もしも司くんがガチの役者気質だったら   作:不名誉

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何とか今日に間に合った…。急いで書いたので適当になってしまった所も多々ありますが…良ければ読んでいってください。


Re.

 

 

 

 

「なんだか新鮮な感じがするね?司くんと2人っきりになるの」

「新鮮と言うか、初めてじゃないか?着ぐるみ集団が控えてたり、類や寧々と一緒に動いていたりで、こうやって膝を突き合わせる機会は今までに無かったからな」

「あたしたち一番最初に出会ったのに…。不思議だね」

 

 突然だが、ここでクイズ。オレとえむは今どこにいるでしょーか……あ、クイズは要らない?

 

 失礼。この状況を説明の為には少し時間を遡って経緯を辿ってみると分かりやすいだろうか。

 

 

 

 午後の部の公演も恙無く終えたワンダーランズ×ショウタイム。特に寧々の活躍は目覚ましく、これからもショーの中での成長が大いに期待できる素晴らしいものだった。

 

 ワンダーランズ×ショウタイムは心地よい達成感と、まだまだ初日を乗り越えたばかりだという緊張感の丁度中間辺りに居た。この調子なら明日からの公演も問題ないだろう。そう思って即座解散、各々英気を養うようにということだったのだが…。

 

「司くん。ちょっと良いかな?」

 

 去り際、えむからそう声を掛けられた。いつになく真剣で、それでいてどこか弱気にも思える表情で。

 

 いつもの元気印な雰囲気は鳴りを潜めて、不思議と背筋がしゃんとするような声音と(かんばせ)。何か大切なことを打ち明けようとしてくれているような印象だ。つい先日まで同じ雰囲気を纏っていたオレだからこそ(つぶさ)に分かる。

 

 こういう時はできる限りいつも通りである方が良い。妙に畏まると相手も緊張してしまって円滑なコミュニケーションが取れなくなる。

 

 …ということを劇団の先輩が言っていたことを思い出して、努めて平時の天馬司を心掛けて軽い調子で了承する。確かに話し手が話し易い雰囲気を作ることが聞き手にできる最大限のサポートなのかも知れない。

 心の中で嘗ての先輩に感謝の念を送っておく。クシャミの一つでもしていればいいと思った。

 

 夕焼けにより赤く照らされたフェニランを並んで歩く。オレとえむとの間に会話は無い。沈黙と気まずさに方程式が成り立つというワケではないが…普段やかましい奴が冬のナマズみたいに静かだと、何かしら良くないことが起きるのではないかと考えてしまう。

 

 自然と強張る身体を悟らせないように深呼吸をしながら歩く。様々な味のポップコーンの匂いが鼻を刺して小さく咳き込む。心配そうに此方を見るえむに大丈夫だと目配せして、鞄の中にある麦茶を喉に流し込んだ。

 

「ねえ、司くん。観覧車に乗らない?」

 

 徐にえむはそう言った。見上げればフェニーくんやらのマスコットキャラクターが描かれたゴンドラがゆっくりと周っているのが見える。

 

 観覧車か。いつ頃から乗らなくなったのだろうな。嫌いになったワケでは断じて無い。ただ、歳を重ねるにつれて機会が減り、足が遠のき、頻度が減って。思い出という箱の中にしまって取り出さなくなった。そんなありきたりな話だ。

 そう言えば…観覧車に乗るなんて咲希がトランポリンのアトラクションで一頻り遊んだ後、観覧車の中でゆっくりと景色を眺めるのがお決まりの流れだったな。

 

 長く開けていなかった箱の蓋を開いて取り出してみれば、懐かしさにも似た寂しさが込み上げてくる。心に隙間風が吹き抜けるような寂しさと、喉元が煮え滾る懐かしさがない混ぜになって、どんな顔をすれば良いのか分からなくなる。

 

 ああ、この感覚を何か記録に残しておきたい。この感覚を引き出せれば演技に深みが出せる。忘れないように取っておきたい…。

 

 そんな思考を挟み冷静になるまで一秒足らず。先ずはえむの話を聞くのが先決だろうと気を取り直して、ゴンドラへと歩みを進めた。

 

 

 

 以上が2人きりで観覧車に乗るまでの経緯である。今更だがオレは乗っても良かったのだろうか。着ぐるみさんの怒りを買ってしまわないだろうか?着ぐるみさん、えむのことを「お嬢様」と呼んで大事に扱っていたし…。何か失礼なことをすれば再起不能にさせられそうだ。

 

 自身の浅慮と万が一の事態に戦々恐々としていると、硝子窓から外を覗いていたえむが声を掛けてくる。

 

「見て見て、司くん。ここからワンダーステージが見えるよ」

「本当だ。俯瞰して見てみると、緑に囲まれて綺麗だな」

「でしょ?おじいちゃん、緑がいっぱいあるから、あそこにステージを作ったんだよ」

「成程、えむのお祖父さんが…。ということは、えむのお祖父さんがこの遊園地の創設に携わったわけだな」

 

 …驚かないからな。寂れていたステージからは浮いてしまうくらいに綺麗に手入れされた衣装、着ぐるみさんからの過保護とも言えるほど丁寧な扱い、お嬢様という呼ばれ方と鳳という珍しい苗字から自然と想像はつく。ステージにおいて関係のないものだったから言及はしなかったというだけで。

 

「やっぱり、えむは鳳財閥の娘だったんだな。このフェニランを経営する鳳グループ。その大元の」

「うん。黙っててごめんね?変に緊張させたり気遣われたりするのは寂しかったから」

「えむのその配慮は有難いよ。…オレ含めて皆んな薄々勘付いていたとは思うが」

「あはは。やっぱりそうだよね」

 

 とは言え“シュレディンガーの猫”的な話で…。知覚するまでは認識も成り立たない。つまり鳳家の娘という事情をしっかり認知するまではオレたちの中ではえむはただの「鳳えむ」で、これからショーを共に行う仲間でしかなかったのだ。薄々勘付いていようとな。…まあ、今ここでオレはその事実を認知したワケだが。

 

 しかし何故その事情をここで話したのか、その意図が解せない。

 えむの人柄や置かれた状況を踏まえて、オレが彼女の立場に居たと仮定しても…最低でもこのショーの終わりに、皆んなに向けて打ち明けるだろう。彼女の仲間を想う気持ちに差異が無いことを考えれば尚更。ここでオレだけにその事情を話そうとしている理由がまるで分からない。

 

「司くんはカンテラみたいに導いてくれて。類くんは自由な発想で驚かせてくれて。寧々ちゃんは深い霧の中でも立ち上がる勇気を見せてくれた。皆んなが頑張ってる中で、あたしだけが立ち止まってるワケにはいかない。じゃないと、胸を張ってワンダーランズ×ショウタイムの一員です、って言えないから。だから全部話そうって思った。そしてそれは司くんが最初じゃなきゃいけない…。謝らなきゃいけないことが幾つかあるから」

「謝らなきゃいけないこと…?」

 

 訝しげに目を細めて。彼女の目を見て聞き手に徹する態度を示して続きを促す。えむは夕暮れに濡れた空を小さな方に背負いながら、躊躇いがちに訥々と話し始めた。

 

 

「一年前、おじいちゃんとお別れしてね。その時お父さんが、ステージはもう古いし維持費も掛かるから、壊して新しいものに建て替えた方が良い、って言ったんだ。でもあたし、おじいちゃんのステージが大好きだから絶対絶対のこしたくて、壊さないでってお願いしたの。そしたら、この連休までに採算が取れるくらいお客さんを呼べたら考えてもいいって言ってくれたんだ」

「そんな事情が…。どうしてそれを最初から説明してくれなかったんだ」

「だって、皆んなショーに一生懸命だったから。楽しそうにショーをする皆んなのその景色にあたしの事情を持ち込むのは違うと思った。けど、それを黙ってたことはずっと悪いと思ってた。だから…ごめんなさい」

 

 否定しようとして、言い淀む。「どんな事情が背景にあれど関係ない」「仲間なら打ち明けて欲しかった」とそう言ってしまいたい。けど、えむのその邪魔をしたくないという気持ちも分かるからこそ、えむの取ったその選択を否定したくないと思った。

 

 口を開かず、目配せして続きを促す。息を吸って、唇を湿らせて、唾を飲み込んで。えむは一つずつゆっくりと話す。

 

「お父さんとのその約束を守る為に、おじいちゃんが言ってたみたいにワンダーステージに来てくれるお客さんをみーんな笑顔にする為に、色んなショーをしてたんだけど中々上手く行かなくて…。どうにかしなきゃって思ってたところに、司くんの面接を見かけたんだ。司くんの名前が呼ばれた瞬間、ブワワーッて風が吹いた感じがして。まるで物語の中から出てきた王子様みたいって思った。…あの時の衝撃は忘れられないなぁ」

 

 沈んでいた表情に優しい快活さが戻ってくる。小さな頃に読んだ英雄譚を読み聞かせるような、アルバムを捲って大切な思い出を撫でるような。そんな表情をしている。

 

「司くんとショーがしたいって思った。この人ならきっとワンダーステージを笑顔で一杯にしてくれるって確信があった。…でも、司くんはフェニックスステージに配属される方向で意見が固まりつつあったの」

「……ん?待て。初めて知る情報があったぞ、今…。オレがフェニックスステージに、って言ったよな」

 

 サラッと明かされた初出の情報に小さな頭痛が引き起こされる。

 まだ何か明かされていない事情があったのかよ。コイツ(鳳えむ)はどれだけのモノを抱え込んでいるんだ?呆れを通り越して関心すら覚えてしまうぞ…。

 

 さっきまであった明るい表情がまた一転、悔いるような申し訳なく思っているような暗いものになる。

 

「…私は、チャンスを奪っちゃったんだ。フェニックスステージでショーができるチャンスを、司くんから」

 

 フェニックスステージ。フェニランの中で最も大きな屋内ステージだ。面接を受ける前に一度見に行ったが、沢山のショーキャストを抱えていて、尚且つ舞台に立つ誰もが洗練された実力を持っていた。フェニックスステージでショーをやれたらきっと、それは名誉なことだろう。何しろフェニックスステージの名声は海を越える程だからな。

 

「初めは納得してたんだよ?一目見ただけで凄いってわかる人と運良くショーができるなんて、そんな都合のいい話は無いって。でも、だからこそ本当にフェニックスステージに配属して良いのかって、面接官の人たちが迷ってる様子を見て…。無理だって思っててもつい言っちゃった。

 

 

『天馬司くんを、あたしにください!』

 

 

「プロポーズかよ」

「え、えへへ〜…」

「えへへじゃなくて」

 

 そうツッコんだら非常に恥ずかしそうに彼女ははにかむ。夕焼けでは誤魔化しきれないくらいに頬が赤い。

 

 なんだよ、そんなに可愛く恥ずかしがるなよらしくない…。オレだって破茶滅茶に恥ずかしいんだから。そんな熱烈なアプローチを受けてたなんて知って。

 

「自分で言うのもおかしな話だけど、あたしが鳳の娘だからって理由も後押ししたのかな。拍子抜けするくらいにすんなりワンダーステージに配属されることが決まって…。あたしがこんなこと言わなきゃ、司くんはフェニックスステージの大きな舞台でショーをしてたかも知れない。そんな凄いことができるチャンスを奪っちゃったんだ。だから、これも…ごめんなさい」

 

 深々と旋毛が見えるくらいに頭を下げるえむ。一旦ここまでの話を整理する為に深呼吸をする。それを溜息と捉えて僅かに肩を震わせる彼女を放っておく。

 

 …えむが言いたいことは大体分かった。今の今まで打ち明けられずにいた理由も、それを申し訳なく思う気持ちも理解できる。どれだけのことを一人で抱え込んでいたのかと呆れるが…話してくれただけ有難いと考ええむの吐露についての言葉を紡ぎ始める。

 

「先ずは話してくれてありがとう。抱えていた事情や己の懺悔を告白するには勇気が要る。オレはえむの行動に感謝と敬意を表しよう。どうしようもなく追い込まれて傷付き切ってしまう前に話してくれて良かった」

「…司くん」

 

 嬉しいような悲しいような、色んな感情が複雑にない混ぜになった表情のえむ。努めて何でもないように振る舞おうとする彼女の背中には切なさが隠れている。その行動の中にはどうしようもない程に「助けて欲しい」という思いが見えてくるようだった。

 誰がその背中を押してやれただろう。どうにかしようとして頑張っているのに思うように行かず彷徨う中、嵐の中。それでも曲げずに夢を胸中に灯し続けて今を迎えている彼女の、その背中を。

 

 オレは…撫でてやろうと思った。もう大丈夫だ、と。その背中を。

 

「全部、全部引っくるめて…。えむ。オレは君を責めない」

「…どうして。司くんには色々ヒドイことして、迷惑も一杯掛けた。それなのに…」

「む、なんだ。色々と聡いえむでも分からんのか」

 

 そうか、そうか。なんて言って。簡単な問題に頭を悩ませる生徒に優しく解法を教える教師のように語る。

 

「好きだからだよ。えむのこと」

「えっ?………ふえぇっ!?」

 

 まったく、自分で言っていて嫌になる。こんなキザったらしい台詞を吐くなんて…。演じている時であれば幾らでも吐いたって構わないが、リアルだとなんと言うか…鳥肌モノだ。

 ただここで変に恥ずかしがって言葉を濁してしまうくらいなら、多少は気色悪がられようとも構わない。そんな覚悟はスデにできている。

 

 しかしえむの反応は思ったよりもウブで…。彼女の桃色の瞳は同様で揺れ、何処ぞの世界的に有名な電気ネズミが如く頬が赤くなっている。そのまま頭のてっぺんから湯気が立っているんじゃないかと思うくらいに、えむは照れていた。てか、「ふえぇ」って今日日聞かない反応だな…。

 

 と、いうことで心の中でシャッターを切っておく。物凄く珍しい反応を見れただけでも恥を捨てて好きだなんて言って良かったと満足感が胸中を満たした。

 

 このまま照れているえむを眺めるのも一興かとも思うが頭を振って思考の軌道を修正する。

 

「何も難しいことは無い。好きな人のことを責めたくないっていう当然の心理だ。オーケー?」

「ちょ、っと待って。まだ頭と心が追いつかないから…」

「待つもんか。お前はどれだけ自分が必要とされているか自覚する必要があるからな。何度でも言ってやる。オレはえむのことが好きだ。好きだから役に立ちたいと思っているし、一緒にショーをしたいと思っている。オレはきっと、お前の輝くような笑顔を見る為にフェニランの門を叩いたんだ。オレはそれを運命と呼んでいる」

「……ぅ、ぅう…!」

 

 夕陽にも引けを取らないほど赤くなった顔を見られたくないのか、桃色の髪をかき集めて顔を隠そうとする。そんな反応が面白くてもう少し揶揄ってやろうかとも思うが…これ以上うら若き乙女の純情を弄ぶのは良くない。浮気な男に見られるのは非常に不本意なのでな。

 

「確かにえむは、オレがフェニックスステージで華々しい活躍をし世界中に名を轟かせるという可能性を絶った。確かにそれは変えようのない事実だが…そんな未来にも負けず劣らずのものを貰っている。そしてこれからも積み重ねていく。ワンダーステージで、えむや類や寧々と共にな」

「…司くん」

 

 これは紛れもない本心だ。いつもの役者としての暗示じゃない。ありのままの天馬司の心の底から出た本音。

 

「オレたちには分かりあう為の言葉と心がある。だから…えむの気持ちを教えて欲しい。オレは君に何をしてやれるのかを教えて欲しいんだ」

 

 しっかりと膝を突き合わせて、目を見て問い掛ける。

 

 えむの口から聞かなければならない。膝を曲げないと跳べやしないのと同じで…しっかり口にしてくれない限り、ワンダーランズ×ショウタイムは“本当の始まり”を迎えられない。だから辛くとも、逃げ出したくとも、彼女が心からの願いを言葉に乗せて欲しい。その経験はいつかの糧になる。

 

 えむは静かに俯いている。膝に乗せた掌が僅かに震えている。前髪から覗くその瞳は潤んでいる。普段は底抜けに明るい少女が見せた迷子のような表情に応えてやりたいと思った。

 

 

「──助けて、司くん」

 

 

 その言葉に、オレは──。

 

 

 

 

 

「ああ。任せてくれ」

 

 

 

 

 

 ゴンドラが大きな一周を終え地上に戻ってくる。いつもは当たり前のように踏み締める地も一度離れると有り難さが分かる。

 えむの表情は目元が赤くなっているものの、正に「憑き物が取れた」と評すべき清々しいものだった。

 

 …一番中途半端なのはオレかもな。そんな焦りや劣等感にも似た何かを抱えながら。小さな歩幅でワンダーステージに帰って行く。

 

 

「貴様ァッ!えむお嬢様を泣かせたのかァッ!?」

「ま、待ってくれ着ぐるみさん!これには深いワケガーっ!?」

 

 

 戻った後、目元を腫らしたえむに気付き鬼神を宿した着ぐるみさんに追い回されることとなったのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワンダーステージが取り壊されてしまうという事情を類と寧々にも話したえむ。最初は呆れられてしまわないかと怯えていたが…。

 

「連休最終日までお客さんを沢山呼べば万事解決だろう?今の僕たちならできるさ」

「うん。毎日何回もショーをすればきっと大丈夫」

 

 そう言って暖かく受け入れてくれていた。優しく頼りになる仲間に恵まれたことにえむは感極まった様子だった。

 

「目立った失敗こそしない限りは問題ない。SNSでもそこそこ拡散されているみたいだし、集客率はかなり期待できるぞ。オレたちは今追い風の中に居る!」

 

 そう気持ちを鼓舞して、他のステージに行くお客さんも奪ってやる勢いで連休中のショーに臨む。

 

 

 

 時は飛んで連休最終日の夕方。父親に呼び出されたというえむを除いたワンダーランズ×ショウタイムの面々は壇上でへばっていた。

 

「もう一歩も動けん…。全てを出し切ったぞ…!」

「流石にキツすぎるでしょ…。一日に何公演やった?」

「5公演だね。端役だった僕ですら足が棒のようだよ」

 

 筋肉痛で悲鳴を上げている脹脛や太腿を優しく揉みながら、苦笑いで会話を交わす。さしものオレも一日5公演というハードスケジュールに限界が近い。いや、最早突破していたかもしれん。

 

「でも、日に日にお客さんが増えていくのを見るのは楽しかったね」

「やはりアレか。偉大な輝きに魅せられてフラフラと寄ってきてしまうんだろうな」

「アンケートだと『宣伝が面白かったから』って項目が一番多かったと思うけど?」

「暗数ってヤツだ、暗数」

 

 そんな言葉を交わしながらも…皆の胸中にあるのはこのステージの行く末への不安だ。取り壊されずに済むか、それとも当初の予定通りお別れになってしまうのか。

 

 その不安は余りにも重たいもののため、どうにか紛らわせようと喋っている。よく見れば二人とも何処となく表情に翳りがある。それはきっとオレも同じだろう。

 

「皆んなぁ〜!!」

 

 遠くから呼ぶ声が聞こえる。そこそこ出番が多かった筈なのに何故かピンピンしているえむが全力疾走でワンダーステージに向かって来ていた。

 

 足の疲れなんて忘れて皆んながえむの方に駆け寄って行く。ショーの本番前よりも空気が張り詰めているような…そんな気がした。

 

「えむ、どうだった。このステージはどうなる?」

「………ゎ…」

「わ?」

 

 

 

「わんだほい……っ!」

 

 

 

「っ!ということは…取り壊しは免れたんだな!」

「っはぁ〜…良かった。ワンダーステージが無くならなくて…」

「フフ。頑張った甲斐があったというものさ」

「みんな…本当にありがとう…!」

 

 涙混じりに感謝を告げるえむを見て、ピリピリとしていた空気が緩んだ感覚が頬を撫でた。人生の中で報われない努力なんて幾つもあるけど、今回ばかりは本当に結果が実って良かった。涙を呑む結果になんてならなくて良かった…!

 

「はぁ…安心したらいっそう力が抜けて…どわぁっ!?」

 

 どたん、と力が抜けて尻餅をつく。強張っていた身体から力が抜けて立っていられなくなってしまった。そんな情けない姿を見られて笑いが生まれる。

 ワンダーステージに来る前のオレならプライドに傷が付いていただろうが、穏やかに笑っている3人を見ているとこれも良いかと思えた。

 

「…ところで司くん。話は変わるけど…君はこのステージでこれからもショーを続けていくつもりなんだろう?」

「ん、まあそうだな。ワンダーステージはまだ取り壊しを免れただけだ。また業績が低迷して取り壊しの危機に舞い戻るなんてことになれば目も当てられん。だから…その、だな。類に寧々、お前たちさえ良ければこれからも一緒にショーをしないか?」

 

 今回のことを踏まえて、オレは皆んなの力があって初めて壇上に立つことができているのだと再確認できた。

 だから信頼できて且つ実力のある二人がこれからも共にショーをしてくれるのなら、こんなに嬉しいことはないと思っての提案だったのだが…。

 

 二人は目を丸くしたかと思うと顔を見合わせて小さく笑い出す。そんな状況がイマイチ飲み込めなくて、爪弾きにされているようで…。できる限り不機嫌さを隠すようにして問う。何を笑うことがあるのだ、と。

 

「いや、すまないね。丁度僕たちからもそう提案しようと話していた所だったんだけど、先に言われちゃったから。なんだか可笑しくて」

「司ってケッコー私たちのこと大好き?可愛いところあるんじゃん」

「ぐぬ…。ああ、そうだよ。これ以上の仲間は居ないって思えるくらいにはお前たちのことは好いているさ。それで、どうなんだ。オレの提案は受けてくれるということで良いんだな?」

「「勿論」」

 

 微笑ましいものを見るような目線を手で払いながら、側で見ていたえむに目を向ける。

 

「と、いうワケだ。えむ、今後もこの四人で笑顔が溢れるショーを作っていこう」

「…うん…うん!あたしも、皆んなでもっともっと、沢山笑顔が溢れるショーをやろう!」

「うわっ、だから突撃してくるなと言っているだろう!?」

「ちょっとえむ、私まで巻き込まないでよ…!」

「フフ。仲睦まじいようで何よりだよ。これは…良いショーができそうだ」

 

 

 

 色々とあったが…ワンダーステージの取り壊しは無事に回避。そしてワンダーランズ×ショウタイムも続投という運びになった。最早呆れてしまうほどの大団円である。

 

 輝くだけでは無いのだろう。これからもきっと様々な問題に直面し、その度にぶつかり合って。轍のない雪道を走るようなことにもなるだろう。

 

 けど、それでも何とかなると思える。これは決して楽観的なのではなく、心の底からそんな確信があるのだ。

 

「ワンダーランズ×ショウタイム、改めてここに結成だ!」

「おぉ〜!ぶぉぉ〜ん、ぶぉぉ〜ん!」

「…ふふっ、何その音」

「多分、決戦前の法螺貝を模してるんだろうね」

 

 

 オレたちの間に一陣の風が吹く。仄かな夏の匂いが鼻腔を擽った。

 

 

 

 

 

 

 





時系列的にメインストーリーの後はハロウィンイベントになるので、原作開始時点は8月中旬〜下旬だと推測されますが、本作ではGW辺りにまで前にズラしています。ですので、今日中に書き上げる必要があったんですね。

なのでオリジナルの夏イベントを書いて、夏休みの閑話を挟んでからワンダーハロウィン、体育祭・修学旅行イベント、聖なる夜に、スマイルオブ……みたいな順に進んでいくと思います。多分。
どうせ色々書きたいものが湧いて出てきたり執筆が間に合わなかったりするんで信じなくて良いっすよ。大まかにこんな流れってだけっす。

あ、それともう一つ。感想評価お願いします。あったら嬉しくってつい書いちゃうかも知れないので。
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