水星の魔女 ヴァナディースの灯ルート   作:九段景春

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ちょっと短めです。

2026/4/7 サブタイトル修正


30.アスティカシアの一番長い日/始

 ――同時刻。アスティカシア高等専門学園領宙、ブリオン寮寮艦ブリッジ。

 

「全校生徒および職員の避難、完了しました」

「ジェターク社軌道艦隊、配置完了の連絡来ました」

「学園への入港予定、1時間前の連絡船を最後に停止しています。フロント管理会社から連絡、待機レベル最大に設定されたそうです」

「チュアチュリー・パンランチ、フェルシー・ロロの両名、発進を確認」

「グラスレー寮内に動きありません」

「地球寮トジェターク寮ノ有志、配置ニツキマシタ」

 

 口々に報告する学生たちを前に、セセリア・ドートは密かにマイクを握り直した。いつものラウンジと違い、ブリッジの空気は張り詰めている。これから始まることへの不安か、あるいは期待か。こういう緊張は、嫌いではない。

 

 モニター上では、デミバーディングとディランザがそれぞれの寮艦から射出されている。さらに後方から、別口で発進したラウダの機体が接近。行く手には円形の盾と槍を備えたMSーーハインドリーが4機、待ち構えている。

 

 今回の決闘場所は、グラスレー寮の外縁近く。わざわざ寮艦を出すことなく、直接寮からの発進を選んでくれたようだった。

 

「グラスレー寮、地球寮、ジェターク寮、全機体射出完了。セセリア、いつでもいけるよ」

 

 オペレーター席でハロを抱えたロウジがいう。いつも通りの態度に、すこしだけ緊張がほぐれる。

 

「りょーかい。ジェターク艦隊に連絡。通信封鎖、始めてもらって」

 

 大きく深呼吸し、セセリアはマイクに向けて声を張り上げた。

 

「全校生徒および職員の皆様、シェルター内でいかがお過ごしでしょうか?」

 

 学園全体に、決闘委員会の放送が響き渡る。校内に人影はない。ブリオンの持つありとあらゆるコネを駆使して、避難させる口実を作った。

 

「先日のテロに伴うフロント全区域の緊急空調メンテナンスのため、本日の決闘はブリオン寮寮艦「ウラノメトリア」よりお送りいたしまーす」

 

 決闘用のカメラドローンが、いつものように映像を配信する。閲覧数は低い。賭けに至っては、参加者が少なすぎて成立していない。

 

「張り合いないなあ。……これより双方の合意のもと、決闘をとりおこなう。決闘者はグラスレー寮の4名と、ジェターク寮と地球寮の3名。勝敗は隊長機のブレードアンテナを折った者の勝ちとする。立ち会い人はブリオン寮のセセリア・ドートが務めまーす。両者、向顔」

 

 モニター上で、レネ・コスタとリリッケ・カドカ・リパティが顔を合わせる。

 見るからに余裕綽々のレネが、先に要求を口にする。

 

『あたしたちが勝ったら、ファラクトをグラスレー寮へ譲渡してもらう』

 

 リリッケが口を開く。セセリアもつばを飲み込む。

 

『私たちが勝ったら……ランブルリング当日の、グラスレー寮生全員の行動を確認させてください』

『はァ!?」

 

 レネは顔色を変えて凄んだ。

 リリッケはひるまない。

 

『この条件で受けていただけないなら、フロント管理会社による、グラスレー寮内の捜索を要求します!』

 

 ハインドリーからの通信が切断される。チーム内で何らかのやりとりがされているようだが、内容はうかがい知れない。傍受していたハロが目を点滅させる。

 

『サビーナ機トグラスレー寮間デ暗号通信ヲ確認。学園外ヘモ発信多数アリ。何ラカノ符牒トオモワレマス』

 

「クロ。わざわざシャディク先輩に知らせたね」

 

 ここぞとばかりに、セセリアは追撃を入れる。この反応、間違いなく当たりだ。ここで逃げられてはたまらない。

 

「あら、何か不都合でもありました? そもそもあなたはテロリストに速攻撃墜されてましたし、やましいところなんてないですよねぇ?」

『その通りだ』

 

 サビーナ・ファルディンの声が割って入る。

 

『我々に隠すことなど何も無い。とはいえ疑われるのは心外だ。勝って疑念を晴らさせて貰う。始めてくれ』

 

 舌打ちと共に、レネは口上を始めた。

 

『……勝負はモビルスーツの性能のみで決まらず』

『操縦者の技量のみで決まらず』

『ただ、結果のみが真実』

 

『フィックスリリース』

 

 かけ声と共に、ハインドリーの一機が先陣を切った。

 

 無論レネの機体だ。残る3機も追従し、それぞれをカバーできる体制に入る。応えるように突撃するデミバーディングに対し、衝突することなく軌道を変更。手に持ったランスとハンドガン、シールドを組み合わせた複合兵装――ランタンシールドを構え、射撃戦を仕掛ける。さらにフェルシーのディランザが割って入り、ハンドガンの斉射をシールドで受けた。

 

 そこへ、数条の光線が降り注いだ。

 全方向からの(オールレンジ)攻撃が突き刺さり、ハインドリーの片腕が溶断される。

 たまらず回避機動に移るレネ機の前に、灰色のMSが降り立った。

 

 6機のガンビットが追従し、手に握られたビームブレイドへ、鞘のように連結する。

 弧を描いたブレードアンテナ。ジェターク社らしい重装甲。

 その全身に、紫のシェルユニットが輝いている。

 

『パーメットスコア、3』

 

 ラウダ・ニールが低く唸る。

 

『行くぞ、シュバルゼッテ』

 

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