SEED世界に転生したら特大厄ネタクローンだった 作:ハピエン主義
大西洋連邦は、親コーディネイター派のブレックス・サンダリヨン大統領の就任以降、プラント理事国としてはかなり穏健な対応を行なっていた。食糧輸出を最後まで……プラントによる宣戦布告まで行っていたのも大西洋連邦であり、国際連合首脳の爆破テロを逃れたブレックス大統領に反プラント勢力と大西洋連邦の意のままにならないプラント評議会議長、シーゲル・クラインを排除する疑いが掛かったのも妥当だろう。
C.E.70.4月2日のブレックス大統領によるニューヨーク演説、その一節がこちらだ。
『プラント理事国がプラントを搾取してきた、認めよう、それは明確な事実だ。我々大西洋連邦も大きく加担してきた。
しかし、だ。私が就任して以降、大西洋連邦は明確にプラント理事国として義務を果たし続けてきた、ブルーコスモスのテロは日に日に減少し、いまは年に一度あるかどうか。
ユーラシア連邦や東アジア共和国が食糧輸出を停止する中、我々はプラントとの輸入出を続けてきた。*1
にもかかわらずプラントは大西洋連邦が外交的に孤立していることに目をつけて宣戦布告を行い、あまつさえニュートロンジャマーという、人道に反する兵器を大西洋連邦に投下することを企んだ。我々にもブルーコスモスを制御出来なかった責はある、彼ら獅子身中の蟲を排除出来なかったのは大西洋連邦の責任だ。
だがそれは彼らの大規模な人道を無視したニュートロンジャマー投下作戦を肯定できる材料ではない。
彼らの行った行為は大西洋連邦が行ってきた親プラント政策が明確に誤りだったことを示している。
ことここに至ってはナチュラルとコーディネイターの戦争ではない!大西洋連邦とプラントとの全面戦争なのだ!
大西洋連邦の国民よ、ナチュラル、コーディネイターの区別なく、我々は立ち向かわなければならない!プラントはもはや完全なる敵国だ!』
……そういうわけで、大西洋連邦軍内は反コーディネイターと言うより反プラント、反ザフトの傾向が強い。レビル将軍とティアンム中将の地上と宇宙の司令官はどちらもプラントに致命的な敗戦をさせてプラントの政治体制を解体しようと考えているぐらいだ。*2
ところでこんな話をなぜしたかというとだね……。
目の前にプラントの歌姫が脱出ポッドから出てきて歓迎されるわけもない、というアレではある。
「あら、あらあらあら?……ここはプラントの船ではありませんのね?」
ハロが出てきた後に、一拍おいて出てきたラクス・クラインへの視線が厳しくなるのも仕方ないことだった。
「わたくしはラクス・クラインですわ。……これは親友が作ったハロです」
ぴょんぴょんと跳ね回るハロを見ながら、ラクス・クラインの話を聞く。
どうやら宇宙海賊に襲われ、船から命からがら脱出したようだ。
「ふむ、ということはあなたは……プラント最高評議会の議長、シーゲル・クラインの娘ですか。……因果なものだな、私のような出来損ないでプラントを追い出されたコーディネイターが、まさかプラントで一番人気のアイドルとご対面するとは」
はっと気づいた顔になったラクスを見ながら、ナバーラ・オム少佐はおもむろに語り出す。
「……元々、視力自体に強い乱視があったにも関わらず。私の父母はコーディネイターだからそんなことがあるはずもないと見なかったことにした。視力に問題ある状態では視力は伸びない、視力の成長期を逃した私は強いゴーグルを掛けなければまともに仕事も出来んのだよ」
そんな人間をわざわざコーディネイトした父母が認めるはずがない、彼らにとってコーディネイターは完璧でなければならないのだ。オム少佐はボソリと呟く。
「まあ、私のことはいい。このプラントのお姫様には早めにお帰りいただかないとな……」
「オム少佐?!」
思った以上に穏便な対応でびっくりだ、水爆使用を立案、主導した人物と噂では聞いていたので、左遷されてもっと挙動が怪しくなっているものだと思っていた。
「当然だろ? 万が一ティアンム提督やレビル将軍に彼女の存在を知られたらそれこそアークエンジェルごとザフトを釣り出す餌にされかねん、私は囮作戦に命を掛けられるほどこの大西洋連邦を信じられてないぞ」
……まあねぇ、大西洋連邦は今でこそ事実上の親コーディネイター軍事政権と化しているが、いつブルコス寄りにひっくり返るとも限らない、コーディネイターである彼女が大西洋連邦を信じられない、というのはそれはそうだろう。
わりかし連邦のアキレス腱なボクは連邦の信用とかそういうのとはあんまり関係ないといえ、このままアークエンジェルをザフトを釣り出す餌にされては身の危険を感じるのでとっとと返すのが吉。連邦からすれば生きてたら困るので死んでも困らんというのは……まあはい。
なんだけど返す宛がない!クルーゼはなんか気配からして居なくなったし、ザフト艦も散発的に追跡してるみたいだけど接触できるぐらいには近くにいない、どうしょっかね。
士官室での尋問、という体の現状把握が終わり、船内の一室。と言ってもそこそこいい部屋に放り込まれたラクス嬢。なのだが、
「これを作ったアスランは私の親友ですわ、彼女からキラ様のことはよーく話を聞いておりますわよ。なんでも……初恋の人だと」
「へぇ……悪くない出来ね。そいつはさぞ優秀なエンジニアなんじゃない?」
「いえ、アスランは戦争になる前は私と一緒にアイドルをしてましたわ」
んん? まって、ボクとんでもないこと聞いてない? TSアスランじゃん! 行動が読めない度が上がった!
……あの、強化フレイVSラクスVSTSアスランのキラくんを取り合うキャットファイトを見ることになりかねないんですが、たすけて……。
「意外ね、こういうのをプレゼントで渡すような女はアイドルなんて普通は興味ないと思うのだけど」
「わたくしとアスランは父親同士の関係もあり、幼少期から親しかったので無理を言って付き合ってもらったのですわ」
「へえ、ってことはあなたたちは幼馴染、ってわけね。というかキラとアスランってどういう関係なの? わたしはヘリオポリスに来たキラしか知らないし、彼、あんまり自分のこと話さないから」
わたくしもアスランから聞いた話なのですが、彼女とキラは月の幼年学校で一緒だったらしいですわね。と語るラクス。
あ、そこはあんまり変わってない……いや、そこからキラのことが好きなら幼馴染系正ヒロインじゃん。重そう、いや重そうとかいう次元じゃないな。だいぶやばいと思う。
「……ところで、そこで聞き耳を立てているネズミ、顔を貸しなさい」
渋々顔を出す。
「あら? あなた先程士官室にいらっしゃったような……」
「アール、アール・カニンガン特務少尉です。あなたの監視のためにここに居たつもりだったのですが……ボク、余計なことまで聞いてしまいましたかね」
「……別にあんたは私たちのことなんて知らなくていいのよ、どうせ月に着いたらわたしはおさらば。ヘリオポリスに戻れるかはともかくとして、大西洋連邦軍に加わるなんてお断りよ」
……申し訳ないんだけど、ゼロヒトの管轄はレビル将軍にある、残念ながら第八艦隊やティアンム提督の一存で決めるのは難しい。
「まあ、そうだといいんですけどね。少なくともボクは……軍からは離れられませんから羨ましいですよ」
意外そうな顔をしたフレイと……あれ? ラクスはどうして悲しそうな顔をしてるの?
「あの、アール様はどうしてその歳で軍人に?」
「聞きたい? 聞かない方がいいよ……というかプラントの要人の娘に話せるようなことじゃないですし、言えるとしたらフレイぐらいですよ、でもフレイもこれを聞いたら後悔するからやめとこうね」
ボクの出自は……大西洋連邦軍の汚点であり、ブルーコスモスとロゴスのアキレス腱である、やっぱりボクは厄ネタだよ、自分がなぜここにいるかも話せないんだから。
【人物紹介】
アスラン・ザラ
・パトリック・ザラとレノア・ザラの間に生まれた一人娘、幼年学校に居る間はキラ・ヤマトと親交を結び、68年にプラントへ帰国後はラクスと一緒にアイドル活動をしていた、が血のバレンタインで軍に志願。