【完結】モブ男子とミーシャとアノス様【魔王学院10章】   作:生徒会副長

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⑥うさぎの魔王と亀の子守歌

 魔法模型展『優しい世界はここから始まる』が始まった。場所は魔皇エリオの居城であるミッドヘイズ城だ。

 名目上は、ミーシャ・ネクロンが創った魔法模型の個展である。しかし実際は、見込まれる来場者数が多いので、『個展』では済まないような催しやブース、展示品が多数用意されている。

 最も注目すべきは、『魔王学院1年2組の歩み』をテーマとした展示コーナーだろうか。アノスやミーシャなどが魔王学院に入学してから、エクエスを倒すに至るまでを、振り返ることが出来るようになっている。

 エールドメードとナーヤは、ある魔法模型を眺めている。

 サーシャ班が創った城を、アノスが持ち上げる様子を再現したものだ。

 エールドメードが言う。

 

「カカカッ。わざわざ魔王が持ち上げたくなるような軽さの城に立て籠もるとは。さ・す・が、身の破滅の魔女ではないかーーっ!」

「この頃から、アノス様はアノス様でしたねぇ……。懐かしいな……」

 

 当時を振り返りながら、ナーヤはしみじみとそう呟いた。エールドメードも、腕を組んでしみじみと言う。

 

「リオンのヤツもなぁ〜。この頃にミーシャに告っておけば、今頃ヴァージンロードを歩いていたかもしれんのになぁ〜」

 

 そんな調子で、エールドメードとナーヤは魔法模型を見て回る。

 魔剣大会決勝、アノスとレイの対決。

 勇者学院で、選抜クラス・ジェルガカノンと戦ったときのこと。

 大精霊アヴォス・ディルヘヴィアに占拠されたミッドヘイズ。

 アゼシオンでの竜討伐。地底で魔王賛美歌を歌ったこと。

 そして、神々の軍勢との戦い──。

 

「綺麗でしたね、熾死王先生」

 

 ミーシャが創った新技術の結晶──ミーシャがリオンと共に魔法模型店に入ったときに創った、エクエスとの戦いにおける分水嶺の一幕を再現したものだ──が、最も人集りが多く、ナーヤもエールドメードもあまりじっくり見ることは出来なかった。

 とはいえ、その美しさは目に焼き付けている。

 ナーヤと並んで歩きながら、エールドメードが言う。

 

「いやはや。魔法模型の技術もさることながら、あの戦いも痛快愉快だったと思い出せる逸品だった。魔王アノスを含めたあの4人が集まれば、エクエスすらも、只の古びた歯車に過ぎんという訳だ!!」

「はは……。まぁ大変でしたけど、1年2組のみんなが無事で、良かったですよね……」

 

 乾いた笑い声を出しながら、ナーヤは当時を振り返った。

 

「カカッ。さてさて? そんな史上最強の魔王たるアノスを相手に、リオンごときがどう立ち向かうのか? いやはや楽しみではないか」

「……勝ってくれなきゃ困りますっ」

 

 ほっぺを膨らませてナーヤは言った。

 

「なーにを不機嫌になっているのだ、居残り」

「リオン君も熾死王先生も! 私にあんなことやこんなことやっといて、『何の成果も得られませんでした』じゃ困ります!」

 

 ナーヤは壁ドンやら肩ドンやらを何度も受けていた。エールドメードのお手本や、リオンの練習台として。

 エールドメードは言う。

 

「あーん? 始める前に話しただろう! やられる側にはやられる側の立ち振る舞いがあると! お前の訓練も兼ねているのだぞ!」

「うぅ……。難しいですよぉ……。まさか私、上手く丸め込まれただけじゃないですよね……?」

「さてさて、それはどうだろうな? そんな話をしている間に……着いたぞ」

 

 廊下を歩いていると、エールドメードがある曲がり角で止まった。ナーヤもそれに合わせて止まる。

 

「どうしたんですか、熾死王先生?」

 

 するとエールドメードは、ナーヤの肩を抱き、曲がり角の顔から二人でぴょこっと顔を出すようにした。

 二人の目線の先にいたのはリオンであった。長椅子に腰かけ、「ふぅ……」と一息つきながら、水筒の水を飲んでいる。

 エールドメードが言う。

 

「ククッ。初心者向けの魔法模型講座をやり終えた、遅咲きのリオンだぁ……! しかしリオン、それにナーヤよ。時間は待ってなどくれないぞ? リオンが本当に踏ん張らねばならぬのは、これからだぁ……」

 

 その言葉に応じるように、リオンに近づく男がいる。

 ただ歩くだけで絵となり、カリスマが溢れる美男子。

 リオンにとっては避けられぬ恋敵。

 暴虐の魔王アノス・ヴォルディゴードであった。

 ナーヤがビクッと震えてから小声で訊ねた。

 

「え、エールドメード先生……! 覗き見してて大丈夫なんでしょうか……!? アノス様に怒られるんじゃ……」

 

 ニヤリとした表情で、エールドメードは小声で答える。

 

「なーに、心配ない。このぐらいの覗き見を咎めるほど、魔王は狭量ではない。魔王に殺されるか殺されないかの境界線上をのらりくらりと歌って踊って舞ってきた、この熾死王を信じて堂々としているがいい」

「は、はぁ……。いよいよリオン君とアノス様の直接対決ってワケですね……!」

 

 まずは気さくに、アノスがリオンに声をかけた。

 

「よお、リオン」

「あぁ。アノス様」

 

 リオンに緊張の色は無い。明るく朗らかに返事をする。

 アノスが「隣いいか?」と言ったのにも、リオンは「ええ、もちろん」と快く返事をした。

 覗き見中のエールドメードがナーヤに問う。

 

「居残り。リオンが魔王と直接対決するとき重要なことが何だったか、覚えているかね?」

「はい。えぇっと。リオン君はアノス様の恋敵ではあっても、アノス様の敵ではないと、示さなければならない、思わせないといけない、でしたよね?」

「そうだぁ……。魔王の日常や平和を脅かす者と、思われてはいけない。魔王が追い求める平和を、より深淵へ近付ける者と、印象付けねばならないのだぁ……」

 

 長椅子に腰掛けたアノスが、リオンに話を振る。

 

「お前の魔法模型講座、中々よくできていたではないか」

「ありがとうございます。いつからご覧になられていたんですか?」

「最後の15分ぐらいからだ。俺にとって魔法は呼吸のようなものだからな。初歩を人に教えるとなると、中々どうして難しい」

 

 アノスは穏やかな声と表情で話し、リオンも淀みなく会話を続けていく。

 リオンが訊ねた。

 

「ちなみにですけど、アノス様が生まれて初めて<創造建築(アイリス)>で創ったものって、何だったんですか? 僕はキャットタワーでした」

「ん? そうだな……。覚えている限りでは……。人間の軍勢から魔族千人を守る為の城、だったか……」

 

 その後も朗らかにアノスとリオンは会話をしていく。ナーヤは胸を撫で下ろした。

 

「良かったー。リオン君、普通に話せてますね」

 

 そんな矢先、アノスが言った。

 

「リオンよ。教えるといえば……。お前は最近、エールドメードから何を教わっている? 二つ名も、石つぶてから遅咲きに変わったようだが」

 

 壁際に潜んでいたナーヤがビクッと震える。その一方、リオンは何も動揺せずに平然と答えた。

 

「ミーシャさんの友達として、恥ずかしくないだけの力を身につけたいと思ってます」

「ほう」

「口ではミーシャさんの友達だって言っていても、いざミーシャさんに悲劇や理不尽が降りかかったらアノス様に丸投げだとか、サーシャさんの魔眼の流れ弾で気絶だとか、そんなの情けないじゃないですか」

「ふむ……」

「弱くても、勝ち目がなくても、ミーシャさんの傍にいて、ミーシャさんの想いと、ミーシャさんが相見えるモノを見据えられる……。そんな友達でいたいんです」

 

 そんなリオンの答えを聞いていたナーヤは、違和感を覚えてエールドメードに訊ねた。

 

「あれ? 熾死王先生。リオン君はミーシャさんの恋人になる為に頑張ってるんですよね?」

「い・ま・は、友達なのだから、友達として頑張るというのは嘘ではないぞ? 嘘は言っていない」

「いやいや。そんな詭弁がアノス様に通じるはずが……」

 

 ナーヤがそう予想した直後、アノスは口角を上げて言った。

 

「なるほど。リオンよ、殊勝な心掛けだな」

「……あれ?」

 

 さらにアノスは続けて話す。

 

「俺が魔王聖歌隊の8人の名を覚えたときもそうだった。俺への愛をただ口にしている分には、奇っ怪な連中ぐらいにしか思わなかった。しかしあの8人が命懸けでエミリアから母さんを庇ってくれたとき、あの愛と忠義が本物だったと感服したものだ」

「そのエミリア先生のことも、いい意味で覚えるというか、認めるに至ってらっしゃいますよね?」

 

 エミリアの言葉に感銘を受けたアゼシオン勇議会が、エクエスの誘いを拒否して魔王軍に援軍を送ったことは、皆の記憶に新しい。アノスが答える。

 

「あの血の契約(ゼクト)は、身を二つに裂き、根源を賭すような想いでやり遂げたものだ。エミリア以外には出来まい」

 

 アノスは改めてリオンと目を合わせて言った。

 

「リオンよ。勝利だの滅びだのは、俺に多少任せてもよい。お前は、ミーシャの心を支えられる友となれ」

「はい!」

 

 そんなやりとりを見て、ナーヤは首を傾げ、エールドメードは「クククッ」と嗤った。さらに続けて話す。

 

「居残りよ。魔王はウサギなのだ」

「……うさぎ?」

「そうだぁ……。ミーシャというゴールの目前で、すやすや眠っているウサギだとも。そして、対するリオンは何だと思う?」

 

 数秒考えてから、ナーヤは答える。

 

「か……亀さん……?」

「そうだっ! リオンは必死にウサギの魔王を追う亀なのだっ! しかし、魔王を追うにあたって、ズッシズッシと騒音を奏でれば、魔王は目を覚ましてしまう! そこでリオンがやるべきなのが……。アレなのだァ……」

 

 エールドメードとナーヤが眼を向けた先では、アノスとリオンが穏やかに談笑している。

 そんな平和を見て、エールドメードは言った。

 

「平和な子守唄を聴かせておけばよい! 音を立てないように歩くぐらいならば! そうして魔王が平和な夢を見ている間に、ゴールしてしまえば良いのだ!」

「そう上手くいきますかね……」

 

 すると長椅子での談笑の最中、リオンがアノスに訊ねた。

 

「そういえばアノス様。『夢幻婚礼結界』は、もう利用されましたか?」

「いや。まだだな」

 

 『夢幻婚礼結界』とは、店主メリッサとリオンが提案し、アノスやミーシャの協力もあって完成させた、魔法模型生成装置である。

 限定魔法陣に2人の人物が立つと、その花嫁姿と花婿姿の魔法模型を、自動で生成するのだ。創られた魔法模型は時間経過で消えてしまうが、消える前に写真を撮ったり見て楽しんだりするのである。

 リオンはアノスに提案した。

 

「アノス様がミーシャさんを誘ってみてはどうですか?」

「ほう……?」

「友達同士、楽しくて良い思い出になると思いますよ」

「ふむ。平和が成った今、俺とて青き春の深淵には興味があるが……。迷惑ではないか? シンとレノ、レイとミサなどが使うなら、納得できるが」

「魔王聖歌隊の皆さんなんかね、女の子同士で使ってるぐらいなんですよ? アノス様のコスプレをしたヒムカさんが花婿側に立ったりして。お芝居やコスプレみたいなものと思えば全然迷惑じゃないですよ」

「そうか……」

 

 ナーヤはエールドメードに聞いた。

 

「熾死王先生。どうしてリオン君は、わざわざアノス様にあんなことを……?」

「フフン。情けは人のためならず、と言うだろう?」

「どういうことでしょう?」

「回り回ってリオンの為になる一手なのだ。アノスとミーシャという”友達同士”で『夢幻婚礼模型結界』を使うのが普通──ならば?」

 

 エールドメードがニヤッとした悪巧みの笑みをナーヤに見せた。

 

「リオンとミーシャという”友達同士”で『夢幻婚礼結界』を使うのも──普通のことと化すではないか」 

 

 ちょうどそのタイミングで、アノスはミーシャを誘いに行くことになったようだった。

 

「ではリオン。またな」

「はい、アノス様。ミーシャさんと撮った写真、見せに戻って下さいね。僕はもう少しここで休んでますから」

 

 そこへコツコツと音を鳴らして歩いてくる少女の姿がある。

 美しい金髪をツインテールでまとめた少女──。

 遅咲きのリオンの恋路において、最大の障壁──。

 

「あぁ、アノス。ちょうどその席、空くところかしら?」

 

 破滅の魔女でミーシャの姉、サーシャ・ネクロンは、アノスにそう問いかけた。

 

 

 

 

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