シドニアメカクレクローンモドキ 作:15式3型
操縦士学校で霧崎ユノは抜群の成績を収めた。そもそも彼女は人間としてのスペックが一般人よりも遥かに高い。岐神海苔夫がいかに訓練を積み上げたとしてもスペックの差が大きすぎた。
「長道くん、散々な結果じゃないかぁ。ほれほれ」
「これは、継衛じゃないからだよ」
2人は露骨にいちゃついていた。ユノは人間社会に慣れていたし、長道が孤立するようなことは無かった。ユノの身体改造された肉体は本人が認めない限り妊娠することはない。
ということで長道とユノは思う存分セックスしていた。
継衛を与えられた長道は、水を得た魚の如く活躍した。それを岐神海苔夫は憎々しく思っていた。
「岐神くん。君が憧れていた継衛は長道くんのものになったけれど、そこら辺はどうなのかな?」
「霧崎か。俺はそんなものに興味はない……」
「嘘だよね。岐神くんは、子供の頃からずっと継衛に乗りたかった。そのために努力してきた。それをぽっと出の谷風長道に奪われたんだ。苛つくよね」
岐神は、ユノの言葉に怒りを隠せなかった。
「俺は谷風より優れている! 霧崎、お前もいずれ越えてやる! せいぜい吠え面をかいていろ!」
「まあまあ。人の話は最後まで聞くものだよ。岐神家に隠された秘密を君は知っているのかな?」
「秘密だと?」
聞いてはいけない。奴の甘言に乗るな。そう岐神の冷静な部分が告げる。
「岐神家には、天才科学者落合の補助脳と、彼の実験室が隠されている。私をそこに案内してくれないか? そうすれば私は君に首席の座を譲るし、然るべき筋に口添えする。案内するだけで良いんだ」
魅力的な提案だった。霧崎ユノを落合の実験室に案内するだけで、岐神には名誉と憧れていた継衛が手に入るのだ。
「断る。俺は谷風の女に縋ってまでも継衛に乗りたい訳では無い。俺は俺の意思でシドニアを守る!」
「ふーん。じゃあ、私は私のやり方を取るよ」
ユノの義腕が展開し精密マニュピレーターが、岐神に伸びてくる。
「何をする!? 俺を殺す気か?」
「そんな物騒なことはしないよ。岐神くんには、私を落合の研究室に招き入れたくなってもらうだけだよ」
「クソッッ、やめろ!!」
「無駄だよ。はい、チクっとな」
落合の研究していたシドニア血線虫。その要素を引き継いだ薬品は強力なものだった。一時的に投与者の思考を歪めることが出来る。
「海苔夫くん海蘊ちゃん有難う。でも、2人とも着いてきて貰おうか」
ゾンビのように歩く2人を引き連れて、ユノは落合の研究室に入る。ユノの頬に裂傷が出来た。そして彼女は身体が動かなくなったことを知覚した。海苔夫と海蘊も同じように倒れ伏す。
3人の眼球にシドニア血線虫が潜り込もうとしていた。
「やはりシドニア血線虫ですか。芸が無いですね」
ユノの義眼は外部インターフェイスのプロセッサだ。人工骨格を応用し、毒物を急速に解毒することが可能となっている。潜り込もうとするシドニア血線虫を、握りつぶして踏み殺した。
「それで、どちらに落合が入ったのでしょう?」
海苔夫と海蘊はユノにより拘束されていた。ガチガチに拘束されており動くことは出来ない。
「お目覚めですか? 落合博士?」
「お前は、小林のクローンか?」
髪を上げ艦長と同じ顔を晒したユノは、落合の問いに口角を上げる。
「流石落合博士。現状の把握が早いです。お父様の記憶に有った通りですね」
「お父様…? 僕のことをよく知っているとなると阿刀か…?」
「正解です。頭が良い方は話が早くて助かります。私は小林艦長の遺伝子を受け継ぎ、生体強化を施され、阿刀の記憶を受け継いだクローンです」
「要求を聞こう」
「素直ですね。お父様の記憶に有った貴方なら、私の裏を掻こうとするはずなのに」
落合は勿論、そのことを考えた。しかし生身である岐神海苔夫の身体では義体化されている霧崎ユノには勝てない。岐神海蘊と2人がかりで襲ったとしても結果は同じだろう。
「シドニアを滅ぼしかけたのは確かに落合博士です。しかしシドニアを救えるのも落合博士以外に居ません。私と手を組みませんか?」
「く、くははははっ。面白いな。トクシーヌ。お前はどう思う?」
落合の部下であり海蘊に寄生したトクシーヌは、落合の望みのままにと答えた。
「良いだろう。その要求を呑んでやる。この私がシドニアを救ってやろう」
「ええ。契約成立ですね。貴方には人工カビの製作と、新素材の研究、融合個体の研究を行って貰います。融合個体はあくまで武器です。私は阿刀の記憶から、貴方がナルシストなことを知っています。究極の生命など馬鹿げたことを言い出すようなら、貴方を殺しますよ」
「手厳しいな」
「私の前で生殺与奪を握られてる人間が、シドニアの全住民よりも優れてるなんて思えませんからね」
「ふっ、ふはははは。なるほど実に興味深い」
岐神邸から帰ったユノは長道を伴い、艦長に面会を求めた。艦長は、仮面を放り投げると、苦虫を百万匹ぶち込まれたような表情を浮かべていた。
「ユノ、落合って奴は封印されるくらい悪い奴なんだろ。利用できるって考える方が間違いなんじゃないか?」
「長道の言う通りだ。霧崎、お前の独断専行によりシドニアを危険に晒した。何かしらの処分が必要になる」
小林は必死に艦長の仮面を被ろうとしていたが動揺のあまり、上手く付けられていなかった。
「艦長はシドニアのエースであり、谷風長道の恋人である私を処分すると? シドニア血線虫についての情報を齎した英雄ですよ! 私はあなたの可愛いクローンですよ! 自分殺し!」
「艦長! ユノはシドニアのためを思って行動したんです! どうか寛大な処分を!」
小林艦長は若干青筋を立てながらも、ユノに処分を下さなかった。自分のクローンが惚れていた男のクローンといちゃついているという状況は、冷静な館長をしても、苛立たちを抑えられないものだった。
しかし艦長は700年の年月を重ねている。彼女は自分の感情を抑えることができた。
「良かろう。功罪を加味して処分は無しとする。シドニアのためせいぜい励むと良い」
霧崎ユノの罪は曖昧になった。艦長は落合を利用することに決めた。手始めに自分に反抗する不死の船員会メンバーを処刑した。それから、独裁体制を敷くことを決定した。
「人工カビの弾丸って、最高ですね。遠距離からガウナをぶっ殺せるのは快感ですよ!」
「これさえ、有れば星白も死ななくて済んだのに……」
星白閑は、霧崎ユノ、岐神海苔夫につぐ操縦士能力を持っていたが、仄練を庇い死亡している。
長道にとって、彼女は良い友人だった。
【ガ490確認! 通常個体より3倍の速度です!】
小シュガフ船から出現した、衛人型のガウナ。ガ490は通常のガウナの3倍の速度を持っていた。ヘイグス砲を持ち、機動的な戦闘が可能なガ490は、衛人を圧倒した。
「バカな!? 早すぎる! ぐわぁッッッ!」
〘ホシジロ、イッキゲキハ〙
「……星白閑を取り込んだガウナか。長道くんやるよ!」
「行こう! ユノ!」
外部プロセッサである義眼は、霧崎ユノの体感速度を何倍にも引き上げる。通常の生体よりも多い20本の義指が、機体に高速で入力を叩き込む。
「星白が何だッ! 大人しく死んでおけッ!!」
〘きゃっ〙
史上最高の衛人操縦士である斎藤ヒロキ。そのクローンである谷風長道も性能を遺憾無く発揮した。
「ガウナ! 俺の友達を侮辱するような真似は許されない!! 落ちろぉォォ!!」
2機の衛人は、ガ490を圧倒した。その様は正に比翼連理だった!
「落ちろ! ガウナァァ!」
ユノの狙撃が、ガ490のヘイグス砲を破壊する。ヘイグス緩衝爆発がガ490を襲った。
「うおぉぉっッ!!」
人工カビ刀を構えた長道が、露出した主本体に斬りかかる。コクピットを模したガウナの胸部からは操縦士らしきモノが覗いていた。長道は、思わず軌道を逸らしてしまう。
切断された操縦士型のエナが、宇宙空間に浮かんだ。
「クソっ! 主本体がッ!」
「私も居るからね! 消えろガウナァぁぁ!」
ユノの狙撃が、ガ490の主本体を貫いた。
【ガ490泡状分解を確認しました!】
歓喜の声が、シドニア中に響き渡る。操縦士の詰所では、各々が抱き合って喜んでいた。ガ490という異質なガウナを討伐したのだ。これは、紛れもなく朗報であった。
「ヒトガタのエナか。これが、融合個体の母体になるとはねぇ……」
殉職した山野栄子の不完全な人型エナを、霧崎ユノは目敏く確保していた。それを落合に提供した成果が、この結果に繋がったのだ。シドニアは確実にガウナに対抗できるチカラを手に入れつつ有った。