もしも司くんがガチの役者気質だったら   作:不名誉

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ニーゴの方書くつもりがこっちが先に仕上がっちゃった…。
それでは少し早めの夏ストーリー始まります。


清爽の夏に舞う(オリジナルストーリー)
誰が為の夏


 

 

 

 

 

「──ぐぅっ!?この光は、一体…!?」

 

「思い出したのね、黒騎士。平和を愛し、皆んなのために剣を握っていたあの頃を」

「じゃあ、このキラキラした光は…心?とってもキレイ!」

「そうか…。オレは大切なものを忘れていたようだな」

 

「約束しよう。これからは昔のように、平和のために剣を振るうことを!」

 

「──こうして、黒騎士は嘗ての正義の心を取り戻し、世界の平和は末長く保たれるのでした──」

 

 

 

 

 

「とーっても素敵なショーだったよー!ミクも一緒にやりたくなっちゃった!」

「うん。特に最後の光の演出は良かったよ。光を透過させて内なる心を演出させるなんて、度肝を抜かれたよ」

「みーんな楽しそうで、見ているこっちが幸せになるショーだったわ♪」

「フフ、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」

 

 ワンダーランドのセカイにて。オレたちワンダーランズ×ショウタイムは次に行うショーのリハーサルがてら、感想を仰ぎにセカイのステージに訪れた。

 

 反応は概ね良好。KAITOが言及した類が思い付いた光の応用の演出は、このショーでも特に推していきたい部分で。表情の変化は少ないものの純粋に喜んでいる感情が類から感じ取られた。

 

 皆んなが思い思いに好意的な意見を挙げる中で、最近このセカイに現れた新参──レンが口を開く。

 

「けど、司くんが天井まで飛んで行ったところは驚いたなぁ」

「あたしもそこ大好き!ロケットみたいでカッコよかったよ、司くん♪」

「飛び過ぎて天井突き抜けちゃうかと思ったけどね」

「あのワイヤーのシーンか。正直あそこは生きた心地がしなかった…」

「強烈な上昇負荷と浮遊感を軽減できれば、色んなところに流用できそうだけど…。何か良い案はないかな、類くん?」

「そうだね。となると体全体を固定するような物が…」

 

 類とレンが二人だけの空間を作って話し込む。KAITOと顔を合わせて苦笑いを交わし、満足のいくまで放置することにした。

 

「まあ兎に角、この分なら明日のショーは成功間違いなしだな」

「…油断慢心傲慢の自称スター。足元掬われないようにね」

「油断慢心傲慢!?あと自称じゃないっ!」

「えへへ〜。明日もお客さんが一杯笑ってくれると良いな!」

「僕たちもセカイから見守ってるよ。頑張ってね、皆んな」

 

 KAITOから激励の言葉を貰い、類とレンの話が限りを迎えたところで類の首根っこを掴みセカイから現実へと戻って行く。

 

 最後に舞台のセットや小道具に不備はないかを確認してこの場は解散。また明日に向けて英気を養うようにと、団長として音頭を取りワンダーステージを後にした。

 

 

 

 

「…あそこは、客席から登場するだけでは、彼を卓越した実力を持つ騎士として印象付けるには物足りないな。…ああ、そうだ!レンくんと話した時に出たスモッグを使った演出を取り入れれば良いかも知れないね!なら先ずは検証を…」

 

「…類、最近楽しそうだね」

「うん?そう見えるかい?」

 

 夕陽を背にして、類と寧々は並んで帰路に着く。二人の家は隣同士にあるため並んで帰ることは珍しくない。

 

 類は家路の途中でもブツブツと演出について考えをアウトプットしながら歩いているので、すれ違う人に奇異の視線を向けられることも少なくない。相対的に一緒にいる寧々にもその類の視線が向くため、もう少し自重して欲しいと思っている。けど、それも悪くないという妙な気持ちもあった。

 

 目をかっ開いて狂気と歓喜を思わせる表情を覗かせていた類。それに対し、寧々は極めて穏やかな表情でその様子を楽しそうだと評した。類はそれに心外だと言いたげな声音で返すが…。

 

「うん。すっごく楽しそう。昔は…退屈そうな顔してたけど。最近はよく、“アレ”な顔になってるし。今もなってた」

「“アレ”とは酷い言い草だな…。でも、そうだね。寧々の言う通り充実した気分だよ」

 

 寧々の率直な物言いに小さく抗議の色を含ませながら。しかし確かにこれまでとは比べ物にならないほどショーを楽しんでいる類は、清々しい表情で肯定した。

 

 ふと、類はどこか遠くの方を見つめる。そこにあるのは澱のような過去か、それとも期待に満ちた未来か。

 

「やりたいことをやりたいようにできる自由。こんなにも素晴らしいことは無いよ。…ただ」

「…ただ?」

 

 一転して難しい顔で呟かれた逆説の言葉に寧々は首を傾げる。少しの間口元に指を添わせて考え込んでいたが…直ぐに張り詰めた雰囲気は霧散する。

 

「引き出しは多い方が良い。僕も真面目に演技を勉強した方がより良い演出を付けられるかも知れないからね。そろそろ寧々にも激しめの演出を付けて愉快になって貰うのも良いかも」

「……許すまじ、バカ司」

 

 突然降りかかってきた火の粉。冗談じゃないと一蹴してしまいたいが、楽しそうにしている類に向かう筈の否定の言葉は喉の奥でつっかえる。行き場を失くした否定は、しかしどうにも放ってしまわないとスッキリできないほどに燻っている。

 

 取り敢えず類というショーの獣に自由を与えた天馬司を罵ってみる。風に乗って彼の元まで届いた怒りは彼の鼻を擽り、体ごと吹き飛んでしまうのでは無いかと思うくらいに大きなクシャミをした。

 

 

(…杞憂で無ければ良いんだけどね)

 

 

 初夏の風は湿り気の匂いがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『夏のショーイベント』?」

「うん!」

 

 オレが黒騎士を演じたショーを終え、また次のショーの内容を考えようとなっていた所にえむが持って来たのは、新しいショーイベントの話だった。

 

 『夏のショーイベントに関する告知』という簡素な題目で書かれた書面を受け取り目を通す。左斜め下から、右斜め上から覗く視線にも見えるように斜面を傾けながら、ふんす!といったオノマトペでも付いていそうな彼女の話に耳を傾ける。

 

「今年からはフェニックスワンダーランドも夏のイベントに力を入れるようになってね!期間限定でアトラクションの水の量が増えたり、パレードも夏の仕様になったりするんだ〜♪」

「成程。その一環でショーイベントも夏仕様に、ということだね」

「それにしても早くない?準備期間は長く取ってあるけど、まだ5月の終わりだし」

「テーマパークの季節イベントというのは、往々にして早く開催されるものだからな。というかこれでも遅い方なんじゃないか?何処とは言わんが、某テーマパークではもう夏のイベントの告知を大々的に行っているというのに」

 

 なんと言えば良いのだろう、直進するはずだった前方の車が突然右ウィンカーを出しているような感覚。事態が駆け足且つ千鳥足に進んでいる気がする…。

 

 スマートフォンを操作して某テーマパークの夏イベントの告知を見せる。4月の末から既に大まかな内容や開催場所、日時まで記されている。これに比べればフェニランはかなり出遅れていると言っても過言ではないだろう。

 

 えむであればそこら辺の事情を知っているかと思い目を向ける。話の流れからオレが何を尋ねたいのか察したようだが、小さく首を横に振った。

 

 まあ良い。どんな事情が潜んでいようが、お上のお達しに背くようなことはしない。オレとしてはここで働かせて貰っている身だからな。

 

「『各ステージは夏を感じられる内容及び演出計画のもとショーを行う。各ステージならではの特色を活かし、お客様に貴重な体験をお届けできるようにすること』…だそうだ」

「まあ…書いてある内容は普通、って感じ」

 

 同感である。サッと全体に目を通してみたところ、寧々が呟いた様に態々告知書を刷るほどの内容は書かれていないと感じた。

 だがまあ、組織としての体裁を保つ為に正式な書面にて告知をしておくという側面もあるのだろう。後は…釘を刺す役割を果たしているとか。

 

 

 取り敢えずはこの書面の通りに夏らしいショーを考えることにしよう。季節のショーというのも風情があって良い。

 

「と、いうことでこれからショーについての具体的な内容を詰めていくワケだが!ここでオレから一つ提案がある」

「ふむ。何かな?」

「告知書にも書いてあったように、オレたちは夏の特別感とワンダーステージの特色を併せ持つショーを作り上げ、このワンダーステージでしか味わえない体験をしてもらう。それが今回のイベントのゴールだ」

「うんうん!それでお客さんが笑顔になってくれたら、一石わんだほいだもんね!」

 

 一石わんだほいなる造語は一旦置いておいて。

 

 ゴールを定まっているのならば、次はそこまでの道程を具体的に肉付けする作業。所謂「How」を考えていくというワケだ。

 

 いつもならここでブレインストーミング擬きでもする所だが、今回ばかりはオレの自信がある論説に耳を傾け、そして賛同してもらおう。

 

「夏のショーイベントと言えば…寧々。セールスポイントはどういった点だ?」

「え、えっ、えっと…やっぱり限定感、とか」

「そう!清涼感だ!炎天下の中アトラクションの待機列に並び汗ばむお客さんたちに、夏の暑さも湿り気も疲れも吹き飛ぶような清涼感。それはまるで口の中を駆け巡るヒンヤリとしたサイダーのような…」

「ほわわ〜」

「ねえなんで今私に振ったの?」

 

 面白いからに決まっているが、なんて言葉を呑み干して話を進める。今にも殴りかかって来そうな寧々とそれを宥める類から努めて視線を逸らしながら。

 

「ワンダーステージは緑に囲まれているよな。それは全体的に明るい色調とファンシーな造りの園内との境目になっている」

「成程。園内の雰囲気とは打って変わって自然に囲まれた空間とそこに佇むワンダーステージは神秘性を感じさせる。そこで熱気と相反する清涼感を売りにしようということだね」

「…全部言われてしまったが、まあそういうことだ」

 

 この前えむと観覧車に乗っていた時から思っていたことだ。人の歴史と叡智の結晶とも言っていいフェニックスワンダーランドの概観の中でも、緑に囲まれているワンダーステージは良く言えば個性的で、悪く言えば少し浮いていた。

 

 しかし逆に考えるんだ。それまでのフェニランの雰囲気から隔絶し独立した空間だと逆に考えるんだ。…ワンダーステージに限らず他のステージでもその独立性は大なり小なり担保されているが、この俗世とは離れた神秘的なものを感じさせるのはここだけだろうと思っている。

 

「…神秘性と清涼感は分かったけど、具体的にはどうするの?まさか吹けば飛ぶような中身空っぽな考えを自信満々に発表したならガッカリだけど」

「適当に揶揄ったのは謝るからそう刺々しい言い方はしないでくれ…。自然的な神秘性と清涼感、そしてオレたちの目的たる観客が皆等しく笑顔になる楽しさを提供できるショー。オレは観客も巻き込む形式のスプラッシュショーを提案させてもらう!」

 

 この世界にはびしょ濡れイベントなるものがあるらしい。内容はその名の通り、夏の煩わしい暑さを水を掛け合い被り合い流してしまおうというものだ。テーマパークという非日常の空間でこそ成り立つ。

 オレたちワンダーランズ×ショウタイムも、ショーという形でそれに倣おうという魂胆だ。

 

 自然的な神秘性を感じられる場所で燦々と降る水に身を浸す…。その画を想像してみるだけでも素晴らしい。

 

 そんな意図を知ってから知らずか。類はいつもの悪どい笑みでオレの言葉を咀嚼している。あれはもうどんな演出を付けようかを吟味している顔だ。

 

 顎に指を当てて思案している彼を横目に認めながら、寧々は率直な疑問を投げ掛ける。

 

「観客を巻き込むって言っても具体的にはどうするの?」

「良い質問だ。それについてだが、先ず今回はこれまでの演劇の色が強いものから離れ、テーマパークのショーステージらしく歌とダンスがメインのショーにしようと思っている」

「ステージに居るキャストさんも、席に居るお客さんも、皆んなで歌って踊ってわんだほいなヤツだね!」

 

 これまでストーリー主体のショーを行ってきたワンダーランズ×ショウタイムにとっては初の試みとなるダンス&ミュージカルショー。これはえむの観客を笑顔にしたいという願いを叶えることと、ワンダーステージの守備範囲の広さを知らしめることを両立している。

 我ながら類稀な深謀遠慮。目の前のことだけでなく遠くない未来への布石をも熟すとは、やはり天馬司は伊達ではないということか。ハーッハッハッハ!

 

「オレたちの歌とダンスを堪能してもらい、簡単なコールアンドレスポンスを煽って段々と観客を巻き込んだショーへと変わっていく。そして盛り上がったところにスプラッシュ!ボルテージは最高潮のまま水を掛け合って忘れられない時間を皆んなで創り上げる!それがオレの見据える今回のショープランだ!」

「おおぉーっ!凄いよ司くん!サイコーに楽しそう!」

「うん。今までに無かった演出を付けられそうだ」

「まあ…即興で考えた割には悪くないんじゃない?

「ハッハッハ!それ程でもある!」

 

 もっと自画自賛に浸りたい気持ちを抑えて考える。イベントの開催日と現在の進捗を逆算してどれだけの練習時間を確保できるかを割り出し、万全の状態で挑む為に何ができるかを脳内のメモに書き記していく。

 

 オレのIQ53万の脳内コンピュータが弾き出した結果は、完全なる成功。それに薄く笑みを浮かべた後に口に出す。今回のショーに必要になるだろうものを取り敢えず。

 

「謳い文句はシンプルに『ダンス&スプラッシュ!』で良いだろう。ショーの内容的に簡単なコールアンドレスポンスができる楽曲の用意は前提。後は涼しさと体験を提供する為の水鉄砲と…あとバズーカなんかも用意できたら良いかもな」

「司くん。ステージのセットに噴水装置を何台か設置してみるという案はどうだい?悪くないと思うんだけど」

「噴水か。初めは弱い水流でオアシスを演出し、ショーが盛り上がるにつれて勢いを増していく…。想像するだけでもワクワクするな」

「悪くない演出計画だけど…そうだ!クロスさせてステージの上に虹を作るというのはどうだろう!いやあ、夢が膨らむねぇ」

「それならそれならっ!客席の後ろにも噴水付けちゃおうよ!一番盛り上がるところでバーンっ!シャババァーッ!って感じで!」

「えむ。それ採用」

 

「…これ、どう収集つけるワケ?」

 

 

 

 それ良いね、これ良いね、今日ビジュ良いねなんて言い合いながら誰もがブレーキ役を放棄し、膨らませるだけ膨らませてから現実的なところまで持っていくというのがワンダーランズ×ショウタイム伝統の流れであった。

 

 

 

 





次回は丁度2日後に投稿します。
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