集団戦難しい。
シュバルゼッテの大剣がレネのハインドリーに迫る。すかさず間にサビーナ機が割り込み、ランタンシールドを掲げたメイジーとイリーシャのMSが突撃、灰色のガンダムを退ける。さらなる追撃を防ぎながら、ハインドリーの小隊は一旦敵から距離をとった。
『ジェタークのガンダム!? いつの間に作ってたの?』
『地球寮、ジェターク、ブリオン、全員ぐるか!』
動揺を口にしながらも、グラスレーの少女たちは防衛用の陣形をとる。被弾したレネをかばい、追ってくるガンダムの射撃を巧みにいなす4機に、寮のエナオから通信が入った。
『――まずいわ。学園領宙外に反応多数。私たち、包囲されてる』
『これは……ジェターク艦隊か!』
レーダーを確認し、サビーナは顔をゆがめる。戦闘艦が十数機、学園外への航路を封鎖している。当然MSも搭載しているはずだ。
『寮の出入り口にもMSがいる。通信も封鎖されてるわ。シャディクへの連絡、間に合わなかったかも』
レネが再び舌打ちする。
『言い逃れはできそうにないな』
コンソールを操作し、サビーナは緊急時のプロコトルを確認した。敗北時の備えはきちんと機能している。
もし連絡に失敗しても、別の仕掛けが作動するはずだ。
サビーナは機体を反転させる。こうなった以上、血路を開くしかない。
『我々で包囲を突破する。エナオは代表と脱出を。ガンダムも出せ。――メイジー、イリーシャ、レネ。レギュレーション変更。奴らを落とすぞ』
『
サビーナに続き、少女たちは一斉に陣形を変えた。密かに仕込んでいたコマンドにより、ビームハンドガンの弾が赤く変わる。部隊に追いつき、左右から接近してきたデミバーディングとディランザへ、息の合った動きで射撃をたたき込んだ。
対するチュチュは通信機へ悪態をついた。高威力のビームがかすめ、デミバーディングが警報を鳴らす。
『実戦用だ。あいつら本性見せやがった!』
『じゃあこれで自白した、ってことで。突入班も待ちくたびれてるっしょ』
通信先でセセリアがまぜっかえし、学園内へ連絡を送る。回避の合間にビームライフルを撃ち返しながらも、チュチュはかんしゃくを抑えた。腹立たしいが、ここまではまだブリーフィングでの想定通りだ。
チュチュら3機を牽制しながらも、ハインドリーの小隊は学園領宙外を目指している。逃亡を防ぐべくデミバーディングがビームキャノンを発射、今度はシュバルゼッテとディランザが部隊中央へ切り込んだ。
シュバルゼッテのビームガトリングがサビーナのハインドリーを襲う。そこへ横合いからレネ機が割り込み、ランタンシールドで防衛。射線が逸れたタイミングで攻勢へ切り替え、片腕でランスを振りかざす。
『サビーナ、行って!』
ディランザの援護は間に合わない。槍先を大剣で受け止めるシュバルゼッテへ、他のハインドリーからの援護射撃が刺さる。そこへスラスターをふかし加速したレネが再び突撃、部隊から灰色のガンダムを引き離した。
シュバルゼッテと片腕のハインドリー、2機だけがフロント近辺に残される。その隙に加速し離れていく小隊を確認し、レネは不敵に笑った。最初に醜態をさらした分、
『ご自慢のAIを捨てて、ガンドに浮気したの? ま、エアリアルに負けたのが、あんたらのケチの付きはじめだもんな?』
ラウダの返答は、大剣から放たれたビームガトリングだった。乱射をランタンシールドで受け止めながら、レネはさらなる挑発を続ける。
『そっか、しゃべるのきついんだ。魔女に尻尾振ったところで、結局普通のガンダムしか作れなかったんだろ? しっかりデーターストームが検出されてんだよ!』
ハインドリーによる射撃の隙を縫って、大剣から鞘が分離する。2本のガンビット――ガーディアンが支援攻撃を開始、ラウダの剣戟に合わせてレネ機を狙う。
『ああ、確かに間違いかもな。――だけど家族の罪を清算するのも、僕の役目だ』
荒い息づかいに紛れて、地を這うような声がした。
牽制と後退を重ねるレネに、ラウダはさらにガーディアンを分離する。手元にビームブレイド一本を残し、6機のガンビットによる斉射がハインドリーを追う。
『水星女がいなければ勝てる。お前たちだってそう思ったんだろう?』
回避しきれなかったビームがハインドリーを削る。これ以上は保たせられない。旋回をやめ、レネはシュバルゼッテへ向けて突撃した。ジグザグに機体を振り、僅かな隙を狙って電磁ランスを射出する。
シュバルゼッテのシェルユニットが、紫に輝いた。
ガーディアンが反応、乾坤一擲の刺突を電磁シールドで弾く。同時に残るガーディアンのビームがハインドリーの両足を貫通。必死で姿勢を制御するレネ機の正面へ、急加速したシュバルゼッテが迫る。
『クソがァ!』
『あれもこれも、まずは貴様を落としてからだ!』
ガンブレイドが振り下ろされる。最後に残ったシールドごと、ハインドリーの首が切り落とされた。
一方先の宙域では、2機のMSが3機になったハインドリーを押しとどめている。
シュバルゼッテの支援に戻ろうとするディランザをサビーナ機が抑え、旋回し進路上へ立ちはだかるデミバーディングへはメイジーとイリーシャが向かう。
ハインドリーの銃撃をシールドで受けながら、フェルシーは通信機へ叫んだ。
『サビーナ先輩? 本当に先輩たちが犯人なんですか!?』
困惑を隠しきれない後輩に、サビーナは冷徹に答える。
『どう思っていたかは知らないが、我々は元々アーシアンだ。地球のために行動して何が悪い』
2機がかりでデミバーディングを囲みながら、イリーシャとメイジーが追従する。
『邪魔するスペーシアンも、それに味方する地球寮も、両方、迷惑』
『まさか地球寮にハメられるとはねー』
『あんたらも何言ってんだよ! ……学園も寮も両方包囲してます! レネもラウダ先輩が落としたし、もう投降してください!』
諦めの悪いフェルシーへ、サビーナは低く笑った。ハインドリーの出力を切り替えても、ジェターク艦隊が動く様子はない。
『ずいぶん練られた計画のようだが、管轄までは調整しきれなかったようだな。新型のテストを名目に艦隊を呼び寄せても、MS隊までは出撃させられないのだろう? 我々の勝機は、まだ消えてはいない!』
一瞬フェルシーの判断が遅れ、サビーナの射撃を避け損ねる。定石通りシールドを構えるディランザへサビーナ機が肉薄、すれ違いざまにランスをたたき込む。関節を狙った穂先が、見事に肘ごとシールドをもぎ取る。
フェルシー・ロロの操縦は、良くも悪くも教科書通りだ。決闘の回数も多くはなく、ほとんどがジェターク兄弟の両機としての参加。経験は浅く、この場の誰よりも動きを読み取りやすい。
慌ててスラスターをふかすディランザに、再びサビーナのランスが迫る。
そこへ上方からビームが降り注ぐ。メイジーらの追撃を振り切ったデミバーディングが介入、ハインドリーの頭を狙って射撃する。慌てて飛び退くサビーナ機へ、さらにフィストバルカンを撃ち込む。
『ごちゃごちゃうるせえ! ハメられたっていうなら、てめーらが一番
ここ数週間の鬱憤を込め、チュチュはハインドリーに向かって吼えた。
デミバーディングの背部から、バックパックが分離する。据え付けられたデミトレーナーの頭部を中心に旋回、2門のビームキャノンが解き放たれる。
有線式のドローン兵器――バオリパックが、ハインドリーへ砲撃を始めた。接近していたメイジー機が被弾、自在に向きを変える砲身が、逆方向のイリーシャ機も遠ざける。
『テロなんかやって、何が地球のためだ! いいからさっさと、ニカ姉を返せ――――!』
牽制をドローンに任せ、チュチュはビームサーベルを抜く。全力でフットペダルを踏み込み加速、サビーナのハインドリーへサーベルを振り上げた。
◇
――グラスレー寮、学園内搬入ゲート前。
『こちらウラノメトリア。グラスレーが自白した。突入始めちゃって』
「り、了解。――みなさん、お願いします!」
セセリアからの伝達に、マルタンはつっかえながら号令をかけた。精一杯張り上げた声は、ジェターク寮有志らの雄叫びにあっさりかき消された。
重機ユニットに換装したディランザとモビルクラフトが、次々に動力音を響かせる。搬入ゲートの前では、メカニック科の学生が端末片手にシャッターをハッキングしていた。会社の危機だからと立ち上がっただけあって士気は高い。作戦の性質上マルタンが責任者として立っているが、ついつい及び腰になる。
インカムからは決闘の様子が伝わってくる。通信越しにチュチュが喚声を上げ、オペレーター役のリリッケが冷静に指示を出している。その会話に、突然焦ったオジェロの声が割り込んだ。
『MSデッキに異常! 射出許可、出してないぞ!?』
『ヌーノ先輩、どうしました?』
『メンテナンスベッドが外れて……ちょっとまった、お前なんでここに!?』
「ロック、開きました!」
ハッキング担当の通信に、マルタンは慌てて意識を戻した。地球寮のことは気になるが、今は目の前の作戦に集中しなければ。
「A班、突入します! 僕に続いてください!」
慣れない手で操縦桿を握る。マルタンのMSは、以前グラスレー寮との決闘で使ったザウォートだ。借り物だったそれらのうち、破損が酷く買い取りになった機体を、メカニック科の面々が練習がてらレストアしたMSだ。武装は返却してしまったため、代わりにデミトレーナー用の重機パーツを装備している。
シャッターをくぐり、暗い通路を直進する。背後にディランザが続く。こまめにレーダーを確認し、廊下の死角に目をこらす。いつガンダムや無人機が飛び出してこないとも限らない。
『B班、これより突入。生体反応なし。このままシェルター区画を目指す』
グラスレー寮の構造は、帰省した学生から聞き出している。偽の空調メンテナンスによって、人質の居場所も強引に絞らせた。非常用のシェルターか地下の倉庫ブロック。ニカたちはそのどちらかにいる。
「頼むから無事でいてよ」
非常扉を強引にこじ開けながら、マルタンは通信機に拾われないようにつぶやいた。
◇
――グラスレー寮、地下倉庫ブロック。
かすかな衝撃が部屋を揺らした。三人は一斉に顔を上げる。ほぼ同時に、電子ロックの解除音が聞こえた。
再度打ち合わせする暇はなかった。ドアが開いた瞬間、真っ先にノレアが飛び出していく。
「右へ行け! 後は計画通りに!」
出遅れたニカへそう呼びかけ、5号のエランは左へ走るノレアの後を追った。
無人の廊下に非常ベルが鳴り響く。上方からは足音と破砕音。手口は荒っぽく、治安部隊ではなさそうだ。少しは運が向いているかもしれない。
先を行くノレアが、突き当たりのドアへ飛びこむ。5号も迷わず追う。この先にあるのは搬入口と、ガンダムを隠したハンガー。
ここまでは想定通りだ。
ハンガーに入ると、騒音はさらに激しくなった。5号は非常灯を頼りに壁際を探り、ノーマルスーツを取り出す。狙っていた小型艇もすぐに見つかった。
「ソーン!」
ノレアが床を蹴り、メンテナンスベッドに納められたMSへ駆け上がる。隣には深緑のガンダムと、十数機のガンヴォルヴァ。壁が大きく揺れ、置き忘れられた工具が床を転がる。搬入口の向こうからは、隠しようのない戦闘の気配が伝わってくる。
脱出のチャンスを作らなければ。
ヘルメットを被り、5号は
――学園フロント外宙域に、実習用の無人施設がある。決闘委員会の権限で、そこに非常用の小型艇や物資があるのを確認してあった。
ガンヴォルヴァをおとりに混乱を起こし、その隙に小型艇で学園を離れる。無人施設で艇を乗り換え、警備が薄くなるのを待ってどこかのフロントを目指す――というのが、事前に考えた作戦の全てだった。
双眸を輝かせ、オレンジ色のガンダムが起動する。これだけはどうしてもノレアにやってもらわなければならない。
「ランチの準備はできた。そっちはどう?」
騒音の中、5号はコクピットへ向け声を張り上げた。ハッチを半端に開けたまま、ソーンは動かない。
MSの不調か、もしくは動かないように細工されていたか。もしそうなら、他の手を考えなければならない。ノレアの様子を確認すべく、5号は機体をよじ登ってコクピットへ近づいた。
「-――ノレア?」
「……上手くいくわけないって、分かってた」
押し殺すような声と共に、ハッチが閉まる。
シェルユニットが発光する。スラスターからの噴煙を、5号はかろうじて避けた。
「ノレア止めろ!」
返事はない。メンテナンスベッドのロックが外れ、居並ぶガンヴォルヴァが次々に起動する。止められない。無人機の隊列を従え、オレンジ色のガンダムが飛び出していく。
◇
チャンスなんか、あるわけなかった。
怒りがノレアの全身を焼いていた。
力任せにフットペダルを踏み込み、搬入口までの通路を駆け抜ける。これ見よがしに開いたゲートは無視、感情のままビームデフューズガンを構え、外へ続くシャッターを破壊する。
飛び出した先の宇宙には、戦闘を続ける数機のMSと、学園を取り囲む機動艦隊。プラント・クエタでの作戦前に提供されたデータは、それがジェターク社のものだということまで教えてくれた。
フロント管理会社だけなら攪乱してみせる自信があった。あの男のせいで、もしかしたら上手くいくんじゃないかって、夢を見た自分がバカだった。
これが現実だ。
「ソーン!!」
唯一残った愛機へ、ノレアは絶叫とともに呼びかける。スコアが上昇する。体が痛い。だが気にならない。命を削る代わりに、いつだってソーンは、ノレアと一緒に怒ってくれる。
きっと最期まで。
操縦桿を握り、チャージを始める。焼け付くような衝動のまま、ノレアは銃口を、今飛び出してきた施設へ向けた。
◇
“通路を右へ、一番高級そうな部屋を探せ”
ニカは廊下を走る。建物の振動は続いている。高級感の漂う壁に亀裂が走り、建材が剥がれる。この揺れ方には覚えがある。
「作業用MSで、建物ごと壊してる……?」
探しものはすぐに見つかった。探すまでもなかった。
廊下の角から、車椅子の老人が現われた。誘拐されたらしいCEO。後ろでハンドルを握っているのは、エナオ・ジャズだった。
エナオの方が速かった。ニカを見た瞬間、片手で銃を抜く。銃弾が壁に、絨毯に、頭をかばったニカのギブスにかすめる。その隙に車椅子を押し走り去るエナオを、ニカもまた追いかける。
“グラスレー寮のどこかに、サリウス・ゼネリが監禁されている。投降する気なら彼を見つけて、フロント管理会社の注目を集めろ。僕らはその間に逃げる”
このままじゃ逃げられる。ノレアたちの逃亡に賛成はできないけど、こちらを放って脱出するわけにもいかない。
「まって、どこへ行くの?」
「関係ない。あなたの役目は終わったでしょ」
息を切らして追うニカに、また銃が向けられる。足下で火花が散り、ニカは盛大に転んだ。立ち上がろうとした途端、また建物が大きく揺れる。その間にエナオは、廊下の先のエレベーターへたどり着いている。
呼び出しボタンを押し、エナオはじれた顔で回数表示を見上げた。その間も寮は轟音に襲われている。オレンジのランプが点滅し、エレベーターはワンフロア前で停止する。
「緊急停止――ああ、もう!」
ようやく追いついたニカに向け、エナオは銃を構えた。照準は、まっすぐニカの頭を捉えている。
「これ以上邪魔しないで」
建物が揺れる。弾は転倒したニカを外れ、明後日の方向へ飛ぶ。轟音とともに床が傾き、エナオが銃を取り落とす。埃と塗装と割れた照明が落ち、車椅子が倒れる。
何が起きたのか理解する前に、三人の上に崩壊した天井が降り注いだ。
◇
――フロント外宙域、ウラノメトリア艦橋。
『フロント管理会社より通達。ガンダムならびに無人機多数を確認。警備部隊、発進する』
モニターが切り替わる。場所は崩壊したグラスレー寮。学園を破壊するオレンジ色のガンダムに、デミギャリソンの一隊が向かっていく。
「……来たね。作戦目標変更。ラウダ先輩、お願いします」
分かってはいたけど、やっぱり怖い。声の震えを押さえながら、セセリアはマイクへ指示を飛ばす。シュバルゼッテが決闘区画を離れ、オレンジのMSへ向かっていく。残されたチュチュとフェルシーが、半ば包囲されながらハインドリーの猛攻を受け止めている。
デミギャリソンではガンダムを止められない。あれの対応に当たるのは、最初からラウダと決めてあった。
「突入隊の安否確認、最優先でやって。決闘は中止のアナウンスを。学生には待機を命令して」
「決闘中継、カメラ切り替えます」
「学園外壁に損傷、グラスレー寮を中心に多数の被害。気密シャッター閉鎖。出火も確認、消防ドローンが出動しています」
「警備隊、無人機と交戦開始」
「大破したハインドリーおよびパイロット、フロント管理会社で確保したとのことです」
声をうわずらせながらも、ブリオンの生徒たちは的確に情報をまとめていく。セセリアもまた、彼らを鼓舞すべく声を張り上げた。
「突入隊、A班B班ともに無事です!」
「よし! 安全を確保しつつグラスレー寮内を捜索、生存者を探させて」
「学園内よりアラート! 火災発生――ペイル寮の寮艦です」
「え、なんで?」
セセリアは思わず素に戻った。ペイル寮は学園の反対側だ。ガンダムも無人機もそこまで侵攻していない。おまけに寮生は全員退去済みのはずだ。
『ぺいる寮内ハ無人。要救助者ハ不在』
「スプリンクラーも正常に稼働している。システムに任せておけばいいよ」
ロウジのフォローを受け、セセリアは慌ててモニターに意識を戻した。
「シュバルゼッテ、ガンダムと会敵。交戦開始します」
灰色のガンダムがオレンジのMSに向かっていく。取り巻きの無人機にガンビットの斉射が襲いかかり、1機が爆散する。そのまま肉薄し斬りかかるシュバルゼッテを、オレンジのガンダムが迎え撃つ。
事態は進展しているが、まだ想定通りだ。死傷者だって出ていない。
「始めちゃったからには、最後までやりきらないと」
セセリアは密かに手を握り合わせる。
モニターの一つ、宙域を観測するレーダーサイトに、新たな光点が灯る。
◇
――学園領宙外。
包囲中のジェターク艦隊もまた、緊張に包まれていた。
「シュバルゼッテ、損耗率5パーセント。ガーディアン出力、75パーセントを維持」
「パイロットの心拍数上昇、危険域まで、あと3分と推定」
艦隊旗艦、艦橋。乗員の目は、モニターに映し出されたシュバルゼッテに釘付けになっている。
「司令、指令、MS隊の出撃許可を」
割り込むように、ハンガーから通信が入る。不足の事態に備え、ジェターク社軌道艦隊から引き抜かれた最精鋭だ。プラント・クエタで失態を演じた部隊でもある。
「まだラウダ様からの命令が下りていない。我々の派遣目的はあくまで新型の起動実験だ。学園への介入は、要請がなければできん」
応える艦隊司令もまた、2機のガンダムに集中している。
そこに警報が響き渡った。
「レーダーに反応! 学園領宙外、グリッド620方面より接近中!」
「直掩部隊、迎撃に当たれ! 学園に通達、対処はこちらで行う」
ブリッジの反応は早い。モニターが切り替わり、アンノウンを表示する。
高速で近づく光点が、彼方で二つに分裂する。片方の光は瞬く間に近づき、白いMSの形をとる。
「相対速度200! 迎撃間に合いません!」
「目標から多量のデータストームを検知! ガンダムです!」
「通信回線を開け」
司令は声を張り上げた。
「所属不明機に通達、こちらはジェターク社軌道艦隊。直ちに機体を停止し、所属と姓名を明かせ」
『通してください!』
少女の声が響き渡った。
ガンダムは止まらない。
艦隊目前で身をひねり、一切制動をかけることなく隊列を突破していく。
ブリッジすれすれを駆け抜けたそれが、冗談のように巨大な箒を携えているのを、ジェターク社員たちは目撃した。
その瞬間、学園で戦っていた誰もが、飛来するMSに目を向けた。
「……彗星?」
学生の誰かがつぶやく。
戦闘中の宙域を突っ切り、白いMSはまっすぐにフロント外縁部へ突入する。衝突寸前で大きく旋回、スラスターと一体化した箒をひねり逆噴射させる。進路上にいたガンヴォルヴァの一機が迎撃を試みる。当たらない。ガンダムは機体をひるがえし、すれ違いざまに無人機を両断。再び箒を噴射させ、フロント外壁へ着陸した。
放出された推進剤が漂う。壁面には傷一つない。白いMSはなめらかにしゃがみ込み、接触回線を起動させる。
『アスティカシア学園、管理会社の人、誰か、聞こえますか?』
オープンチャンネルを通じ、放送が響き渡る。
『現在学園フロントに向けて、ドミニコス艦隊が接近中。目的は、学園の制圧です。今すぐ全住民を避難させてください!』
???「……知らない間にガンダムが増えてる」