カズミは必死に走ってそれが藍色に染まった頃に家まで辿り着いた。
「……カズミくん? 」
獣人は家の前で待っていたようだ。カズミの姿を見かけるや否や走ってカズミのほうへ飛んでくる。
「僕言ったよね? 日が暮れるまでに帰ってきてって?」
獣人は怒る。その目は真剣だった。
「……! 、カズミくん北側行ったでしょ」
獣人はカズミの匂いを嗅いだ後、問い詰める。カズミはドキッとする。行くなと言われたのに北側に行ったのは自分だ。十中八九カズミが悪い。
「ごめんなさい」
カズミは謝る。獣人の忠告も聞かずに自分勝手な理由で北側に行ってしまった。
「カズミくんから嫌な匂いする、
アイツとはあのサキュバスのことだろう。獣人はカズミが襲われるかもしれないと思って行くなと言ったのだとカズミは気づいた。そう思うとますます獣人に申し訳なくなってくる。
「シャワー今すぐ浴びてきて」
「わかりました」
獣人は殺気立っていた。どうしてかはわかる、カズミが襲われかけたということに怒りを感じているのだろう。
カズミがシャワーを浴びて出てくると獣人はいなかった。机の上には置き手紙が置かれてある。
『カズミくんへ、少しだけ出かけるから絶対に家から出ないでね』
ボールペンで書かれたであろう文字はにじんでおり、相当な力を込めて書いたのだと考えられる。カズミは獣人のことを裏切ってしまった気がしてならなかった。
獣人は街の北側に向かっていた。カズミを襲ったサキュバスを殺すためだ。
「僕の、僕の大切なカズミくんを……。許さない」
道に残ったカズミの匂いをもとにカズミが襲われたであろう場所へと走って向かう。そして、大型家電量販店の中へと入った。
「ここだね」
カズミの匂いとサキュバスの匂いが混じった場所を見つけた。ここでカズミは襲われたんだろう。そう思うと怒りが込み上げてくる。
「いるんでしょ、隠れてもわかってるよ」
獣人がそういうとコツコツと床を歩く音が聞こえてくる。すると、サキュバスが出てきた。
「ここは私の縄張りだよ、出てってくれないかい? 」
サキュバスはめんどくさそうな顔をして獣人を見る。その態度が獣人の怒りといった感情を増幅させる。
「君だよね、
「カズミ? あーあの人間のことか」
サキュバスは依然としてヘラヘラとした態度だ。
「次見たら絶対にブチ犯すよ」
その言葉を聞いた瞬間、獣人の中でプツリとなにかが切れる音がした。刹那、
「君に次はないんだよ」
ギリギリと骨がきしむ音がなる。
「離せッ! このクソイヌが! 」
サキュバスは苦しみながら獣人を思いっきり殴った。しかし、獣人が首を絞めげる手を一切、びくりとさせない。数秒後には鈍い音が部屋に響く。圧迫された骨が限界を迎えて折れる音だ。ジタバタともがいていたサキュバスはぴたりと動かなくなる。獣人はようやくサキュバスの首を離した。
「……帰らないと」
獣人はゆっくりと歩いて帰路についた。
「ただいま……。カズミくん」
獣人は家に帰ってカズミに話しかける。カズミは終始オドオドしていた。
「あ、あの。約束破ってごめんなさい」
カズミは頭を下げる。獣人はクスッと笑った。必死に謝るカズミの姿が可愛いと感じてしまったからだ。
「今日はお仕置きだね。今日は寝かさないよ」
獣人はカズミの耳元でささやく。それを聞いたカズミは耳まで真っ赤になった。
「……わかりました」
カズミが恥ずかしがる姿は可愛い。いつ見ても心のどこかが満たされる。おそらく嗜虐心にちかいなにかなのだろう。
獣人は考えていた、カズミを自分だけのものにする方法を、どうにかしてカズミを自分の元に縛りつけたい。獣人はあることを思い出す。確か、
「カズミくん、僕と契約しよう」
カズミを後ろから抱きつき話しかける。
「契約ってなんですか……」
カズミは初めて聞く単語に困惑した様子だ。いきなりこんなこと言われたら無理もない。
「したらわかるよ」
獣人の答えにカズミは戸惑う。獣人は契約するとどうなるか話した。契約すると相手がどこにいるかわかるようになる。魔族は魔法の出力が上がるなどの契約すると起こることを大まかに説明する。
「わかりました、契約したほうがいいんですね」
カズミは獣人の説明に納得する。おそらく今回のこともあって契約したほうがいいと捉えたのだろう。
「うん、じゃあ早速しようか」
獣人はナイフを取り出して自らの手のひらを切った。鮮やかな赤色の血が流れ出てくる。カズミは唖然とした。
「舐めて」
獣人は血まみれの手差し出して言う。カズミは言われるがまま獣人の手を舐める。口の中いっぱいに鉄分の味が広がった。
「いい子だね」
獣人はカズミの頭をもう片方の手で撫でたあとなにかを唱え始めた。
「XXXよ、私たちに加護を……」
その言葉がカズミの耳に入るとともにカズミの体には熱が走る。熱い、鼓動が激しくなる。苦しい。
「あ、ああ……」
カズミの意識はプツッと途切れた。
「起きたね、よかった……」
目が覚めたら獣人が前にいた。獣人は安堵の息をついている。
「契約の
獣人は鏡を出す、鏡の中のカズミの首には首輪のような線が一本入っていた。これが契約した
「怖い思いさせてごめんね? でもこれで大丈夫だから」
獣人はカズミの耳元で小さくなにかを言った。
「僕の……、僕だけのカズミくん」
カズミはそのまま獣人に押し倒された。