【完結】モブ男子とミーシャとアノス様【魔王学院10章】 作:生徒会副長
曲がり角の影で、ナーヤは震えていた。それはもちろん、遅咲きのリオンの恋路において最大の障壁、破滅の魔女でミーシャの姉、サーシャ・ネクロンが現れたからに他ならない。
「あぁ……。リオン君……。アノス様を凌いだと思ったら、今度は間髪を入れずにサーシャ様の相手を……。頑張って……!」
「クーックックック。中々愉しませてくれるではないか、遅咲きのリオンめ」
サーシャの問いかけに対し、アノスが答えた。
「あぁ。ミーシャを『夢幻婚礼結界』に誘いに行くところだ。座るか?」
「えぇ。私もリオンと話がしたいし」
「まぁ……構わぬがな」
フッと息を吐いてから、アノスは釘を刺した。
「妙なことはするなよ」
サーシャはニコニコして答えた。
「大丈夫よぉ。仲良くお話するだけだものぉ」
「なら良いが……。あぁ、そうだサーシャ。俺はな、しばらく静観することにした。俺が下手な真似をして枯らせてしまうには、リオンの可能性の芽は、いささか惜しい」
「ふぅん。そうなの」
サーシャが素っ気ない返事をすると、アノスは椅子から立ち上がって、二人に別れを告げた。
「ではな、リオン、サーシャ。また戻って来る」
「はい。いってらっしゃいませ。アノス様」
「またねー、アノス」
サーシャが笑顔で手を振り、リオンが会釈をした。
アノスの影が見えなくなったところで、サーシャの笑顔はリオンに向けられた。
「リオン。ミーシャの素敵な友達として、頑張ってるみたいね」
「ありがとうございますっ」
「……なーんて言い訳は、アノスには通じても、私には通じないわよ」
スッとサーシャから笑顔が消え、真剣な眼差しとなった。サーシャとリオンの目線が交錯する。
ほんのわずか、リオンの頭が後ろに下がるが、視線は何とか逸らさずに凌いでいる。
サーシャは一旦視線を外し、リオンに問う。
「あんたさぁ。まだミーシャのこと諦めてないの?」
「もちろんです」
「その割には、『夢幻婚礼結界』とかいう塩を敵に送るなんて、ずいぶん余裕じゃないの」
サーシャは、アノスが自発的にミーシャを『夢幻婚礼結界』に誘うようなことはしないと見抜いている。或いは、リオンとアノスの会話の一部を聞いていたのだろう。
リオンが答えた。
「最後に選ぶ権利があるのは、ミーシャさんですからね」
「はぁ?」
「アノス様と手を取り合う未来を覆い隠して、僕との未来しか見えなくする……。そんなズルい方法でミーシャさんの愛を勝ち取る気はありません」
「正攻法で勝ち目があるとでも思ってるのかしら?」
リオンは「ハァ……」と息を吐いてから答えた。
「僕が選ばれなかったなら、僕がその程度の男だった、というだけです」
「……よくそんな割り切りが出来るわね?」
「僕は魔王の恋敵です。魔王の敵と思われても仕方がないし、そう思われてしまう程の力や存在感を身に着けることに後悔はありません。でも僕は、アヴォス・ディルヘヴィアやエクエスみたいな敵になるのは御免ですよ。僕は平和が好きだし、ミーシャさんには笑っていて欲しいし、アノス様のことを尊敬しています。エールドメード先生は、残念がるかもしれませんが」
壁の影にて、そのエールドメード本人に、ナーヤは訊いた。
「そこのところ、実際どうなんですか? 熾死王先生?」
「ん? なんだ、居残り」
「その……。熾死王先生は、私やリオン君に……。アヴォス・ディルヘヴィアや、エクエスのような敵に、育って欲しいんですか……?」
「クククククク……」
エールドメードは口を手で隠しながら笑った。
「いかん。いかんぞぉ居残り。そんな話をされたら、持病の呼吸困難が悪化するではないか。クククククク……」
「……やっぱり答えてくれないんですね」
しゅん、とナーヤが落ち込んだところで、エールドメードが答えた。
「魔王に一度負けた雑魚なんぞ、もう一度育ててぶつけても、結果は見え透いているではないか」
「えっ……?」
「未知の敵や力、想いや概念を相手にしたときこそ、魔王はさらなる飛躍を遂げるだろう! 居残りのナーヤ。固定概念に囚われるな。俺が言った、敵だのライバルだのといった概念にすら、囚われてはならない。アヴォス・ディルヘヴィアにも、エクエスにもなれないし、なりたくないだと? 良い心掛けではないかっ! お前は、俺や魔王ですら想像もつかない、前代未聞、空前絶後の存在を目指すべきなのだっ! 過去をなぞったり、人の言う通りにする必要はない! 自分の意志で進むのだ!」
「は、はいっ!」
ナーヤの顔がぱっと明るくなった。
一方長椅子では、サーシャがリオンに問いかけていた。
「じゃあ何? あんたはミーシャとアノスが恋仲なり夫婦なりになったら、お祝いでもしてくれる訳?」
「……しますよ? 悔し涙ぐらいは流すでしょうけど」
「……ホントかしら?」
怪訝そうにサーシャはリオンを見つめる。リオンは真っ直ぐした眼をしたまま答えた。
「一緒に7カ月同じクラスにいたのに、『ミーシャさんの恋人になれないなら死んでやる!』とか、『僕を振ったミーシャさんなんて顔も見たくない!』とか、『僕の恋心を踏みにじった魔王と創造神に復讐してやる!』とか言い出す男だと思われていたとしたら、心外ですね」
「……まぁ、言われてみれば、そうね。お優しいことだわ」
サーシャがリオンにガンをつけているのは、あくまで『ミーシャに恋心を抱いているから』である。1年2組で7カ月、真面目に優しげに過ごしていた彼の姿を、サーシャは否定できなかった。
だがリオンは、エールドメードの元で、ほんのちょっぴりの悪戯心と狡猾さも学んでいる。
「そう言うサーシャさんは、どうなんです?」
「はぁ? 私に何が聞きたいのよ?」
「サーシャさんもアノス様のことが好きなのに、アノス様とミーシャさんが恋仲になったら、ちゃんとお祝い出来るんですか?」
「なっ……!? なぁぁぁぁ……ッ!!?」
サーシャの顔と眼が真っ赤に染まる。破滅の魔眼が発動していた。そのままサーシャは捲し立てるように口走った。
「なななな何を分かったような口を利いてるのかしら! リオンの分際でっ! べ、別に私とアノスはそういう関係じゃないんだからねっ!! 私は魔王様の配下であって恋だの何だのにうつつを抜かしてるようじゃいざってときにアノスの役に立てないじゃない! だいたい私とアノスの間にもし『そういうヤツ』があるんだったら私から言い出すなんてガラじゃないっていうか畏れ多いっていうかアノスの方から言ってくるのがスジじゃないかしら!? ……ってぇ! 私に何を言わせてるのっ!? 誘導尋問なのっ!? 馬鹿なのっ!?」
するとサーシャが話している途中で、リオンは顔を背けた。
「コラァ! こっちを見なさい! リオン・クローラー!」
「すみません。僕もナーヤさんやエールドメード先生に鍛えては貰ってますけど、まだそこまで長時間は耐えられないんですよ、破滅の魔眼」
そうリオンから言われて、サーシャは気づいた。激情に任せて捲し立てているとき、彼女は破滅の魔眼を発動させてしまっていたのである。
サーシャが冷や汗を一筋垂らしながら、リオンを今更気遣った。
「あの……。ちょっと……。大丈夫だったの……?」
「反魔法を全部引っ剥がされて、ちょっと頭痛と吐き気がするぐらいですね……。うーん……痛いです……」
リオンはこめかみに指を当ててそう言うが、これは相当な耐久力であった。
幼少期のサーシャが幼い魔族に使った際は、相手を1年昏睡させた。班別対抗試験でサーシャがエレン達8人に使った時は、一瞬発動させただけで8人全員を昏倒させている。エレオノールですら、破滅の魔眼有りのルールでサーシャと『にらめっこ』をするのは嫌がる。破滅の魔眼とはそれほど恐ろしいものなのだ。
「はぁ…… 。リオン、ちょっと手を出しなさい」
サーシャにそう言われ、リオンは訳が分からぬまま言う通りにした。するとサーシャは彼に手を重ね、魔法を発動した。
「<治癒(エント)>」
サーシャは攻撃魔法の方が得意ではあるが、伊達に破滅の魔女も破壊神もやってはいない。並の魔族よりも強力な<治癒(エント)>を使うぐらいは造作もない。
あっという間にリオンの魔力や反魔法、それに体調も回復した。
「……ありがとうございます」
「別に。壊したら片付けぐらい自分でしろって、アノスに言われてただけよ」
手を離し、サーシャは続けてリオンに問う。
「ねぇリオン。貴方がミーシャに告白した夕闇の丘で、私にとって何が一番気に食わなかったのか、分かる?」
「……サーシャさんと目を合わせて話さなかったこと、でしょう?」
「そうよ。私はミーシャで、ミーシャは私だもの。私の眼を見て話すことも出来ないような奴に、可愛い妹を、ミーシャを渡す気はないの」
サーシャの碧い眼が、リオンに向けられる。リオンは目を逸らさない。
「今日はだいたい、目を見て話せてるわね。今も目を合わせてる」
「アノス様の足元にも及びませんけどね」
「でもまぁ、アノスにも非はあるのよ。私達の魔王様は、いつまで寝ぼけてるのかしらね」
「目を醒まされると、僕の勝ち筋が無くなります。僕は平和な子守唄でも歌わせてもらいますよ」
「リオン。私ね、けっこう朝寝坊するのは好きなのよ」
リオンは目をパチパチさせてから訊ねた。
「……何の話ですか?」
「破壊神だった頃は、エクエスが仕込んだ歯車のせいで、やりたくもない早起きをさせられて、やりたくもない破壊の秩序のお仕着せをさせられてたワケよ。今は思う存分、学院に遅刻しない程度の朝寝坊をさせて貰ってるわ」
「話が見えませんが……?」
サーシャは観念したように「ハァ……」と溜め息をついてから言った。
「平和な子守唄を滅ぼすなんて、ガラじゃないって言ってんのよ」
「えっ……。じゃあ……!」
リオンが目を輝かせるが、サーシャの目線は鋭いものだった。
「勘違いしないでよね! まだ貴方のことを、認めた訳じゃないわ。ミーシャと一線を超えようとするときは、また私は貴方を試すわよ。破滅の魔眼なり、<獄炎殲滅砲(ジオグレイズ)>なり、<破滅の太陽(サージエルドナーヴェ)>なりでね!」
「<破滅の太陽(サージエルドナーヴェ)>は流石に無理では??」
「そ、それぐらいの覚悟を持ちなさいって言ってんのよ!」
バツ悪げにサーシャはプイッと顔を逸らす。そして小さめな声、しかし確かに言った。
「まぁ……。精進なさい」
「ありがとうございますっ」
リオンが会釈したところで、アノスとミーシャがやってきた。
「ようリオン。サーシャとも、中々打ち解けたのではないか?」
「呑気なこと言ってるわ……」
サーシャが呆れ気味な一方、リオンはミーシャに訊ねた。
「ミーシャさん。良い写真は撮れた?」
コクコクとミーシャは頷き、1枚の写真を見せる。ミーシャが空のように澄んだ薄水色のウェディングドレスを、アノスが威厳ある黒のタキシードを着て並んでいる写真であった。
実際にアノスやミーシャがこんな衣装を着た訳ではない。『夢幻婚礼結界』が創った、精巧な魔法模型を撮っただけだ。
「へぇ。綺麗ですよね、サーシャさん」
「えぇ。ほんと、よく似合ってるわよね……」
リオンとサーシャがそんな感想を話す。ミーシャの頬は少し桃のように赤らんでいた。
するとリオンは提案した。
「じゃあミーシャさん。次は僕と一緒に『夢幻婚礼結界』に入ってくれないかな。それに、アノス様はサーシャさんと入られてはどうです?」
するとサーシャは「なっ……ハァ!?」と素頓狂な声を上げ、顔を赤くした。
アノスが問いかけた。
「なんだサーシャ。お前も入りたかったのか?」
「そそ……それはっ、その……」
サーシャは歯軋りしながらリオンを睨む。
(リオンっ! こっちにはこっちの順序とか心の準備があるのよっ! そりゃ『夢幻婚礼結界』に入らないまま個展が終わるよりマシとはいえ、お節介もいい加減にしなさいよねっ!!)
そんなことをサーシャは思っているが、口には出さない。
一方で、ミーシャはアノスに訊ねていた。
「アノスは……。気にしない?」
「俺とミーシャで入ったものなら、リオンとミーシャで入ってもおかしくあるまい? 所詮青き春の遊びだろう?」
アノスは完全にリオンやエールドメードの筋書き通りのことを口にしてしまっている。それに合わせて、リオンもサーシャをなだめた。
「サーシャさんもそんな険しい表情せずに、気軽に楽しく入りにいけばいいと思いますよ」
そしてアノスも訊ねた。
「なんだサーシャ。俺と一緒では不服か?」
「うぅ〜〜……」
恥ずかしげに縮こまりながら、とうとうサーシャは小さな声で言った。
「アノスと……。入りたいわ……」
「よかろう」
スッとアノスは、座っているサーシャに手を差し出す。
「そら。行くぞ」
「うん……」
サーシャはその手を取った。それを見てからリオンも自ら立ち上がる。
いま繰り広げられたのは、アノスとサーシャの甘酸っぱい恋模様。
しかし、ミーシャに本気で恋して、エールドメードから師事を受け、ナーヤを相手に度胸を身に着けたリオンは、この機を逃さない。
「ミーシャさん。僕たちも、手を繋いで行かない? これから結婚式ごっこみたいなことをしに行く訳だし」
アノスとサーシャは『まだ』恋仲ではないのだから、この二人がやっていることは、リオンとミーシャがやっても許されるのである。
ミーシャはチラリとアノスの方を向いてから、リオンを見た。
「うん……」
そしてミーシャは、リオンの手を取ったのだった。
端から見れば、2組のカップルが手を繋いで歩いているかのような光景が出来上がったのである。
一部始終を見届けたエールドメードはにんまりと口に笑みを浮かべた。
「な・か・な・か……やるではないかっ! 遅咲きのリオンめ! 破滅の魔女すら見事に手玉取り、魔王も未だ平和な夢の中で寝たままだ! カーッカッカッカ! これは存外に? 意外に? 想定外に? 一度きりのレースとはいえ、あの遅咲きが勝ってしまうかもしれんぞ!?」
「し……熾死王先生!」
舞い上がりそうな勢いのエールドメードに対し、ナーヤは真剣に、されど目を潤ませて何かを伝えようとしている。
「ん? 何かね、居残り」
「わっ……私と一緒に……『夢幻婚礼結界』に……。入って、くれませんか……?」
エールドメードはニヤケ顔で問い返す。
「ククッ、その心は?」
「熾死王先生は最近、リオン君を特に目にかけてますよね……?」
「んー? まぁ否定はせんが?」
「先生には、私のことも、見てて欲しくて……。いつまでも、私の先生でいて欲しくて……」
泣かないギリギリまで涙をわざと溜めて、されど不安げに、ナーヤはエールドメードに上目遣いをする。
「ダメ……ですか……?」
エールドメードはナーヤに顔を近づけて答えた。
「カカッ。いいだろう居残り! この熾死王の魔眼で、花婿役として、お前の花嫁役の姿をじっくりを見させてもらうとしよう!」
「は、はい!」
「手を繋ぐかね?」
「そ、そうですね……! リオン君に倣って……!」
エールドメードの長い腕が、小柄なナーヤに差し出される。ナーヤは笑顔で彼の手を取った──。
──※──
『夢幻婚礼結界』を利用し終えたリオン・ミーシャは、アノス・サーシャと写真を見せあった。
リオンがアノスとサーシャの写真を見て目を輝かせた。
アノスは再びタキシード姿。サーシャは赤らめた頬と似た薄桃色のウェディングドレスを着ている。本人が着たのではなく、こういう魔法模型が成形されただけだが。
「アノス様とサーシャさん、よくお似合いですね!」
「はいはい。お世辞がお上手だこと」
サーシャはそう言ってリオンをあしらうが、表情は少し綻んでいた。
「サーシャ、似合っているぞ」
しかし、アノスに同じことを言われるとポッと顔を赤くするのだった。
「だっ……伊達に長いこと……アノスの配下をしていないもの……」
「くはは。そうかそうか」
サーシャとアノスのそんなやり取り続いて、リオンがアノスに訊ねた。
「僕とミーシャさんの写真は、どう思いますか?」
アノスは写真をじっと見つめて、
「ふむ。よく似合って──」
と言いかけたところで言葉を切り、軽く目を細めた。
「……。アノス……?」
ミーシャが不安げに名前を呼んだところで、やっとアノスは口を開いた。そして、
「……たまにはこういう遊びも……。悪くはないな、リオン」
彼はそう言い直したのだった。
リオンはバツ悪そうに頭を掻いた。
「あはは……。そう、ですね……。じゃあ僕はそろそろ……運営の当番があるので、一旦失礼します」
「私も講座の時間」
リオンと、続けてミーシャがそう言った。リオンが先ほど講師をしていたのは初心者向け講座、これからミーシャが講師をするのは上級者向け講座である。
サーシャがアノスに言う。
「あぁ。そういえば私、ミーシャの講座受けたいのよね。アノスはどうする?」
「ふむ。受けて腕が上がる訳でもないだろうしな……」
アノスとミーシャが一対一で切磋琢磨し合うなら有意義である。しかしミーシャが大人数向けに話したり教えたりする程度の内容は、アノスからすれば眠くなるような内容と思われた。
「適当に会場内を歩いて回るとしよう。そのうち話し相手も見つかるだろう」
アノスはそう答えたのだった。
──※──
アノスと十分離れたことを確かめてから、サーシャは柱の陰に入って、妹に呼びかけた。
「ミーシャ。ちょっとこっち来て。そんなに時間は取らないから」
ミーシャは立ち止まり、目をぱちぱちさせてから、姉の傍、同じ陰に入った。
サーシャが問う。
「正直……ミーシャはどうなの? リオンかアノスかの二択」
ミーシャはポケットから2枚の写真を取り出して、じっと見つめる。
片方はリオンと並んで撮った花嫁衣装。もう片方はアノスと並んで撮った花嫁衣装。
ミーシャは諦めたようにスッと目を閉じ、小さく首を左右に振る。
「まだ……。自分じゃ、選べない……」
「まぁ……そうでしょうね……」
リオンの、命を燃やすが如き情熱的な愛に応えるか。
アノスの、全てを包むような優しい愛を情愛の域へ深めるか。
ミーシャはまだ答えを出せずにいる。
「サーシャは? 私がリオンを選んだら……怒る?」
不安げに妹からそう聞かれ、サーシャはあっけらかんと答えた。
「いや……。私が怒ったり試したりするとしたら、生半可な力と覚悟でミーシャの手を取ったリオンに対してであって、ミーシャの選択に対して怒ることは無いわよ? その点、アノスだったら私が試す必要は全くないんだけどね?」
「でも……。サーシャは……アノスのことが好き」
ミーシャとリオンが結ばれ、サーシャとアノスが結ばれれば丸く収まるのではないか。そんな計算が言外には含まれていた。それは、パズルを組み立てるような、歯車を噛み合わせるような計算。
対するサーシャは、ポケットから写真を取り出して目を向ける。それは、アノスと共に撮った写真。自らの花嫁姿だ。
さすが双子といったところか。さっきミーシャが見せたのと同じように、彼女は諦めたようにスッと目を閉じ、小さく首を左右に振る。
「そりゃあねぇ……。この写真通りになればいいと、思うわよ? でもね? 七億年『破滅の太陽』の中で過ごして、恋に恋して拗らせた女の子として、最後に叶えたい夢があってね」
「なに?」
「あなたにしか言わないわよ」
すぅっと息を吸ってから、サーシャはゆっくり口にした。
「私ね。告白したいんじゃなくて、告白されたいのよ」
ミーシャは目を丸くして、ぱちぱちさせた。それに構わずサーシャは話す。
「ありきたりなシチュエーションとか台詞とかでいいの。『世界で一番愛してる』とか、『絶対に幸せにしてみせる』とか。愛してる人に、魔王様に、そう囁いて欲しいのよ。私から言い出すんじゃなくてね」
サーシャはどこか遠くへ目線をやって話し続ける。
「叶うはずがない夢が、いくつも叶ったわ。花の形も、山の雄大さも、喜びや嬉しさも知ることが出来た。皆が、世界が優しく、笑っているところを、見ることができた」
サーシャは改めてミーシャを見据えて言った。
「ここまで来られたなら。どうせなら。最後まで強欲に、全部叶えたいじゃない。私から告白しちゃったら、魔王様からの告白が聞けなくなっちゃうわ」
しかしそこまで言ってから、サーシャは自嘲気味に「ふっ」と嗤った。
「ま、単なる臆病者と言われたら、言い返せないし? 将来的には、私がしびれを切らしちゃうかもしれないけどね」
「その点、リオンはすごい」
「まぁ、そうね。あの勇気だけは認めてやろうかしら」
サーシャは「はぁ……」と溜め息をついた。それは、自分の臆病さに対してか。それとも、リオンの蛮勇に対してか。
サーシャはまた口を開いた。
「ミーシャはどっちでもいいのよ。焦る必要はないし、私に遠慮もしなくていいんだからね」
「……うん」
「さ。行きましょ」
柱の陰からサーシャはサッと出る。遅れて、どことなく重そうな足取りで、ミーシャはそれに続いた。
「私は……どうすれば……」
ミーシャは2枚の写真を見つめて、そう人知れず呟いた。