放棄された大きな家電量販店、カズミが襲われたところだ。そこには調査局の部隊が展開していた。
「クリア! 」
ユキノは家電量販店のなかを探索していた。
「そこのあんた」
ユキノの背後から声がする。ユキノは振り向いた、そこには女がいる。しかし、人間ではなさそうだ。
「あんた、ここになにしにきたんだい? 」
女は姿を現す。コウモリのような羽、魔族だ。しかし、深い傷を負っている。この様子だともうすぐに死ぬだろう。
「当ててやる、男を探しにきたんだろ」
女に目的を言い当てられてユキノはドキッとする。なぜ、それを知っているのだ。ユキノは女に銃口を向ける。
「おっと、私は敵じゃないよ」
女はそういうと吐血した。それでも話し続ける。
「私はサキュバスだ、その様子じゃお前が探してる男はお前の想い人だろ? 」
ユキノは警戒する。このサキュバスと言った女、一体何がしたいのだ。
「それで、あなたはなにがしたいの」
ユキノはサキュバスを睨みつけた。
「まぁ、落ち着け。お前の想い人は獣人にとられている、そうじゃないか? 」
このサキュバス、カズミと獣人のことを知っている。なぜ、知っているのだ。ユキノは疑問を持つ。
「私のこの傷は獣人にやられたのさ。今はあいつのことが憎くてたまらない」
するとサキュバスは残念そうな表情をした。
「けどこの傷じゃ、あの獣人を殺すことができない」
サキュバスはゆっくりとユキノに近づく。ユキノは警戒をやめない。
「私の力をあんたにやる。だから獣人を私のかわりに殺してくれないか」
サキュバスからの提案は意外なものだった。
「その様子じゃ、あんたもあの獣人が憎くて仕方ないだろ? 」
そうだ、あの獣人は憎い。カズミをおかしくした張本人である獣人は憎くてたまらない。サキュバスの提案は悪くないのではとユキノは思ってしまう。サキュバスは自分の手のひらを噛んで出血させる。そして言った。
「血を飲め、そしたら私の力はすべてお前のものだ」
ユキノはサキュバスの手のひらに溜まった血液をすすった。迷いはなかった、獣人を殺してカズミを取り戻すそのためなら手段はいとわない。どんなことをしたって絶対に、絶対に、カズミを己のものにする。ただそれだけだ。
血液を飲んだ瞬間、心拍が激しくなる、鼓動を感じる。体から力がみなぎってくる、そんな気がした。
「後は……任せたよ……」
サキュバスはそう言い残して倒れる。そして、数秒後には冷たくなった。
「……」
このサキュバスのためにも獣人を殺さなければならない。ユキノは決心した。
2人はまたしても廃墟とかした街を歩いている。海から離れると街が広がっていた。コンクリートの森には木々が生い茂り、街全体が自然に包み込まれている。
「この花綺麗! 桜だっけ? 」
獣人が指差す方向には桜が一面に咲いていた。甘い香りがする。しっとりとした甘い匂いだ。
「僕、桜初めて見た! 」
獣人は飛び跳ねる。ずいぶんと嬉しいのだろう。カズミも数年ぶりに見る桜に心が躍る。街の真ん中には目を見張るほど大きい桜が生えていた。
「すっごい大きいね」
「本当に……すごい大きい」
カズミも共感の言葉を漏らすほどの大きさだった。獣人はナイフを取り出して樹皮になにかをしていた。
「なにしてるんです? 」
獣人は見せる、そこには文字が入っていた。カズミの知らない文字だ。
「じゃーん僕の名前、次戻って来れたらわかるように刻んどいたの」
英語と似た形のそれは獣人の名前を示すものらしい。獣人はとなりにカズミと書いた。
「カズミくんの名前も書いといたよ! 」
獣人は嬉しそうにしている。尻尾を振っていた。
「いつか、ここに戻ってこようね……! 」
そう言って笑う獣人の顔はどこか切なそうだった。