水星の魔女 ヴァナディースの灯ルート   作:九段景春

6 / 36
ストーリーの分岐は原作14話からですが、1点だけインチキしています。
あと、ペイルについては死ぬほど設定を盛っています。


6.帰れない星/ペイル

「詰んだな、ベネリット」

 

 極端に照明を落とした部屋。無数のモニターに囲まれ、「オリジナル」のエラン・ケレスはつまらなそうにつぶやいた。

 

 暇だ。

 やることがない。

 ことはあまりにも明快にすぎる。

 

 プラント・クエタ襲撃から、レンブラン総裁の殺害、アスティカシア学園襲撃、グラスレー社CEO誘拐にいたる一連の事件は、シャディク・ゼネリが真犯人だ。

 目的はベネリットグループ総裁の座と、それを利用した経済圏の再編。手段としてグループの資産を段階的に売却することが考えられ、すでに水面下で宇宙議会連合の了承を得ている可能性が高い。

 

「プラント・クエタのテロだけなら、ジェターク社の仕業って可能性もあったんだけどな」

 

 モニターの一つには、プラント・クエタ襲撃の映像が映し出されている。港湾に射撃を浴びせる、オレンジ色のガンダム。港で撃沈された輸送船が、最後に撮影していたものだ。

 別のモニターにはまた、AIが蒐集した情報が表示される。ジェターク社の指揮所から盗み出された、ヴィム・ジェタークの出撃から撃墜までの通信記録だ。

 部屋中に設置されたモニターに、一連の事件に関する情報が呼び出される。総裁選に伴う各社の行動、株価、議事録、エージェントの活動、オンラインゲームのチャット画面、月面からの報告。 

 ケレスの推理は、ペイル社所有のAI「ペイルグレード」の予測とほぼ一致していた。

 デリング・レンブランが倒れた今、ベネリットグループは時を待たずして崩壊する。

 これを前提として、半年以内に発生するL4経済圏の解体と戦乱に、どう対処していくべきか。

 現在のペイル・テクノロジーズは、それを指針として動いていた。

 

 あくびを噛み殺しながら、モニターの一つを呼び出す。

 画面の中では、CEOを務める老婆たちが今後の政治活動について協議している。

 議事録を見る限り、総裁選はグラスレー社を、シャディク・ゼネリを後援しつつの様子見。その間にL4外の有力者と接触し、最も高値をつけた勢力に会社ごと身売りを図ることで意見がまとまっている。

 真犯人であるシャディクを選んだのは、総裁就任後の告発を見越してのことだろう。新総裁のスキャンダルもまた、グループ離脱の手土産にされる予定だ。話題はすでに、グループ離脱後に合流すべき有力企業の選定と、予備交渉にむけての情報共有に移っていた。

 

 もとよりペイルとは、そうやって生きながらえてきた企業だ。

 ドローン戦争以前より、社名も看板も変え続けて生き延びた老舗企業。グループに加わった時期こそ遅いが、その歴史はベネリットよりも遙かに長い。

 中枢たる情報分析AI、ペイルグレードさえあるのなら、社名も、組織も、基幹事業でさえも、すべてすげ替えてかまわない。ペイルグレードと呼ばれているのもこの十数年のこと。古くはミーミルの首、プロヴィデンスの眼、バラムのロバと名を変え、アップデートを繰り返し続けたAIだ。分析のためありとあらゆる情報を食い続け、もはやどんなアルゴリズムで動いているのか、専任のエンジニアですら解析不能となっている。

 

 AIの神託に従い続ける限り、社の成長と繁栄は約束される。社員はただ、タブレットへ送られる指示に従ってさえいればいい。

 ガンダム開発も同じだ。ペイルグレードが次世代の基幹技術としてガンドフォーマットに注目、リソースの傾注を指示したからこそ、人体実験を繰り返してでも研究が続いている。

 ペイルグレードはまだガンドフォーマットを諦めていない。テストベットたるファラクトが水星のガンダムに3分45秒で撃墜されたとの結果を得ても、未だに研究中止の通達はなし。一方でエアリアル入手の指示は継続されている。グループ崩壊の局面においても、なお。

 

 一度だけ会った、珍獣めいた少女の顔が浮かんだ。モニターの一つでは、不可解な発光と共にパーメットスコアの急上昇を見せた、あの白いMSの映像が表示されている。

 

 不確定要素があるとすれば、ここだ。

 

 モニターが切り替わり、ペイルグレードが解析結果を吐き出す。

 表示されたのは、プラント・クエタの管理記録だ。

 密かに蒐集していた物流記録をAIに解析させた結果、搬入された資源と出荷量との間に明確な差異が発見された。

 この10年間で、フロントひとつ製造できるほどの資材が、密かに流出し続けている。

 改ざんされたデータと通信記録を照合した結果、容疑者としてある直轄事業とグループ内企業が浮かんだ。

 

 事業名、クワイエット・ゼロ。

 開発担当企業、シン・セー開発公社。

 

「シン・セー……これも水星か」

 

 AIが企業情報を表示する。

 ベネリットの末端起業。コストの高さから月にシェアを奪われた、パーメット採掘会社。創業はそれなりに古く、グループ加盟は20年前。デリング主導のM&Aによるもの。15年前に開発部門が発足しており、本格的なガンダム開発はこの時点からと推測されている。現CEOはプロスペラ・マーキュリー。ベルメリア・ウィンストンの証言により、ヴァナディース機関残党と判明している。

 エアリアルの存在が発覚するまで、特筆すべき点は何も無かった会社だ。

 

「そんな零細企業を、意味も無く囲い込むわけがないよな」

 

 ページが切り替わり、シン・セーの株主一覧が表示される。

 親会社であるベネリット本社が51パーセントを所持。以下、全ての株式を総裁を筆頭にベネリット本社の重役のみで独占している。20年前のM&A以降株取引はその面々の中で完結しており、外部はおろかグループ内ですら売買された形跡がない。

 デリング所有の株に至っては、全額がミオリネ・レンブランへ相続されることになっている。

 

 またモニターが明滅する。

 20年前の買収交渉の経過が表示される。買収こそヴァナディース事変の後だが、交渉が始まったのはその数年前からだ。ガンダムを中心に考えると、時系列がおかしい。

 

「ガンダム開発を行っているから、よそからの買収の可能性を徹底的に排除した……これは後知恵だな。採掘会社のほうにガンダムがついてきたと見るべきだ」

 

 経緯としては、M&Aのことを知らなかったヴァナディース残党が、たまたま水星に逃げ込んでいた、といった辺りか。

 エアリアルの存在で誤魔化されてるが、水星の価値は本来別のところにある。あのデリング・レンブランが、採算性を度外視してでも維持し続けた価値が。

 ベネリット解体の盤面で、あるいは水星の動きが重要になるかもしれない。詳細不明のクワイエット・ゼロと共に、流れを変える可能性がある。

 

「とりあえず、手だけは打っておくべきか」

 

 ペイルグレードに、シン・セー開発公社およびプロスペラ・マーキュリーの動向を注視するようコマンドを打ち込む。クワイエットゼロについても継続調査を命令。強化人士5号に下された、エアリアル入手の指示は続行。スレッタ・マーキュリーの懐柔も継続。糸口は多い方がいい。

 

 グループ崩壊を妨害するつもりはない。ケレスとしては願ったり叶ったりだ。直接手を出すことこそないが、せいぜい高見の見物としゃれこみたい。

 だが、すべてはAIの予測通りに進んでいる。

 それでは面白くない。

 

 CEOたちの会議は終わろうとしている。ご機嫌伺いのためにも少しは顔を出した方がいいだろう。椅子から立ち上がり、ケレスは大きく伸びをした。

 情報が欲しい。AIの判定を覆すための、AIには入手できない情報が。

 だが足で稼ぐのはケレスの性に合わない。そういうのは、別の奴の役割だ。

 

「使いは出したが、望みは薄いかもなあ」

 

 モニターの片隅で、無人のチャット画面がコメントを待っている。

 




??? エラン・ケレスとの決闘時、ファラクトを4分以内に撃破する。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。