桜を見て少し歩いて街を出ると森が広がっていた。獣人は言う。
「あと少しで僕がいた場所に着く」
獣人は指を指す。その方向は空気の色が違う、薄く青い色の空気だ。青といっても紺色に近い。カズミはこの空気を知っていた。高濃度魔力地帯だ、空気中に漂う魔力の濃度が通常の区域とは違う。特殊な装備をしなければ生身の人間は10分足らずで体が魔力に汚染されて死んでしまう、そのため調査局でも調査に入らない。人類の活動が不可能とされている。
「俺、あそこ入れないかもです」
カズミは獣人にそう言ったが、獣人は歩き続ける。戻ることはできないみたいだ。
「カズミくんは大丈夫、僕と契約してるから」
獣人が言うには魔族と契約している人間は平気らしい。本当かどうかはわかりようがない、よって獣人を信じるしかないだろう。
2人は森の中を進んでいく、運がいいことに魔獣と会うことはなかった。目的の場所はもう目と鼻の先だ。カズミは安堵する、ここに入ってしまえば調査局の襲撃に怯える必要はない。
「……来る、カズミくん伏せて! 」
カズミは獣人に無理やり地面に伏せさせられた。次の瞬間、バラバラという音とともにヘリコプターが頭上を過ぎさる。調査局だ。カズミは焦る、目的地を目の前にして追いつかれてしまった。カズミは獣人の顔をとっさにみる。獣人の顔は硬直していた。
「
獣人はなにかを本能的に感じ取ったらしい。息を荒くしていた。そして、カズミに告げる。
「カズミくんは先に行って、僕が足止めする」
カズミは目を大きく開いて獣人の顔を見る。本当に獣人を置いていっていいのだろうか。
「でも! 」
「大丈夫、僕は絶対に死なない」
カズミは泣きそうな顔をする。もし、獣人が死んでしまったら……そんな考えが頭によぎってしまったからだ。
「泣かないでよ」
獣人はカズミの涙をぬぐう。ゆっくりと顔を近づけて口づけをする。
「ん……、どう? 安心した」
カズミの過呼吸になりかけていた息が整う。カズミは獣人を信じて走り出した。
「出てきなよ、いるのはわかってるんだよ? 」
獣人がそういうと木の裏から少女が出てきた。
「ご機嫌いかがですか、獣人にお嬢さん」
獣人はこの少女の気配を感じ取っていた。この少女、雰囲気が違う。人間が出していい雰囲気じゃない。
「
センドウイロハと名乗った少女は自分と同じほどの長さの剣を構えた。少女は何かを思い出したように獣人に向かって物を投げる。それは剣だった。しかも、獣人が使っていた剣そっくりだ。
「これは……なに? 」
獣人はなにかの罠ではないかと疑った。
「あなたも剣がないと不平等でしょう? 」
獣人は困惑する。ただ不平等だからと言う理由だけで敵である相手に武器を渡してきたのだ。
「さあ、剣をとりなさい。そして、
イロハはクリスマスプレゼントをもらった子供ようなワクワク感に包まれていた。こんな強敵と殺し合える。これほど生命を実感できることはないだろう。
「わかった、でも負けた時の言い訳にしないでね」
獣人は剣を取って構える。獣人は緊張していた、生まれた初めて見た圧倒的に脅威な存在に。怪物という言葉を表す存在、それこそまさにこの少女、センドウイロハだと、そう直感した。
「ええ、もちろん。そんな情けないことはしませんわ」
木々のざわめきの喧騒のなか2人は純度100パーセントの殺意を互いに向けた。獣人は固く決心する絶対に死なないとカズミと約束した。ここで、ここで死ぬわけにはいかないのだと。