水星の魔女 ヴァナディースの灯ルート   作:九段景春

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8.大いなる遺産

 ホルダー制度の撤廃を、アスティカシア学園は静かに受け入れた。

 そもそも当事者のほとんどは不在。誰一人得をしていた者もなく、わざわざ反対しようとする声も上がらない。

 テロの影響は大きく、ランブルリング以降、率先して決闘を行う者もいなくなっている。生徒たちの話題は、今後のグループと後援企業の行き先に占められていた。

 

「お前、本当にこれでよかったのか?」

 

 地球寮のハンガー。箒を片手に、チュアチュリー・パンランチは元ホルダーへと話しかけた。積みかけのコンテナボックスを置き、スレッタは振り返る。制服の色は、とっくにグリーンへ戻されていた。

チュチュが袖の色を差すと、スレッタは何でもなさそうな顔で笑った。

 

「ミオリネさんが決めたことですから。だって、ずっと止めたがっていたじゃないですか」

 

 乱雑に積まれたコンテナを整理し、落ちていた部品を空き箱へ収める。エアリアルもデミトレーナーもファラクトも、普段ここに収まっているMSたちはまだフロント管理会社の管理下だ。接収から戻ってくる前にハンガーを掃除しよう、と言い出したのもスレッタだった。

 

「これでよかったんですよ。わたしは結局、役に立てませんでしたから」

 

 開けっぱなしの搬入口から、寮のニワトリが迷い込んでくる。ここは入っちゃだめですよ、と、鳥を抱え上げるスレッタに、チュチュが口を開こうとしたとき。

 

 外から怒鳴り声が聞こえた。次いで、誰かが怒鳴り返す声。

 二人はハンガーを飛び出した。

 もめ事は寮の正面で起こっていた。通りに面した、株式会社ガンダムの看板を置いた場所。スプレー缶を手にした生徒たちと、オジェロら男子勢がにらみ合っている。

 スレッタたちの後ろから、マルタンら残りの面々もやってきた。

 

「何やってんだてめえら!」

 

 スプレーを吹き付けられた看板を見て、チュチュが箒を振り上げた。

 見知らぬ生徒たちが怒鳴り返す。

 

「てめえらこそ何でまだ学園にいるんだよ」

「テロリストを引き込んだの、お前らだろ! さっさと出て行け!」

 

 振り上げられたスプレー缶に、スレッタは思わずひるんだ。抱えられたままのニワトリが、鳴き声を上げて羽ばたく。

 鳥の勢いに気圧されながらも、生徒たちは再び地球寮をにらみつけた。慌ててマルタンが割って入る。

 

「確かにソフィとノレアを受け入れたのは僕らだ。だけど、あの子たちのことは本当に何も知らなかったんだ。このことは管理会社にも説明した。僕らの中に、犯人はいない」

「そんなの信用できるか!」

 

 男子生徒の一人が足を踏み出す。その瞬間、更に後ろから声がかけられた。

 

「今のやりとり、見てたからね!」

 

 小柄な女子生徒を先頭に、数人の生徒が集まっている。

 

「フェルシーさん、と……」

 

 誰だっけ、この人たち。

 スレッタはこっそり首をひねった。聞いたことのある声だ。だがジェターク寮のフェルシー・ロロ以外の面々に、どこで会ったか思い出せない。

 見知らぬ生徒たちは、地球寮をかばうように割り込んだ。

 

「フロント管理会社が釈放したんなら、証拠は見つからなかったんだろ?」

「そいつらまだ監視対象だぞ。お前らのしたことも、全部管理会社に見られてるからな」

「あんたの親、総裁選に立候補するんだってな。やらかしたら選挙に響くんじゃねーの?」

 

 口々に言い返され、スプレー缶の集団はひるむ。図ったようなタイミングで、ハロを載せた案内用ドローンが道を通りがかりカメラを向ける。後ずさりした一人をきっかけに、生徒たちはてんでにその場を去って行った。

 全員がいなくなるのを待って、スレッタたちは改めてフェルシーらに向き直った。

 

「ありがとう、ございます」

 

 ひとまず礼を言うマルタンに、地球寮生たちが続く。緊張感はなくならない。

 

「……てめえら、ランブルリングに出てたな」

 

 箒を降ろしたチュチュの言葉で、スレッタはようやく彼らを思い出した。MSとパイロットスーツの印象しかなかったが、確かに決闘した覚えがある。

 

「お前らの疑いが晴れたわけじゃねえよ」

 

 端にいた男子生徒が、硬い表情でスレッタを見た。

 

「だけど、そいつのシールドがなければ俺たちは死んでいた。これで貸し借りなしだ」

 

 ぶっきらぼうに礼を言い、男子生徒はきびすを返す。他の面々も、一言だけ感謝しては去って行く。

 最後に残ったフェルシーが、チュチュに向かって口を開く。

 

「ラウダ先輩を助けてくれて、ありがと。先輩が会社から帰って来れないから、あたしが来た」

「身体張ってたのはおめーも同じだろ」

 

 チュチュが不機嫌そうに言う。

 

「それでもあたしだけじゃだめだった。……でも、次決闘するときは別だからな! 今度こそうちの寮が勝つ!」

 

 腰に手を当てて宣言し、フェルシーも走り去っていく。

 

「……なんだったんだ」

 

 顔を見合わせる寮生たちの耳に、またしても来客の声が響いた。

 

「お邪魔しまーす」

 

 なじみのある声がして、スレッタは建物の反対側へ向かった。

 居住スペースの入り口に、仮面をつけた女性が立っている。足下には大きなスーツケースが置かれていた。

 

「お母さん!?」

 

 スレッタの声に、地球寮の面々は仰天した顔を向けた。

 プロスペラ・マーキュリーは、首をかしげてにっこりと笑う。

 

「こんにちは。スレッタのお母さんです」

 

 

 ◇

 

 

 スレッタはぎこちない手つきでティーポットを傾けた。濃くも薄くもない水色がカップに注がれる。

 教えてもらったとおりにやったはず。ティーカップを傾けるプロスペラを、スレッタはお盆を抱きしめて見つめる。ダイニングテーブルを囲む寮生たちも、緊張した面持ちで見守っている。

 

「うん、おいしい。ありがとう、スレッタ」

 

 プロスペラがカップを干すと、ダイニングをほっとした空気が包んだ。

 

「よかった。やりかた、みんなに教えてもらったんだ」

 

 端に座っていたティルから順に、スレッタは寮生たちを紹介していく。頷きながら聞いているプロスペラに、寮生たちはそっと顔を見合わせた。一人足りないことは、気づかれていないらしい。

 

「いきなり来るからびっくりしたよ。今日はどうしたの」

 

 ようやく席についたスレッタに、プロスペラは軽い調子で答えた。

 

「スレッタの生活を見てみたくて。でもその前に、まずはエアリアルの修理について。先に損傷を確認してきたけど、もう一度本社でオーバーホールしないといけないわね」

「やっぱり、時間、かかるよね」

 

 うつむいたスレッタに、プロスペラは優しく微笑む。

 

「ちゃんと治るから安心して。……そこでなんだけど、一度、エアリアルの所属をシン・セー社へ戻したいと思うの」

 

 プロスペラはマルタンの方を見た。

 

「寮長さんはあなただったわね? ……というのもね。うちの会社からの寄附金、次に振り込めるのが半年後になりそうなのよ。それまで修理費を負担していただくのも悪いし。一度社に戻してもらえれば、うちから直接費用を出せるの。どうかしら?」

 

 寮生たちを見回し、プロスペラは首をかしげた。

 寮所属のMSの修理は、各寮への寄附金からまかなうことになっている。推薦企業の資産に関わらず、学生のMSを平等に整備するための規則だったが、予算の乏しい地球寮ではそれが裏目に出ていた。

 学生たちは顔を見合わせる。

 資金の問題は大きい。ましてや、今はニカがいない。

 

「僕らとしてもありがたいお話ですが……スレッタは、それでいい?」

「あ、はい。お母さん、お願いしていい?」

「ありがとう。会社の輸送船で来ているから、管理会社から直接受け取っていくわ。修理にかかる時間はわからないけど、もう決闘もないし大丈夫ね?」

 

 柔らかく笑うプロスペラに、スレッタはあいまいに頷く。

 

「よかった。戻りは明日になるから、エアリアルの見送りはそれまでにね。

 ――それで、もうひとつ。これは、株式会社ガンダムへの案件になります」

 

 プロスペラは居住まいを正した。参観に来た母親の顔が、社会人のそれに切り替わる。

 携えていたスーツケースの鍵をあけ、プロスペラはテーブルの上に開いた。クッションの敷かれたケースには、大型の記録媒体が複数収められている。ラベルに記された容量は大きい。それぞれにMSの開発データがまるごと収まるサイズのものだ。

 

「私が個人的に所有していた、ヴァナディース機関の開発資料です。21年前当時の、ガンド義肢の開発資料や治験記録、それ以外にもいろいろ。今後あなたたちが、ガンドの開発をする上で必要なデータが全部揃っています。――あなた方株式会社ガンダムに、これを引き継いでいただきたい」

 

 誰もがプロスペラに気圧される中、どうにかティルが口を開いた。

 

「なぜ、今これを?」

「これを見てもらえば分かるかしら」

 

 プロスペラは左袖をまくった。人工的な銀色がさらされる。

 片手を添えると、義肢は軽い音をさせて外れた。

 

「ガンド義肢の実物です。新しいPVを見せていただきましたが、あなた方の技術なら、これを託せると判断しました。個人的に所有していた資料で、きちんと整理されていなかったものですから、お渡しできるまでに時間を要しましたの。受け取っていただけるかしら?」

 

 スレッタは、プロスペラと義手を交互に見た。

 母は何も言わずに返答を待っている。

 

「これも、エアリアルのために、なるんだよね?」

「ええもちろん。修理が終わるまでの宿題になるかしら。時間がかかると思うけど、読んでみて」

 

 スレッタはスーツケースを引き寄せた。寮生たちも反対しない。

 プロスペラは静かに肩の力を抜いた。スレッタが電話したときと同じ、柔らかくて優しい声で言う。

 

「ありがとう。私たちのガンドを、お願いね」

 

 

 ◇

 

 

 地球寮の生活スペースと、スレッタの部屋と、ハンガーに飼育小屋。一通りを案内され、プロスペラは帰路についた。

 見送りはスレッタだけだ。久しぶりに二人で話してこいと、寮の仲間に背中を押された。

 プロスペラの機嫌は良い。手振りを交えながら、楽しそうに寮の感想を話す。時折仮面の一部に白い光が走った。スレッタの知らないうちに、新しいデバイスを入れたのだろうか。

 

「さすがにヤギはびっくりしたわ。でも、スレッタが学校に馴染めていてよかった。編入していきなりあれだったから、お母さん心配したのよ」

「うん。みんな、いい人たちだよ。エアリアルのことも大事にしてくれるんだ」

「学校、楽しい?」

「……楽しいよ。いろいろあったたけど、来て良かった」

 

 スレッタの含みに、プロスペラは立ち止まって顔をのぞき込んだ。

 

「エアリアルと何かあった?」

 

 スレッタは言葉に詰まった。

 

「……うん、ええ、と……」

 

 どう話していいかわからない。あのとき何が起こったのか、あれは一体誰なのか。

 わたしは何を聞きたいんだろう。 

 

 うつむいたままのスレッタに、プロスペラはやにわに腕を伸ばした。

 スレッタの頭を、義手でない手のひらが撫でる。

 

「スレッタ。よく頑張ったわね」

 

 スレッタはおずおずと顔を上げた。

 仮面の下で、母は満面の笑みを浮かべていた。

 

「プラント・クエタでも、学園でも、あなたはみんなを守った。怖かったのにちゃんと戦った。エアリアルと無事に帰ってきた。やっと直接言えるわ。本当にありがとう」

「おかあ、さん。でも、わたし、上手くできなかったよ」

 

 ミオリネさんの家族、助けられなかったし。人、殺しちゃったのに。

 スレッタのつぶやきに、プロスペラは首をかしげる。

 

「他に方法はなかったんでしょう?」

 

 母の声は落ち着いていた。テロリストを射殺した時と同じく。

 

「お母さん捜査官の人に聞いたのよ。プラント・クエタの襲撃で、テロリストと戦った人全員に正当防衛が認められるって。実況見分も済んで、裁判所からも同じ見解が降りてるの。お母さんもゴドイも、もちろんスレッタも、誰かに責任を取らされたりしない。総裁のことは残念だったけど、スレッタがいなきゃミオリネさんまで亡くなっていたわ」

「でも、ソフィさんだって」

「やらなかったら死んでいたかもしれない」

 

 優しかった母の口調に、違う色が乗る。

 スレッタは知っている。これは、何も答えてくれない時のお母さんだ。

 

「エアリアルと自分を守れた。みんなを助けられた。襲撃者も撃退した。施設も無事」

 

 言い慣れたセリフを繰り返すように、プロスペラは指折り数え上げる。仮面の端が、同意するように光っている。

 

「泣かないで判断できた。いつも通りにやれた。どうしても助けられない人はいるけど、それでも次に生かすことはできる。同じ事があったら、今度こそ上手くできる。そうでしょう?」

 

 お母さんは正しい。スレッタはそう信じている。

 お母さんはすごい。フロントや地球を飛び回って、ずっと忙しく働いている。水星しか知らないスレッタより、知識も経験も沢山持っている。パイロットの経歴だってそう。エアリアルの操縦も、困ったときの考え方も、最初は全部お母さんに習った。

 スレッタに判断できないことでも、お母さんならどうすればいいか知っている。やるべきことを教えてくれる。

 お母さんが教えようとしないことがあるのも、知っている。

 

 スレッタの両肩を掴み、プロスペラが呪文を唱える。怖がらずに進むための言葉。いつもいつも、スレッタを励ましてくれた魔法。

 

「逃げれば一つ、進めば二つ。ほら、ちゃんと進めたじゃない」

「……うん」

「あなたは頑張った。あなたは逃げなかった。エアリアルはお母さんに任せて、学園で待ってて。できるわね?」

「……うん。大丈夫、だよ」

 

 ようやくそう答えると、母はほっとしたように笑った。

 

「よかった。スレッタが元気になって――そうそう。お母さんこれから忙しくなるから、当分連絡はメールでお願い。返信も遅れると思うけど、平気よね?」

 

 スレッタはできるだけ明るい顔をつくった。最近ずっとこんな顔をしている気がした。

 心配させてはいけない。お母さんが会社にいけなくなる。仕事も留守番も、何も任せてもらえなくなる。せっかくお母さんと話せたんだから、また明日から頑張れるはず。

 それでもどうしても不安が消えず、スレッタは母の顔を見上げた。

 

「お母さんは、」

 

 視線をさまよわせながら、スレッタは言葉を探す。聞きたいことがいくつも浮かんだ。

 お母さんはヴァナディースにいたの?

 今、何をしているの?

 なぜ、エアリアルを作ったの?

 ガンダムって何?

 あの子は誰?

 だが、スレッタの口から出たのは、たった一言だった。

 

「お母さんのやりたいことって、何?」

 

 夕焼けを模した照明が、母の後ろから照りつけている。

 

「あなたたちが、幸せに暮らせる世界をつくることよ」

 

 逆光の中で、プロスペラは当たり前のように笑った。

 

「エアリアルが治ったら連絡するわ。またね」

 

 手を振って去って行く母を、スレッタはその場で見送った。

 ふいにポケットの中で、生徒手帳が震える。

 メールの着信が一件。アドレスは文字化けだらけで、誰から来たのか分からない。

 

 “23:00 フロント管理会社ハンガーへ”

 

 エアリエルだ、と、訳もなく思った。

 

 

 ◇

 

 

 港に隣接されたホテルで、プロスペラは電話の着信に気づいた。

 発信者は、ミオリネ・レンブラン。人気の無い場所を探しながら、プロスペラは通話ボタンを押した。

 

「あら、ミオリネさん? 弊社の弔問は明後日だったはずですけど」

 

 誰もいない通路に入り、窓際の手すりに腰掛ける。

 

「それともスレッタのこと? あの子だいぶ落ち込んでたわよ」

 

 通話の向こうで、ミオリネが深く息を吸った。

 

「21年前、ヴァナディース事変で、父があなたの家族と仲間を奪ったことに対して、娘としてお詫びいたします」

 

 仮面の端を光が往復する。プロスペラは表情を変えない。

 

「……お父様の遺言かしら。謝罪したからそれでおしまい、なんて言うつもりはないでしょうね」

「クワイエット・ゼロの引き継ぎ?」

「そう。考えてくれた?」

「今の私に、そんな権限はないわ。前総裁の命令により、計画は無期限に凍結中。次の総裁が決まるまで誰にも動かせない。……それを踏まえて、あなたにお願いがあります。プロスペラ・マーキュリーCEO」

 

 偏光ガラスの向こうに、学園フロントの外壁が広がっている。修復作業中のモビルクラフトを横目に、プロスペラは会話の続きを引き取った。

 

「総裁を目指してくれるの?」

「昨年度の取引実績324件、特許取得数252件。あなたとシン・セー開発公社の持つリソースを、選挙のために使わせてください。――お願いします」

 

 衣擦れの音で、ミオリネが頭を下げたことがわかった。

 プロスペラは口調を切り替えた。

 

「わかりました。微力ながら、社として後援をお約束いたします。詳しいお話はそちらの弔問が終わり次第お伺いいたします。弊社から提供できるプランについても、その際改めて説明させていただきます」

「ありがとう。よろしくお願いいたします」

 

 通話が切れる。すぐにメールが着信する。4日後にミオリネからのアポイントメントが申し込まれていた。

 しばらく考えた後、プロスペラは別の番号を呼び出した。

 相手はワンコールで出た。

 

「ゴドイ? 私。今大丈夫かしら」

「何か進展がありましたか」

 

 淡々とした秘書の声に、プロスペラは喜色を隠さずに続ける。

 

「時間稼ぎができそうよ。これも娘たちが頑張ってくれたおかげ」

「クワイエット・ゼロの製造、進めてよろしいのですね」

「ええ。総裁選を使ってベネリットの目を誤魔化す。その間に作業を進めて。ペイルはもう気にしなくていい」

 

 相づちを打つように、仮面の端が発光する。

 

「追加で作業員を雇うから、ベルメリアの下につけて。しばらくは監視されるから、シン・セーの業務内でできる部分から進めてちょうだい」

 

 作業は5時で終わり、モビルクラフトが引き上げていく。ガラスの向こうの宇宙、遙か遠くの地球を睨み、プロスペラは赤い唇をつり上げた。

 

「先にオックスアース狩りといきましょう」

 

 

 ◇

 

 

 深夜。

 フロント管理会社のドアが、かすかな音を立てて開いた。

 ノーマルスーツのヘルメットを被り直し、スレッタはハンガーへ足を踏み入れる。

 人影がないことを確認し、静かに床を蹴る。ゆっくりと浮遊しながら収容されたMSの前を通り過ぎ、やがてひとつの前で着地した。

 

「来たよ、エアリアル」

 

 半壊したMSが、にわかに蒼く発光した。コクピットが勝手に開く。

 

 “待ってたよ”

 

 声が聞こえる。

 スレッタは意を決し、コクピットに乗り込んだ。

 

 




次回、ようやくMS戦です。
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