営に没収されてる……もれなく全員な。だから今回のは十中八九誤作動……それも『外部からの干渉によって意図的に引き起こされた誤作動』だろうぜ。SNSや掲示板で情報収集した限り、あんたと同じ状況に陥ってる奴は見つからなかったからマジのバグって可能性も無くはないが……アリス、電脳兵装(プログラム・ツール)を刺されたりした覚えはあるか?」

 

 アリスは己の記憶を洗い、そして正直に答える。

 

「い、いえ。何も覚えてません……」

「そっか心当たりナシか……まあ初期設定の内部防壁(インナーウォール)なんかコッソリ突破し放題だもんな。気付かれないよう背後から音もなく狙撃したのかもしれないし、人混みの中で通り魔的に刺されでもしたのかもしれん。可能性は考え出すとキリがない」

 

 電脳兵装(プログラム・ツール)……この世界におけるハッキングツールにして、素人から見れば『魔法』たる武器。

 ハッキリと見たのはカギヤの持つ『剣』が最初だった。それは間違いない。

 あの剣は美しかった。存在を知らぬ初見でしかあり得ない、鮮烈で強烈な感動を覚えている。だからアリスは初めて会ったカギヤのことを少しではあるが信頼できたのかもしれない。

 

 そんな剣の主は、アリスの方を指さし告げる。

 

「ま、何にせよ対処方法は簡単だ。その『誤作動』を引き起こしてる原因――恐らくアバター内に仕込まれたウイルス系のプログラムだろうが、ともかく原因(それ)を特定し除去すればいい。それであんたは晴れて自由の身さ」

 

 それが『ログアウト不可能』という檻から脱出するための鍵である、とカギヤは宣言した。

 

 アリスは己の体を見る。見通せぬ体内に思いを馳せるように。

 ウイルス――コンピューターウイルス。それに自分の(アバター)は蝕まれているのだろうか……実感は無いが、実際にログアウトできない以上そうなのだろう。

 そのウイルスさえ消えてなくなれば問題は解決する。

 明瞭な解決法があると判明したことにアリスは安堵し――。

 

「その件だけど」

「そうだった。問題その②だな」

「?」

 

 割り込んで来たロゼが持って来たのは、次なる問題。 

 

「――電脳犯罪者(クラッカー)御用達の裏サイトで、アリスに懸賞金が懸けられてるのを確認したわ」

 

 くるり、彼女がこちらに向けて来た立体映像(ホログラム)ウィンドウに映し出されていたのは、その裏サイトに載ったアリスの顔写真であった。

 

「え? 懸賞、金……?」

 

 ぐらり、新たな問題にアリスの視界が歪む。

 いや、そう言えば襲って来た電脳犯罪者(クラッカー)たちがそんなことを言っていたかもしれないが……恐怖で内容を理解できていなかったアリスにとってこれは充分に初見の衝撃を与えるものだった。あるいはその衝撃は、無意識で理解を拒んでいたものを突き付けられたが故か。

 そんな彼女の動揺の外で、カギヤとロゼは当たり前のように会話を続ける。

 

「ロゼ、金額と条件は?」

「3000万C(クレジット)、『引き渡しのみ(アライブオンリー)』ね。言うまでもないけど依頼主は匿名。データ目的のセンで間違いなさそう」

「3000万ねぇ……真偽はともかく、バカ共が乗っかるには充分な額だな。場合によっては大物連中も絡んできそうだ……良いね良いね、腕が鳴るぜ!」

「カギヤ」

 

 口数少ないEgoに窘められ、ハイテンションから一転シュンと小さくなるカギヤ。

 そんな彼に、アリスは信じたくないと思いながらも問う。

 

「えっと……け、懸賞金? 私、に?」

「あー、まあ、うん」

「そんな……そ、そんなことが許されるんですか!?」

「まあ、許される許されないで言ったら『許されない』だろうな、トーゼン。でもそれは『できない』とは別だ。〈CLONE〉は現実世界と同じさ、本当の意味で『できない』ことなんてない――残念ながら、な」

「な、なんで……」

「さあ。そこまでは懸賞金のサイトには書いてないけど、十中八九『ログアウトできない』ことと関係あるんだろうぜ。オレの勘では電子ドラッグ関係かな? 脳波異常による自動ログアウトが無効にできるかもーとか、いかにも奴らが飛びつきそうだ」

 

 最後の説明はアリスの耳には入っていない。零れた問いは理由を尋ねるものではなく、突き付けられた不条理さへの不平に過ぎなかったから。

 ――悪縁も不興も非行も、全く身に覚えなどないのに、何故。

 固まってしまったアリスの内心を知ってか知らずか。カギヤは一度息を切り、事実を突き付けるが如く続ける。

 

「――理由はともかく。アリス、あんたは懸賞金を懸けられた。これからさっきみたいな連中が際限なく狙って来るだろう。路地裏や高所、人混みの中から烏のように目を光らせ、見つけた瞬間群がってくる……『ログアウト機能が封印(ロック)』されてる、現実(リアル)に逃げられないあんたにね」

「……」

 

 最早アリスの逃げ道は沈黙の中にしか存在しなかった。

 どうしよう。否、どうしようもない。

 だって、この件では警察だって頼れない。彼等犯人はネットの存在で、本名も容姿も、現実世界のどの国に居るのかすら特定できないのだから。

 

 ぐるぐると思考を空回りさせるアリス。その様子に、カギヤは思わずといった具合に笑みを溢した。

 

「おいおい、なに深刻な顔してんだ?」

「え、だって……」

「言ったろ? 『さっきみたいな連中が狙って来る』、って」

 

 カギヤの笑みはやはり軽薄で。

 けれどそれは、決して嘲弄でも無関心でもなく。

 ただ愉快気に、あるいはそれを超えて勝気に、虹目のハッカーは笑って言う。

 

「んで、その『さっきみたいな連中』に襲われてたあんたを見事助け出したのは、一体どこの誰だったっけ?」

「――あ」

 

 憶えている。電脳犯罪者(クラッカー)の銃撃から守ってくれた少年の背中を。

 憶えている。一閃にて闇を切り裂く、目に焼き付いた金の残光を。

 

「安心しなアリス。さっき御覧に入れた通り、オレたちにかかりゃそこらの電脳犯罪者(クラッカー)は瞬殺だ。更にウチにはあんたの『ログアウト機能の封印(ロック)』を解析するだけの技術力もある。そして何より」

 

 憶えている。乱入した彼の、喜劇じみた高らかな口上を。

 

「まだ初回無料のアフターサービス中だぜ。ラッキーだったなお客さん?」

 

 アリスはやっと確信した。

 この正体不明の少年は、しかし最初の印象の通り、ヒーローに類する正義の存在であると――。

 

 ――そんなヒーローの頭が、不意に横合いから叩かれた。

 

「あでっ」

「依頼人すら置き去りにして1人で盛り上がるのは勝手だけど。私を巻き込む以上、説明責任の放棄なんて詐欺まがいの手口は許さないから」

 

 手刀の主はいつの間にか横まで来ていたロゼである。その鋭利なる翠玉の眼と舌鋒がアリスに向けられる。

 

「アリス、よね? アナタには選択権があるわ」

「選択権?」

「そう。救いを求める先を選ぶ権利。そして、その選択肢を知る権利」

 

 そう言って立てられた指はふたつ。

 

「ひとつは当然〈Hack&Luck(ウチ)〉。そしてもうひとつは、『電脳警察(ホワイトハッカー)』へ駆け込むこと」

「『電脳警察(ホワイトハッカー)』……」

「簡単に言えば〈CLONE〉(このセカイ)の警察ね。運営公認の治安維持組織――ウチみたいな小規模ドマイナー零細組織とは比べ物にならない人員と予算があるし、基本無料で対応してくれるから、普通のユーザーならまずコッチを頼るでしょうね」

 

 それは、カギヤに手を引かれて背を向けた、白衣の彼等のことを言うのだろう。

 逃げる背に電脳兵装(プログラム・ツール)を発射してきた、明らかに大人数であろう彼等の事を。成程、あれも確かにカギヤたちと同じ電脳の戦士で、正義の味方なのだろう……あれ、じゃあなぜカギヤは彼等の姿を見るや否や迷いなく逃走を選んだのだろう。

 そんな疑問の発芽はしかし、続くロゼの言葉によって中断される。

 

「つまり。アナタは別に、このバカ率いる『自警団的非合法非公式弱小ハッカー集団』を頼らないといけないワケじゃないってコト」

「いやちょっと待てよロゼ、〈Hack&Luck(オレら)〉にだって良いトコはあるぜ!? まず電脳警察(ホワイトハッカー)連中は数こそ多いけど、1人1人がそこまで優秀な訳じゃない……天才ハッカーのオレや凄腕プログラマーのロゼと比べりゃ全然大したことねーんだ実際(まあ数はあっちのが超多いけど) !更にあいつらは仕事が多いから助けを求めても後回しにされる可能性がある、でもオレたちならそんなことはない(なにせ暇だから)! そして最後に、ウチには最終兵器・最強ゲーマーEgoが居る! どうよ、ひしひしと伝わって来るだろ魅力が!」

 

 沈黙。アリスはEgoと初対面である。故に魅力もくそもない。どちらかというとEgoは物腰柔らかな印象のせいか頼りなさそうだ。

 そんな反応の悪さをどう見たか、カギヤは必死にアピールを続ける。

 

「あとひと押しだ多分! ほらEgo、なんか意気込み言え!」

「え? えーと……僕に出来ることならなんでもするよ。精一杯がんばります」

 

 急に話題を振られ、むん、と細腕で力こぶを作るポーズを取るEgo。怜悧な美貌に似合わぬ呑気さは気が抜ける類のもので、やはりそこに頼れる気配は微塵もないのであった。

 というより、頼れる頼れないで言うのなら……。

 

「あの……そもそもなんですが、『運営の人になんとかして貰う』っていうのは……?」

 

 『運営』。あらゆるオンラインサービスにおいて最も力を持つ存在。アリスにだってそれくらいの知識はある。頼れる頼れないで言えば、最も頼れる、頼るべき場所だろう。

 だが、カギヤは首を横に振った。

 

「あー、そりゃ残念ながら望み薄だ。〈CLONE〉の運営は超不干渉体質というか……そもそもの話、電脳犯罪者(クラッカー)をBANするなんて運営なら簡単なハズなんだよな。なのにわざわざ運営側で『電脳警察(ホワイトハッカー)』を雇って電脳犯罪者(クラッカー)狩りや事件対応をやらせてる。半年以上も問題視されてる賞金掲示の裏サイトもBANされない。つまり、それくらい運営は〈CLONE〉内に直接干渉したがらないんだよ。どころか運営者が誰なのかも公表されていない、誰も顔も名前も知らない、本当に居るのかどうかさえ分からない。そう、まるで現実世界(リアル)の『神様』みたいにな」

「……神、様」

「よーするに、『神頼み』なんかやるだけ無駄ってことさ」

 

 ロゼやEgoの反応から見ても、カギヤが嘘をついている様子は無い。

 どうやら『運営』に助けてもらうのは望み薄らしい……尤も明瞭な解決方法の当てが外れて肩を落とすアリスへ、ロゼは重ねて提案する。

 

「さっきは意図的に除外したけれど……選択肢をひとつ追加するわ。多少乱暴ではあるけれど、一番簡単な解決方法」

「そ、それは……?」

「簡単よ、『現実(リアル)の知り合い』に直接助けを求めればいい。要するに『NEO(ハードウェア)』を外して帰還する方法ね。コレが一番手っ取り早くて確実だけれど……」

「おいロゼ、それじゃ根本的解決になってねーだろ! 懸賞金が取り下げられるかも分かんねーし、アバター内に『ログアウト封印』って毒が残ったままじゃ絶対今後困るって!」

「ウルサイ、アンタは好き勝手暴れ回りたいだけでしょ……ともかく、そういう『現実(リアル)の知り合い』に心当たりは?」

 

 返答まで少し間が空いた。

 

「……いいえ」

「本当に? 友人でも家族でも、本当に居ないの?」

「あり、ません。すみません……」

「べ、別に謝る事じゃねーよ! 最近はネット社会で孤立しがちだし、オンで友達でもオフで会えるとは限らねえしな! オレだって似たようなモンだし……おいロゼ、とりま謝っとけって!」

「イヤよ。……仕方ない、なら警察ね。通報すればまず駆け付けてくれると思うけれど……」

「それはウイルスチェックしてからのが良いだろ。やっても最後の手段だな……もし盗聴系が仕込まれてたら、その時点で住所が筒抜けだし。そうなりゃ別の問題が発生しちまう」

「……」

 

 ハァ、と溜息ひとつ。

 

「バカに言いくるめられた感は否めないけど……ともかく、コレで選択肢は二択ね」

 

 ――〈Hack&Luck(カギヤたち)〉か、『電脳警察(ホワイトハッカー)』か。

 

 アリスが解決して欲しいのは、己のアバターにかけられた『ログアウト不可能』と『懸賞金』。

 常識で考えれば、現実の警察に相当する組織らしい『電脳警察(ホワイトハッカー)』に頼るべきであることは、この世界に無知なアリスにも何となく分かる。

 だが……。

 

 未だ鮮明に視界に張り付く、闇を切り裂く金の残光。

 少し、迷い。

 アリスはカギヤを、ロゼを、Egoを順に見て、問う。

 

「えっと、その。これを訊くのは失礼になるのかもしれませんが……カギヤさんたちなら、私の現状を何とかできますか」

 

 問いに、彼等は三者三様に――しかし力強く頷いた。

 

「もちろん!」

「ま、十中八九可能でしょうね」

「大丈夫。カギヤもロゼちゃんも凄い人だから」

 

 ……腹は決まった。

 元より一度救われた身……不安は多々あるが、確かに感じたその善性に賭けてみよう。

 

「お願いします――助けて、ください」

「応! 任せとけ!」

 

 ここに、アリスは正式に〈Hack&Luck〉の依頼人となった。

 果たしてこの決断が吉と出るか凶と出るかは……目を輝かせるカギヤ、再びキーボードを叩き始めたロゼ、にこにこと微笑みながら佇んでいるだけのEgoの3人によって決まるのだろう……やっぱ間違いだったかもしれない。

 そんな依頼人の内心の不安も知らないで、

 

「――それじゃ、作戦会議だ」

 

 見るからに上機嫌に笑みを湛えながら、カギヤは朗々と語り出す。

 

「とは言っても作戦は単純(シンプル)だ――こういうのはまず大本を叩く。雑魚の相手もそれなりには盛り上がるだろうけど、結局のところ時間の無駄……特に今回は時間が惜しいからな。懸賞金に群がるヤツじゃなく懸賞金を懸けたヤツを一足飛びでぶちのめして、ついでに直接情報収集(ハッキング)だ。運が良ければそこで『特効薬』が手に入れられるかもな」

「大本って……カギヤさん、私に懸賞金を懸けたのが誰か分かるんですか!?」

「え、知らねえけど」

「じゃ、じゃあ一体どうやって……」

「簡単だよ。だってこっちにはアリス――連中が3000万C(たいきん)懸けてまで手に入れたい垂涎の目標、あんた本人が居るんだから」

「――え?」

 

 虹色の瞳が心底愉快そうに細まって。

 何か猛烈に嫌な予感がして、アリスは早速自分の判断を後悔しそうになるのだった。

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