最近、お客さんが多いな。
そう思いながら、スレッタはマルタンと共にダイニングテーブルについた。
「まずは報告から。レンブランさんからの依頼で調査していた、ニカ・ナナウラさんの行方について」
対面に座ったフェンは、地球寮の面々にタブレットを差し出す。
「結論から言うと、彼女はフロント管理会社には確保されていません。ランブルリング以降行方不明となっています。最後に確認されたのは、フロント管理会社への通報記録。途中で切断されており、以後監視カメラの映像でも確認できません。この時点で何者かに連れ去られた、というのが我々の推測です」
タブレットからニカの声が流れる。音声は唐突に途切れていた。端末も見つかっていないらしい。
「ニカ姉、裏切ったわけじゃなかったんだ……」
チュチュが顔を伏せた。マルタンが身を乗り出す。
「ニカの居場所は、分からないんですか」
「調査を続けていますが、今のところ有力な手がかりはありません。学園から出たかどうかを含めて、お答えできることは何も。ですが、提案はあります」
広がる落胆を意に介さず、フェンは話を続ける。
「彼女を確保した後のことについて、協力をお願いしたいの」
フェンはタブレットを操作した。代表してマルタンが読み上げる。
「証人保護と、司法取引の条文?」
「いささか遅かったにしても、彼女には自首しようとした経緯と証拠がある。司法取引での減刑は十分可能よ。もちろん本人が望めば、だけど」
地球寮の面々は顔を見合わせた。
「ニカ姉もあーしらもアーシアンだろ? この法律適用してくれるのかよ?」
「だが、私たちの嘆願だけでは取り合ってもらえないだろうな。専門家の協力がないと無理だろう」
リリッケが硬い表情で割り込んだ。
「失礼ですが、フェンさんは輸送業者さん、ですよね? 調査能力があるのはわかりました。ですが、司法取引を仲介できるような立場の方なんですか?」
フェンは懐から手帳を取り出した。
「改めて名乗ります。宇宙議会連合L4高等弁務官事務所所属捜査官、フェン・ジュンよ。ごめんなさいね、職務上身元を隠しているの」
「宇宙議会連合? 月の?」
スレッタは顔をこわばらせた。
「フロント間の調停とかやってるところだよな?」
「越境捜査も職務にあったと思う」
手帳――捜査官の身分証とタブレットを並べ、フェンは居住まいを正した。
「プラントクエタからの一連のテロは、月および他フロントでも注目を集めております。ベネリットグループ内の処断では収まらず、宇宙議会連合の法廷へ持ち込まれることになるでしょう。こちらにご協力いただければ、裁判において、彼女の出身に関わらず証人保護と司法取引の適用を後押しすることを約束します」
「……協力って、なにをすればいいんですか?」
スレッタはおそるおそる尋ねた。
「スレッタさんに、うちで仕事をお願いしたいの。ヘッドハンティング……と言いたいところだけど」
フェンはタブレットの画面を切り替える。
「インターンシップ、ですか?」
「そう。二週間ほど、うちの輸送船でパイロットをして欲しいの。行き先はプラント・クエタ。機体はこちらのデミギャリソンを提供。学園の制度上、実習扱いで単位もつけられるわ」
画面に表示された契約内容を確認し、スレッタはフェンの顔を見返した。
「どうして、わたしなんですか?」
「優秀なパイロットにコネを作りたいから、じゃだめかしら。それに、次期総裁とはいい関係を築きたいですもの」
本当のことは言っていない、と思った。皆の顔にも、同じ疑惑が浮かんでいる。
だけど、今できることはこれだけだ。
「分かりました、やります」
スレッタはまっすぐに答えた。
「その代わり、わたしも、あなたにお願いしたいことがあります」
「内容次第ね。どんなこと?」
細かな条件が提示され、スレッタは一つ一つ確認していく。そこに、マルタンが声を上げた。
「それ、僕も一緒に行くことはできますか?」
フェンは面白そうに眉を上げた。
「3人までは受け入れできるわ。でもどうして?」
「ニカの保護はお願いしたいです。でも、僕は仲間を一人で行かせることはしたくありません」
マルタンの決意に、横からヌーノが水を差す。
「パイロットとしての採用だろ? ならメカニックが一緒のほうがいいんじゃね?」
「なら、私だな」
アリヤが一歩進み出た。
「ティル、一緒に来てくれ。マルタンはみんなと会社のこと、それにティコ達の世話を頼む」
ティルは無言で頷く。
「分かった。二人はスレッタをお願い。会社の対応は僕とリリッケでやる」
「俺らは「宿題」進めてるわ。解析中のがあったら置いてってくれ」
「留守中のことは任せとけ。その代わり、ニカ姉の方頼む」
あっという間にまとまった相談を、フェンは目を細めて見ていた。
「これで契約成立ね。じゃあ、三人ともサインをお願い」
出発予定を告げて去って行くフェンを、全員で見送る。
そこに、お邪魔しまーす、と、間延びした声が聞こえた。すぐに本人が顔を出す。
「あれ、お取り込み中でした?」
「セセリア、さん?」
銀髪に褐色肌の女子生徒を見て、なぜかマルタンが悲鳴を上げた。
「なんか忙しそうですねぇ」
寮の中を見回し、セセリア・ドートは首をかしげる。
「私の用事は、そこのぽんぽん頭になんだけど」
指名されたチュチュが、怪訝な顔をした。
◇
学園の港はごった返していた。
検問はすでに解除されていたが、フロントの修復に訪れた業者の姿が多い。帰宅を決めた生徒のほかに、見慣れないスーツ姿の大人も大勢いる。
インターンの仕事は、出港準備から始まっている。受付のハロから識別タグを受け取り、搬入ゲートへ向かおうとしたスレッタに、背後から声がかけられた。
「スレッタ・マーキュリー!?」
「グエル……さん?」
制服姿のグエル・ジェタークが、息を切らして立っていた。
なぜか、とても焦った顔で。