新作発表おめでとうございます。
“――アスティカシア高等専門学園襲撃から一夜明け、被害の全貌が明らかになりつつあります。防衛にあたった学園フロント管理会社およびジェターク社軌道艦隊に死傷者が出ているほか、施設の被害多数、学生にも負傷者がいるとの情報が入っています”
“――ドミニコス隊による強制執行と銘打った襲撃に対し、ベネリットグループ本社は宇宙議会連合に対し厳重な抗議を行っています。
一方、グループ内でテロリストをかくまっていた疑惑や、地球での違法な捜査に対する抗議、グループ内での不正についての情報も広まっており、議会との対立はますます鮮明になっています”
“――一企業の反抗により、ドミニコス艦隊が壊滅状態となったことで動揺が広がっています。
混乱は市場にも及び、日中は売り注文が殺到、MSを提供していたシトー・ビーチェ社の株価がストップ安となるなど、経済への影響は今後も拡大しそうです”
“――ペイル・テクノロジーズCEOによる、大量破壊兵器開発の告発に対し、ベネリットグループ首脳部は「開発は事実である」と認めました。グループは前総裁の指示によるものだとしていますが、新総裁には早くもこれらの疑惑に対する責任の取り方が求められています。
またペイル社CEOら4名に対しては、グループ内外から違法な研究開発と人体実験を行っていたとの告発がなされており、ベネリットグループ、ならびに宇宙議会連合に関する一連の事態は混迷を深めています”
“――先ほど、宇宙議会連合よりベネリットグループへの強制執行に対して声明が出されました。声明では、グループが関与したとみられる多数の犯罪行為と、大量破壊兵器の所有および使用が確認されたとの情報に触れ「自浄作用がないことは明白」として、経営陣の摘発と解体の必要性を訴えています。
一連の要請に応じない場合、制裁として4ヶ月後の月面サミットからの排除、ならびにL4に対するパーメットの禁輸措置を公表しており、経済・産業への打撃が懸念されています。
一方、先日行われたアスティカシア高等専門学園への強制執行に際し、学生に対する虐殺が指示されていたとの情報も入っており、議会穏健派からは強硬派の方針に対し疑惑の声が上がっています“
“――宇宙議会連合は、連日のテロを受けL4全域に対し戒厳令の発動を要請しています。ベネリットグループ側は、企業行政法第13条に基づく社内統治の原則を訴え、これに反発する姿勢を示しています。
宇宙議会連合議長については、5年前地球で発生した病院爆破テロに関する証拠を隠蔽していた疑惑が持ち上がっており、フロント有力者からは議会から距離を置くべきとする意見も出されています”
“――宇宙議会連合議長は「アスティカシア学園内でテロが発生、死傷者多数」と事前にリークされていたとの報道に対し、フェイクニュースであるとの談話を発表しています。
議長は議会連合によるベネリットグループ解体に向け、できる限り早期の議決と執行を求めていく考えを示しています”
◇
『我々はあくまで、デリング氏からの発注を受けて
モニターに映った男は、大げさな身振りで電子契約書を示した。
『機密はしっかりと守らせていただきましたよ? 何せ極秘プロジェクトと伺っておりましたので。クワイエット・ゼロという名称すら、この場で初めて知った次第で。
本社の中でどういった動きがあったにしろ、弊社の知ったことではありませんな。こちらも仕事をしなければ、社員一同大気圏に身投げするしかない立場ですから。
なにしろ、デリング氏に融資を断られましたのでね』
男のしてやった、という笑みを最後に通信が切れる。ラジャンは疲れ切った顔を更に苦々しくゆがめた。
「今の男は何者ですか?」
通信を見守っていたケナンジが問う。
「パルネオ社のCEO……半年ほど前、業績不振を理由に融資を打ち切った会社だ。まさかプロスペラに雇われ、密かにクワイエット・ゼロの製造に携わっていたとは」
総裁選にかまけて凍結の確認を怠った、私の失態だ。
ラジャンはタブレットの報告書を取り上げる。
「クワイエット・ゼロは既に完成している。学園に現れたあれはサブユニットの一つだ。
プラント・クエタにあった製造データは全て破棄済み。構造を大幅に変更した形跡と、緊急停止コードの削除履歴だけが残されていたよ。シン・セーのオフィスも同様だ。
ペイルの人体実験をリークしたのも奴の置き土産だろう。亡命社員たちの内部告発がなければ、法務部はまともに身動きできなくなっていた」
「プロスペラ・マーキュリーの足取りは、クインハーバーでの戦闘後軌道エレベーターに乗ったところで途切れています。エアリアルも同様、クワイエット・ゼロ本体と共に行方をくらませております。目下艦隊を動員し捜索中ですが……失態は我々も同じですよ」
早期発見は難しいだろう、という見解は、二人とも一致していた。
何しろ人手が足りない。強制執行は撤回されておらず、本社をはじめとしたL4要衝に戦力を張り付かせざるを得ない。現場である学園の警備や拿捕された部隊の輸送すら、ジェターク社に依頼している始末だ。
「先ほど若社長……ジェタークCEOが、学園から残りの捕虜を連れて到着しました。学園宙域での救助作業、および医療フロントへの輸送は完了したとのことです。
順次生存者への尋問を行っておりますが、議会強硬派からの指示は、フェン・ジュン捜査官より提供いただいた情報と一致しております」
「私も情報提供を受け、議会強硬派に内通していた社員を洗っている。ペイル社の裏切りを含め、月の手は想定以上に入り込んでいる。学生のほうがまだ信頼できる有様だ」
ぷつ、とノイズが走り、モニターが起動した。通信相手を見て、二人は背筋を伸ばす。
「サリウスCEO、お加減は」
車椅子の老人は、全身に管を繋げたまま首を振る。
『問題ない。……今しがた、L5の有力者と話した。が、議会連合の根回しが早い。月とL1、L5は、ベネリット解体に向けてすでに合意している』
サリウスの顔色は悪い。拘束から解放されて以来、休むことなく交渉に当たっている。
シャディクの暗躍に関し、責任を問う声はあった。だがそれ以上に、議会強硬派への対応が差し迫っていた。
「グループ内への工作も、その3カ所から行われていたようです。企業間の対立をあおっていたふしもあります。L4内で戦争シェアリングを行うという話、本気だったようですな」
「アスティカシア学園襲撃の後、テロの主犯としてシャディク・ゼネリを告発。グラスレー社と、学生を殺された他の企業の者たちとの間に紛争を発生させる……というのが議会の筋書きだったようです」
『フォールクヴァングの件といい、ここに来てつけを払わされるか。息子に見限られるわけだな』
だが、悔いてばかりもいられまい。サリウスは掠れの目立つ声で続ける。
『ラジャン。アスティカシア学園防衛について、法務部の見解は出たか?』
「軌道エレベーターでの戦闘を含め、参加した学生全員に正当防衛が認められる、とのことです」
これもあくまでL4内での判決だ。グループが解体され、議会連合が艦隊壊滅の責任を求めてくれば、防戦した彼らにも類が及ぶ。
重々しく頷き、老人は姿勢を正した。
「彼らはこれからのグループに必要だ。私は引き続き、有力者との交渉に当たる。社内の統制と議会への対策はそちらで行ってくれ。
……総裁就任早々、ミオリネ様には負担をかけることになるな」
通信が切れる。
「我々も力を尽くすが……大人だけではどうにもならないだろうな」
情けない話だ、と、ラジャンは肩を落とした。