水星の魔女 ヴァナディースの灯ルート   作:九段景春

34 / 36
閲覧・評価等ありがとうございます。

集団戦難しい。


31.アスティカシアの一番長い日/先鋒

 シュバルゼッテの大剣がレネのハインドリーに迫る。すかさず間にサビーナ機が割り込み、ランタンシールドを掲げたメイジーとイリーシャのMSが突撃、灰色のガンダムを退ける。さらなる追撃を防ぎながら、ハインドリーの小隊は一旦敵から距離をとった。

 

『ジェタークのガンダム!? いつの間に作ってたの?』

『地球寮、ジェターク、ブリオン、全員ぐるか!』

 

 動揺を口にしながらも、グラスレーの少女たちは防衛用の陣形をとる。被弾したレネをかばい、追ってくるガンダムの射撃を巧みにいなす4機に、寮のエナオから通信が入った。

 

『――まずいわ。学園領宙外に反応多数。私たち、包囲されてる』

『これは……ジェターク艦隊か!』

 

 レーダーを確認し、サビーナは顔をゆがめる。戦闘艦が十数機、学園外への航路を封鎖している。当然MSも搭載しているはずだ。

 

『寮の出入り口にもMSがいる。通信も封鎖されてるわ。シャディクへの連絡、間に合わなかったかも』

 

 レネが再び舌打ちする。

 

『言い逃れはできそうにないな』

 

 コンソールを操作し、サビーナは緊急時のプロコトルを確認した。敗北時の備えはきちんと機能している。

 もし連絡に失敗しても、別の仕掛けが作動するはずだ。

 

 サビーナは機体を反転させる。こうなった以上、血路を開くしかない。

 

『我々で包囲を突破する。エナオは代表と脱出を。ガンダムも出せ。――メイジー、イリーシャ、レネ。レギュレーション変更。奴らを落とすぞ』

了解(コピー)!』

 

 サビーナに続き、少女たちは一斉に陣形を変えた。密かに仕込んでいたコマンドにより、ビームハンドガンの弾が赤く変わる。部隊に追いつき、左右から接近してきたデミバーディングとディランザへ、息の合った動きで射撃をたたき込んだ。

 

 

 対するチュチュは通信機へ悪態をついた。高威力のビームがかすめ、デミバーディングが警報を鳴らす。

 

『実戦用だ。あいつら本性見せやがった!』

『じゃあこれで自白した、ってことで。突入班も待ちくたびれてるっしょ』

 

 通信先でセセリアがまぜっかえし、学園内へ連絡を送る。回避の合間にビームライフルを撃ち返しながらも、チュチュはかんしゃくを抑えた。腹立たしいが、ここまではまだブリーフィングでの想定通りだ。

 

 チュチュら3機を牽制しながらも、ハインドリーの小隊は学園領宙外を目指している。逃亡を防ぐべくデミバーディングがビームキャノンを発射、今度はシュバルゼッテとディランザが部隊中央へ切り込んだ。

 

 シュバルゼッテのビームガトリングがサビーナのハインドリーを襲う。そこへ横合いからレネ機が割り込み、ランタンシールドで防衛。射線が逸れたタイミングで攻勢へ切り替え、片腕でランスを振りかざす。

 

『サビーナ、行って!』

 

 ディランザの援護は間に合わない。槍先を大剣で受け止めるシュバルゼッテへ、他のハインドリーからの援護射撃が刺さる。そこへスラスターをふかし加速したレネが再び突撃、部隊から灰色のガンダムを引き離した。

 

 シュバルゼッテと片腕のハインドリー、2機だけがフロント近辺に残される。その隙に加速し離れていく小隊を確認し、レネは不敵に笑った。最初に醜態をさらした分、殿(しんがり)は自分の役目だ。こいつくらいは引きつけてみせる。

 

『ご自慢のAIを捨てて、ガンドに浮気したの? ま、エアリアルに負けたのが、あんたらのケチの付きはじめだもんな?』

 

 ラウダの返答は、大剣から放たれたビームガトリングだった。乱射をランタンシールドで受け止めながら、レネはさらなる挑発を続ける。

 

『そっか、しゃべるのきついんだ。魔女に尻尾振ったところで、結局普通のガンダムしか作れなかったんだろ? しっかりデーターストームが検出されてんだよ!』

 

 ハインドリーによる射撃の隙を縫って、大剣から鞘が分離する。2本のガンビット――ガーディアンが支援攻撃を開始、ラウダの剣戟に合わせてレネ機を狙う。

 

『ああ、確かに間違いかもな。――だけど家族の罪を清算するのも、僕の役目だ』

 

 荒い息づかいに紛れて、地を這うような声がした。

 牽制と後退を重ねるレネに、ラウダはさらにガーディアンを分離する。手元にビームブレイド一本を残し、6機のガンビットによる斉射がハインドリーを追う。

 

『水星女がいなければ勝てる。お前たちだってそう思ったんだろう?』

 

 回避しきれなかったビームがハインドリーを削る。これ以上は保たせられない。旋回をやめ、レネはシュバルゼッテへ向けて突撃した。ジグザグに機体を振り、僅かな隙を狙って電磁ランスを射出する。

 

 シュバルゼッテのシェルユニットが、紫に輝いた。

 

 ガーディアンが反応、乾坤一擲の刺突を電磁シールドで弾く。同時に残るガーディアンのビームがハインドリーの両足を貫通。必死で姿勢を制御するレネ機の正面へ、急加速したシュバルゼッテが迫る。

 

『クソがァ!』

『あれもこれも、まずは貴様を落としてからだ!』

 

 ガンブレイドが振り下ろされる。最後に残ったシールドごと、ハインドリーの首が切り落とされた。

 

 

 一方先の宙域では、2機のMSが3機になったハインドリーを押しとどめている。

 

 シュバルゼッテの支援に戻ろうとするディランザをサビーナ機が抑え、旋回し進路上へ立ちはだかるデミバーディングへはメイジーとイリーシャが向かう。

 ハインドリーの銃撃をシールドで受けながら、フェルシーは通信機へ叫んだ。

 

『サビーナ先輩? 本当に先輩たちが犯人なんですか!?』

 

 困惑を隠しきれない後輩に、サビーナは冷徹に答える。

 

『どう思っていたかは知らないが、我々は元々アーシアンだ。地球のために行動して何が悪い』

 

 2機がかりでデミバーディングを囲みながら、イリーシャとメイジーが追従する。

 

『邪魔するスペーシアンも、それに味方する地球寮も、両方、迷惑』

『まさか地球寮にハメられるとはねー』

『あんたらも何言ってんだよ! ……学園も寮も両方包囲してます! レネもラウダ先輩が落としたし、もう投降してください!』

 

 諦めの悪いフェルシーへ、サビーナは低く笑った。ハインドリーの出力を切り替えても、ジェターク艦隊が動く様子はない。

 

『ずいぶん練られた計画のようだが、管轄までは調整しきれなかったようだな。新型のテストを名目に艦隊を呼び寄せても、MS隊までは出撃させられないのだろう? 我々の勝機は、まだ消えてはいない!』

 

 一瞬フェルシーの判断が遅れ、サビーナの射撃を避け損ねる。定石通りシールドを構えるディランザへサビーナ機が肉薄、すれ違いざまにランスをたたき込む。関節を狙った穂先が、見事に肘ごとシールドをもぎ取る。

 

 フェルシー・ロロの操縦は、良くも悪くも教科書通りだ。決闘の回数も多くはなく、ほとんどがジェターク兄弟の両機としての参加。経験は浅く、この場の誰よりも動きを読み取りやすい。

 慌ててスラスターをふかすディランザに、再びサビーナのランスが迫る。

 

 そこへ上方からビームが降り注ぐ。メイジーらの追撃を振り切ったデミバーディングが介入、ハインドリーの頭を狙って射撃する。慌てて飛び退くサビーナ機へ、さらにフィストバルカンを撃ち込む。 

 

『ごちゃごちゃうるせえ! ハメられたっていうなら、てめーらが一番地球寮(アーシアン)をなめてたってことだろ!』

 

 ここ数週間の鬱憤を込め、チュチュはハインドリーに向かって吼えた。

 

 デミバーディングの背部から、バックパックが分離する。据え付けられたデミトレーナーの頭部を中心に旋回、2門のビームキャノンが解き放たれる。

 

 有線式のドローン兵器――バオリパックが、ハインドリーへ砲撃を始めた。接近していたメイジー機が被弾、自在に向きを変える砲身が、逆方向のイリーシャ機も遠ざける。

 

『テロなんかやって、何が地球のためだ! いいからさっさと、ニカ姉を返せ――――!』

 

 牽制をドローンに任せ、チュチュはビームサーベルを抜く。全力でフットペダルを踏み込み加速、サビーナのハインドリーへサーベルを振り上げた。

 

 

 ◇

 

 

 ――グラスレー寮、学園内搬入ゲート前。

 

『こちらウラノメトリア。グラスレーが自白した。突入始めちゃって』

「り、了解。――みなさん、お願いします!」

 

 セセリアからの伝達に、マルタンはつっかえながら号令をかけた。精一杯張り上げた声は、ジェターク寮有志らの雄叫びにあっさりかき消された。

 

 重機ユニットに換装したディランザとモビルクラフトが、次々に動力音を響かせる。搬入ゲートの前では、メカニック科の学生が端末片手にシャッターをハッキングしていた。会社の危機だからと立ち上がっただけあって士気は高い。作戦の性質上マルタンが責任者として立っているが、ついつい及び腰になる。

 

 インカムからは決闘の様子が伝わってくる。通信越しにチュチュが喚声を上げ、オペレーター役のリリッケが冷静に指示を出している。その会話に、突然焦ったオジェロの声が割り込んだ。

 

『MSデッキに異常! 射出許可、出してないぞ!?』

『ヌーノ先輩、どうしました?』

『メンテナンスベッドが外れて……ちょっとまった、お前なんでここに!?』

 

「ロック、開きました!」

 

 ハッキング担当の通信に、マルタンは慌てて意識を戻した。地球寮のことは気になるが、今は目の前の作戦に集中しなければ。

 

「A班、突入します! 僕に続いてください!」

 

 慣れない手で操縦桿を握る。マルタンのMSは、以前グラスレー寮との決闘で使ったザウォートだ。借り物だったそれらのうち、破損が酷く買い取りになった機体を、メカニック科の面々が練習がてらレストアしたMSだ。武装は返却してしまったため、代わりにデミトレーナー用の重機パーツを装備している。

 

 シャッターをくぐり、暗い通路を直進する。背後にディランザが続く。こまめにレーダーを確認し、廊下の死角に目をこらす。いつガンダムや無人機が飛び出してこないとも限らない。

 

『B班、これより突入。生体反応なし。このままシェルター区画を目指す』

 

 グラスレー寮の構造は、帰省した学生から聞き出している。偽の空調メンテナンスによって、人質の居場所も強引に絞らせた。非常用のシェルターか地下の倉庫ブロック。ニカたちはそのどちらかにいる。

 

「頼むから無事でいてよ」

 

 非常扉を強引にこじ開けながら、マルタンは通信機に拾われないようにつぶやいた。

 

 

 ◇

 

 

 ――グラスレー寮、地下倉庫ブロック。

 

 かすかな衝撃が部屋を揺らした。三人は一斉に顔を上げる。ほぼ同時に、電子ロックの解除音が聞こえた。

 再度打ち合わせする暇はなかった。ドアが開いた瞬間、真っ先にノレアが飛び出していく。

 

「右へ行け! 後は計画通りに!」

 

 出遅れたニカへそう呼びかけ、5号のエランは左へ走るノレアの後を追った。

 

 無人の廊下に非常ベルが鳴り響く。上方からは足音と破砕音。手口は荒っぽく、治安部隊ではなさそうだ。少しは運が向いているかもしれない。

 先を行くノレアが、突き当たりのドアへ飛びこむ。5号も迷わず追う。この先にあるのは搬入口と、ガンダムを隠したハンガー。

 

 ここまでは想定通りだ。

 

 ハンガーに入ると、騒音はさらに激しくなった。5号は非常灯を頼りに壁際を探り、ノーマルスーツを取り出す。狙っていた小型艇もすぐに見つかった。

 

「ソーン!」

 

 ノレアが床を蹴り、メンテナンスベッドに納められたMSへ駆け上がる。隣には深緑のガンダムと、十数機のガンヴォルヴァ。壁が大きく揺れ、置き忘れられた工具が床を転がる。搬入口の向こうからは、隠しようのない戦闘の気配が伝わってくる。

 

 脱出のチャンスを作らなければ。

 

 ヘルメットを被り、5号は小型艇(ランチ)のコンソールを操作する。ニカ・ナナウラが上手く注目を集めてくれればいいが、タイミングが不明だ。グラスレーの連中が、いつこちらの動きに気づくとも限らない。最悪、ノレアに無理をさせることになる。

 

 ――学園フロント外宙域に、実習用の無人施設がある。決闘委員会の権限で、そこに非常用の小型艇や物資があるのを確認してあった。

 ガンヴォルヴァをおとりに混乱を起こし、その隙に小型艇で学園を離れる。無人施設で艇を乗り換え、警備が薄くなるのを待ってどこかのフロントを目指す――というのが、事前に考えた作戦の全てだった。

 

 双眸を輝かせ、オレンジ色のガンダムが起動する。これだけはどうしてもノレアにやってもらわなければならない。

 

「ランチの準備はできた。そっちはどう?」

 

 騒音の中、5号はコクピットへ向け声を張り上げた。ハッチを半端に開けたまま、ソーンは動かない。

 MSの不調か、もしくは動かないように細工されていたか。もしそうなら、他の手を考えなければならない。ノレアの様子を確認すべく、5号は機体をよじ登ってコクピットへ近づいた。

 

「-――ノレア?」

「……上手くいくわけないって、分かってた」

 

 押し殺すような声と共に、ハッチが閉まる。

 シェルユニットが発光する。スラスターからの噴煙を、5号はかろうじて避けた。

 

「ノレア止めろ!」

 

 返事はない。メンテナンスベッドのロックが外れ、居並ぶガンヴォルヴァが次々に起動する。止められない。無人機の隊列を従え、オレンジ色のガンダムが飛び出していく。

 

 

 ◇

 

 

 チャンスなんか、あるわけなかった。

 

 怒りがノレアの全身を焼いていた。

 

 力任せにフットペダルを踏み込み、搬入口までの通路を駆け抜ける。これ見よがしに開いたゲートは無視、感情のままビームデフューズガンを構え、外へ続くシャッターを破壊する。

 飛び出した先の宇宙には、戦闘を続ける数機のMSと、学園を取り囲む機動艦隊。プラント・クエタでの作戦前に提供されたデータは、それがジェターク社のものだということまで教えてくれた。

 

 フロント管理会社だけなら攪乱してみせる自信があった。あの男のせいで、もしかしたら上手くいくんじゃないかって、夢を見た自分がバカだった。

 

 これが現実だ。

 

「ソーン!!」

 

 唯一残った愛機へ、ノレアは絶叫とともに呼びかける。スコアが上昇する。体が痛い。だが気にならない。命を削る代わりに、いつだってソーンは、ノレアと一緒に怒ってくれる。

 きっと最期まで。

 

 操縦桿を握り、チャージを始める。焼け付くような衝動のまま、ノレアは銃口を、今飛び出してきた施設へ向けた。

 

 

 ◇

 

 

“通路を右へ、一番高級そうな部屋を探せ”

 

 ニカは廊下を走る。建物の振動は続いている。高級感の漂う壁に亀裂が走り、建材が剥がれる。この揺れ方には覚えがある。

 

「作業用MSで、建物ごと壊してる……?」

 

 探しものはすぐに見つかった。探すまでもなかった。

 廊下の角から、車椅子の老人が現われた。誘拐されたらしいCEO。後ろでハンドルを握っているのは、エナオ・ジャズだった。

 

 エナオの方が速かった。ニカを見た瞬間、片手で銃を抜く。銃弾が壁に、絨毯に、頭をかばったニカのギブスにかすめる。その隙に車椅子を押し走り去るエナオを、ニカもまた追いかける。

 

“グラスレー寮のどこかに、サリウス・ゼネリが監禁されている。投降する気なら彼を見つけて、フロント管理会社の注目を集めろ。僕らはその間に逃げる”

 

 このままじゃ逃げられる。ノレアたちの逃亡に賛成はできないけど、こちらを放って脱出するわけにもいかない。

 

「まって、どこへ行くの?」

「関係ない。あなたの役目は終わったでしょ」

 

 息を切らして追うニカに、また銃が向けられる。足下で火花が散り、ニカは盛大に転んだ。立ち上がろうとした途端、また建物が大きく揺れる。その間にエナオは、廊下の先のエレベーターへたどり着いている。

 

 呼び出しボタンを押し、エナオはじれた顔で回数表示を見上げた。その間も寮は轟音に襲われている。オレンジのランプが点滅し、エレベーターはワンフロア前で停止する。

 

「緊急停止――ああ、もう!」

 

 ようやく追いついたニカに向け、エナオは銃を構えた。照準は、まっすぐニカの頭を捉えている。

 

「これ以上邪魔しないで」

 

 建物が揺れる。弾は転倒したニカを外れ、明後日の方向へ飛ぶ。轟音とともに床が傾き、エナオが銃を取り落とす。埃と塗装と割れた照明が落ち、車椅子が倒れる。

 

 何が起きたのか理解する前に、三人の上に崩壊した天井が降り注いだ。

 

 

 ◇

 

 

 ――フロント外宙域、ウラノメトリア艦橋。

 

『フロント管理会社より通達。ガンダムならびに無人機多数を確認。警備部隊、発進する』

 

 モニターが切り替わる。場所は崩壊したグラスレー寮。学園を破壊するオレンジ色のガンダムに、デミギャリソンの一隊が向かっていく。

 

「……来たね。作戦目標変更。ラウダ先輩、お願いします」

 

 分かってはいたけど、やっぱり怖い。声の震えを押さえながら、セセリアはマイクへ指示を飛ばす。シュバルゼッテが決闘区画を離れ、オレンジのMSへ向かっていく。残されたチュチュとフェルシーが、半ば包囲されながらハインドリーの猛攻を受け止めている。

 

 デミギャリソンではガンダムを止められない。あれの対応に当たるのは、最初からラウダと決めてあった。

 

「突入隊の安否確認、最優先でやって。決闘は中止のアナウンスを。学生には待機を命令して」

「決闘中継、カメラ切り替えます」

「学園外壁に損傷、グラスレー寮を中心に多数の被害。気密シャッター閉鎖。出火も確認、消防ドローンが出動しています」

「警備隊、無人機と交戦開始」

「大破したハインドリーおよびパイロット、フロント管理会社で確保したとのことです」

 

 声をうわずらせながらも、ブリオンの生徒たちは的確に情報をまとめていく。セセリアもまた、彼らを鼓舞すべく声を張り上げた。

 

「突入隊、A班B班ともに無事です!」

「よし! 安全を確保しつつグラスレー寮内を捜索、生存者を探させて」

「学園内よりアラート! 火災発生――ペイル寮の寮艦です」

 

「え、なんで?」

 

 セセリアは思わず素に戻った。ペイル寮は学園の反対側だ。ガンダムも無人機もそこまで侵攻していない。おまけに寮生は全員退去済みのはずだ。

 

『ぺいる寮内ハ無人。要救助者ハ不在』

「スプリンクラーも正常に稼働している。システムに任せておけばいいよ」

 

 ロウジのフォローを受け、セセリアは慌ててモニターに意識を戻した。

 

「シュバルゼッテ、ガンダムと会敵。交戦開始します」

 

 灰色のガンダムがオレンジのMSに向かっていく。取り巻きの無人機にガンビットの斉射が襲いかかり、1機が爆散する。そのまま肉薄し斬りかかるシュバルゼッテを、オレンジのガンダムが迎え撃つ。

 

 事態は進展しているが、まだ想定通りだ。死傷者だって出ていない。

 

「始めちゃったからには、最後までやりきらないと」

 

 セセリアは密かに手を握り合わせる。

 

 モニターの一つ、宙域を観測するレーダーサイトに、新たな光点が灯る。

 

 

 ◇

 

 

 ――学園領宙外。

 

 包囲中のジェターク艦隊もまた、緊張に包まれていた。

 

「シュバルゼッテ、損耗率5パーセント。ガーディアン出力、75パーセントを維持」

「パイロットの心拍数上昇、危険域まで、あと3分と推定」

 

 艦隊旗艦、艦橋。乗員の目は、モニターに映し出されたシュバルゼッテに釘付けになっている。

 

「司令、指令、MS隊の出撃許可を」

 

 割り込むように、ハンガーから通信が入る。不足の事態に備え、ジェターク社軌道艦隊から引き抜かれた最精鋭だ。プラント・クエタで失態を演じた部隊でもある。

 

「まだラウダ様からの命令が下りていない。我々の派遣目的はあくまで新型の起動実験だ。学園への介入は、要請がなければできん」

 

 応える艦隊司令もまた、2機のガンダムに集中している。

 そこに警報が響き渡った。

 

「レーダーに反応! 学園領宙外、グリッド620方面より接近中!」

「直掩部隊、迎撃に当たれ! 学園に通達、対処はこちらで行う」

 

 ブリッジの反応は早い。モニターが切り替わり、アンノウンを表示する。

 高速で近づく光点が、彼方で二つに分裂する。片方の光は瞬く間に近づき、白いMSの形をとる。

 

「相対速度200! 迎撃間に合いません!」

「目標から多量のデータストームを検知! ガンダムです!」

「通信回線を開け」

 

 司令は声を張り上げた。

 

「所属不明機に通達、こちらはジェターク社軌道艦隊。直ちに機体を停止し、所属と姓名を明かせ」

 

『通してください!』

 

 少女の声が響き渡った。

 

 ガンダムは止まらない。

 艦隊目前で身をひねり、一切制動をかけることなく隊列を突破していく。

 ブリッジすれすれを駆け抜けたそれが、冗談のように巨大な箒を携えているのを、ジェターク社員たちは目撃した。

 

 

 その瞬間、学園で戦っていた誰もが、飛来するMSに目を向けた。

 

「……彗星?」

 

 学生の誰かがつぶやく。

 戦闘中の宙域を突っ切り、白いMSはまっすぐにフロント外縁部へ突入する。衝突寸前で大きく旋回、スラスターと一体化した箒をひねり逆噴射させる。進路上にいたガンヴォルヴァの一機が迎撃を試みる。当たらない。ガンダムは機体をひるがえし、すれ違いざまに無人機を両断。再び箒を噴射させ、フロント外壁へ着陸した。

 

 放出された推進剤が漂う。壁面には傷一つない。白いMSはなめらかにしゃがみ込み、接触回線を起動させる。

 

『アスティカシア学園、管理会社の人、誰か、聞こえますか?』

 

 オープンチャンネルを通じ、放送が響き渡る。

 

『現在学園フロントに向けて、ドミニコス艦隊が接近中。目的は、学園の制圧です。今すぐ全住民を避難させてください!』

 

 

 

 




???「……知らない間にガンダムが増えてる」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。