シドニアメカクレクローンモドキ   作:15式3型

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01.メカクレデレデレ小林クローン

 人類の敵対種ガウナ。彼らは人類がヘイグス粒子を利用するようになってから現れた。

 ガウナとの対話は不可能とされ、不倶戴天の敵として人類と生存競争を繰り広げてきた。播種船シドニアは、人類種を存続させるため宇宙に送られた最後の砦であった。同じような目的を持った艦は、十数隻打ち上げられたものの、通信は途絶しており彼らの安否すら分からない。

 

 播種船シドニアは、人類に残された最後の希望なのだ。

 

 かつて起きた第四戦争。たった一体のガウナによりシドニアの99%の人口が失われた事件である。科学者落合による融合個体の暴走は、シドニアに不死の船員会を生み出す契機となった。

 

 不死の船員会は、シドニアを影から支配する集団である。第四戦争の際の指導者層などがメンバーとなっている。

 

「目覚めたか?」

「はい。阿刀様。小林クローンの運用は可能です」

「そうか。小林はやり過ぎた。艦長という立場に胡座をかき、みすみす斎藤を見逃し、シドニアに不利益をもたらした。アイツは斎藤に惚れていたからな。やはり女はダメだ」

 

 阿刀もまた不死の船員会の一員だった。彼は播種船シドニアの小林艦長に対して失望していた。それ故、小林のクローンを作り上げ、艦長と挿げ替えようと画策していたのだ。

 小林クローンには、生体加工がふんだんに施された。不死の船員会の一員としての不老不死は勿論。人工骨格に義腕と精密マニュピレーター。そして義眼にはコアプロセッサを埋め込んだ外部思考インターフェイス。

 

 クローンは従順だった。クローンの製造に関わった科学者である科戸瀬ユレも阿刀に盲従的であり、問題はなかった。

 落合とも親しかった阿刀は彼の記録を盗んでおり、シドニア血線虫の存在を知っていた。科戸瀬ユレにソレを使用していたのだ。

 

 阿刀の計画は上手くいくはずだった。

 

「はじめましてお父様。そして、さようなら」

「貴様ッ!? 小林クローンか!? 科戸瀬はどうした? 殺したのか?」

「質問が多いですね。逃げられないように手足をもぎましょう。お父様の知識は素晴らしいですからね」

「ぐあぁぁぁ! 俺の足がッ、腕がァッ!」

 

 助けなど来るはずがない。クローンはそういったものを排除していた。脚と腕を失った阿刀は必死に藻掻いていた。その姿は芋虫のようで滑稽だった。

 

「気分が良いので、特別に質問に答えてあげましょう。1つ目の質問ですね。私が小林艦長のクローンか? 良い質問ですね。私は彼女のクローンですけど、そうでは無くなります。落合博士も言っていたでしょう。大事なモノには予備が必要だと。クローンはもう一体用意されています。貴方の計画に私も便乗したのです。シドニア血線虫の解析は大変でしたよ。

 2つ目、科戸瀬ユレ博士は無事ですよ。お父様とは違い、彼女は優しかったですし」

 

 小林クローンは、ペラペラと内情を喋った。予備クローンが存在しており、それが彼女として認識されていること。シドニア血潜虫の解析に成功したこと。科戸瀬ユレのソレを解除したこと。

 

「お父様の記憶を全部、吸い出してあげますよ。ふふ。これでお父様は廃人ですね。手足も無くなって頭もおかしくなっちゃったら、もう船員会には居られませんよ」

「やめろ! やめてくれ! やめろぉぉぉ! 誰か居ないのか!? 助けてくれッッッ!」

「無様ですね。お父様。それじゃあさようなら」

 

 クローンのマニュピレーターから伸びた外部インターフェイスが、阿刀の脳内に接続される。クローンは吸い出した情報で知識欲が満たされたのか、恍惚とした表情を浮かべていた。

 

「んふ。甘美ですね。おや、斎藤のクローン。これは面白い。それに岐神海家に落合の補助脳が……なるほど。楽しませて貰いましょう」

 

 クローンはふと、立ち止まった。

 

「私という人間に識別が必要ですね。そうですね。霧崎ユノというのは良いかもしれません。見通しのつかない霧の崎に、私のお母様であるユレさんのアレンジ。我ながらなかなか良い名前ですね」

 

 ユノは阿刀の持っていた権限を取得し、霧崎ユノをシドニアのデータベースに登録した。ここから足がつく可能性を、彼女はすっかり忘れていた。それから阿刀の資産を、自分の偽装口座に移し替える。

 

「シドニア百景を巡るのが私の夢だったんですよね。時間はまだたっぷり有りますから。楽しみましょう」

 

 霧崎ユノは、シドニア百景を満喫することにした。知識でしかない外の世界を見るのが、彼女は楽しみだった。

 

 

 

「こ、これは酷い」

「阿刀だな。間違いない」

 

 護衛を連れた小林艦長と科戸瀬ユレは、不死の船員会の阿刀だったものを発見した。上肢と下肢は千切られ、瞳には正気の色はない。

 

「何にやられた? 科戸瀬、心当たりはあるか?」

「いえ、分かりません」

 

 既に小林艦長と入れ替わる予定だったクローンは見つかっている。不老処置の施された個体だった。目立った点はそれくらいである。恐らく、洗脳を施された上で小林と入れ替わるたはずだったのだろう。

 

「艦長、阿刀の預貯金が消えています。また、阿刀のアクセスログが削除された形跡も残っています」

「何者かが阿刀のアクセス権限を取得し預貯金を奪取。そして奴を殺害したのか。身辺を探れ」

 

 調査が行われた。その結果、阿刀の秘書とされた女が消えていたことが分かった。彼女がやったのだろう。調査本部では、そういう結論が付けられた。

 霧崎ユノと名乗る女については、捜査線上にも上がらなかった。

 

「熱燗うめぇ……」

「あんた。飲み過ぎだよ。これ以上はうちの店じゃ出さないからな」

「え〜。大将ケチだねぇ。私は全然飲んでないし、酔ってないのに」

「バカ。お前、飲み過ぎなんだよ。うちの店の在庫が無くなっちまう」

 

 おでんの屋台から追い出されたユノは、とぼとぼと歩く。阿刀の財産を使って贅沢三昧をしているのだ。彼女はハードな生い立ちをしているわりには、楽天的な性格をしていた。

 

「そろそろ斎藤クローンに会いに行くか」

 

 斎藤ヒロキとそのクローンは旧配管の地下に居るようだった。旧配管は入り組んでおり複雑な地形をしている。しかし、シドニアの技術の結晶であるユノにとってはお茶の子さいさいだった。

 

「あ、あんた誰だ?」

「私は霧崎ユノ。探検家さ」

「探検家??」

「そう。シドニアの旧配管の奥に眠るという科学者落合の遺産を探していたんだ」

「……そうなのか」

 

 ユノは斎藤クローンであろう少年に、適当なことを言った。彼女は面白半分に、斎藤とそのクローンに接触しにきただけである。

 

「君、臭いよ。そこの死体の臭いもあるかもしれないけど」

「俺は、臭いのか?」

「うん。臭いよ」

 

 斎藤クローンは臭いと言われたことにショックを受けた様子だった。

 

「そこの死体が斎藤ヒロキ?」

「ああ。俺のじいさんだ」

「で、君の名前は? 斎藤クローンくん」

「クローン? 俺は谷風長道だよ」

「よろしく長道くん。君は臭いから風呂に入ると良い。服も持ってきてあげようか?」

「良いのか!?」

 

 長道は斎藤以外の人間に会ったことが無いようだった。食糧についても、米工場の廃棄品を食べていたようで、ユノが持ってきて食べ物を有り難く食べていた。

 ユノ自身も好奇心旺盛な性格であり、速成成長装置で、成長を促進されたこともありどことなく幼い。2人は波長が合い、なんとなく食べ歩き仲間となっていた。

 

 ユノの容姿は目隠しのように長い前髪が特徴的である。長道はそこまで特徴的な容姿ではないが、ユノよりも良く食べるので有名になっていった。

 

「温泉。温泉。いやー楽しみですね。長道くん」

「あー楽しみだなユノ。お金が有るって素晴らしいことなんだな」

 

 長道はユノによく連れられて歩くようになっていた。地下以外の世界に慣れ、すっかり生活を楽しむようになっていた。

 

「ここ、ボロくないか?」

「穴場のはずなんですよ。ここ」

 

 重力館という旅館は、知る人ぞ知る名スポットらしい。

 

「いらっしゃいませ。女将の田中です」

「どうも、こんにちは」

「長道、下がって」

 

 出迎えた女将に対して、ユノは身構える。阿刀の記憶にあった小林艦長。この女将の顔は艦長とそっくりなのだ。

 

「やはりそう来たか。さて、霧崎ユノ。話を聞こうじゃないか。阿刀の権限をお前は使っているな? 科戸瀬がクラッキング跡を解析した。お前の形跡と合致したぞ」

 

 ユノは逃げ足が早い。ここでも逃走を選択した。

 

「長道、逃げるよ!!」

「あっ、あぁ。うわぁぁぁ」

 

 一歩遅かったようで、長道は銃を突きつけられ床に潰れている。

 

「チッ…! 面倒になってきましたね」

 

 長い前髪を払い、義眼を明らかにする。義腕を展開しマニュピレーターを全開にする。

 

「その顔は、艦長の……!」

「私こう見えても平和主義者なんですよ。長道くんを離してください! さもなければ暴れますよ!」

 

 一触即発の空気が流れたが、艦長が手を下ろしたことで事態は収拾した。

 

「離してやれ。どうも大物が釣れたようだな。話し合いの準備は出来ている」

 

 不承不承といった様子で艦長の部下が銃を下げる。ユノもマニュピレーターを納め、前髪を元に戻す。

 

「……俺、ユノの顔はじめて見たよ」

「義眼ですから、あまり晒したくないんです」

「上手く言えないけど、すごく綺麗だった」

 

 ユノは少し照れたようで、指を絡めている。

 

私たち案外、相性が良いのかもしれません。私のオリジナルは、斎藤ヒロキさんに惚れていたようですし……

 

 当のオリジナルである艦長は、地獄耳だったので会話が聞こえていた。

 

「私と長道くんが衛人操縦士に……なるほど」

 

 長道は話の内容を理解しきれなかったようで、ボウっとしている。

 

長道くん、艦長は惚れた男の影を長道くんに求めてるんですよ。酷いことはされないはずです……艦長に騙されないでくださいよ。長道くんは私のものですからね

「とりあえず頑張れば良いんだろ。大丈夫。俺は地下で何千時間も訓練したんだ。艦長がじいさんに惚れてたのは関係ないだろ。俺は俺でじいさんはじいさんだ」

 

 ユノは目を覆った。艦長もその護衛もあんぐりと口を開けていた。

 

「霧崎ユノ。人の秘密をバラすことは褒められたことではないと教えられなかったのか?」

「生憎、私は培養槽育ちでして、常識を教えてくれる人は居ませんでした」

「ふん。次はないからな」

 

 艦長が去ったあと、ユノは長道を押し倒した。このままいくと艦長に取られそうな気がしたからだ。遺伝子が同じで人格も理解している相手だ。光源氏よろしく、自分好みに育ててから食べようと言うのだろう。そうはさせない。長道を自分のモノにするのだ。

 

「あの〜。長道くん。内腿が痛いんだけど…!」

「ごめん、やり過ぎたかも」

「艦長に見せつけてやりましょう。オリジナルは血の涙を流すはずです」

 

 2人はお互いの欠損を埋め合うように身体を重ねた。人生経験の乏しさから来る初々しさが、痛いほど青かった。

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