フォールクヴァングが燃えている。対人用ドローンの自爆スイッチを押し、ゴドイ・ハイマノは自身のデスルターを発進させた。
スレッタの事は気がかりだったが、こちらも時間が無い。配下に撤収を命じ、デスルターを母艦へと向かわせる。
一際大きな爆発が起きた。レーダーに新たな反応。パーメット識別コード不明。ガンダム。
ゴドイは振り返った。
フォールクヴァングから、白い光が飛び出した。彗星のごとく撃ち出されたそれは、目覚めたばかりのように軽く機体を振り、特徴的なライフルを構える。
「キャリバーン……? まさか、お嬢様か?」
箒を模した砲身が閃光を放ち、周辺のドローンを一掃する。再び施設が震動し、後からペイルの大型艦が出現した。キャリバーンが啓開した宙域へ、まっしぐらに加速する。
『新たなガンダムを確認。追撃しますか?』
母艦からの通信に、ゴドイは急き込んで答えた。
「見逃せ。撤退を優先、絶対に正面から戦うな」
かつて一度だけ、彼女のシミュレーター訓練に付き合ったことがある。10歳であれほどの動きを見せたパイロットが、今はどこまで成長しているのか。
「ガンダムに乗ったあの方は、誰にも止められん」
◇
誰よりも速く。誰にも追いつけないくらい、速く。
ドローンだらけの宇宙へ、スレッタはまっすぐに飛び立った。軽く機体をひねり、手足の長さや間接の可動域を確認する。エアリアルより、ほんのちょっとだけ背が高い。
「スコア2、動作安定、出力異常なし――まずはみんなと脱出するよ、キャリバーン」
コクピットにアラートが鳴る。生き残ったドローンたちが、キャリバーンめがけて殺到する。レーダーに映る群れを確認、くるりと機体を翻し、ライフルとスラスターを融合させた箒のような武装―バイアブルロッドライフルを構える。先頭の機体を狙い、トリガーを引く。白い光が走り、大口径のビームがスウォームを一掃する。
斜角はあと5度上、反動は腰部スラスターでいなした方がいい。動きを少しずつ修正しながら、スレッタは再びキャリバーンを旋回させた。
『障害物排除を確認、出せ!』
眼下のエアロックが吹き飛ぶ。フォールクヴァングから大型艦が飛び出し、全力で加速する。スレッタは箒のスラスターを吹かせて追従、追ってくるドローンたちを頭部バルカンで掃討する。その間も調整を怠らない。モーションパターンにクアドラスラスターの癖。新しい靴を下ろしたときのように、キャリバーンの機動を身体に馴染ませていく。
艦は進む。艦載砲が火を噴き、アンチドートのポッドを破壊する。背後から新手が接近、スレッタは機体を反転させる。
三機編成のMSが追ってくる。学園でも見た無人機、ケレスによればガンヴォルヴァというらしい。スレッタはビームサーベルを抜く。連携し襲い来るそれらを迎撃、まず一機を切り捨てる。残り2機が撃ちかけるライフルを、スラスターの調整のみで回避。艦の心配は要らない。新たに射出されたザウォート・ヘヴィが2機、艦をかばいながら無人機を撃退する。
キャリバーンの役目は
「やっぱり、ソフィさんたちのと同じガンダム……オックスアースのパイロットだったんだ」
赤茶色のMSが斬りかかってくる。右手のビームブレードが伸び、キャリバーンの進路を妨害する。旋回した先には複数のガンヴォルヴァ。ビームライフルの一斉射撃を、ジグザグに飛翔し回避。後方からビームガトリングを乱射する、藍色のMSへ接近する。
「行かせてください!」
ガトリングをいなしながら、スレッタはオープンチャンネルへ呼びかけた。
予想通り、子どもの声が答えた。
『キャリバーン? なんで動いてるの?』
女の子だ。苦しげな息が耳につく。おびえた様子の彼女に、男の子の声が呼びかける。
『この声、配信で聞いた。ムジカ、こいつベネリットの、水星の魔女だ!』
シェルユニットを発光させ、赤茶のMSが突撃する。ビームブレードを袈裟懸けに抜き、手首を回転させ突きに繋げる。キャリバーンは半身をひねって回避。ガンヴォルヴァの編隊が包囲を詰め、間合いの外から十字砲火を仕掛ける。
「聞いてくれない、ですよね」
ロッドファーヴニルはまだ圏内にいる。コンソールのタイマーを確認、出撃から一分が経過。あの子たちの戦闘時間はもっと長い。
ガンダム相手に時間稼ぎは悪手だ。救助方法はただひとつ、可能な限り速やかに戦闘不能にすること。
スレッタは操縦桿を握り直す。魔法の呪文は、もう知っている。
「パーメットスコア、3」
キャリバーンが赤く輝く。
出力の上昇と共に、身体の感覚が膨れ上がる。自分を狙う銃口を、スレッタは肌身で感じ取っていた。ガンヴォルヴァのライフルが光る。クアドラスラスターをふかし、曲芸じみた動きで射撃を避ける。再びビームブレードが迫る。背面すれすれを刃が通り過ぎる。スラスターを振って直上へ転身、箒を構え、進行方向のガンヴォルヴァを先に撃つ。7機が同時に消し飛ぶ。
スレッタは歯を食いしばった。息が苦しい。気持ち悪い。全身がかき回されるように痛む。エリクトの見せたデータストームより、遥かに重い苦痛が身体を蝕む。
だけど耐えよう。これくらい我慢しなきゃ、エリクトには追いつけない。
再び赤茶色が突っ込んでくる。スレッタも迎え撃つ。抜刀の姿勢に合わせ、箒を縦に一回転、一瞬だけスラスターを逆噴射する。目の前をブレードが通り過ぎる。振り切った瞬間に再加速、赤茶の懐に飛び込み、ビームサーベルを抜く。赤茶のガンダムから、頭と右腕が落ちる。二分が経過する。
『ギィ!?』
藍色のガンダムが悲鳴を上げる。背部ユニットが輝き、ガンヴォルヴァが殺到する。
「――ッ!!」
キャリバーンは止まらない。返す刀で赤茶色の左腕をもぎ取り、残骸を蹴って再加速、進路上のガンヴォルヴァへ切りつける。強引な加速に、心臓が悲鳴を上げる。
パニックに陥った藍色がガトリングを乱射する。当たらない。スレッタは射線すれすれを飛翔、藍色へ接近する。コクピットにアラートが鳴る。背後から残りのガンヴォルヴァが、本体の自損覚悟でライフルを撃つ。回避はしない。フットペダルをさらに踏み込み、藍色に体当たりする。バランスを崩したところでバルカンを撃ち込みガトリングを破壊、さらに機体をひねって倒立、頭部を飛び越え背後を取る。箒を構え、背部ユニットごと藍色の下半身を吹き飛ばす。
三分が経過した。辺りでガンヴォルヴァが停止していく。
スコアを落とすと、途端に視界がぐらりと揺れた。同時に猛烈な吐き気が襲う。呼吸を整えながら、スレッタは周囲を警戒する。オックスアースの追撃はなく、シン・セーの機体も見当たらない。ドローンはまだ残っていたが、設置されたアンチドートの外へは出られないようだった。
スレッタはロッドファーヴニルの位置を確認した。めまいに耐えながら箒のスラスターをふかし、漂っていた藍色のガンダムを捕まえ、帰還コースに入る。
ケレスから通信が入る。
『状況終了、こちらは安全圏に出た。速やかに帰投を――おい、何だその荷物は』
「オックスアースの人たち、いなくなっちゃいましたし。危険なのでこのまま連れて行きます」
藍色のガンダムから悲鳴が上がった。
赤茶色の方はどこだろう。レーダーを見ると、味方が接近している。そちらはザウォート・ヘヴィの片割れに捕獲されていた。残った両足を振り回そうとして、もう1機に斬り落とされている。
『お前らまで何やってんだ!』
キレ散らかすケレスに、ザウォートからの通信が入る。
『ルブリスと交戦したら、なるべく鹵獲しろって前に』
『命令の撤回は受けてない』
飄々と言う二人に、ケレスは盛大な溜息をついた。
『あー、もう時間がねえ。いいからさっさと戻ってこい。――ベルメリア! 三人分、応急処置の用意しとけ!』
通信が切れる。遠ざかる母艦に向けて、三機は一気に加速した。
「あの、ありがとうございます」
スレッタはザウォートに通信を繋いだ。片方のザウォートが、ひらひらと手を振った。
フォールクヴァングが遠ざかっていく。あちこちで爆発が起こり、一部はすでに崩壊していた。スレッタはもう一度小惑星を振り返った。キャリバーンが警報を鳴らす。
目の前が光った。
高エネルギーのレーザーを探知。白い光が、遙か後方を撃ち抜き焼却する。
カメラが補正される。真っ暗な宇宙が戻ってくる。スレッタはモニターを拡大した。後ろには何も無い。
フォールクヴァングは、はじめから幻だったかのように、姿を消していた。
オリジナル機体
ルブリス・エオロー
・藍色のルブリス。パイロットはムジカ・ラタ。
・ガンヴォルヴァの大量操作に特化した機体。大型で背面に制御アンテナを二つ持つ。パイロットの素養に左右されるが、最大で36機ほどの同時運用が可能。ムジカはこれを、三機一組の小隊編成で運用している。
・武装はビームガトリング、頭部バルカン、ビームサーベル。ガンヴォルヴァ操作の負担が大きいため、高機動や接近戦は苦手。同じくフェイズドアレイキャノンも使用できない。運用コストも高いため傭兵として派遣されることはなく、専らフォールクヴァングの守衛を務めていた。
ルブリス・ナウシズ
・赤茶色のルブリス。パイロットはギィ・スパード。
・近接特化型。背部ユニットを積んでおらず、ガンヴォルヴァの運用はできない。小型でスラスターを増設しており、運動性と加速性に優れる。
・武装はレーザーブレードと頭部バルカン。伸縮するブレードで接近戦を挑み、全てを切り刻む機体モデル。エオローの護衛として、フォールクヴァングの守衛を務めている。